4月9日(木)開催の、「腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう(初心者編)」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。
Q.シスタチンCなど有用な指標を使うべきと考えておりますが、添付文書上の指標がCCrや標準化eGFRの方で用量設定されている以上、保険調剤する場合に訴訟などの問題の観点から事実上介入が難しい現状があります。打開策などありましたらご教示頂けませんでしょうか?
A.標準化eGFRが32mL/min/1.73m2の人が2人いて、1人が35kgの90歳女性、もう1人が2型糖尿病で150kgの力士だったら、同じ用量にしますか?僕だったら、訴訟が起こってもいいから35kgの90歳女性にはメトホルミンの投与をやめるよう介入します。だって個別eGFRは22.9mL/min、推算CCrは17.22mL/minですから。僕の考え方は添付文書通りじゃないから間違いでしょうか?こんな極端な例は非常に少ないでしょうががありうる話ですよね。
寝たきりの高齢者、つまりサルコペニアで腎排泄性ハイリスク薬(バンコマイシン、バラシクロビルなど)がeGFRや推算CCrが正常値以上ということで常用量投与されていたらなら、僕だったらシスタチンCを測定してもらってからでないと投与はさせません。このように介入しないと患者さんが危険にさらされることがほぼ予測できる時には介入すべきです(それぞれテイコプラニン、アメナメビルに変更というより楽な介入方法だと思います)。CCrや標準化eGFRは添付文書通りの測定法であれば、いずれも健常者の1.5倍以上(150~200mL/min)あれば、常用量投与を認めますか?このデータは腎機能がよいのではなく、明らかに筋肉量が少ないことを表しているだけなのですよ。介入しないで有害反応を起こした場合、ほぼ100%、医師の責任になりますよね。薬剤師の責任にならなければいいのでしょうか?
それだったら薬剤師って必要ないと思いませんか?
患者さんのための薬剤師になっていないと思いませんか?
ごめんなさいね、極端な例を出して。でもサルコペニアの腎機能過大評価はふつうに起こっていますので。
Q.シスタチンCを使うにあたって測定費用がクレアチニンに比べ高いのと、3か月に1回請求とれないのが問題としてあがります。シスタチンCが使いやすくなるためにはどういった活動をすればいいんでしょうか?
A.シスタチンCを測定してくれるのはほぼ腎臓内科の先生たちです。他の科の先生方は医師国家試験にも出題されていますし、もちろんシスタチンCのことは知っています。しかし薬剤師が医師に「eGFRが過大評価されているみたいなので、シスタチンCを測定してもらえませんか?」と言っても「シスタチンCってなに?」と問い返されることがよくあると聞きます。医師歴の長い開業医の先生方なのかもしれませんが……。
シスタチンCって1回1,000円以上する高い検査費ですし、いまだに3か月に1回しか測定できません。
一方、米国のNKF/ASNタスクフォースは2020年のJASN誌(PMID: 34563581)、2021年のAJKD誌(PMID: 34556489)に「シスタチンCの確認検査への拡大(routine use)」を強く推奨(Strong Recommendation)しました。シスタチンCの日常的、かつタイムリーな確認検査の迅速実施を呼びかけ、学会・実臨床で採用が進むべき方針を打ち出しました。
それに対して日本の現状はどうでしょうか?日本ではシスタチンCの測定を推進しようという機運すら感じられませんし、薬剤師は何とかラウンドアップ法などで逃げており、シスタチンCの普及は恐ろしいほど遅れています。薬剤師にできることは明らかに筋肉量が異常なため血清Cr値によるeGFRが信頼できないときにはシスタチンCを測定してもらうよう主治医にお願いしましょう。そういう積み重ねによってシスタチンCが普通に測られるようになれば検査費用も安くなり、3か月に1回の測定が毎月、あるいはもっと頻繁に測定できる時代になるはずです。スウェーデンでは日常診療でCysCを日常的に併用しており、同日測定15.8万人の解析が可能なほど比較的しています。
