薬剤師向け:バラシクロビルによる腎障害(難易度 難しい)

 身長150cm 、体重36kgの80歳女性。2か月以上寝たきりで栄養状態不良のため経管栄養をしている要介護度の高い症例が帯状疱疹に罹患したためバラシクロビル錠500mgを1回2錠、1日3回で1週間分が処方された。血清クレアチニン値は0.4mg/dLであった。バラシクロビルは通常、成人にはバラシクロビルとして1回1000mgを1日3回経口投与することになっており、クレアチニンクリアランス(mL/min)≧50では1000mgを8時間毎投与するが、クレアチニンクリアランスが50mL/min未満では減量することになっている。投与開始1日目で尿量が減少し、2日目には無尿になり、次第に呂律が回らなくなって会話が成立しなくなった。推算クレアチニンクリアランスは63.8mL/minで腎機能はそれほど悪くなかったはずなのにこのような副作用が起こった。
以下の記述のうち間違っているものを1つ選びなさい。

1. バラシクロビルはアシクロビルよりも吸収率が高い。
2. 長期臥床患者では筋肉量が減少するため、血清クレアチニン値を基にした腎機能は過大評価されやすい。
3. バラシクロビルの結晶が尿細管で析出して無尿になったと考えられる。
4. 副作用を防ぐには胆汁排泄型のアメナメビルに変更を提案するとよい。
5. 副作用を防ぐには多めの水分を摂取するよう服薬指導する。

解答・解説
解答 3. バラシクロビルではなくアシクロビルの結晶が析出して無尿になったと考えられる。
バラシクロビルは肝臓のエステラーゼで加水分解されてアシクロビルとなって作用し、アシクロビルとして腎排泄されるため、バラシクロビルの結晶が析出したのではなくアシクロビルの結晶が析出したと考えられる。本症例のような長期臥床患者は筋肉量が減少してサルコペニアになっているため、筋肉由来の腎機能マーカーの血清クレアチニン値では腎機能が過大評価されてしまうため、血清シスタチンC濃度を用いたeGFRまたは実測クレアチニンクリアランスを測定する必要がある。特に発汗の多い夏季、NSAIDsや利尿薬、レニンアンジオテンシン系阻害薬などの腎虚血をきたしやすい薬物が併用されている症例には水分摂取励行は特に重要である。
「長期臥床患者では筋肉量が減少するため、血清クレアチニン値を基にした腎機能は過大評価されやすい。」は臨床現場では実際に大きな問題になっていますが、検査値を見て用量を判断するのは基礎的なことで、この症例の推算クレアチニンクリアランスは63.8mL/minで腎機能からみると常用量投与しても何ら問題ないように見えるからです。だから難易度は非常にむつかしいとしました。ただしこのような副作用報告は多く、近年のPMDAでの集計ではバラシクロビル+アシクロビルで1000件以上とロキソプロフェンやジクロフェナクなどのNSAIDsの倍近くあります(表)

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75kgの成人男子であってもバラシクロビルの投与量は3000mg/日なのに、36kgしかない生理機能が低下した80歳の高齢者に同じ用量でいいの?という疑問をもっていただきたいと思います。
バルトレックス錠及び顆粒(バラシクロビル)については2017年3月に「適正使用のお願い」が発行されました。これは今まで精神神経系の副作用ではなく腎機能障害も一緒に起りやすいという内容なので要注意です。
この適正使用のお願いの内容は以下の通りです(を参照)。

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(腎機能低下患者・高齢者では)重篤な精神神経系の副作用があらわれることがあるので、クレアチニンクリアランスに応じて用法・用量を調節すること。高齢者では、腎機能が低下している可能性があるため投与量の減量及び投与間隔を延長するなど慎重に投与すること。そして特に注意すべき「腎機能が低下している」可能性が高い人は以下のように小柄な高齢者(特の女性)覚えましょう。
① 70歳以上の患者
② 体重40kg以下の患者
③ 女性患者
となっています。
どんな副作用かというと投与3日以内に発症することが多いので投与3日後を目安に以下の症状を確認することが必要です。
① 尿量・排尿回数の減少
② 呂律が回らない・会話が成立しない、幻視がある、通常とは異なる行動・言動をするなどの意識障害
 これらをまとめるとバラシクロビルは主に肝臓のエステラーゼで加水分解されてアシクロビルとなって作用する。アシクロビルは水溶性で腎排泄性ではあるが、溶解度が低くいので、帯状疱疹で1回1000mgと大量投与するすると、腎で糸球体濾過されて尿細管で水やNaが再吸収されると遠位尿細管や集合管で濃縮されると過飽和になって結晶が析出して、尿が出にくくなって乏尿・無尿になって腎後性腎障害をきたして腎機能が悪化する。同様に腎後性腎障害の原因薬物にはガンシクロビルなどの抗ウイルス薬とメトトレキサートがありこれらの薬物は1回投与量が多く腎排泄性なので水溶性だが、水への溶解度が低いという共通点がある。それによって薬物が結晶を形成して、排泄されなくなり、血中濃度が上昇し、アシクロビルの場合、中毒性の副作用として意識障害をきたす。アシクロビルの意識障害の特徴は「呂律が回らない、会話が成立しない、幻視がある、通常とは異なる行動・言動をするなどの意識障害」である。
 このような副作用は腎予備力の低下している腎機能が低下している人、小柄な(特に女性)高齢者(加齢とともに腎機能は低下する)で起こりやすい。
ではまとめてみよう

