3限目:バイオアベイラビリティを理解しよう
    ~吸収率と肝初回通過効果~

今回の要約: バイオアベイラビリティが低い原因は2つと理解する!
①脂溶性薬物の消化管吸収は良好だが、初回通過効果を受けやすいからFが小さいと考える。
②水溶性薬物は初回通過効果を受けにくいが、吸収率が不良だからFが小さいと考える。


 プロプラノロールは脂溶性が高いために、消化管粘膜を通過しやすい*1。特に高脂肪食とともに服用すると界面活性作用を持つ胆汁酸の分泌が促進することにより吸収が格段によくなる。しかし消化管粘膜から吸収されたプロプラノロールは門脈を経て肝臓で初回通過効果*2を受け、半分以上が代謝され消失するため、経口投与された量の30~40%しか血中には移行しない。このことをプロプラノロールのバイオアベイラビリティ*3(F)は30~40%であると表わす。
 F=(消化管における吸収率)×(消化管および肝臓における初回通過効果回避率)で表されるが、これは分かりにくいので、F=非静注製剤を投与した時のAUC/静注製剤を投与した時のAUCで理解しよう(静注製剤のFは当然100%だ)。脂溶性薬物であるプロプラノロールのFが小さい原因は肝臓における初回通過効果を受けやすいことに起因する。202005_3-1.png
 プロプラノロールは肝で代謝を受ける薬物であるため、至適投与量には個人差があり1,2)、10mg服用しただけで血圧が下がりすぎる人もいれば、200mg服用してもほとんど効果がないという人もいる。このことは同一量を投与した患者の血中濃度を調べてみるとプロプラノロールでは7~20倍の個人差が生じたという報告3,4)と一致する(図14)図1は肝代謝薬物であるプロプラノロールは同一用量でも個人間で20倍の血中濃度の差が生じている。初回投与後の血中濃度の個人差はVdに依存し(4限目で詳述)、Vdの個人差は小さいが、2回目以降は徐々に個人個人の代謝能力(クリアランス:6限目で詳述)の個人差が大きくなり、3回目の投与では10倍以上の個人差になっており、この差はさらに大きくなる可能性がある。これは重篤な肝障害によって肝代謝能力が著しく低下するだけでなく、202005_3-2.pngたとえ肝障害がなくとも、もともと遺伝的に肝臓の代謝酵素の活性や発現量が人によって大きく異なることを示している。プロプラノロールの代謝はCYP1A2*4とCYP2D6によって行われるが、2D6には遺伝的に poor metabolizer(代謝されにくい人)からultrarapid metabolizer(代謝が超速い人)*5まで存在し、代謝能力の個人差が大きいことが知られている。ただし同一個人内では投与量と血中濃度の相関性は高い(図24)。遺伝子多型のないCYP3A4によって代謝されるニフェジピンだってヒト肝ミクロソームのCYP3A4蛋白発現量の個人差によって同じ量をのんでも血中濃度は10倍の個人差があることが報告されている(図35)。このように肝代謝型薬物は肝代謝能力の個人差があるため投与設計がしづらいのだ。腎排泄型薬物の場合、腎機能の個人差があるが腎機能が分かれば投与設計はできる!この方法については近々、ブログにアップしたい。プロプラノロールやニフェジピンは比較的安全域の広い薬物であるためTDMの実施は必ずしも必要ではないが、代謝能力の個人差が大きく安全域の狭い薬物ではTDMによる至適投与設計*6が必要となる。
 一方、アテノロールは水溶性薬物であるため消化管吸収率は低く、平均40%程度しか吸収されないが、肝での代謝を無視できるため、肝障害でも減量の必要はないが、腎から排泄されるため腎障害時は腎機能に応じた減量が必要となる4)

