新世紀の薬剤師の1日
私なりに新世紀、それも30年後の理想的な病院薬剤師像を、急性期病院で活躍するAさんと慢性期病院で活躍するBさんを想定して考えてみました。

◎Aさんは年齢30歳、薬学部卒業後、大学院の社会人コースに通いながらPharm Dを取得し2年経過したところです。朝9時から夕方5時までの勤務ですが、今日は早朝の抄読会があるため、7時半に病院に行き、内科医師達の抄読会に参加します。今回の発表はAさんの担当なので、遺伝子診断による薬物投与設計について最新の英文ペーパーを抄読します。20世紀には一般病院ではできなかった遺伝子タイピングも今や患者さんの毛髪1本あれば薬局においている簡単な器械でタイピングでき、poor metaboliserでもultra rapid metabolizerであってもtransporterの欠損者であっても薬物投与する前に個人個人の体質に合わせた至適投与設計(いわゆるテイラーメイド医療)が可能になりつつあります。遺伝子タイピングによる薬物投与設計は急性期病院だけでなくすべての病院薬剤師の基本的な仕事になっていますが、まだまだ薬物療法において未解明な問題も多くあるため、Aさんはさらなる臨床研究をしているところです。TDM業務は21世紀初頭には大きく進歩し、薬剤師がTDMに基づく科学的投与設計を実施した場合、保険料が加算できるようになったのは10年前のことですが、この2?3年遺伝子タイピングの発達とともにTDM実施件数は少なくなりましたが、これからは遺伝子解析の結果をテーラーメイド医療に生かせるよう薬剤師が医師に代わり投与設計する業務にウエイトが置かれつつあります。現在、TDMは副作用の多い抗がん剤の分野が主流になっていますが、TDM業務は21世紀初頭には動態解析にポイントが置かれていたのと異なり、副作用および効果の確認が一番重要なポイントとされています。腫瘍が縮小したかどうかの判定はドクターの仕事なので、ドクターとの回診・症例検討会は毎日欠かせません。薬剤師は薬物療法の専門家ですから、薬物療法が主体となる症例検討会の時には薬剤師のAさんがイニシアチブをとっています。一方で、常に最新の信頼できる情報を医師に提供できるようAさんはインターネットを利用して最新の文献チェックを怠らないようにしています。患者さんは重症患者がほとんどで、服薬指導を行う機会は少ないのですが、病態が急変したり副作用が発現した時にはベッドサイドに行って副作用の内容を克明に調査します。昨日は薬物アレルギ?による肝障害が起こった症例があったためアレルギーの原因薬物同定検査を行ったところです。薬剤師は21世紀初頭に薬物療法におけるリスクマネージャーとしても認知されるようになりました。薬物の効果確認も大切な仕事です。薬物療法の効果を確認するのための検査のオーダーは最近になって薬剤師でもオーダーできるようになりました。十数年前にTDMの採血依頼が薬剤師でもできるようになり、その業務推進によって治療期間が短縮し投薬コストを削減できることが認められてから、薬剤師の業務内容も幅広くなってきました。近年は医師は診断に専念し、薬物療法に関しては薬剤師がリードして投与設計を行う時代に代わりつつあります。もちろん最終的な処方時にはドクターの承認が必要なためドクターとのコミュニケーションは欠かせません。Aさんは遺伝子タイピングによるゲノム薬理(pharmacogenomics)の認定薬剤師取得を目指しており、5時になると病院の研究室に行って「遺伝子タイピングと投与設計」についての論文をまとめます。薬剤師も臨床系の学会に参加することは20年以上前から当たり前の時代になっています。

