NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
7日目 Triple Whammy の片割れ、RAS阻害薬の利点・欠点

 RAS阻害薬はよく「両派の剣」とたとえられます。CKD患者では腎保護作用が期待できますが、同時に腎機能悪化の原因にもなるからです。現在では糖尿病腎臓病(DKD)でもCKD患者でも蛋白尿(DKDではアルブミン尿)があればRAS阻害薬を選択し、蛋白尿(-)であれば、RAS阻害薬にこだわらず利尿薬でもCa拮抗薬でもよいとされています。またRAS阻害薬では腎機能悪化や高カリウム血症に十分注意しなくてはならないので、使い慣れていない医師なら高齢者の脱水やAKIを防止するにはCa拮抗薬が一番無難で使いやすいと思われます。ここではRAS阻害薬の利点・欠点について解説します。

利 点
 RAS阻害薬は蛋白尿陽性であれば、糸球体過剰濾過が原因と考えられるため、糖尿病患者でもCKD患者でも第1選択薬となります。腎機能が低下するとネフロン数が減少して糸球体濾過量が保てなくなりますが、腎血流が低下しているのを傍糸球体細胞が感知してレニン分泌を促進します。レニンによって産生された超強力な血管収縮物質アンジオテンシンⅡは輸出細動脈を収縮させることによって糸球体内圧を上げて、ネフロン1個当たりの糸球体濾過量を増やそうとします。だから加齢に伴って腎機能が低下すると腎血漿流量よりも糸球体濾過量(GFR)の方が高くなります(図1)。

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これによっておこるネフロンの過負荷による糸球体過剰濾過によって蛋白尿が漏れ出て、糸球体や尿細管を傷害して、さらにネフロン数は減少します。RAS阻害薬はアンジオテンシンⅡを効かなくさせることによって、輸出細動脈を拡張させ蛋白尿・糸球体過剰濾過を軽減し、ネフロンの疲弊を防ぎます(図2)。

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糸球体内圧を下げ、腎臓を休ませる薬ですから腎機能は当然低下しますが、その後の腎機能の悪化速度を緩和するため、長期的に見れば透析導入を遅らせる、あるいは透析導入を回避できます。そのためCKD患者ではできるだけ早期から投与した方が、透析導入回避に有効な薬と考えられていました(図 3)。このほかにも心不全で前負荷・後負荷を軽減し、心筋や血管のリモデリング(肥厚)を抑制する重要な薬物です。ACE阻害薬は高齢者の誤嚥性肺炎予防効果もあるとされています。前回にも言いましたが、利尿薬との併用は利尿薬によって循環血漿量を減らすと、腎還流量が低下するためレニン-アンジオテンシン系が活性化されます。RAS阻害薬はそれを抑えるため、強力な降圧作用・蛋白尿抑制作用が期待できる相乗作用が期待できるよい組み合わせの配合剤ですが、高齢者では脱水や腎虚血を助長する非常に怖い組み合わせでもあります。まさに「両刃の剣」といえます。

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欠 点

 2017年のSchmidtらの報告(4日目の図2参照)により腎前性腎障害によって透析導入が増えたというショッキングな報告以降、蛋白尿のないCKD患者やアルブミン尿のない糖尿病患者の降圧には必ずしも第1選択薬ではなくなりました。eGFR<30の患者ではRAS阻害薬による腎機能悪化や高カリウム血症に十分注意し、副作用出現時には速やかに減量・中止し、高齢者ではCa拮抗薬への変更を考慮してもよいかもしれません。また、エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン20181)では「後期高齢者でeGFR<30の患者には脱水や虚血に対する脆弱性を考慮し,Ca拮抗薬を推奨する」とされました。
 なんでCa拮抗薬一択になるの?と思う方も多いかもしれませんが、エベレスト登山隊は凍傷にならないようにアダラート®をのんで登頂するそうだということをバイエル製薬のアダラート®の講演会で聞きました(間違ってもβ遮断薬をのんで冬山に上ってはいけません!)。末梢動脈の血流を改善するCa拮抗薬ですから、蛋白尿はやや増やすのですが、腎虚血を守り、さらに後期高齢者に最も使いやすい降圧薬としてはCa拮抗薬が安全面でベストな選択だと思います。

 

引用文献
1)日本腎臓学会: エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018.

 


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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