5限目:代謝による消失と
排泄による消失(代謝および排泄経路)を知ろう!
今回の要約:
①脂溶性薬物は肝で代謝されることにより血中から消失する。
②水溶性薬物は腎から排泄されることにより血中から消失する。
脂溶性の高いプロプラノロールはそのままでは腎から排泄できない。糸球体で濾過されても脂溶性が高いために尿細管で受動拡散によって再吸収されてしまうため排泄されないからだ(図1)。そのため肝による代謝(≒極性化反応)によって親水性を増した代謝物・抱合体となってはじめて腎から排泄される(図2)。肝で別の物質に変わること(=代謝)がこの薬における「消失」である。よく薬物を肝排泄型・腎排泄型という分け方をする専門化がいるが、これは正しくない。正確には肝代謝型薬物・腎排泄型薬物と分類すべきである。肝代謝によって親化合物が代謝物となって活性を失った時点で、実際には代謝物として体内に残っていても「消失した」と考えるのである。代謝物に活性があれば、腎機能低下患者では活性代謝物*1を排泄できにくいため蓄積して血中濃度が上昇しやすい。腎機能が低下した患者で、通常では起こりにくい副作用が現れたら、活性代謝物の蓄積を疑ってもよいかもしれない。
図2には90%がCYPによる第1相反応によって水酸基が付き、第2相反応でグルクロン酸抱合を受けるという典型的なパターンを示したが、抱合体はほぼイオン化しているくらい極性が高い、つまり水に溶けやすくなっているため、腎で糸球体濾過されると尿細管で再吸収されない。何度も言うようだが代謝物は親化合物よりも親水性が高いと理解しよう。つまり生体にとって薬物は異物であるので、できるだけ速やかに排泄しようとするため、脂溶性の高い薬物を肝でより水溶性の高い代謝物に変化させている、つまり肝と腎はお互いが協力して薬物を体内から消失させているのだと考えれば理解しやすいであろう。
プロプラノロールは肝で代謝を受けやすく、ほとんどが肝代謝によって消失する。したがって尿中未変化体排泄率は低く、血漿濃度の変化は主として肝での代謝能力によって左右される。かたやアテノロールは肝で代謝を受けなくても水溶性が高いために腎から容易に排泄される。アテノロールは腎から尿中に排泄されること(=排泄)がこの薬における「消失」である。
酵素誘導と代謝阻害
Point!: 脂溶性薬物では代謝阻害、酵素誘導などの代謝に関係した相互作用が起こることがある。水溶性薬物は代謝を受けにくいため、代謝に関係した相互作用は起こりにくい。
プロプラノロールは肝でCYP1A2およびCYP2D6により代謝される。このうち1A2はテオフィリンを代謝する酵素として有名である。タバコを吸うと血中テオフィリン濃度が低下するのはタバコによってCYP1A2が誘導*2されるためだが、プロプラノロールもタバコによりクリアランスが上昇し、血中濃度が低下する1)。このようにプロプラノロールは肝で代謝されるため、酵素誘導や代謝阻害を受けることがあるが、アテノロールはほとんど肝での代謝を無視できるため、このような相互作用はほとんど考えられない。
CYP2D6の酵素欠損者、つまりpoor metabolizerではプロプラノロールの常用量投与でも血漿濃度が上がりすぎ、徐脈などのβ遮断効果が過剰に発現することがある。添付文書にはアテノロールの併用により、ジソピラミドの血中濃度が上昇するという記載2)があるが、これはおそらく、アテノロールにより心拍出量が低下し、それに伴い肝および腎血流が低下したため、ジソピラミドのクリアランスが低下したもの、つまり薬物動力学的相互作用によるもので、代謝阻害によるものではないと思われる。その影響も無視できるほど軽度である。
*1)活性代謝物:活性のない代謝物がいくら蓄積しても中毒性の副作用が起こるわけではない。ただし例外的にモルヒネやミダゾラムのように活性のある抱合体が蓄積し、それが胆汁排泄され、腸管内で脱抱合を受けて再び吸収される(腸肝循環する)ために親化合物濃度が上昇するものもある。ただし単に活性のない代謝物が蓄積しても副作用は起こらない。添付文書に書かれている「尿中排泄率」は活性体だけでなく活性をもたない代謝物の尿中排泄率を含んだ「尿中回収率」であることがあるが、これは腎機能低下患者の投与設計には全く役に立たない。腎機能低下の投与設計に必要なのは活性をもった親化合物あるいは活性代謝物の尿中排泄率であり、これらが高いと腎不全患者では蓄積して中毒作用が現れやすい。活性他誌や物を持つ主な薬物を表に示すがこれらはほんの1例に過ぎない。*2)酵素誘導:物質Aが薬物Bの代謝酵素産生を誘導し代謝酵素量が増えること。酵素誘導が生じると薬物Bの代謝速度が増大し、薬物の血中濃度が下がる。つまり薬物の効きが悪くなる。たとえばAにあたるリファンピシンは多くの薬物に対して酵素誘導を生じさせ、さらにP糖タンパク質などの排泄トランスポータをも誘導するため、併用するとニフェジピンなどのCa拮抗薬、トリアゾラムなどのベンゾジアゼピン系薬物、ボリコナゾール、タダラフィル、サキナビル、アメナメビル、ワルファリン、テオフィリン、ジゴキシンなど非常に多くの薬物の血中濃度を下げることが知られている。抗うつ作用を持つサプリメントのセントジョンズワート(西洋オトギリソウ)も主にCYP3A4酵素誘導作用を持つが、これによりシクロスポリンの血中
濃度が低下し、心移植臓器の拒絶反応を起こした症例が報告されている3)。コンビニでも入手可能なので、誰もが入手できるので気を付けたい。CYP2D6は酵素誘導を受けない分子種である。
引用文献
1)Walle T, et al.: Selective induction of propranolol metabolism by smoking: Additional effects of renal clearance of metabolites. J Pharmacol Experimental Ther 241: 926-933, 1987.
2)Bonde J, et al.: Atenolol inhibits the elimination of disopyramide. Eur J Clin Pharmacol 28: 41-43, 1985
3)Rushitzka F, et al: Acute Heart Transplant Rejection Due to Saint John’s Wort. Lancet 355:548-549, 2000
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