日本腎臓病薬物療法学会前日の前夜祭として、10月31日(金)17時30分から20時30分までの3時間にわたり、虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された平田塾「薬物動態学を好きになれないあなたへ」のQ&Aです。
Q.緩和医療ではジクトルⓇテープが使われていることが多くなりました。緩和ケア領域の患者さんでは高度の低アルブミンの方が少なくありません。ジクロフェナクの蛋白結合率は99.5%と極めて高く低アルブミンでは遊離型が大きく増えるのではないかと考えています。さらにジクロフェナクは腎の臓器濃度が他の臓器に比べて1〜2桁高かったと思います。ジクトルⓇテープなどのジクロフェナクは低アルブミンの患者さんでは腎障害のリスクが著しく高くなるのではないかと心配しており、栄養状態の悪い患者さんでは避けた方がいいものか、お教えいただければと思います。
A.まずジクロフェナクのPKパラメータを日腎薬グリーンブックから、調べてみましょう。その時に平田の考察(この薬ってどんな顔をしてるんだろう?)も記載します。
CL: 経口投与時CL/F: 6.0mL/min/kg
単位が分かりにくい。F54%が正しいなら、緩和領域なので軽めの50kgの体重とすると、300mL/min×0.54=162mL/minとなり脂溶性薬物としては意外と小さいと感じる。でも脂溶性薬物出汁2C9の基質だからCLの個人差が大きいと思うので、この値を信じて積極的に使うと痛い目に合うかもしれないので使う気にはなれない。
Vd: 靜注で0.17L/kg
意外と小さいが、PBRが高すぎるためアルブミンにトラップされて血漿濃度が高くなるため、組織に移行しにくいためと解釈される。Vdは安定した値で臨床では非常に使い勝手が良いパラメータだ。
fe: 尿中未変化体回収率6.7%
尿中排泄されないと考える。10%以下であれば数値はどうでもよい
F: 54%
吸収率は意害と低い。脂溶性薬物なのにほんとかなと疑う。
PBR: 99.5%、主にアルブミンと結合
この質問の中では重要なパラメータ。これがVdが小さい原因!ただしこれは健康成年男子のデータであり、投与する患者は高齢者が多いことを知っておく必要がある
t1/2β: 1.2-1.5hr
速く効く。シャープな切れ味はこの半減期の短さにある?ただしすぐに痛みが再発しそう。初日から定常状態になる
PK/PD関連情報: CYP2C9により水酸化体となり、その後グルクロン酸抱合体となる ワルファリンと絶対併用しちゃいけないことが分かる
特記事項: 主要血管イベントのリスク上昇に関連する NSAIDsの中では心血管リスクが高いので気を付けよう!
質問の回答ですが、低アルブミン血症患者に投与すると確かに遊離型分率(フリー体の割合)が上昇するため、何倍量かを投与したのと同じになるはずと思っている方は多いと思います。ではジクトルⓇテープが使われている患者さんでは顕著な有害反応が起こっているでしょうか?低アルブミン血症患者でと顕著に副作用が起こっているという報告はあまりないように思います。もし起きているとすれば、低アルブミン血症患者が高齢者で低栄養・低体重などの他の要因が関係しているのではないでしょうか?講演の時に申しましたようにPKパラメータの多く(グリーンブックも同じです)はインタビューフォームを引用していますので、多くは第1相試験で対象となるのは「成年健常男子」なのですが、実際に使われる患者さんは多くが高齢者です。だから上記のパラメータも使われる患者さんに翻訳する必要があります。遊離型が高いのでPBRは低い。でも増えた遊離型は組織に移行しやすいし(Vdが大きくなる=血中濃度の振れ幅が小さくなる)、遊離型のみが代謝されるので代謝による消失も早い(CLが大きくなる)ので、副作用に関係する血中遊離型濃度は皆さんが危惧するほど、上がらないのではないかと思います(図)。NSAIDsによる副作用は腎内濃度とは関係ないと思います。ということで「低アルブミン血症患者にジクトルⓇテープを使っても副作用が起こるとは考え難い」という回答になります。

図の解説:上は健常者で下が低アルブミン血症患者です。上の濃いピンクが遊離型薬物で間質液濃度=遊離型濃度ですから5個あります。下の血漿中のアルブミンの数が減ってますので、遊離型薬物の数は増えますが、速やかに組織に移行し、全身循環に乗って肝代謝・腎排泄され、クリアランスが上昇します。そして最初の遊離型濃度と同じ5個になって平衡状態になります。遊離型濃度が同じということは薬効は変化せず、副作用も起こしません。一般的に分布における相互作用はありますが、それが有害反応に結び付いたという報告はほとんどないと思います。ただしこの時点でTDMをやると総濃度が低下しているため、薬剤師が医師に増量を依頼してしまうと有害反応が起こるということは想定できます。
Q.今年も薬剤師塾、ありがとうございました。蛋白結合した薬物はどのくらいの時間が経過したら離れる、などありますか?薬によって異なるものですか?その場合、一時的に遊離型の薬剤が増えて、薬効が強くなる、ようなことはありますか?TDMをするときはそのようなことは考えなくても大丈夫でしょうか?
