NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
4日目 NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その3)

 Triple Whammy処方は遅くとも2000年ころから問題視されており1) 、我が国のCKD診療ガイド2012 2) でも「CKD 患者にRAS 阻害薬、利尿薬を投与すると、過剰降圧、eGFRの低下、あるいは血清Kの上昇(利尿薬単独投与時あるいは複数 の利尿薬併用時には血清Kの低下)がみられることがある。」 「降圧薬を服用中の患者で 、食事摂取ができない、嘔吐している、下痢をしている、あるいは発熱など脱水になる危険があるときには、急性腎障害(acute kidney injur y:AKI)予防の観点から、これらの降圧薬を中止して速やかに受診するように患者に指導する。特に高齢者では上記に加えて夏場の脱水に注意 が必要である。また、他院で腰痛などのためにNSAIDs を投与されていることもある。そのような薬剤を投与されていないかを確認する。」などの記載がすでにみられます。ですからTriple Whammyは今に始まった話題ではないのです。薬剤師の皆さん、CKD診療ガイド2012に記 載されているような服薬指導できていますか?多くの薬剤師の答えは「No」ではないかと思います。だから今回、この連載を企画したのです 。
 多くの薬剤師の先生方がポリファーマシーを解消でき、安価でアドヒアランスに貢献できると信じている配合剤のプレミネント®、エカード®、コディオ®、ミコンビ®、イルトラ®はARBと利尿薬の配合剤はすべてDouble whammy処方、ミカトリオ®はそれに加えてCa拮抗薬の配合されたDouble whammy処方になるのです(図1)。これらの錠剤にロキソプロフェンのような経口NSAIDsや経皮吸収型NSAIDsの貼付薬が加わるだけでTriple Whammy処方が完成します。

20210819_01.png CKD診療ガイド2012には「RAS 阻害薬、利尿薬の投与開始後はeGFR、血清Kをモニタリングする。その際eGFR については、投与開始3カ月後までの時点で前値の30%未満の低下は、薬理効果としてそのまま投与を継続してよい。」とされていましたが、このことは現在では言わなくなりました。いや言えなくなってしまったといってもよいでしょう。これはSchdmitら3)の報告でACE阻害薬・ARB服用後の血清Cr値の上昇はCKD診療ガイド2012で治療の中止を推奨する30%以上でない場合も、累進的に心・腎疾患発症リスクを上昇させることが明らかになったからです。この報告ではRAS阻害薬服用者で血清Cr値の上昇が10%未満を対象として30%以上ではもちろん、「薬理作用だから問題ないといわれていた」20-29%、10-19%でも疾患リスク・死亡リスクが有意に上昇したというもので、特に透析導入・全死亡リスクで顕著です(図2)。ではRAS阻害薬・利尿薬の投与はCKD患者にとって有害なのでしょうか?それについては、これから症例検討も交えて考えてみたいと思います。

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引用文献
1)Thomas MC: Med J Aust 172: 184-485, 2000
2)日本腎 臓学会編: CKD診療ガイド2012
3)Schmidt M, et al: BMJ 2017;356:j791

 


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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