4日目です。添付文書の腎機能は多くはCCrで表されていますが、実はこの添付文書のCCrは我々が日常使っているCCrとは異なるのです。そのためこの違いに気づいていないと、抗がん薬のカルボプラチンによる血小板減少、TS-1による骨髄抑制、ダビガトランによる出血といったハイリスク薬による重篤な副作用を招くことになります。


 

【 鉄則2 】

今までの添付文書の腎機能として記載されているCCrはほとんどJaffe法による血清Cr値測定による。CCrJaffeはGFRと近似するため、薬物投与設計時の患者の腎機能は酵素法によるCCrenzは用いずeGFR(mL/min)を使うか、CG式の血清Crに患者の(血清CrEnz+0.2)を代入して求めた推算CCrを使う。

  CCrJaffeとはJaffe法によって測定したCr値を基に実測したCCrまたはCockcroft-Gault法によって算出した推算CCrと定義させていただきます。添付文書に示される腎機能表記はGFRではなくCCrで記載されることがほとんどですが、ほとんどの医薬品の治験が欧米で行われていた多くの添付文書に記載されている腎機能はCCr≒GFRと考えて構いません。なぜならわが国の血清Cr値は正確な酵素法によって測定されているのに対し、欧米の血清Cr値は0.2mg/dL高めに測定されるJaffe法(この方法では血清に含まれるピルビン酸、アスコルビン酸などにも反応するので、やや高値になる)によって測定されているためです。尿中にはピルビン酸などが含まれていないのでJaffe法によるCr濃度は酵素法と同じ値で血清Cr値のみ20~30%高めの値になっているため、実測CCrを測定するための以下の式は

実測CCr(mL/min)=尿中Cr濃度(mg/dL)×尿量(L/日)/血清Cr濃度(mg/dL)となり

健常成年男子で酵素法で測定したとして、1例を示すと

80mg/dL×1.5L/日/1.0 mg/dL =120mL/min  となります。

  ただしJaffe法では血清Cr値のみ0.2mg/dL高く測定されるので、蓄尿による実測CCr=GFRの1.2~1.3倍=(尿中Cr濃度×尿量/分)/(血清Cr濃度×1.2~1.3倍)になるため、Jaffe法では蓄尿による実測CCr≒GFRになります。先ほどの男性の実測CCrはJaffe法では

80mg/dL×1.5L/日/(1.0+0.2) mg/dL =100mL/min≒GFR

  したがって、ほとんどの添付文書の記載でCCrになっていてもGFRとして扱うべきです。ただし新しい薬物で日本でのみ治験された薬物や2011年以降、IDMSに準じた正確なCr測定法に変更後の米国・カナダで治験された薬物に関しては、添付文書にGFRで記載されていれば他の添付文書と同様に扱ってよいのですが、CCrで記載されている場合の正常値は100mL/minではなく120~130 mL/minと1.2~1.3倍にするべきです。そしてCrの測定法によって腎機能の解釈が異なるようでは抗がん薬や抗凝固薬などのハイリスク薬を正確に投与設計できません。そのため今後の添付文書の腎機能表記は正常値が100mL/minと血清Cr測定法による差がないGFR(mL/min)で統一すべきだと考えます。

  がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016にはCockcroft-Gault法が紹介されており、以下の式で表されています。推算CCr (mL/分)=(140-年齢)×体重(kg) ÷{72×血清Cr(mg/dL)} (女性はこの式に0.85を乗ずる)

  そして「血清Cr値はJaffe法で測定された値を用いるが、酵素法で測定されたCr値には、0.2を加える」となっています。もちろん日本は全施設で酵素法によって測定されており、Jaffe法は使われていませんが、この記載はダビガトランやTS-1の副作用が日本では起こっているのに、全く同じ記載をしている欧米の添付文書では副作用が起こっていない問題点を解決するための妙案だと思います。日本腎臓学会に敬意をもって拍手を送りたいです。

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「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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