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*1)消化管粘膜の通過:生体膜は蛋白質と脂質からなる二重構造(図4)によって形成されているため、脂質への溶けやすさ、つまり脂溶性が受動拡散による吸収されやすさを決定する主要な因子になる。しかしシクロスポリンや脂溶性ビタミンなどのように脂溶性が高すぎると溶解性が低下し、界面活性作用のある胆汁酸が分泌されない空腹時に服用すると吸収率が著明に低下する。ビタミンEの吸収は空腹時に飲むと食後の1/20しか吸収されないのだ。ネオーラル®はシクロスポリンの吸収の不安定さを改善するために生まれたマイクロエマルジョン製剤であり食前に飲んで食後2時間(C2)濃度が効果、つまりAUCと相関しやすいことが明らかになっている。

202005_3-04.png*2)初回通過効果(first pass effect):薬物が消化管から吸収され肝を経て全身に移行していく前に、小腸や肝臓で代謝を受ける現象のこと。肝で代謝されやすい経口剤では消化管で吸収後、門脈経由で肝を通過し、代謝されてから血中に移行するため生物学的利用率Fが低下する。CYP3A4の基質となる薬物は一般的に小腸における初回通過効果を受けやすいため、シンバスタチン・アトルバスタチンやフェロジピンなどバイオアベイラビリティの低い薬はCYP3A4の基質が多いことに気づく。これらの薬はグレープフルーツやイトラコナゾールと絶対に一緒に飲んじゃダメってことは知ってるよね?Fが小さいからだよ。薬剤情報提供用紙を渡すだけでなく薬剤師は口頭でも絶対にグレープフルーツを食べたり飲んだりしたらダメといわねばならない!ニフェジピンやアムロジピンのFは50%以上あるからそこまで言う必要はない。坐薬や注射薬は初回通過効果を受けない。
*3)バイオアベイラビリティ(F:bioavailability、生物学的利用率とも言う):薬物が血管外投与された時に生物学的に利用できる量として循環血中に移行した割合のこと。一般的には血管外投与(経口、筋注、直腸内投与など)された未変化体の血中における総量(AUC: area under the curve)と、同じ量を静注投与した時の総量(静注投与時のAUC)の比率で表す。たとえば経口剤の場合では経口投与された量に対して、循環血中に入った量の割合のことを指し、Fで表す。インタビューフォームで静注製剤と経口薬を同量投与してAUCに差がなければFは1に近い、逆に経口薬のAUCが静注投与時と比べてとても小さいときにはFが1よりもずいぶん小さいと考えられる。Fが小さい薬物は吸収が悪いか、肝による初回通過効果を受けて消失しやすいかのどちらかだと考えればわかりやすい。
*4)CYP(Cytochrome P450):薬物代謝酵素で最も重要なチトクロームP450のこと。最近、CYPの分子種は数十種類、存在することがわかり、CYPの分子種別に相互作用メカニズムが解明されつつある。主要なisoformとしてCYP3A4、CYP2D6、CYP2C19、CYP2C9、CYP1A2がある。
*5)poor metabolizerとultrarapid metabolizer薬物を正常に代謝できる能力を有する個体をEM: extensive metabolizer(またはrapid metabolizer)という。それに対し代謝酵素の遺伝的な酵素欠損によって薬物を十分代謝できない個体をPM: poor metabolizer(またはslow metabolizer)という。CYP2D6に関して言えばエチオピア人やサウジアラビア人の中には10~20%程度、日本人にも1~2%非常に高い活性を持つUM: ultrarapid metabolizerが存在し、日本人では10%前後、正常型と欠損型の中間の活性を示すIM: intermediate metabolizerが存在することが分かっている。
*6)TDMに基づく至適投与設計:TDMとは治療薬物モニタリングtherapeutic drug monitoringのこと。同一用量を投与しても人によって効果の出方、すなわち感受性が異なる原因として、①同じ用量を投与しても薬物血中濃度が同じにならないという薬物動態の個人差と、②同じ濃度であっても効果の出方すなわち感受性が異なるという薬物動力学の個人差が考えられる(図5)。

