CKD診療ガイドラインでのアセトアミノフェンの位置づけ

 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009の21項「薬物投与」の3.消炎鎮痛薬に関してはアスピリンとアセトアミノファンが腎機能に及ぼす影響を検討した臨床研究はそれぞれ異なった結果を報告しているが、エビデンスレベルが低くその優劣はつけられないとし、(中略)今回のステートメントでは「CKD患者の腎機能障害の進行に関しては、安全性が確立された消炎鎮痛薬はなく、いずれの薬剤もできるだけ少量短期間の投与とする」とされている。エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013でもこの内容は21項のCKDにおける薬物投与でCQ4「 NSAIDsはCKDの進展に影響を及ぼすか?」として取り上げられたが「CKDにおいては、いずれのNSAIDsも腎機能を悪化させる危険性がある。ただし、NSAIDsによる腎機能の悪化が長期的なCKDの進展に影響を及ぼすかは、明らかでない」としているものの、いずれのNSAIDsもアセトアミノフェンも腎機能に悪影響を及ぼす危険性があり、使用は最小限にとどめるべきとほぼ同内容になっている。

 当然ながら、ガイドラインであるため、個々のエビデンスの高い原著論文を対象とした結果である。私のこれまでの考えも「NSAIDsを腎虚血を起こしやすいリスクの高い患者(CKD、心不全、高血圧、糖尿病、RAS阻害薬、利尿薬服用患者など)では腎虚血から速やかにGFRが低下し、漫然投与すると週・月単位で急性腎障害になる。かたやアセトアミノフェンはGFRを低下させることはないが、大量を漫然と投与すると年単位で鎮痛薬腎症により慢性腎不全に至り透析導入が必要になる」と考えていた。ただし、これらの報告はアセトアミノフェン単独服用によって慢性腎不全を起こすという報告はほとんどないのである。これに気付いたのは現在執筆中の日本医薬品安全性学会誌第1号に「NSAIDsとアセトアミノフェンの安全性について~特に腎機能障害に着目して~」という総説のために大量の論文を取り寄せ、特に出来のいい総説を含めて精査したことによる。

そもそも鎮痛薬腎症とは?

 これらの報告は鎮痛薬腎症が、オーストラリアに次いで多いと言われたベルギーのアントワープ大学腎臓高血圧内科のElsevierのグループとCCr予測式のCG式で有名なカナダのSt John’s Newfoundland記念大学内科のGaultのグループの報告がやたらと多きことに気付くが、「鎮痛薬腎症とは何ぞや?」ということから調べてみた。

 元来、フェナセチン含有鎮痛薬が原因と考えられていたが、フェナセチン製造中止後も発症しており、アセトアミノフェンを含む2種類の鎮痛薬(アスピリン)とカフェイン±コデインの配合剤が原因と考えられている米国腎臓財団、ヨーロッパ科学者グループは鎮痛薬腎症は2つの鎮痛薬を含み、ほとんどがカフェイン±コデインからなる多種類の鎮痛薬製剤の過剰服用によって腎乳頭壊死と慢性間質性腎炎を起こす進行性の腎不全であると定義した。鎮痛薬腎症は乳頭壊死・慢性間質性腎炎を起こし、腎の疝痛、顕微鏡的血尿を伴うことが多いが、タンパク尿や尿量減少を呈する症例は少ない。60~75%に無菌膿尿、再発性の泌尿器感染を伴う1)。CTによる両側の乳頭部のでこぼこした形状と石灰化を伴う腎萎縮は鎮痛薬腎症の診断の決め手となる。特に両側の乳糖部石灰化の感度(92%)、特異度(100%)は高い2)。

 アセトアミノフェンとアスピリンの服用により皮質および乳糖部で高濃度のサリチル酸(アスピリンの活性代謝物)がグルタチオンを枯渇させる(利尿薬併用により加速)。グルタチオンはアセトアミノフェンの毒性化合物 NAPQIの不活性化に必要なため、枯渇により脂質過酸化、臓器タンパクのアリル化を起こし、乳頭壊死、石灰化することが実証されている(3)。

