4月9日(木)開催の、「腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう(初心者編)」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。


Q.eGFR30 ml/min/1.732の禁忌設定の意味合いってCKDステージ4.5に該当するような患者は禁忌、だから個別化で考える必要はなく標準化でいいと理解してますがどうでしょう?メトホルミンの書き方的に投与量設計の意味合いはうすくないですか?ツイミーグだと解釈難しいですが……良くない考え方でしょうか?

A.メトホルミンは添付文書上では30mL/min/1.73m2以上であれば1日750mg投与できますよね。30未満だと投与禁忌なのです。もしもメトホルミンの投与量が30mg/kgなどの体格用量で示されていれば、二重補正を避けるために標準化eGFRを使うべきです。ただし添付文書の多くが固定用量、メトホルミンの場合も、腎機能がよければ1500mg/日(最大2,250mg/日)という固定用量になっています。

極端な例で申し訳ないのですが、こういうこともありうるからということで理解していただきたいのですが、35kgの小柄な女性と150kgの幕内力士の2人とも標準化eGFRが35mL/min/1.73m2以上あったので、どちらにも1日750mg投与しますか?悩みますよね。だってもし35kgの女性が添付文書上、投与可能になっているけど乳酸アシドーシスなどの副作用リスクは明らかに幕内力士に比べて高くなりますよね。添付文書に標準化eGFRを使って投与設計しようとしたのはFDAの2011~2020年までの黒歴史です。2019年のメトグルコの添付文書改訂(現在の添付文書)も間違いだったのに日本でも誰も何も指摘しなかったというのは恥ずべきことだと思っています。でもいいです。今後に治験される薬物の添付文書は薬物投与設計に使うべき個別化eGFRになると信じていますから。


Q.メトホルミン、20切っても処方有りえますか?

A.主治医の判断次第でありうると思います。ただしメトホルミン、安くてよい薬ですが、SGLT2阻害薬やフィネレノンほど、生命予後改善効果・心血管疾患の予防効果はそれほど期待できないので、eGFR20を切ってでも処方するメリットはあまりないし、DKDは進行性の疾患ですので、腎機能がよくなることはないことを考えるとあまり投与継続には賛成できません。


Q.メトホルミンで質問です。個別eGFRで明らかに減量や禁忌患者に、疑義照会しても腎内科医は減量や中止しません。それは、ある程度過量投与になっても大丈夫なのかなと考察してます。平田先生の意見をお聞かせ下さい。

A.前問の回答と同じで、主治医の判断次第でありうると思います。

現在の腎内科医はあまり腎機能の評価について詳しくありません。日本人向けeGFR推算式を実質上作成した堀尾学先生の論文は2010年前後に多く発行されていますが、今はそれから15年も過ぎてしまっていますからあまり興味がないのかなと思っています。2020年、2024年のFDAの声明(今後は薬物投与設計には個別eGFRを用いること)に日本の腎臓内科医の先生方が少しでも興味を持ってくれることを切に望んでいます。


Q.シスプラチンはml/min/1.73㎡を使うということでしょうか?同様の質問で「シスプラチンなどの体格で投与量が決まる薬剤に対して、ml/min/1.73㎡を使うほうがよいのが、わからなくて教えてほしいです。」というのもありました。

A.その通りです。体格用量になっているシスプラチンを使う場合の腎機能は身長・体重が考慮されていない標準化eGFR(mL/min/1.73m2)を用います。

シスプラチンは代表的な殺細胞性抗がん薬でハイリスク薬です。固定用量にするのは危なすぎるので、添付文書には病態によってシスプラチンとして15~90mg/m2(体表面積)の体格用量になっています。例えば「睾丸腫瘍、膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍、前立腺癌にはシスプラチンとして15~20mg/m2(体表面積)を1日1回、5日間連続投与し、少なくとも2週間休薬」となっています。