A.薬物とアルブミンの結合はくっついたらくっつきっぱなしではなくくっついたり、離れたりを繰り返しながら平衡状態を保って一定の蛋白結合率を保っています。すでに投与されている薬物をAとします。アルブミンとの結合を競合する薬物で投与量が多く、アルブミンとの親和性が高い薬物Bが併用されるとAの遊離型分率は高くなり(PBRは低下する)ますが、遊離型薬物は代謝・排泄クリアランスが上昇し、組織への移行性も向上して血中濃度が低下して、併用前と同じ遊離型濃度になって新たな平衡状態になりますので、薬効には変化ありません。つまり有害反応は起こりませんが、TDMをすると、TDMでは通常は総濃度しか測定しないので、遊離型濃度は同じでも総濃度が低下しているので、薬剤師が投与量の増加を依頼すると副作用が起こる可能性があります。
Q.透析患者のバンコマイシンのTDMについて質問です。初回25〜30mg/kg 維持量7.5〜10mg/kgが現在の推奨量かと思いますが、この通りに投与しても血中濃度が低い場合、再度、負荷投与の必要がありますが、投与量の計算方法は何かありますでしょうか?
個人的な考えですが、バンコマイシンの分布容積を0.7L/kg(私の持っている書籍に記載されてました)、透析除去率を20%とします。(調べると10〜30%と記載されてるいので間をとって)推奨投与量の初回30mg/kgを投与するとCmaxは静注モデルで43程度になると思います。例えば透析前の血中濃度が8だったとすると、20%除去されて6.4。Cmaxを43にしたいので、37ほど血中濃度を上げたい。37×分布容積=投与量として投与。以後、有効血中濃度になったら維持量(10mg/kg)を投与。
一応、このような計算で症例数は少ないですが、有効血中濃度に保つことができましたが、この考え方は間違っていますでしょうか?
また、初回投与終了直後の血中濃度をとると、血中濃度と投与量から正確な分布容積を計算することができるかと考えますが(状態により変化することもあると思いますが)、血中濃度をとる意義はあるとお考えでしょうか?長々とすいません。よろしくお願いいたします。
A.僕は初回負荷投与が好きなんです。特に抗菌薬では早く治してあげたいので。だからバンコマイシンのように透析患者では投与間隔が長くなるので初回は20-25mg/kgなどの「恐る恐る投与する」のではなく心置きなく30mg/kgを投与していました(バンコマイシンの投与設計は主治医から任されていましたので)。でも2013年12月にメーカーもMeiji Seikaファルマからパンフレット作製を依頼された時にはやむを得ず25mg/kgで作成しました(平田作成の図)。抗菌薬の投与量はTDMの結果によって増減しますので、血中濃度が予想よりも著しく低い場合、増量してください。どれくらい増量すべきなのかはデータも患者さんも診ていないので僕にもわかりません。

Vd0.7L/kgは点滴修了後1時間のα相に採血したデータなので僕は使いません。バンコマイシンは分布するのに2時間以上かかりますので、0.9-1.0L/kgだと思います。だから僕の考えではCpeakが43まで上がることはありません。
Q.とてもわかりやすいご講演ありがとうございます。質問です。今回ニューキノロン系はAUC/MICの薬剤でレボフロキサシンが1日1回投与を学びましたが、しかし、ニューキノロン系薬剤のシプロフロキサシンは添付文書では1日3回投与となっています。これは古い薬剤なので1日3回投与のままとなっているのでしょうか?