 鎮痛薬を少量、毎日服用しても鎮痛薬腎症を起こすには最低5年は必要であり、5年以下では起こらない4)。頭痛を持つ女性に多く、消化性潰瘍を含む上部消化管障害を併発しやすい5)。555年間、鎮痛薬を連用し、5060歳で発症するが1)、緩徐にする腎障害で慢性腎不全(GFR15~30mL/min)になるまで症状は出ない6)。フェナセチンが製造中止になっても鎮痛薬腎症が起こるのに平均22年要するため7),製造中止しても直ちには鎮痛薬腎症は減らない8)。

 鎮痛薬腎症の発症率は1970年代のオーストラリアでは22%と世界一であったが9)、1990年代初頭にはオーストラリア9%10)、ヨーロッパ3%H)、米国0.3%であり、国別ではオーストラリア、ベルギー、カナダで高い。少なくとも2成分の鎮痛薬を含むOTC薬の販売禁止によってオーストラリアの鎮痛薬腎症による透析患者数を減らせることができた。

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アスピリン、アセトアミノフェンの配合剤が鎮痛薬腎症を発症する

 上記のことから鎮痛薬腎症にアセトアミノフェン+アスピリンの併用は必須である。上述のようにアスピリン、アセトアミノフェンの単独長期大量使用ではほとんど発症しない8)11)のであって、アスピリン、アセトアミノフェンの配合剤が鎮痛薬腎症を発症する。アセトアミノフェン単独で相対危険度3.2倍という報告12)もあるが、アスピリン服用者とフェナセチン+アスピリン+コデイン服用者のみで相対危険度が計算されている。またアセトアミノフェン年間服用量が366錠を超えると末期腎不全になるオッズ比が2.1倍に、あるいは生涯5000錠以上の服用でオッズ比が2.4倍になるという報告13)も他の鎮痛薬も含まれておりアセトアミノフェン単独の報告ではない。しかもこの報告では生涯NSAIDs服用量が5000錠以上で8.8倍になることも明らかにしている。

 また驚くことに動物実験によっても鎮痛薬腎症については相反する報告があり、いまだに解明されていない14)のである。前章で示したようにアセトアミノフェン単独では鎮痛薬腎症は起こらず、アスピリンの配合が必須であり、さらに多くの鎮痛薬配合剤にはカフェイン±コデインの配合剤が多いのでこれも切り離して考えられないのである。

AAC処方・ACE処方は日本にもある。ただし鎮痛薬腎症は日本で起こるか?

 となると日本で問題になるのはAAC処方であり、アセトアミノフェン+アスピリン+無水カフェインから成りOTC薬のバファリンプラスがまさにこの処方である。AAC処方にアリルイソプロピルアンチピリンを加えたものがエキセドリンA錠であり、これもAAC処方と言える。SG配合顆粒の成分はイソプロピルアンチピリン+アセトアミノフェン+アリルイソプロピルアセチル尿素+無水カフェインから成り、アスピリンは含まれていない。 

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 もう1つ可能性がある日本のOTC薬としてACE処方がある。これはアセトアミノフェン+カフェイン+エテンザミドから成るが、エテンザミドも体内で代謝されサリチルアミドになり胃障害が少ないと言われている。AAC処方から成るOTC薬はセデスファースト、新セデス錠、ノーシン、ナロン錠・顆粒、サリドンエース、ハッキリエースなどがあります。医療用医薬品のセラピナ配合顆粒、ピーエイ配合錠などはACE処方+プロメタジンの配合された感冒治療薬である。ただしエテンザミドはあまり海外では使われていないのか情報に乏しく、PubMedで「analgestic nephropathy+ ethenzamide」で検索しても全く論文はヒットせず、薬剤性腎障害の原因になるかどうかは現時点ではわからない。 

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 ただし上述のようにこれらの配合鎮痛薬の大量連日服用、それも最低5年は連日大量服用して50歳代~60歳代になって発症するということは日本で鎮痛薬腎症を見つけること自体が難しそうであり、本当に数年にわたりこれらを連日服用していればやめるように勧告したいが、皆保険制度の日本でこのような症例に出会うことはないのではないかとも思ってしまう。

