ダメ薬剤師を続けていて40歳になった時、当時、国立療養所千石荘病院(2003年に国立病院大阪医療センターに統合)の薬剤師だった上野和行先生に出会うことができた。まさに僕にとっては人生を変える運命の出会いだった。ある日、上野先生は僕に「アミノフィリン250mgの中にテオフィリンは200mg相当分入っとるから、アミノフィリン1Aを50kgの人に点滴投与したら、血中濃度はなんぼになると思う、平田君?」と聞かれ、戸惑って何も答えられなかった。だって血中濃度が予測できるなんて知らなかったから。「テオフィリンのVdは0.45L/kgなんや。まぁ、0.5L/kgでもええわ。50kgの患者さんやったらVdは25Lになる。200mg/25Lで8µg/mLになるやろから、喘息発作の治療にはちょっと足らへん。2A投与したら、16µg/mLになるんや。これやったら、ほぼ確実に気管支拡張作用を示して、20以上になったら起こる怖い副作用もでてけーへん。こーゆーことを知っとくと、薬を自由に操れるようになるんや。ほんでもって医者も意のままに操れるようになるんや」。

 これには本当にときめいた。そして上野先生を「師匠」と呼ばせていただくようになった。薬剤師って調剤や薬の管理ばっかりやっていて、病院に勤めていても何の存在感も示せない職業だと思っていたから。この時の経験から、薬物動態を本気で習おうと思った。僕はよく「努力はつらいからやめよう」とか、「好きになったら、それが趣味になって、夢中になれる。そうすればみんな一流になれる」なんてことをよく言うが、それは学ぶだけで身に着いて楽しい「薬物治療学」「薬理学」「病態生理」などの話だ。薬物動態だけはこれらと違って、僕にとってはあまり面白くはなかったが、薬剤師のマストアイテムだと思った。動態の教科書に書いてあること、特に数式は実に難解だったが、学ぶのが辛くても絶対にマスターしなきゃだめなんだ。最初は菅野彊先生やそのお弟子さんの書いた分かりやすいものからはじめて、大学での教科書など、少なくとも3冊は読んでほしい。結構、間違いが書かれていることに気づくようになるから。薬物動態の基本がわかっていない薬剤師を僕は「本当の薬剤師」とは呼びたくない、似非(エセ)薬剤師だ。薬物動態だけは努力してでも薬剤師が身に着ける価値のあるものだと今でも信じてる!だからみんな努力して、僕の師匠のように「ほんまもんの薬剤師」になってほしい。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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