◎Bさんの年齢も30歳、20年前に6年制になった薬学部を卒業して6年経った中堅薬剤師です。慢性期病院の薬剤師は当直者を除き、基本的に2交代性勤務になっており、朝7時から昼3時までと昼の1時から夜の9時までの勤務です。今日は早出の日なので、ナースステーションの隣にあるサテライトファーマシーに行って、昨晩、遅出の薬剤師が調剤した薬を患者さんのベッドサイドに配薬するのが朝一番の仕事になります。このように毎食後の薬物投与は薬剤師の仕事になってから、服薬アドヒアランス(コンプライアンスという言葉は死語になりました)は完璧になりました。毎日患者と会話しているため、この病院では副作用の第一発見者は薬剤師です。副作用がでるとドクターに報告して、どのような薬剤に変更するかを議論します。さらに10年前に薬剤師やナースにも一部の処方権が与えられたため、下剤や風邪薬などは患者から頼まれれば薬剤師の判断で処方できます。そのせいか外科系のドクターから、処方を任せられることも増えてきました。そのときはBさんに処方依頼がドクターから来ることになっています。配薬が終わるとナース・栄養士たちと一緒に患者申し送りに参加します。この病院では薬物以外のケアはナース、薬物に関するケアはすべて薬剤師の仕事です。そして医師は医師本来の仕事である診断や処置に集中して力を注ぐことができるようになったために、かつて問題となった医療事故もめっきり減っています。ナースもナース本来の業務に専念できたため、ナースの人数も減少しました。逆に21世紀初頭、この病院の薬剤師は全ナース数の1割しかいませんでしたが、今は薬剤師数が増えて全ナース数の2割を占めるようになりました。消毒薬の調整、点滴の準備だけでなく癌患者さんへのIVHメニューの投与設計も薬剤師の仕事です。10数年前から医師は診断に専念し、経口栄養に関しては栄養士が処方し、経静脈栄養に関しては薬剤師が処方するようになっています。考えてみれば薬剤師はもともとmEq、mOsm、Calといった計算は医師よりも得意なはずなのですから、当然かもしれません。もちろんサテライトファーマシーではIVH処方の無菌調剤も行われます。この病院では退院後のフォローも万全です。退院後の独居老人のところには定期的に別組織の在宅センターから医師・ナースだけでなく薬剤師も行っていますが、在宅センターの薬剤師との連携もBさんの仕事です。

私の提言?あなたにとってのプライオリティは何か??
薬剤師がこれからの生き残る道は中特半端ではなくとことん薬剤師としての職能を発揮することです。Aさんは薬物投与による患者治療cureを自分の職能として発揮するためにとことんドクターとの関係を密にして、薬物投与に関してはドクターを指導する立場として日夜努力しています。一方Bさんは患者careを自分の職能として発揮するためにナースとの関係をとことん密にしようと努力しています。週に1回、主治医、ナース、栄養士とともにカンファレンスも行います。では「とことん何をすべきか?」は勤務する病院によって、あるいは薬剤師それぞれの個性によってプライオリティ(優先順位)が異なってきます。当然そのプライオリティは医師やナースとは異なってくるはずです。薬剤師でないとできないことが最も優先されるはずです。Aさんは投与設計コンサルタントとして、Bさんは服薬コンサルタントの道を優先しましたが、どちらも副作用管理者(リスクマネージャー)としての業務は重要なウエイトを占めています。これからは薬剤師として、本当にやらなければならないのは何なのかを、自らの意志を持って判断し、そしてその実現に努力を惜しまないことが、大切だと思います。ここに私が書いたのは30年後、薬剤師として最良のシナリオかもしれません。現在の我々の努力が実ってこそAさん、Bさんが将来生まれてくるのです。現在の我々が「努力することもなく、与えられただけの仕事をこなし、5時になったら帰る」といったことを繰り返していれば、最悪のシナリオ:つまり、薬剤師という職種がなくなることはないでしょうが、病院薬剤師として必要とされるのは薬品管理だけと判断され、調剤するだけなら別に薬剤師でなくても問題ないと評価されて、病院薬剤師は激減するというシナリオも考えられます。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)