NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
29日目 (最終回)
整形外科医のNSAIDs処方の実態と抗炎症作用

 「NSAIDsはよく処方するんだけど、実は僕は腎障害を起こした経験が1度もないんだ」、「NSAIDsは確かによく処方するけど、これによる腎障害ってほとんど報告がないよね」って整形外科の先生方から、聞くことがあります。でも薬剤性腎障害原因薬物のどの調査でも腎障害原因薬物の薬効群では抗菌薬かNSAIDsが1位か2位で、3位は抗がん薬というのは変わりません(図1, 図213日目図1と同じです)。整形外科の先生はNSAIDsを高頻度に処方する科だと思いますが、ほとんど採血をしない科でもありますので、腎機能検査のオーダーをあまり出さないのも原因と思われます。 20211115_1.png 20211115_2.png

 それと腎障害の初期症状は食欲不振、全身倦怠感など腎機能が高度腎機能低下など、かなり悪くなってから発症する尿毒症症状であるため、このような症状が出れば整形外科ではなく、内科を訪れるからではないでしょうか。リスクの高い高齢者では定期的に血清Cr値やBUN、電解質などを測定しなければ、早期の腎障害をキャッチすることはできません。

 「高齢者にNSAIDsが連日処方されていますが、RAS阻害薬や利尿薬と併用されているのでアセトアミノフェンに変更していただけませんか?」と薬剤師が電話で疑義照会すると「NSAIDsは抗炎症作用を期待できるから処方してんのや!抗炎症作用のないアセトアミノフェンじゃあかん!」と言われることがよくあるらしいです。確かに炎症を主体とし、侵害受容器が活性化することで引き起こされる痛み、組織炎症が痛みの大きな要因になっている場合にはNSAIDsが効きやすく、NSAIDsは薬物療法の治療の重要な柱となります。ただし慢性炎症による痛みを訴える高齢者に上部消化管障害や腎機能障害、心血管病リスクの高いNSAIDsを1日3錠、毎食後30日分の漫然投与を繰り返すのはいかがなものでしょう?
 実際には多くの整形外科の先生方からは「痛み」に対するによる対症療法としてNSAIDsを処方していると聞きます。変形性膝関節症に対してX線画像上の膝関節内側の最小関節スペース幅(radiographic medial minimum joint space width: mJSW)の変化の関連を評価した報告では、NSAIDs使用群では非使用群に比べて、その後のmJSWの損失が有意に増加しました(回帰係数-0.042、95%CI:0.08~-0.0004, P=0.048)。つまり関節軟骨の変性・破壊が進行することが明らかにされています1)。「抗炎症作用を期待しているからNSAIDsでなきゃ」って、いったい何だったのでしょうか?

 この連載11日目で解説しましたが、Triple whammyの回避によってかかっていた可能な平均医療費は日本の70歳以上の数2,791万人(2020年, 人口の22.2%)に当てはめると77.87億円/年という膨大な額が副作用に充てられることが予測されます2)。そしてRAS阻害薬や利尿薬には生命予後改善や腎機能悪化速度を遅延するなど複数のベネフィットがあるのですが、NSAIDsに限っては痛みを抑える以外になんら得をすることがなく、飲めば飲む程、高齢者にとってはとても副作用が怖い薬なのです。

 健康な男性に対して使用する場合、NSAIDs生涯2,500錠以上投与しても慢性的な腎障害は起こらない3)。65歳未満に対して使用する場合、NSAIDsによって末期腎不全に至るのは生涯で5,000錠以上内服した時である4)、のような報告もあり、NSAIDsの漫然投与は高齢者が問題であって、若年者へのNSAIDsの投与はほぼ問題ないと考えます。

 高齢者にNSAIDsを30日分という漫然処方を、せめて頓服にしていただけないものか、あるいはこの処方内容なら、薬剤師は処方医のところに行って「痛くなければ飲まなくていい(本当は痛くないときには飲まない方がいい)」という服薬指導をさせていただくよう、薬剤師は医師と協議していただくとよいのではないでしょうか。変形性膝関節症は加齢とともに有病率が上昇し、80歳代の女性の有病率は80.7%、男性の有病率は51.4%と高く5)、腰痛はもっと多く、男性で1位、女性で2位の有訴者率を占める国民的な症状といわれているのですから6)

最終回のまとめ:NSAIDsの腎障害対策
①  若年者へのNSAIDs投与はTriple whammy処方でない限りほぼ問題ないが、高齢者でのNSAIDsの漫然投与はリスクが高い。

②  特に夏季の飲水励行の実施はNSAIDsによるAKIを予防できるであろう。

③  Triple whammyの中で、NSAIDsだけが痛みを抑える以外の利益がないため、できるだけ頓服処方に変更していただくか、「痛くないときには飲まなくてよい」という服薬指導をさせていただくよう処方医と話し合うとAKIを予防できるであろう。

④  Triple whammyのシックデイ対策を医師と協議し、医師とともにシックデイ対策を服薬指導に取り入れればAKIを予防できるであろう。

⑤  NSAIDsの漫然処方を十分量のアセトアミノフェン(2,400mg/日以上)投与への処方変更によって鎮痛作用を確保し、かつAKIを予防できるであろう。

⑥  経皮吸収率の高いモーラスや全身作用するロコアテープやジクトルテープは貼付枚数が多いと中毒性副作用が起こりうる。また用量依存的ではない間質性腎炎・糸球体障害はすべての外用NSAIDsで起こりうる。免疫チェックポイント阻害薬投与時のNSAID外用薬の安易な併用には特に要注意。

⑦  整形外科領域でもリリカ、サインバルタが奏功するかもしれない(イメージ的にはNSAIDsとアセトアミノフェンが先発ピッチャーで、これらが打たれたときのリリーフピッチャーのようなもの)。ただしリリカは腎機能に応じた減量は必須、サインバルタは重度腎障害には禁忌である。

⑧  NSAIDsでも効果ないなら1ランク上げてトラマールまたはトラムセットへの変更もAKIを予防できるであろう。

⑨  一番腎障害を起こしにくいNSAIDsはクリノリルやハイペンではない。セレコックスには(ランダム化比較試験3つを含む)も他のNSAIDsに比し、腎障害を起こしにくいという論文が6つあるが、CYP2C9を阻害するので、間違ってもワルファリンとは併用しないこと。セレコックスは心不全を悪化させないNSAIDであることも魅力であるが、血中濃度の立ち上がり(Tmax)が遅いので、頓用で使いにくい。

 

引用文献
1)Perry TA, et al: eumatology (Oxford). 2021 Jan 27;keab059. doi:10.1093/rheumatology/keab059.
2)JAMA. 2001 Jul 18;286(3):315-21.
3)N Engl J Med. 1994 Dec 331: 1675-1679, 1994
4)Carmin RM, et al: Nefrologia 35:197-206, 2015
5)Yoshimura N, et al: Int J Epidemiol 39: 988-995, 2010
6)厚生労働省: 2019年国民生活基礎調査

 

※次回連載予定「SGLT2阻害薬による心腎保護作用と適正使用」のための
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プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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