筆者は透析患者の便秘に関する研究1)2)3)やプレバイオティクスとしての作用を持つ下剤のラクツロースが腎不全モデルマウスで腎保護作用を示したという研究4)を介して腸内細菌叢microbiotaに興味を持った。今回は腸内細菌叢と腸管免疫について書きたいが、近年の免疫学の進歩は著しく、私の専門外なので、中には間違った記載や古い学説があるかもしれないことをご容赦していただきたい。
最近、腸内細菌叢の研究が盛んになりつつある。その1つの要因は20世紀までの光岡知足先生の開発した便培養法によって細菌叢の全体像が把握できるようになったことがきっかけだと思うが、日本・中国以外ではこれらの手間暇のかかる研究は発展しなかった。それが21世紀には次世代シークエンサーによる腸内細菌叢の網羅的な解析法が確立し、簡便かつ迅速に解析できるようになったことによって腸内細菌叢に関する論文数が飛躍的に増えた。それとともに単に栄養や水分吸収の場と考えられてきた腸管が、最大の免疫器官でもあることが明らかになり、腸内細菌叢が腸管の免疫応答と密接に関係していることが判明した。依然として炎症性腸疾患や過敏性腸症候群などの消化器疾患に関する論文が多いが、アレルギー疾患、糖尿病・肥満などの生活習慣病、さまざまな精神疾患に関したものが増えつつあり、腎疾患に関する論文も急増しており、腸内細菌叢とさまざまな疾患が関連していることが明らかになりつつある。
腸管を含めた消化管は外界と接触する「ちくわのような管」である(図1)。人間は1本のチューブのようなものだから消化管には外界から容易に病原体やウイルスが入り込むので、消化管はまず初めに胃酸の分泌によって外界微生物の侵入を防ぎ、それでも入ってきた微生物や異物に対して、腸管は門番として免疫機能を腸に集中*させたのだと考えるとわかりやすい。医師に掛かることなくアレルギー性疾患が消失した2つのエピソードを紹介しよう。
免疫機能を腸に集中*
腸は外界から細菌や異物が入りやすい器官であるため、何が有害で何が無害であるかを見極める重要な役割、すなわち免疫システムが必須となる。ヒトの免疫細胞の70%は腸で作られており、まさに腸は最大の免疫器官である。小腸は絨毛でおおわれているがその隙間にパッチワークのような形で点在するパイエル板(Peyer’s patch)がある(図2)。 パイエル板の下には小さなリンパ節(リンパ小節)が集合しておりその表面にあるM細胞(microfold cell)が腸管内腔側からエンドサイトーシスによって細菌などの抗原を取り込んで、免疫細胞たちに情報を与える。情報を得た免疫細胞は腸管の守りを固めるだけでなく、血液に乗って全身にも運ばれて病原菌やウイルスなど敵を見つけると攻撃する「戦士」になる。抗原情報が提示されたリンパ球やマクロファージなどの免疫細胞が病原微生物や抗原となる異物を排除するとともに、外界から入ってくる異物に過剰に反応して免疫反応が暴走してアレルギーを起こさないような免疫寛容が誘導される。つまり外界から病原菌やウイルスの侵入を防ぐために病原菌を排除したり、制御性T細胞(regulatory T cell: Treg)によって免疫系の暴走を防いで過剰な防衛反応を起こさないように調節するなどのとても重要な働きをしており腸管免疫と呼ぶ。
引用文献
1) 西原 舞, 他: 透析会誌37: 1887-1892, 2004.
2) 平田純生, 他: 透析会誌37: 1967-1973, 2004.
3) 西原舞, 他: 析会誌38: 1279-1283, 2005.
4) Sueyoshi M, et al: Clin Exp Nephrol 23: 908-919, 2019