A.抗菌薬適正使用ガイドラインの投与方法は添付文書にのっとって作っているわけではありません。そして新たなエビデンスが得られてガイドラインが変わっても、よほどのことがない限り添付文書が改定されることはありません。シプロキサンも耐性菌を生じないように投与を続けたいのであれば1日1回投与すべきだと思います。査定されればエビデンスとなるガイドラインや論文を保険者に提出すれば査定は取り消されます。
Q.キノロンの分布容積の所で急性前立腺炎の場合は炎症により、血管透過性の増加でセフェム系でも治療するのは前立腺の表面の炎症及び菌をやっつけているイメージ、慢性化する場合は前立腺奥まで必要だから脂溶性のキノロン、ST合剤であっているでしょうか?
A.感染症は炎症性疾患ですから、血管透過性の亢進は常に起こると思います。でも血管透過性の亢進が薬物投与に関係するのはβラクタム系委抗菌薬かアミノグリコシド系抗菌薬などの細胞外液に分布する薬物です。前立腺炎の場合はやはり移行性が高いキノロンやST合剤が用いられるようです。感染形態のイメージはよくわかりません。ごめんなさい。
Q.ご講演ありがとうございました。アルベカシンについて確認です。入退院を繰り返す心不全患者で、アルベカシンを心不全増悪しておる入院初期に使うときでは、前回などの退院時のむくみのない体重に0.3L/kgをかけて、その後に浮腫んでいる分を足してVdとすれば良いですか?
A.正解です。現在の浮腫で増加している体重分+0.3L/kg×体重でVdとします。
Q.心不全の退院時は入院時と同じものを出すとまたすぐ入院するので、ループ系を増量したり、トルバプタンを入れたりして利尿剤を強化してお帰りいただくイメージがあります。先生のご講演では同じ量だと脱水というのは、食指不振で薬だけ飲んでいた患者さんだった可能性などございませんでしょうか? 心保護のエンレストやSGLT2阻害薬は利尿効果もあり、ループ系利尿剤など減量できる可能性があると言われておりますが、それらを上手に入れたりしなければ進行性の病気ということもあり、入院時と退院時でフロセミド、アゾセミドを減らせないと考えておりますがどうでしょうか。不躾な質問ですみません。いろいろ考えることができてとても素敵なお時間をありがとうございました。
A.食思不振で吸収速度は変わっても吸収率はあまり変化しないのでは?「フロセミドは消化管浮腫によって著明にバイオアベイラビリティが低下する」というのは動態の教科書によく載っている定説です。消化管浮腫があればフロセミドのFは大きく低下しますし、消化管浮腫が消失すれば、フロセミドは70%近く吸収されます。入院時とか退院時とかではなく消化管浮腫の有無によって、フロセミドの吸収率は変化しますので。浮腫が消失していれば利尿薬は必要ないのに、フロセミドを投与すれば当然、脱水になります。
Q.レボドパをパーキンソン病で頻回に投与することがあります。こう言った脳に移行しやすい薬について、1日何回投与したら良いか、予測することは可能でしょうか?
A.ごめんなさい。僕は万能ではありません。向精神薬についてはほとんど知りません。腎臓の専門家で精神科・心療内科の薬について強い人はいないのです。向精神薬の投与設計をどうすればよいのか見当がつきません。
Q.保険薬局で服薬指導をしていると、外来で血中濃度測定をあまりしない医院の処方にしばしば出会います。例えば炭酸リチウムは、効果が安定したら同量がずっと続く場合があります。高齢者の双極性障害患者であっても、です。薬剤師から医師たちに警鐘を鳴らしたいのですが、どういった危険性がありそうでしょうか?
A.僕は向精神薬についてはほとんど知りません。申し訳ありません。
Q.平田先生、体調のせいか声が小さかった。特に、語尾。お大事にしてください。
A.できれば元気はつらつの姿をお見せしたかったです。僕も、この点はほんとに残念。頭痛もあったので頭の回転もよくなかったです。ごめんなさい。ご心配をおかけしましたが、とにかく早く寝ることを心掛けると2日後の11月2日の早朝には皇居1周5kmのコースを楽に完走できるほど元気になりました。