1限目:導入講義 薬剤師の存在価値はどこにある?

今回の要約
①薬物動態の考え方は薬剤師にとって大きな武器になる。これが医師との違い、薬剤師のアイデンティティといって過言ではない!
②だけど難解な薬物動態学の理論を理解しなくちゃいけないと思うと憂鬱になる。薬のそれぞれの性質・特徴を知ること、つまり「薬への興味」が薬物動態の習得につながると考えると楽しくなる。


 「薬剤師なんて要らない?なんで要らないの?薬剤師は絶対に必要なんだよ!だって処方箋を書く医師は薬物動態や相互作用を知らないんだよ。だから患者さんが使っている薬の有効性・安全性を担保するために薬剤師が監査し、疑義紹介しなければならないんだ。多くの患者さんが薬物療法によって病気を治療している。薬剤師は患者さんの薬の安全性を守る最後の砦なんだ。」これはアレクサングシンデレラの前から言っており、熊本大学薬学部で繰り返し学生たちに話してきたことです。でも「薬物動態学」の大好きな薬剤師やそれにかかわる計算式を得意とする薬剤師はあまり多くないのが実態ではないだろうか。実際、処方箋監査をするのに「薬物動態学の知識って必要?」と思っている薬剤師も多いのではないだろうか?
 「薬剤師は薬の専門家」、幅広い薬の知識を持っているのは薬剤師自身も薬剤師以外も自覚していることではないだろうか?この薬の特性、この薬の性質は何で表されるの?たとえば「どれくらいたてば効き始めてどれくらい効果が持続するの?」「体の中に薬が溜まり続けて害になることはないの?」「いつ飲んだら一番効果的?」「同じ成分なのに飲み薬と注射薬と投与量が同じこともあるし、飲み薬の方が注射薬よりもうんと量が多いことけど副作用は心配ないの?」「同じ量をのんでも人によって副作用が起きたり、効かなかったりすることがあるのはなぜ?」これは薬剤師にとってはおそらく容易に答えられる質問内容だが、医師には少し難しいかもしれない。
 具体的には「バンコマイシンは健常者では1日1000mg投与するけど透析患者ではどれくらいに減量すればいいの?」「フェニトインの原末で投与量を間違えて死亡したり、テオフィリンの相互作用で死亡したケースがあるのはなんでなんだろう?」「アミオダロンは投与をやめても数か月間血中濃度が測定できるのはなぜ?ほかの薬とどう違うの?」「ワルファリンのタンパク結合率が下がると大出血するの?」「ACE阻害薬は腎排泄性、Ca拮抗薬やARBは肝代謝されるけど(つまり透析患者でも減量の必要がない)、「アテノロールやプロカテロール、ナドロールは透析患者で減量しなくてはならないけれど、同じβ遮断薬なのにカルベジロールやプロプラノロールは減量する必要はないのはなぜ?」などの質問は薬剤師だったら知っておくべきなのに、知らない人もいるかもしれない。知らない人こそ、これを読んでほしい。