ということは用量設定中に身長・体重によって計算した体表面積が組み込まれていますので、腎機能として体表面積が組み込まれた個別eGFR(mL/min)を使うと二重補正になってしまい、小柄な人はさらに低用量になって効かなくなり、大柄な人はさらに高用量になって有害反応が起こってしまいます。

例題をやってみましょう。
mg/m2で表記されたCDDP(シスプラチン)の個別腎機能とBSAによる投与量設定

【 例 題 】

シスプラチンの標準1回量を20mg/m2と仮定します(100%量)。この方法では体表面積を算出する必要があるため、身長・体重が必要になります。Kintzelらによると1)、以下のようなシスプラチンの腎機能に応じた減量基準が推奨されています。

腎機能正常(CCr>60mL/min): 100%(20mg/m2を1日1回投与)
CCr 46 to 60 mL/min: 75%に減量
CCr 31 to 45 mL/min: 50% に減量
CCr <30 mL/min: 禁忌(他の薬物の投与を考慮する)

Aさん: 60歳、身長150cm、体重40kgで日本腎臓病薬物療法学会HPを利用すると体表面積が1.30m2、血清Cr値が0.9mg/dLの女性症例。日本腎臓病薬物療法学会HPを利用すると体表面積が1.30m2、血清Cr値が0.9mg/dLの女性症例。標準化eGFR 49.68mL/min/1.73m2であった。

Bさん:60歳、身長170cm、体重65kgで体表面積が血清Cr 0.8mg/dLの男性症例。日本腎臓病薬物療法学会HPを利用すると標準化eGFR 76.47mL/min/1.73m2であった。

Aさん、Bさんのシスプラチンの至適投与量を求めよ。

 

【 解 答 】
Aさん:標準化eGFR 49.68mL/min/1.73m2なので、75%に減量して体表面積が1.30m2であるため、20mg/m2×0.75×1.3m2=19.5mg/日がCさんの至適投与量になります。
Bさん:標準化eGFR 76.47mL/min/1.73m2で腎機能は正常です。腎機能正常者の用量20mg/m2で体表面積が1.69m2であるため、20mg/m2×1.69=33.8mg/日が至適投薬量となります。

ここでやりがちなAさんの間違った解答を紹介します。基本は体格で2重補正しないことです。体格の大きな人に2重補正すると過大投与、体格の小さな人に2重補正すると過小投与になってしまいます。

Aさん:60歳、身長150cm、体重40kgで体表面積が1.30m2、血清Cr値が0.9mg/dLの女性症例では標準化eGFR49.68mL/min/1.73m2となりますが、シスプラチンを投与する場合、個別eGFRに直すとeGFR 49.68mL/min×1.3/1.73=37.33mL/minになり、Kintzelらの腎機能別投与によると「CCrが31-45mL/minでは50%に減量することになっているため、10mg/m2投与が推奨されます。そのため、1.3m2の体表面積の患者に投与する場合、1.3倍して13mg/日投与すればよいことになります。

ここで算出された個別eGFR=37.33mL/minには体表面積1.3m2をすでに用いて身長・体格が考慮されています。このような小柄な症例にさらに1.3m2を用いて用量設定することは2重補正による過小投与になります。

 

引用文献
1)Kintzel PE: Anticancer drug-induced kidney disorders. Drug Saf 24: 19-38, 2001


Q.脱水の保険薬局での指標はBUN/Cr比の推移をみるなどなにか考え方がありましたらご教示頂けますと幸いです。

A.ツルゴール低下(皮膚を引っ張った時の戻りが悪い。皮膚の張りがない)、口腔・腋窩の乾燥、体重減少、頻脈・血圧低下、尿量減少・濃縮尿などがあります。検査値としてはBUN/Cr比>20のほかに、ヘマトクリット値、血清アルブミン濃度、総蛋白などが脱水による血液濃縮で上昇します。爪毛細血管再充満時間≧2秒というユニークな脱水鑑別方法もあります。