202005_3-5.pngそして多くの場合、前者の①薬物動態学的な原因によって引き起こされる個人差のほうがより大きいことが明らかにされている。薬物の薬理作用は作用部位の受容体と結合する薬物量の影響を受けるので、投与量よりも血中濃度の方が薬理効果との相関性がはるかに高いと考えられる。そのため薬物の血中濃度を測定し、薬理作用が最大限に、副作用が最小限になるような血中濃度域(有効治療域)内に収まるように投与量を個別化することが、より合理的に薬物投与を行えることになる(図6)。このように薬物動態学と薬物動力学を科学的根拠にして、有効かつ安全な薬物療法を実現すること、これがTDMの基本である。202005_3-6.pngTDMは薬物動態の得意な薬剤師が中心となって投与設計ができるので、薬剤師の腕の見せ所だ。ただしβ遮断薬は比較的安全性の高い薬物であるため、研究目的以外にTDMが実施されることはない。

引用文献
1. Lardinois CK, Neuman SL: The Effects of Antihypertensive Agents on Serum Lipids and Lipoproteins . Arch Int Med 148: 1280-1288, 1988.
2. Prichard BN : The beta-adrenergic blockade withdrawal phenomenon. J Cardiovasc Pharmacol 5: S56-S62, 1983.
3. Shand DG, Rangno RE: The disposition of propranolol. Elimination during oral absorption in man. Pharmacology 7: 159-168, 1972.
4. 石崎高志: β受容体遮断薬の臨床薬理学. 診断と治療 77: 2853-2865, 1989.
5. 田中利明, 他: Investigation on the interethnic differences in the pharmacokinetics of nifedipine and nisoldipine. 臨床薬理27: 31-32, 1996


≪ 理解度テスト ≫

1.以下の薬物は何で経口投与できないんだろう?
①ニトログリセリン(狭心症治療薬)
②ゲンタマイシン(アミノグリコシド系抗菌薬)
③セファゾリン(セフェム系抗菌薬)

2.以下の薬物のバイオアベイラビリティが低い原因は?
①バンコマイシン(グリコペプチド系抗菌薬)0%
②アシクロビル(抗ヘルペスウイルス薬)20%
③シンバスタチン(高コレステロール血症治療薬;スタチン薬)5%

3.以下の設問に答えなさい。
①EPA、DHA、ビタミンE、βカロチンは食後か空腹時のどちらが吸収がいい?
②ビタミンB2、ビタミンB12は食後か空腹時のどちらが吸収がいい?


≪ 解 答 ≫

1.以下の薬物は何で経口投与できないんだろう?
①ニトログリセリン錠で初回通過効果を受け完全に消失するため、血中には全く入らない。つまりF=0であるため、静注投与、舌下投与、貼付剤として投与可能だが経口投与しても意味がない。
②ゲンタマイシンはアミノグリコシド系で極性が高い親水性薬物。脂質二重層を通ることができない。ということは吸収率が0%なので経口投与しても意味がない。だけどカナマイシンカプセルが使われているのは、吸収されないから腸内殺菌には都合が良いためなんだ。
③セファゾリンはβラクタム系なので、アミノグリコシド系と同様に極性が高い親水性薬物。脂質二重層を通ることができない。だけどABPCやAMPC、セファレキシン、セファクロルなどまれに吸収率が高い抗菌薬があるのは例外!なんで例外かっていうとこれらの構造がたまたまアラニルアラニンというジペプチドの構造と似ていたために小腸のペプチドトランスポータのPEPTが、これらのβラクタム薬を「ペプチドだから吸収しなくっちゃ」と勘違いして吸収された例外中の例外。これらのほかにもセフカペンピボキシル、セフジトレンピボキシル、セフテラムピボキシル、セフポドキシムブロキセチル、セフジニルなどのように意図的に脂溶性の高い基を付けて無理やり吸収させようとしている第3世代経口セフェムがある。これらの吸収率は分かっているもので14~50%と低いし、吸収率が分かっていないものもある。だけど第3世代経口セフェムって要る?近年、喘息、アトピー、鼻炎、食物アレルギーといった僕が子供のころ(1960年代)には聞いたこともなかったアレルギーマーチが増えているが、2歳までに抗菌薬を使用した子供に多いということが問題になっている1)。Fが小さいってことは感染部位には到達しにくく、必要な腸内細菌を殺すことにならないだろうか?しかもピボキシル基は体内でピバリン酸になって、カルニチンと結合して尿中に排泄されるため、血清中の遊離型カルニチン濃度が低下して低血糖が生じる危険な症状が多くの小児で報告されている。
1)Hanada KY, et al: Influence of Antibiotic Use in Early Childhood on Asthma and Allergic Diseases at Age 5 . Ann Allergy Asthma Immunol 119: 54-58, 2017  

