5月22日(木)開催の 中級者コース「動態パラメータをつかいこなせたらいいよね」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。


Q.抗菌薬について静菌的、殺菌的があるのを知らず、というか〜系以外ほとんど知識がないので抗菌薬をもっと知りたいです。昨年から小児科になりとても触れる機会が増えて居るので、ぜひ初心者向きの良い本があったら教えて頂きたいです。前職で薬局薬剤師でしたが、透析患者さんのベッドサイドで定時薬を配らせてもらっていました。色々懐かしく思い出しました。

A.ごめんなさい。僕が抗菌薬の本を読んで勉強したのは20世紀のことですから、今、どんな本がよいかわかりません。もしも病院で月間薬事や月間薬局を購入していたら、定期的に抗菌薬の特集がありますから、それで最新の情報を得るのがよいかもしれません。また大型書店や学会で実際に本を手に取って気に入ったものを買ってみるのもいいでしょう。当たり前の回答で本当にごめんなさい。本ブログではわかりやすい細菌と抗菌薬の話 にまとめています。多分どんな本よりも分かりやすいと思います。


Q.酵素法の場合(リバーロキサバンなど)、シスタチンCを用いた薬物投与設計に関しては、確立されたものがないように感じています。eCCrと個別化eGFRcysを見比べながら、だいたいのところを予想する程度しかないのでしようか?

A.どんな患者さんか(年齢、腎機能、活動度、筋肉量、性別)によって腎機能の評価法は異なりますので、一律な回答ができません。ごめんなさい。腎機能の評価法についてはこのブログ腎機能評価の10の鉄則 に詳しくまとめていますので、そちらをご覧ください。


Q.セフトリアキソンを安全性の高い注射薬としてかなりの頻度で使用させていただいている、大半の入院患者さんが高齢の病院に勤務してます。2g投与の1週間ぐらいの患者さんも時々みかけるので、先生の調べた胆石症の文献では投与どのくらいの期間で発症したのか気になります。よろしければ教えていただけるとうれしいです。

A.僕が話した胆石症の症例は透析医学会での透析患者さんの話です。2018年の日本透析医学会では4件も同じような発表があったので、「これは気を付けなくっちゃ」と思いました。僕が記録している症例は1g/日投与で以下の内容です。

第12病日に突然強い上腹部痛を訴えた。CTで精査したところ胆のう・総胆管結石・膵炎像を認めたため、内視鏡的乳頭切開術を行った。乳白色の胆石が数個排出され、そのまま胆管ステント挿入し、疼痛は軽快した。

腎機能正常者で起こるかどうかはよく知りませんが、論文1)によると

セフトリアキソン投与患者84人のCTで胆石は6名(8.8%), 尿路結石は1名(1.5%)に発症し、平均投与期間は5.33日で発症者は非発症者に比し有意に高齢だった。セフトリアキソンのタンパク結合率は90%、尿中および胆汁排泄率はともに50%だが、腎不全のため腎からの排泄経路が閉ざされ、遊離型濃度が上昇して胆管中のCaと結合して胆石となって胆嚢炎、胆管炎、膵炎等を起こすと考えられ、低アルブミン血症では発症しやすい。CTによる胆石発生率は前述のように8.8%で高齢者で有意に多かった。

PubMed検索すると尿路結石の報告は小児で多く、15報中6報。胆石は小児と腎機能低下・透析で多い傾向でした。森住先生の指摘しておられた脳症に関しては86歳の女性透析患者に2g/日を連日投与すると9日目に脳症を発症したという報告があります。やはり透析患者や高齢者で発症しやすく、このような症例に2g/日は多すぎますね。そして投与直後に起こることはなさそうです。

1)Azarkar G, et al: Drug Health Patients Saf 2018 PMID: 30588126


Q.最初入室に出遅れてしまい聞き漏らしたかもしれず失礼な質問かもしれませんがご容赦ください。細胞外液は健常者は0.2L/Kgなのになぜ感染症では0.3L/Kgになるのですか?また、ほかにも異なる数字になる状態はどんな時ですか?例えば心不全や肝疾患で浮腫が起きているときや脱水の時など補正の計算はありますか?

A.入院して抗菌薬を投与すべき重症感染症患者ではCRPも高い、つまり明らかな炎症所見がありますから末梢の毛細血管の透過性が炎症によって亢進し、アルブミンが漏れ出やすくなりますので、間質液にアルブミンとともに水が移動します。血漿量や細胞内液量が変化すると異常事態ですが、間質液は溢水では増え、脱水では減少することによってショックアブソーバーのような働きをしています。したがって炎症所見の強い感染症では細胞外液が通常0.28L/kg程度に増えるそうですが、ややこしいので僕の講演では0.3L/kgになると説明しています。

心不全・肝硬変でも溢水になりますよね。それで増えるのも間質液です。目安としては溢水のない状態の体重から10kg増えれば分布容積(L/body)に加算すればいいだけです。つまり50kgの体重の人が溢水で60kgになれば、もともとの細胞外液に分布するアミノグリコシドやβラクタムの分布容積は0.2L/kg×50kg=10Lですが、感染症により15Lに、そして溢水によって10Lの間質液が増えているので15L+10L=25Lと計算します。間違って60kg×0.3L/kg=18Lで計算しないでください。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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