NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
2日目 NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その1)
1日目に記載した米国イブプロフェンの添付文書中の赤字記載は平田がいつも懸念している「薬剤性腎障害」関連です。「高齢者、塩分欠乏のある人。利尿薬、ACE阻害薬、またはARBを服用している人」を赤字にした理由は利尿薬+RAS阻害薬(ACE阻害薬、またはARB)+NSAIDsの組み合わせは悪名高い三重攻撃(Triple Whammy)といわれているからです。なぜ、これらの処方の組み合わせが悪いのかというと、まずはよく理解していただくために腎臓がどんな仕事をやっているかについて説明させてください。
腎臓のやっている仕事
腎臓は2つで250g程度の小さな臓器なのに、 心拍出量5L/分の20%にあたる1.0L/分の血流があります。1日当たり1,440Lですが、大雑把に1,500L/日と考えて構いません。そのうち10%にあたる150L/日を 濾過して原尿を作っています。でも尿量が1日当たりだいたい1.5L/日ですから、原尿のうち99%の水(とすべての栄養素、必要なだけの電解質)を再吸収し、 不要なもの(老廃物や薬物、余剰な電解質など)を1.5Lの尿に捨てることによって生体体液の恒常性を保っています (図1)。
人は毎日、違うものを食べても腎機能が正常であれば、血液中のNa、K、リンなどの電解質濃度、 pH、水分量は常に狭い正常範囲内に保つことができます。つまり腎臓は生体の体液の恒常性を非常に狭い範囲内で精密に保つのに重要な臓器なのです。 ただし図2に示すようなラーメンのスープを腎不全患者がすべて飲み干すと高ナトリウム血症になりますし、 大ジョッキのビールを飲めば、当然溢水・浮腫に、西瓜をたくさん食べれば高カリウム血症で突然死の恐れがありますし、ピーナッツ1袋を透析患者さんが 食べれば5mg/dLの血清リン濃度が一挙に9~10mg/dLに上がりますが、腎機能正常者であれば同じものを食べても何にも起こりません。腎不全患者が下痢・ 嘔吐すればNa, K, Clなどの電解質が失われ、何も食べられなければ低ナトリウム血症、低カリウム血症になりますし、腎不全患者が大出血すれば何もし なければ、細胞外液が失われてショックになる事でしょう。でも腎機能正常者であれば尿量を減らすことによって即死することはありませんし、 山中で遭難しても水さえあれば、尿中にNaを排泄しないことによって塩を全く摂れなくても低ナトリウム血症になることはありませんし、 体脂肪からケトン体をエネルギーにして10日以上でも生きることができます。腎臓の力って本当にすごいでしょ。
腎機能は加齢とともに低下しますから、高齢者の中には腎機能が低下している方が結構多いので、上記のような正常な腎臓の機能を享受することができなく なることがあります。例えば高齢者は夏には発汗によって容易に脱水になりやすいし、薬物の影響による腎虚血の影響も受けやすいのです。