Q.日本腎臓病薬物療法学会のHPの個別化クレアチニンクリアランスの計算を主に利用しております。
DM薬は標準化eGFRが多くて、あとの添付文書は大体個別化クレアチニンに基づいて問題ないと把握しておりますが、標準化クレアチニンクリアランスを使う場面は何かありますか?思いつかないです。
たまにクレアチニンが基準に入ることあっても、標準化クレアチニンクリアランス使う添付文書に出会ったことないです……。
A.標準化クレアチニンクリアランス(mL/min/1.73m2)を使う場面は現在は全くないと思います。これは日本においてeGFR(推定糸球体濾過量)の算出にMDRD式(Modification of Diet in Renal Disease)が実質的に使われていたのは、2004年くらいから2008年度初頭以降は現在のeGFRがずっと使われています。標準化CCr(mL/min/1.73m2)はeGFRができる前に腎臓病の進行度を見るために使っていたものです。標準化eGFR(mL/min/1.73m2)ができてから、診断指標としてのeGFRは2004年以降、ずっと主役になっています。標準化CCr(mL/min/1.73m2)を使う人はもういないはずです。
Q.薬局薬剤師だと、肥満であっても添文がCCr表記なら現体重と理想体重の2個でCCr数値計算して医師に判断、で問題ないと思いますが、病院の薬剤師の方とかだと、薬剤師が薬剤設計の裁量もってたりするのでしょうか?最終判断を医師に投げてしまうのは薬剤師として無責任なのでしょうか?誤差がある式である以上医師が判断すべきと思いますが…。薬局薬剤師なので意見求められることもなく数値だけ出して医師に投げてしまっています。ただ意見求められた時に何も言えないのは専門家として情けないので勉強するべきではありますね。
A.著明な肥満患者なので推算CCrが過大評価され、薬用量が過量投与になっていると危惧した場合には病院薬剤師、薬局薬剤師に関わらず、医師に問い合わせるべきだと思います。その時に薬によっては補正体重か理想体重を用いるて、腎機能がどのように推算されるかということを報告するとよいと思います。
病院の薬剤師はTDM対象薬やある種の抗菌薬の投与設計だと薬剤師が薬剤設計を主導することはありますし、実力のある薬剤師がいる病院では外来でも薬剤師がついて薬物投与時に提言しているところもあります。
理想体重(男性; kg)=50+{2.3×(身長−152.4)}/2.54
理想体重(女性; kg)=45.5+{2.3×(身長−152.4)}/2.54
補正体重(kg)= 理想体重+[0.4×(実測体重-理想体重)]
Q.尿細管分泌する薬剤のクリアランスは理論上CCrと相関しそうな気がしますが、投与設計には個別化eGFRを使用すべきでしょうか。メトホルミンやプラミペキソールなど
A.糸球体ろ過+尿細管分泌=薬物の腎クリアランス になりますので、薬物の腎クリアランスが分かれば投与設計はもっと良くなるはずですが、尿細管分泌・再吸収機能を正確に調べるのは研究的には行われていますが、実臨床上のデータによると一貫せず、相関は弱~中等度に留まります。薬物の分泌経路(OAT1/3 vs OCT2/MATE)や病態(CKD、SIRS/ARC)で乖離しやすいためと考えられています。
メトホルミンは腎排泄性薬物で、OCT2/MATEの基質なので腎クリアランス(CLr)は糸球体濾過(GFR)を大きく上回るため、尿細管分泌の寄与が支配的です。健常~腎機能良好ではCLrが約510 mL/minと報告され(PMID: 21241070)、プラミペキソールもOCT2やMATE1/2‑Kの基質になるので腎排泄のうち分泌の寄与が大きい薬ですが何%の寄与率かまでは分かっていません。
ただしシメチジンでクレアチニン分泌を抑えるとCCrはGFRに近づき、推算の精度が改善する報告があり、CCrが分泌に強く依存していることを裏づけます。
理論上はCCrの方がGFRより分泌成分を共有するため相関しやすいはずですが、現実には輸送体依存性・病態・相互作用で崩れやすいので、分泌優位薬の用量調整は、CCr/eGFRを初期の目安にしつつ、必要に応じてTDMで補強するのが安全だと思います。実臨床で実測GFRの測定も無理でしょうから、これらの試みは研究的になります。ぜひ、この疑問を研究テーマにして解決して論文を書いてください。