最近、薬剤師サロンへの問い合わせ、また私自身に来る講演依頼で最も多いのが「腎機能の評価の仕方について」です。ただし「腎機能を評価するのはCockcroft式を使ってCCrを求めたらいいじゃない?」という考えは腎排泄性のハイリスク薬に関して通じません。腎機能を正しく評価することはそんなに簡単ではありません。そこで・・・

本日より「腎機能を正しく評価するための10の鉄則」について連載したいと思います。

 この作成には熊本済生会病院薬剤部の柴田啓智先生、熊本中央病院の宮村重幸先生にもお知恵を拝借しております。ではまず本日、1日目は「腎機能を正しく評価するための10の鉄則」の要約です。


◆10の鉄則

【 1 】 eGFRcreat、 CCrでmL/min/1.73m2は薬物投与設計に使わない。mL/minを使うが、抗菌薬・抗がん薬などで投与量がmg/kgやmg/m2となっている場合にはmL/min/1.73m2を使う。

【 2 】 今までの添付文書記載の腎機能として記載されているCCrはほとんどJaffe法による血清Cr値測定による。CCrJaffeはGFRと近似するため、薬物投与設計時の患者の腎機能は酵素法によるCCrEnzは用いずeGFR(mL/min)を使うか、CG式の血清Crに患者の(血清CrEnz+0.2)を代入して求めた推算CCrを使う。

【 3 】 CG式による推算CCrEnzは薬物投与設計には原則として用いないが、血清Cr値の低い痩せた患者にeGFRcreat推算式を使うと過大評価してしまう。そのため後期高齢者やがん末期などのフレイル症例にはeGFRcreatよりもCockcroft-Gault(CG)式による推算CCrEnzが適していることがある。

【 4 】 肥満患者の推算CCr算出のための体重は理想体重または標準体重を用いる。

【 5 】 高齢者のフレイルなど、腎機能予測式では正確な評価ができない症例には24時間畜尿による実測CCrEnz×0.715によりGFRとして評価すると正確な腎機能が得られる。畜尿CCrは畜尿忘れがないよう「畜尿忘れがあれば必ず伝えてください。正直に言ってくれないと薬が効かなくなる恐れがあります」と指導する。

【 6 】 血清Cr値が0.6mg/dL未満の高齢フレイル症例の腎機能推算式の血清Cr値として0.6mg/dLを代入すると予測性が高くなることが多い。ただし自分の目で症例の体格を確認すること。まれに痩せているがフレイルではなく活動的な症例の場合、腎機能がよい可能性がある。

【 7 】 60歳以下の腎機能正常者で全身炎症(SIRS)によりICU管理下で血管作動薬・輸液の投与を受けている患者ではeGFRが150~160mL/min/1.73m2に上昇することがある。これは過大腎クリアランス(ARC)により腎機能が高くなっており、血清Cr値は0.6未満になることもあるが、腎機能推算式や0.6mg/dLを代入するラウンドアップ法を使わず実測CCrの測定による腎機能の正確な把握が望まれる。

【 8 】 ST合剤、シメチジン、コビシスタットは尿細管におけるCrの尿細管分泌を阻害するため腎機能の悪化がなくても血清Cr値がわずかに上昇する。

【 9 】 軽度~中等度腎機能低下症例にはシスタチンCによるeGFRcysも推奨される。

【 10 】 上記の記載は腎機能低下患者にハイリスク薬を投与するとき、あるいは腎機能低下に伴いハイリスク薬になる薬を投与するときに考慮すべきものである。安全性の高い薬物では患者の腎機能にCCrEnzを用いても大きな問題はない。

 ◆附則

 ネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症や糖尿病患者ではCrの尿細管分泌が増加し、腎機能を過大評価してしまう。
   高齢者のeCCrEnzに0.789をかけない。 eCCrEnzに0.789をかけるのは若年者のみである。
eGFRcreat: Crを基にしたeGFR, eGFRcys: シスタチンCを基にしたeGFR, CCrJaffe: Jaffe法によって測定したCCr, CCrEnz: 酵素法によって測定したCCr

 

20151106_8.jpg

「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