ADMEのパラメータを覚えずに理解する方法
   ~コツは少ない水溶性薬物(腎排泄型薬物)を覚える~

 アドメってご存知ですよね。ADME、つまり薬がどのように吸収され、どのように生体内に分布し、どのように代謝されて、どのように排泄されるのか(図1)?これ

202005_1-1.pngは薬の特性そのものなんだ。具体的な薬物動態パラメータ*1としてはバイオアベイラビリティ(F)、クリアランス(CL)、分布容積(Vd)、尿中未変化体排泄率(fe)、蛋白結合率(PBR)、消失半減期(t1/2β)、消失に関わる代謝酵素・トランスポータの基質になるか、他剤の阻害や誘導をするか。これらを使いこなせる薬剤師は上記の患者さんや医療スタッフのどのような質問にも、分かりやすく理論的に説明できるだけではなく、薬の血中濃度を自由自在に操り、コントロールすることができるのだ。その分かりやすさがアドヒアランスの向上、つまり薬を正しく使うこと、そして適正使用、有効かつ安全な薬物療法の提供につながる。そしてそれらができるのはこれらの基礎的概念を知っている薬剤師に他ならないのだ。汎用されている薬物は1500~2000くらいある。1種の薬物につき7~8のパラメータを覚えるとなると1万以上の数値を記憶する必要があるが、暗記なんて出来っこない。これからは理論的に理解していこう。キーワードは水溶性か脂溶性だ。言い換えれば腎排泄型薬物か肝代謝型薬物かを知っておけば、だいたいADMEに関わるパラメータが予測できる。そしてすべての薬物のうち腎排泄は2~3割しかない(図2)。202005_1-2.png少ない方が覚えやすいので、腎排泄型薬物を覚えれば、残りは肝代謝型薬物だ。150種くらいある抗菌薬のうち、殺菌性抗菌薬はほぼ腎排泄型*2と覚えて間違いない()。202005_1-03.pngしかもこれでだけで腎排泄型薬物のうち約100種類以上を占める。となると抗菌薬以外で腎排泄型薬物の数は残りはわずかだ。例外だけ覚えればいいんだ。楽だ。そしてそれらの性質はよく似ていることをこれから実証しよう。では始めよう。

*1)薬物動態パラメータ日本腎臓病薬物療法学会では1年に4冊の学会誌(うち1冊はは学術大会要旨集)を発行し、そのうち3冊には約2000の薬物の1/6にあたる300前後の最新の薬効別薬物の腎機能別用量に加え、クリアランス(CL)、分布容積(Vd)、尿中未変化体排泄率(fe)、バイオアベイラビリティ(F)、蛋白結合率(PBR)、半減期(t1/2β)、消失に関わる代謝酵素・トランスポータの基質になるか、他剤の阻害や誘導をするか、特記事項などの情報が載っている。さらに2年に1回、すべての約2000薬物の全情報が掲載されたグリーンブックを発行している。2020年度版は3月にすでに発行されたが、この学会の会計年度は8月末であるため、2020年8月末までに入会すれば、2019年9月以降に発刊された学会誌とともに、グリーンブックが送られる。また2020年6月発売予定のじほうの「腎機能別薬剤投与量POCKETBOOK 第3版(税込3960円)」も2020年8月末までに会員になれば無料配布される。
*2: 殺菌性抗菌薬はほぼ腎排泄型理由をうまく説明できないので、単なる偶然かもしれないが、殺菌性(菌量を減らす抗菌薬)の抗菌薬はほぼ腎排泄性と思って間違いない。この場合、数の少ない脂溶性抗菌薬であるマクロライド系、テトラサイクリン系、オキサゾリジノン系、リンコマイシン系、グリシルサイクリン系、それにクロラムフェニコールなどは脂溶性抗菌薬で静菌性抗菌薬(細菌数を減らすのではなく増殖を止める)であると覚えよう。それに対しβラクタム系、アミノグリコシド系は細胞外液のみにしか分布しない水溶性薬物であるし、バンコマイシンは尿中排泄率90%で透析患者には腎機能正常者の1/5以下に減量が必要な水溶性で腎排泄性の抗菌薬。ダプトマイシンもそうだ。ただし殺菌性抗菌薬の中でもキノロン系は日本ではレボフロキサシンの1人勝ち状態なので、腎排泄と思われがちだが、ノルフロキサシンや欧米では評価の高いモキシフロキサシンは腎機能低下患者でも減量の必要がない。静菌性の中ではST合剤が例外的に腎排泄だ。キノロン系は脂溶性薬物の特徴である組織移行性が高いため、レジオネラやクラミジアなどの細胞内寄生菌にも効果がある。もちろんVdも大きい。表の中に青色ではなく白や黄色のβラクタムがあるがこれらは物性は水溶性だが、たまたま蛋白結合率が高いセフォペラゾンとセフトリアキソン、そして吸収率が分からないため腎排泄かどうかさえ微妙なピボキシル基のついた経口第3世代セフェムなどばかりである。重症感染症では殺菌性抗菌薬は静菌性抗菌薬よりも優先される。ということはよく効く抗菌薬は腎機能に応じた減量が必要なのだが、βラクタム系抗菌薬の安全性は高く、怖いのはアレルギー性副作用なので初回投与量は減量せずしっかりと初濃度を上げて、速やかな効果が期待できるような投与設計をしよう。

「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)