10月9日(木)開催の、シリーズ①「これだけは知っておこう。慢性心不全の病態の基礎」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。
Q.心不全のタイプは駆出率のみで判定するのでしょうか。
A.薬剤師塾でもお話ししたように、駆出率によってガイドラインに基づいて治療薬が選択されることがあります。例えば、ヘフレフの場合はRAS阻害薬やARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬が選択され、ヘフペフの場合はSGLT2阻害薬がまず選択されます。ARNIやMRAはエビデンスレベルが弱いものの、使用されることがあります。
ただし、薬剤の選択には駆出率だけでなく、急性増悪期には強心薬を使ったり、β遮断薬を中止したりすることもあります。また、右心不全と左心不全ではフロセミドの使い方が異なりますし、血圧やカリウムの数値によって使いやすい薬と使いにくい薬があります。
したがって、駆出率は薬剤選択に重要ですが、病態によって総合的に判断します。
処方されている薬の内容から、患者さんがヘフレフかヘフペフかは判断できません。次回は薬の使い方についてお話しします。
Q.次回は薬についての説明があると思いますが、
A.非結合型分率の低い薬物とは、つまり蛋白結合率が高い薬ということですよね。
一般的に、脂溶性の高い薬物は組織に移行しやすく分布容積が大きいのですが、アルブミンとの親和性も高いため、蛋白結合率も高くなります。しかし、蛋白結合率が極めて高い薬物(例えばワルファリン)は、PBRが99%以上(非結合型分率の極めて低い薬物)になり、アルブミンにトラップされて血中にとどまります。そのため、間質液や細胞内、脂肪組織や他の臓器に移行できなくなり、分布容積は0.15L/kgと、水溶性薬物と間違えそうなくらい小さなVdになります。蛋白結合率の高い薬物同士の併用では、用量の少ない薬物(ワルファリン)やアルブミンとの親和性が低い薬物がアルブミンと結合できなくなり、薬効を示す遊離型分率が増して遊離型濃度の上昇が起こります。このため、中毒性副作用やワルファリンによる大出血が起こる可能性があると考える方もいるかもしれません。しかし、私は分布における相互作用はほとんどないと考えます。つまり、遊離型ワルファリン濃度が上昇しても、代謝クリアランスと分布容積が同時に増大するため、血中遊離型濃度は上昇せず、併用前の平衡状態の遊離型濃度と変わらないので、何も起こらないと考えます。
ご質問の「分布容積の大きな薬物同士であれば、組織移行して平衡に達するため、非結合型薬物濃度が上がる」ということは考えたことがありません。おそらく、分布容積の大きい薬物の併用では、何の問題も起こらないはずです。患者さんが服用している薬の7割は肝代謝型薬物であり、その多くは分布容積が大きいですが、これらを併用して何かが起こったという話は聞いたことがありません。分布容積が大きいといっても、アミオダロンは脂肪組織に高濃度で分布しますが、ジゴキシンは心筋や骨格筋に高濃度で分布するので、相互作用は起こりえないですよね。肝障害や腎障害時にも、分布容積の大きい薬物の併用は問題ないと思います。