やはり腎機能低下患者にはカロナールが第一選択であり、アスピリンとの併用は避けよう

 そろそろ結論に移ろう。今まで私は腎機能低下患者にはNSAIDsを漫然投与してはいけない。可能な限りNSAIDsは頓服として投与し、腎虚血リスクの高い患者(CKD、心不全、高血圧、糖尿病、RAS阻害薬、利尿薬服用患者など)には漫然投与は絶対に避けよう。そのような症例には十分量のアセトアミノフェンを使用しよう。効果がなければ外用パップ剤を併用しよう。痛みが強ければ弱オピオイドに使用もやむなし。という腎臓保護スタンスをとってきた。また米国腎臓財団が腎機能の低下した症例には優先的にアセトアミノフェンを使うことを推奨したため、優先的に投与されるアセトアミノフェンで透析導入に至るという報告はそれ自体がバイアスが強くかかっていると言ってきた。今回の調査でアセトアミノフェン単独使用は腎障害の原因にならない可能性がより強くなった。アセトアミノフェンは大量投与によって肝障害を起こす危険性があるが全般的にみて極めて安全性の高い薬剤である(表)。やはり腎機能低下した症例に推奨される鎮痛薬の第一選択薬はアセトアミノフェンであり、NSAIDsの漫然投与を避けるようやめようと声を大にして言いたい。またカロナールとアスピリンの長期連日服用は鎮痛薬腎症の原因になりうることに留意されたい。

表.アセトアミノフェンの長所

20151105_4.jpg  引用文献

1)Elseviers MM, De Broe ME: Analgesic nephropathy: is it caused by multi-analgesic abuse or single substance use? Drug Saf. 1999 Jan;20(1):15-24.

2)Elseviers MM, De Broe ME: Is analgesic nephropathy still a problem in Belgium?Nephrol Dial Transplant. 1988;3(2):143-9.

3)Duggin GG: Combination analgesic-induced kidney disease: the Australian experience. Am J Kidney Dis. 1996 Jul;28(1 Suppl 1):S39-47.

4)Elseviers MM, Waller I, Nenoy D, Levora J, Matousovic K, Tanquerel T, Pommer W, Schwarz A, Keller E, Thieler H, et al. Evaluation of diagnostic criteria for analgesic nephropathy in patients with end-stage renal failure: results of the ANNE study. Analgesic Nephropathy Network of Europe. Nephrol Dial Transplant. 1995;10(6):808-14

5)Gault MH, Wilson DR: Analgesic nephropathy in Canada: clinical syndrome, management, and outcome.Kidney Int. 1978 Jan;13(1):58-63.

6)Rastegar A1, Kashgarian M: The clinical spectrum of tubulointerstitial nephritis. Kidney Int. 1998 Aug;54(2):313-27.

7)de Broe ME, Elseviers MM: Analgesic nephropathy–still a problem? Nephron. 1993;64(4):505-13.

8)Gault MH, Barrett BJ: Analgesic nephropathy. Am J Kidney Dis. 1998 Sep;32(3):351-60.

9)Nanra RS: Analgesic nephropathy in the 1990s–an Australian perspective. Kidney Int Suppl. 1993 Jul;42:S86-92.

10)Disney AP: Demography and survival of patients receiving treatment for chronic renal failure in Australia and New Zealand: report on dialysis and renal transplantation treatment from the Australia and New Zealand Dialysis and Transplant Registry. Am J Kidney Dis. 1995 Jan;25(1):165-75.

11)Barrett BJ: Acetaminophen and adverse chronic renal outcomes: an appraisal of the epidemiologic evidence. Am J Kidney Dis. 1996 Jul;28(1 Suppl 1):S14-9.

12)Sandler DP1, Smith JC, Weinberg CR, Buckalew VM Jr, Dennis VW, Blythe WB, Burgess WP: Analgesic use and chronic renal disease. N Engl J Med. 1989 May 11;320(19):1238-43.

13)Perneger TV1, Whelton PK, Klag MJ: Risk of kidney failure associated with the use of acetaminophen, aspirin, and nonsteroidal antiinflammatory drugs. N Engl J Med. 1994 Dec 22;331(25):1675-9.

14)Porter GA: Acetaminophen/aspirin mixtures: experimental data. m J Kidney Dis. 1996 Jul;28(1 Suppl 1):S30-3.

 

 


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)