2限目:プロプラノロールとアテノロールの違いからADMEを知ろう!

今回の要約:
①Ca拮抗薬、ARB、α遮断薬はすべて肝代謝型薬物なので腎機能が低下しても減量の必要はない。
②ACE-I、ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬、クロニジンは腎排泄型降圧薬。
③β遮断薬だけは薬によってさまざまでアテノロール、ナドロール、カルテオロールだけは腎排泄、それ以外は肝代謝と覚えよう。


 薬物投与設計に薬物動態学の知識が必要なことは言うまでもない。主に腎から活性体として排泄される薬物は腎機能低下患者では減量が必要であるし、主に肝で代謝される薬物、あるいは胆汁排泄される薬物は腎機能低下患者でも特殊な例外を除いて減量の必要はない。しかし現在、使用されている医薬品数は1病院あたり1000~1500品目以上にのぼると言われている。それらの薬物動態的特徴をすべて記憶するのは困難であるが、ADME*のポイントさえつかめば薬物動態はわかりやすく、腎機能低下患者の投与設計に非常に役に立つ(図1)。

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 たとえば降圧薬のうち、Ca拮抗薬、α遮断薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、血管拡張薬などは多くが肝で消失する薬物であり腎機能低下患者では減量する必要はない(表1)。一方、ACE阻害薬のほとんどは水溶性薬物であり、利尿薬も腎排泄性のものが多いが、その薬理学的特性から腎不全患者でも減量する必要のないものが多い(表1)。202005_2-11.png

今回の連載の本題となるβ遮断薬は水溶性のものから脂溶性のものまで幅広く存在し、その薬物動態学的特徴は大きく異なる。
 医学部や薬学部の学生達に「プロプラノロール(インデラル®)とアテノロール(テノーミン®)の違いを知っているだけ言って下さい」という質問をするとほとんどの人が「アテノロールにはβ1選択性がありますが、プロプラノロールには選択性がありません」と答え、その後は、「内因性交感神経興奮作用はどうだったっけ? 」「膜安定化作用は・・・?」という答え以外には、ほとんど言葉が出てこない。出てきた答えのほとんどはこのような狭義の薬理学(薬物作用学)的なことに終始する。β1選択性については選択性のないプロプラノロールを喘息患者に投与して、喘息発作を起こしてしまうと気管支が収縮して呼吸困難になって死亡することがあるから絶対に知っておかなくてはならない。だけど膜安定化作用や内因性交感神経興奮作用は通常、臨床的にあまり重要な意味を持たないから知っておく必要はあるのだろうか。
 確かに薬理学の知識は非常に大切である。しかし医師が投与設計し薬剤師が処方監査するときに、この病態にはこの量でいいのか?どのような投与間隔にすればよいのか?と考えるが、その時に薬理学の知識はほとんど役に立たず、薬物動態学の知識が必要となる(図1)。「薬物動態って難しくって・・・。」などと言わずにトライしてみよう。202005_2-3.png
 図2の2つのβ遮断薬の構造を比較すれば薬剤師であれば容易にプロプラノロールの方がアテノロールに比べて脂っぽい構造をしているなと気づくであろう。また表2にはβ遮断薬の脂溶性と水溶性の程度を示しており、その程度はn-オクタノール/水分配係数*2という値で示される。表2を見ればβ遮断薬の中でアテノロールが最も水溶性が高く、プロプラノロールはカルベジロールに次いで脂溶性が高いことが分かる。プロプラノロールとアテノロールは同じβ遮断薬でありながら物理化学的性質(物性)は全く異なり、差別化のポイントはプロプラノロールは脂溶性薬物であり、アテノロールは水溶性薬物であるという違いである。薬物のn-オクタノール/水分配係数はインタビューフォームの「有効成分に関する報告」のところに載っているが、この係数の数値を見て値が大きい、つまり脂溶性が高いほど、プロプラノロールの薬物動態に、そして数値が小さい、つまり水溶性が高いほど、アテノロールの薬物動態に近くなると考えてみるとわかりやすい。

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*1)ADME筆者はアドメと呼んでいる。A: 吸収absorption  D: 分布distribution  M: 代謝metabolism  E: 排泄excretionの略。つまりこの4つを知ると薬物動態はほぼ理解できる(図1)。本来ならば吸収・分布・代謝・排泄の順であるが、吸収された薬物は門脈という太い静脈を通って肝臓に行き、あるものは初回通過効果を受けてから組織に分布し肝臓や腎臓を通って消失するため、筆者は図ではあえて吸収・代謝・分布・排泄の順にした。
*2)n-オクタノール/水分配係数薬物の脂溶性・水溶性を表す物理化学的パラメータで、数値が大きくなると脂溶性が高くなる。o/w係数と略すが、Oil/Waterと理解すると覚えやすいし、わかりやすい。メーカーによってn-オクタノール/水分配係数, pH7.4の代わりにpH7.0になったり、オクタノールの代わりにクロロホルムなどの脂溶性の溶媒を使ったりすることもある。この係数の大きい脂溶性薬物は肝で代謝を受けやすく、組織に広く分布し、血液・脳関門も通過しやすい。また、透析で除去されにくいなどの特徴を有する。逆に係数が小さいと水溶性が高く、肝での代謝を受けにくく、腎で排泄されやすい。そのため腎機能低下患者では係数の小さい水溶性薬物は蓄積しやすいが、透析で除去されやすい1

引用文献
1. 平田純生, 他: 血液透析による薬物除去率に影響する要因. 透析会誌37: 1893-1900, 2004.

「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)