2.以下の薬物のバイオアベイラビリティが低い原因は?
①バンコマイシンは分子量が1486Daと大きいため、脂質二重層を通らない。つまり吸収されない。ただし、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)の殺菌のために腎機能が極度に低下した透析患者の偽膜性腸炎に経口投与すると下部消化管粘膜が破壊され脂質二重層というバリアを通過し、腎から排泄されにくくなって血中濃度が上昇することがある。
②アシクロビルは投与量を増やすと吸収率が低下するため1日5回も投与しなければならない薬。おそらく親水性なので吸収されないのだろうが、たまたま小腸のトランスポータの基質になったからかろうじて飲み薬になったのだと思う。なぜなら添付文書の記載「健康成人にアシクロビル200mg及び800mgを単回経口投与した場合、48時間以内にそれぞれ投与量の25.0%及び12.0%が未変化体として尿中に排泄された。」の解釈は吸収されたものだけが全身循環に乗って腎臓を通って排泄されたと考えられる。投与量が多くなると吸収率が低下することでトランスポータによって吸収される薬物だと推測される。トランスポータは投与量が多くなると飽和して吸収率が低下する(吸収が飽和する)という特性を持つからだ。つまりFは12~25%以上と考えられる。静注製剤の添付文書には「健康成人へ5又は10mg/kgを1時間点滴静注した時、48時間以内にそれぞれ68.6%又は76.0%が未変化体として尿中排泄された」と記載されているので、腎排泄にもトランスポータが関わっているので(再吸収するトランスポータに飽和現象が認められているのが分かりますか?)、尿中排泄率が70%と仮定すると内服アシクロビルのFは17~36%程度で、やはり吸収率は高くない。
③シンバスタチンはCYP3A4の基質なので肝臓だけでなく小腸での初回通過効果を受けやすい。そういえばFが小さい薬物はCYP3A4の基質薬物が多いことに気づく。小腸での初回通過効果が大きいってことはグレープフルーツなどの相互作用のインパクトも大きいってことだ。だって5%のFが完全に初回通過効果を抑えられたら20倍になっちゃうんだものね。

3.以下の設問に答えなさい。
①まさに脂溶性薬物ばかり。これらは食後(特に脂っこいものを食べた後)には胆汁酸という界面活性剤が分泌されるので、吸収率が格段に良くなる。界面活性剤は洗剤のようなもの脂を乳化して溶かしてくれるからだ。
②これは食後。輸送担体によって吸収されるから、空腹時に投与すると胃内容排出速度(GER: gastric emptying rate)が速いので、数限りある輸送担体が100%キャッチできなくなるからGERがゆっくりになる食後の方が吸収は良い。これって20年くらい前の薬剤師国家試験に出題されていたんだけど、臨床的な意味はほとんどないと思う。だってこれらのビタミン剤は結構大量に含まれている。リポビタンDを飲んでしばらくすると尿が鮮やかな黄色になるのはビタミンB2が十分吸収されているからという証拠です。

「今日はここまで、それではまた次回お楽しみに!」


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)