NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
11日目 薬剤師の服薬指導でTriple whammyを防げれば
               無駄な医療費78億円セーブできる?

 再びTriple whammyに関する論文について触れさせてください。降圧薬のユーザー487,372人のコホートを平均5.9年追跡して、2,215例のAKIが確認されたというカナダのLapiら1)の報告によると、利尿薬のみを対照とすると、利尿薬+NSAIDsのDouble whammyでは有意なリスクになりませんでした。RAS阻害薬のみを対照とするとRAS阻害薬+NSAIDsのDouble whammyでも有意なリスクになりませんでした。しかし利尿薬+RAS阻害薬のDouble whammyを対照とするとNSAIDsを加えたTriple whammy処方だと有意にAKIリスクが上昇することを明らかにしました(図1)。

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さらにNSAIDsの半減期の長短には関係しませんが、特にNSAIDs投与開始30日までが最も高いリスク(レート比1.82, 95%CI: 1.35-2.46)が観察されました。降圧薬には心血管系の利点がありますが、NSAIDsと同時に使用する場合は警戒が必要だと結んでおります。
 ただし、それ以前にNSAIDs単独でAKIを発症するという報告も多くみられます。英国で386,916人を対象とした報告によると2)、NSAIDsを服用していない患者さんを対象とすると、心不全があるだけで急性腎不全になるリスクが有意に高く、NSAIDsの服用者は3.34倍、相対危険度が上昇し、心不全患者がNSAIDsを服用すると7.63倍になりました。高血圧だけではリスクは上昇しませんが、NSAIDsの服用は3.69倍、相対危険度が上昇し、心不全患者にNSAIDsが投与されると6.18倍になりました(図2)。

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ちなみに利尿薬服用者は2.77倍(1.49-5.12)、ACEI服用者は3.46倍(2.05-5.85)、NSAIDsと利尿薬の併用の相対リスクは11.6倍(95%CI: 4.2-32.2)と心血管に作用する薬物の中で最大のリスクを示しました。
 スペインの15,307名の外来患者のコホートによってTriple whammy処方のどの組み合わせが危ないのかについて検討した報告によると3)、NSAIDsやRAS阻害薬単独ではAKIリスクは有意に上昇することはないものの、この報告においても利尿薬は単独でも有意なAKIリスクになり、RAS阻害薬やNSAIDsが加わることによってリスクは増し、Triple whammy処方では8.82倍(95%CI: 2.59-4.45)に急上昇しました(図3)。

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またTriple whammyによる入院は85エピソード38.7%で、死亡者は11.3%に上りました。 患者の78%が70歳以上 で、平均入院日数は7.6±6.4日、回避可能な平均医療費は214,604ユーロ(1ユーロ130円で計算すると約2,790万円)/ 10万人/年と推定されたそうですが、これは日本の70歳以上の数2,791万人(2020年, 人口の22.2%)に当てはめると 77.87億円/年 という膨大な額が副作用に充てられていると予測されます。しかも日本の夏は過酷な猛暑で高齢者の熱中症による入院がとても多いことを考え合わせると、80億円以上になるかもしれません。
 薬剤師のまともな服薬指導によってTriple whammyの弊害はかなり防げるはずだと思うのは平田だけでしょうか?77億円以上も日本の医療費を節約できた。それは薬剤師のおかげだったといえる日が来ることを切に期待しております。

引用文献
1)Lapi F, et al: BMJ. 2013 Jan 8;346:e8525. doi: 10.1136/bmj.e8525.
2)Huerta C, et al: Am J Kidney Dis 45: 531-539, 2005
3)Carmin RM, et al: Nefrologia 35:197-206, 2015


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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