7限目:動態が分かれば副作用や相互作用も予測できるぞ!
透析によって除去されるかどうかだって予測可能だ。
最終回なのでプロプラノロールとアテノロールの違いを紹介!

今回の要約:
①脂溶性薬物は脳に移行しやすいため中枢性副作用が起こることがある。
②水溶性薬物は脳に移行しにくいため中枢性副作用の発現頻度は低い。
③脂溶性薬物は透析で除去されにくい。
④一般的に水溶性薬物は透析で除去されやすい。


 本日が最終講義だね。ずっと「プロプラノロールとアテノロールの違い」というテーマで7日間引っ張ってきた。このタイトルだけではあまり興味がないことかもしれないが、薬物動態や物性からここまでのことが予測できるんだということを発見した時には20年前の僕にとってはほんとに衝撃的なことだったんだ。同じように初版の拙著「腎不全と薬の使い方Q&A」の序章には「アルベカシンとクラリスロマイシンの違いからADMEを知ろう」を書いた。水溶性抗菌薬(腎排泄)と脂溶性抗菌薬(肝代謝)の投与設計の違いだけでなく、クラリスロマイシンはグラム陰性菌にはそれほどの効果を示さないのに、なんで細胞内寄生菌に効果があるの?アルベカシンはMRSA治療薬なのになんで緑膿菌にも効くの?などいろんなことが分かることに気づいたんだ。今、僕は数多くあるNSAIDsやベンゾジアゼピンの尿中排泄率、蛋白結合率、分布容積、クリアランスなどの動態データがだいたい予測できるようになった。記憶力が人並外れて悪く、先生の言うことが瞬時に理解できないため小学校の成績が40人いて30番くらいだった(と思う。だって3段階評価の「良い」を小学校4年の社会科で初めてとれたくらいだったから)僕でも、理屈で考えれば記憶しなくても理解できるようになった発見だったから。もったいぶっていないで、「プロプラノロールとアテノロールの違い」の正解を発表しよう。を見てみよう。

202005_7-01.png プロプラノロールは脂溶性が高いために、血液脳関門*1を通過しやすいことはよく知られている。3限目の表2に記載されているカルベジロール(アーチスト®)も脂溶性β遮断薬であり、プロプラノロール同様、脳に移行しやすい薬物である。これらの脂溶性β遮断薬では脳内濃度:血漿濃度が15:1と、脳内濃度が非常に高いため1)、悪夢や幻覚、抑うつ、錯乱などの副作用が現れることがある2)。アテノロールは水溶性が高いために血液脳関門を通過しにくく、脳内濃度:血漿濃度が0.1:1と、脳内移行性が低いため、このような副作用の発現頻度は少ないと考えられる1)
 プロプラノロールはCYP1A2の基質なので、喫煙によって酵素誘導を受け、クリアランスが2倍になる、あるいはシメチジンによって代謝酵素阻害を受け血中濃度が上昇することも知られている。またFが5%しかない脂溶性のスタチン薬のシンバスタチンの血中濃度のAUCはグレープフルーツの併用で横紋筋融解症を発症したという報告3)、イトラコナゾールによって活性体のシンバスタチン酸濃度は19倍になることが報告されている4)。シンバスタチンは100%CYP3A4によってのみ代謝されること、イトラコナゾールはほぼ100%、CYP3A4を阻害することを知っておけばFが5%であるシンバスタチンが100%になればほぼ20倍になるであろうことは容易に予測できる。
 プロプラノロールの分子量は296daltonと小さいが、透析ではほとんど除去されない薬物である。従来、教科書的に書かれてきた「分子量500dalton以上になると透析で除去されない」というのは間違いで、実は分子量は数千dalton以上にならない限り、透析で抜けにくいと断定することはできない(5)202005_7-2.png蛋白結合率が高い、分布容積が大きい、脂溶性が高いというパラメータの方が透析性が低いことを予測する上で、分子量よりも重要な要因になる。プロプラノロールは蛋白結合率が93%と高く、分布容積が4.1L/kgと大きく、オクタノール水分配係数も20.2と高い脂溶性薬物であるため、これらの3つの要因をすべて満たしているから、透析ではほとんど除去されない。蛋白結合率や分布容積を考える以前に、プロプラノロールの全身クリアランス800mL/minに透析によるクリアランスのわずか数十mL/minが加わったところで、プロプラノロールのクリアランスには大した影響がないと考えられる。一方、アテノロールは蛋白結合率が低く水溶性薬物であるため、分布容積も0.65L/kgとほぼ生体の水分量と等しく、分子量も小さいため、透析でよく除去される。そのため、透析後に服用することが望ましい薬剤といえる。