Q.最近病院へ転職して、初めてこんなにも腎機能が奥深いことを知りました。今日のが基礎編というのは(不勉強で申し訳ありませんが)正直かなり難しかったです。もっと勉強したい!と思いました。今日は貴重なお時間ありがとうございました。(もっともーっと基礎編があったらうれしいです!と言わせてください。)

何か初学者が勉強するのに良い資料やテキスト、教科書などはありますでしょうか?大学を卒業してかなり経ってしまい基礎がそもそも抜けきっているので、なにかベースとなるものがあれば教えていただきたいです。

A.何を知りたいかによります。興味のない分野、自分で経験をしていないことを無理して勉強しても身につきませんから。腎機能の見方について興味があるのなら、今回の内海先生のスライド、そして、ユーザー登録していただけるとブログ「平田の薬剤師塾」の「腎機能評価の10の鉄則」が無料で読めますし印刷できます。腎機能の見方についてはこれが一番、分かりやすく詳しいと思います。そして2019年11月に作成されたまま、改訂されていませんが、言っていることに大きな間違いはありません。


Q.薬物投与量に関しては個別化eGFRをということでしたが、以前の講義で脱水の時は一時的に腎機能が悪化しているように見えるが脱水が改善されたら数値も戻るとおっしゃっていた気がして…患者さんに直近の検査値を聞いてそれを元に先生に疑義すると思うのですが、その数値がどういった背景のものなのかって薬局薬剤師だと判断が難しいのですが単純に個別化eGFRの数値だけで投与量の提案をしてしまってよいのでしょうか?

A.単純に個別化eGFRの数値だけで投与量の提案をしてしまってよいとまでは言えません。例えばいつもはeGFR>50mL/minだった高齢者が、夏季の猛暑による発汗、飲水不足によって明らかに脱水になってしまってeGFRが29mL/minになったとしますね。でも採血後、輸液をして結構元気になって患者さん自身が薬局に来られたらどうでしょう?

疑義紹介しますか?「eGFR30未満ならメトホルミン禁忌」という疑義紹介は僕の嫌いなデジタル薬剤師の考え方です。多分、医師も「もういい加減にして!」と思っていることでしょう。患者さんを点でしか見ていないからです。「夏季、猛暑、発汗、飲水不足、輸液、症状改善」という線でみて、それでも投与すると危ないのであれば疑義紹介したいものです。そういう意味で患者さんから様々な情報を聞き出すのは重要なコミュニケーションだと思います。


Q.身長140センチ、体重30kgの女性がeGFR:60(ml /min /1.73㎡)で、個別化eGFR:38(ml /min )の場合、CKD診断基準であるeGFRがCKDでなく尿蛋白陰性で個別化eGFRが60以下であっても、この女性の腎機能は正常で病院を受診する必要はありませんと女性にお伝えしても良いのでしょうか。

A.前問と同様、ですが、eGFRが60あればCKDじゃないというのは少しデジタル的ですね。この方の年齢にもよります。80歳でeGFRが60にまでやや低下したのであれば、普通に加齢に伴い腎機能が低下しているだけで、治療する必要はない可能性が高いと思います。でも線でみて(臨床経過を観察して)みると、患者さんの病態に悪影響する何かが見つかれば、受診勧告すればよいと思います。


Q.糸球体が弱る疾患にかかっている際の腎機能評価を行う際に気をつけなければならない事はありますでしょうか。

A.糸球体が弱る疾患は慢性糸球体腎炎だけでなく、糖尿病関連腎臓病、高血圧による腎硬化症などがありますが、それぞれ治療方針は異なりますし、使う薬物も異なります。薬物投与に関わる腎機能評価も薬によって異なります。

ただし腎硬化症以外ではアルブミン尿・蛋白尿が増え、それが持続すると加速度的にGFRを低下させることがあります。またネフローゼ症候群などによる低アルブミン血症や糖尿病患者ではクレアチニンの尿細管分泌が増加し、腎機能を過大評価してしまうことがあります。

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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