・アシクロビルは水溶性で腎排泄性であるが、尿酸と同様、溶解度が低いので水に溶けにくい。
・小柄な高齢女性で腎障害・意識障害の副作用が起こりやすいので、腎機能の低下した患者だけでなく小柄な高齢女性にも用量を減量するか、投与間隔を延長する。
・無尿・乏尿、水腎症(尿がせき止められるため腎臓に尿がたまる)を伴う薬剤性腎障害が起こりやすい
・見当識障害(ここはどこ?私は誰?かが分からない)などの意識障害が起こりやすい。 

「適正使用のお願い」には書かれていない以下の事項も知っておいてください。薬剤師として知っておくべき重要な情報だからです!
・アシクロビルにアミノ酸のバリンをくっつけることによってペプチドトランスポータの基質になり、バラシクロビルの吸収率は54%と、アシクロビルの吸収率の20~30%に比し高くなった。これによって1日5回服用しなければならないアシクロビルと異なり、バラシクロビルは1日3回で血中濃度が上がりやすくなった。しかしバラシクロビルはアシクロビルとなって、より高濃度で腎排泄されるようになったためアシクロビルよりも腎後性腎障害が起りやすくなった。
・高齢者は筋肉量が減って代わりに脂肪が増えるため体内水分量が少ない、口渇感を感じない人がいる、夜間、トイレに行く回数が増えるので水分摂取を嫌がる人も多いので脱水になりやすい。さらにこの副作用は発汗の多い夏に起りやすく、脱水を助長するNSAIDsやRAS阻害薬、利尿薬(これを3重攻撃triple whammyといって、これによる腎前性腎障害が国際的に問題となっている)を併用している患者ではよりリスクが高くなる。帯状疱疹を発症したのは体調がよくないから、免疫能が低下して発症したのだから、倦怠感がひどい、発熱がある、血圧が低いなどの体調不良があるようなら、脱水をすでにきたしているのかもしれないので、シックデイ対策としてtriple whammyの薬は服用を一時中断すべきであろう。これは皮膚科の関与している薬剤師の方々にはぜひ皮膚科医と「シックデイの時には服用中止」することを指導させてほしい旨を相談すべきだろう。
・この副作用を防ぐため、服薬指導で特に汗の書きやすい夏には飲水を励行する(尿量を増やせばアシクロビルが溶けやすくなる)。
・高齢者では腎機能が過大評価されやすい(高齢者は筋肉量が少なくなるので筋肉由来の血清クレアチニンが低くなって推算クレアチニンクリアランス(CCr)が高く見積もられる)ので、実測腎機能は低いはずなのにクレアチニンを基にしたCCrやeGFRが高めに推算されるため減量されず常用量の1日3000mgが投与されることがある。例えば35kgの後期高齢女性であれば、生理機能が低下しているのだから、血清Cr値がたとえ低値であっても、常用量の1日3000mgの投与は考え物だ。70kgの若年男性に常用量の倍量投与はしないでしょ?だったら生理機能が低下しているはずの35kgの後期高齢女性であれば、小柄なのだからせめて半量に減量してもらいたい。肺炎で投与する抗菌薬の初回投与量が少なすぎれば致死性の疾患になりうるが、帯状疱疹で減量しすぎても亡くなることはないのだから!
・腎機能低下患者・高齢者での副作用を防ぐには胆汁排泄型のアメナメビル(アメナリーフ)に変更を提案するとよい。
・薬局でも簡易に脱水を早期発見するには、爪毛細血管再充満時間(CRT:Capillary refilling time)2秒以上が特異度が高い。もともとこれはトリアージで循環機能を簡易的に判定する指標で,爪を5秒間加圧した後に解除し,爪の赤みが回復するまでの時間(Blanch test)。2秒以上なら、緊急治療群(Ⅰ:赤)とするトリアージに用いる手法である。2秒未満なら、循環に関しては問題ないと判断される。McGeeは脱水症の判定に応用した循環血漿量が減少しているかどうかを簡易に見つける特異度の高い方法として報告した。右手で左人差し指のつま先をつまんでください。ピンク色の爪が一瞬、白くなりますが、2秒以上白いままだと脱水が疑われます。これは特異度、つまり脱水がない患者で症状が現れない確率が95%と高いのです。口腔粘膜の乾燥は感度、つまり脱水が存在する時に出現する確率(脱水を見逃さない確率)が85%と高いことを覚えておきましょう(を参照:McGee S, et al: JAMA 281: 1022-1029, 1999)。

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プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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