NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
27日目 NSAIDsによる心不全などの心血管病変
米国のNSAIDsの添付文書には警告として以下のような「重篤な心血管病変」の記載があります。「NSAIDsは、心筋梗塞や脳卒中を含む重篤な心血管血栓症のリスクの増加を引き起こし、致命的な可能性がある。このリスクは、治療早期に発症する可能性があり、使用期間と共に増加する可能性がある。冠状動脈バイパス移植片(CABG)手術時には禁忌である。」
また同じく警告として「重篤な胃腸出血、潰瘍、穿穿」の記載もあります。「NSAIDは、出血、潰瘍、胃や腸の穿穿を含む重篤な胃腸有害事象のリスクの増加を引き起こし、致命的な可能性がある。これらのイベントは、使用中にいつでも発生し、予見症状を起こさずに発生する。高齢の患者および消化性潰瘍疾患および/または胃腸出血の既往歴を有する患者は、深刻な消化管出血事象のリスクが高い。」となっています。
これらの記載は非選択的NSAIDsでもCOX-2選択的阻害薬のセレコキシブでもまったく同じ扱いですが、消化器障害が少ないことがCOX-2選択的阻害薬の売り文句であることは皆さんご存知のことです。日本のNSAIDsの添付文書には消化性潰瘍のある患者や重篤な心機能不全のある患者には「禁忌」になっていますが、上記のような警告の記載はありません。COX-2選択的阻害薬のロフェコキシブ(商品名バイオックスⓇ)は胃障害が少ないなどの有害反応が少ないNSAIDということで、2003年世界売り上げランキングが19位の大型商品に成長しました。しかし心不全・脳卒中などの心血管系副作用が増加することが明らかになったため、2004年に製造中止になり、製造会社の米メルク社は約190の訴訟に対し、8000万ドルを支払ったそうです。その後のAPROVe試験でプラセボ群と比較した調整したハザード比は1.72(95%CI: 1.13-2.62)で、ロフェコキシブ群で有意に多いという結果でした1)。この報告では「rofecoxibの心血管毒性は選択的COX-2阻害薬に共通の作用(class effect)と考えられるため、その使用に当たっては治療におけるベネフィットと心血管リスクを適切に評価する必要があるだろう」と指摘されています。では同じコキシブ系のセレコキシブは心不全を悪化させるのでしょうか?実際に危なくないのでしょうか?セレコキシブにはどのような報告があるのでしょうか? 探っていきましょう。
2,035人を対象にしてセレコキシブの使用は心血管疾患、心筋梗塞、脳卒中、心不全による複合死亡のエンドポイントが用量増加と関連があることが報告されました2)。しかしその後、セレコキシブの心血管安全性を検証するために10倍以上の24,081人の患者を対象にしたRCTのPRECISION試験が行われ、セレコキシブの心血管リスクは対照薬のナプロキセン、イブプロフェンと比較し有意に少ないことが明らかになりました3)。
まずジクロフェナクはNSAIDs非投与群に比しすべての主要心血管病変の発症率が有意に高く、アセトアミノフェンに比し、主要心血管病変の発症率が有意に高いこと(図1)4)、ジクロフェナクはイブプロフェン、ナプロキセンに比し主要病変の発症率が有意に高いことも報告されています(図2)4)。そして9万人以上のNSAIDsによる入院患者と800万人以上を対照にしたケースコントロールスタディでは7つの非選択的NSAIDs(ジクロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、ketorolac、ナプロキセン、nimesulide、ピロキシカム)と2つのCOX2選択的阻害剤(etoricoxibとロフェコキシブ)に対する心不全の危険性が非服用者に比し増加しました。ジクロフェナク、etoricoxib、インドメタシン、ピロキシカム、ロフェコキシブの心不全の危険性は2倍に増加しましたが、セレコキシブが一般的な服用量で心不全のリスクを高めたというeエビデンスは認められませんでした(図3)5)。平田が思うに、図3だけでなく、多くの論文に目を通して感じたのは、NSAIDsの心毒性はロフェコキシブ>ジクロフェナク>イブプロフェン>ナプロキセン>セレコキシブの順に心不全を悪化させやすいと理解しています。図1を見るとアセトアミノフェンも心に全く影響がないわけではないことが分かり、腎にも心にも優しいセレコキシブがますます魅力的に感じられてきました。
引用文献
1)Baron JA, etal: Lancet 372: 1756-1764, 2008
2)Solomon SD, et al: New Engl J Med 352: 1071-1080, 2005
3)Solomon DH, et al: Am J Med 130: 1415-1422, 2017
4)Schmidt M: BMJ 2018 Sep 4;362:k3426. doi: 10.1136/bmj.k3426.
5)Andrea Arfe, et al : BMJ 2016; 28;354:i4857.