*1血液脳関門:脳の血管内皮細胞では細胞同士が密着結合tight junctionという密着性の高い結合様式で連結して物理的関門を形成している。したがって物質は経細胞的に血中から組織に移行する必要があるため脂溶性薬物のみが透過できる。血液胎盤関門、血液精巣関門も同様に密着結合しており、水溶性物質の透過性を制限している。

引用文献
1)Cruickshank J. M., et al.: Beta-adrenoreceptor-brocking agents and the blood-brain barrier. Clin Sci 59: 453s-455s, 1980.
2)Fleminger R.: Hallucinations and illusions with propranolol. Brit Med J 6: 1182, 1978.
3) Dreier JP, Endres M: Statin-associated Rhabdomyolysis Triggered by Grapefruit Consumption. Neurology 62: 670, 2004
4) Neuvonen PJ, et al: Simvastatin but Not Pravastatin Is Very Susceptible to Interaction With the CYP3A4 Inhibitor Itraconazole. Clin Pharmacol Ther 63: 332-341, 1998
5)平田純生, 和泉 智, 古久保 拓, 編: 改訂2版 透析患者への投薬ガイドブック. じほう, 東京, P1-666, 2009


≪ 理解度テスト ≫

1.シンバスタチンの添付文書には抗真菌薬の「イトラコナゾール」は併用禁忌になっている。では同じ抗真菌薬で併用禁忌になっていないボリコナゾールに変更していただくという疑義紹介はありだろうか?

 2.「グレープフルーツを食べちゃダメ、グレープフルーツジュースを飲んじゃダメ」と医薬品情報提供用紙に書いてあるが、口頭でも説明しなくちゃいけない薬にはどんなものがある?


≪ 解 答 ≫

1.シンバスタチンはCYP3A4の基質特異性が極めて高く100%、CYP3A4で代謝される。イトラコナゾールは100%近く、CYP3A4を阻害する。ボリコナゾールは限りなく100%に近いCYP3A4阻害作用を有する。つまりイトラコナゾールよりも阻害作用は強力!5%のFが100%、つまり理論的には相互作用によって20倍の血中濃度になると予測される。添付文書上では禁忌になっていなくても「禁忌レベル」と考えよう。HIV治療薬のサキナビルも併用禁忌になっているが、併用禁忌になっていないクラリスロマイシンはサキナビルよりもCYP3A4阻害作用作用は強い。これも「禁忌レベル」と考えよう。

2.シンバスタチン(Fが5%)、アトルバスタチン(Fが15%)、フェロジピン(Fが15%)などFの小さいCYP3A4基質薬物。他のスタチンはCYP3A4基質にはならないし、フェロジピン以外のCa拮抗薬のFは高いので(Fが4~7%のニソルジピンは製造中止になった)、相互作用のインパクトは小さい。土佐分担、平戸分担、ボンタン、晩白柚(バンペイユ:写真左202005_7-1.pngなどの柑橘類もCYP3A4阻害作用はグレープフルーツと同等という報告もあるので、これも注意しておこう。ちなみにグレープフルーツの中でも果肉が白に近い薄い黄色をした品種「マーシュ」の相互作用が強く、ルビーの阻害作用は半分程度しかない。オレンジやミカンは大丈夫。


 

最後にひとこと(余計なお世話かもしれませんが・・・)

 ひたすらひとつの事に集中している人にはかなわない。それを医療の中に見つけ出せれば幸せだと思う。だって医療ってそれはそれはありがたい仕事だから。
  処方箋を書く医師は薬物動態や相互作用について専門的に習っていないのだから、薬剤師は患者さんの有効かつ安全な薬物療法を提供するために働くことのできる医療人、そして医師に薬物適正使用に関して適切なアドバイスできる医療人、専門性を極めるとさらに一層重宝される可能性を秘めた医療人になれると思います。でも根本にかえって考えてみると、このようなスキル以外にもっと本当に大切なものがあるんじゃないかと思うようになってきました。僕も年を取って、少しは円熟してきたのかもしれませんが・・・・。薬剤師は医療人です。医療人に共通して必要なものは「やさしさと愛」じゃないかと。僕は薬剤師の魅力について、いつも熊本大学の学生たちにこう訴えてきました。「ボランティアのような仕事をして、患者さんの不安を取り除き、正しい薬の知識をもらえることで感謝され、他の医療スタッフからも感謝され信頼されて、しかも給料をいただける。それはそれはありがたい仕事じゃないですか。」と。でも信頼されるようになるにはそれなりの力も必要です。患者さんを助けたいという気持ち、患者さんのためにという気持ち、その熱意と優しさが、薬剤師としての力をつけたいというモチベーションアップに繋がるのではないかと思うようになった今日この頃です。


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)