今日はオレゴン州立大学(OSU)の本校のあるCorvalisという田舎町に行ってきた。7時半にムナ先生が僕のアパートに迎えに来てくれて、高速に乗って9時頃に着いたので、かなり距離がある。
Corvalisでは薬学部の1,2年生が学んでいるが、今日の実習内容は耳の検査、耳の中にライトを当ててレンズで覗く耳鏡という器械を用いて2人1組でお互いの耳の中を検査し、感染の有無、鼓膜の状態を検査する。コンピュータの画面にはさまざまな耳疾患の耳鏡で覗いた画像があるため、ある程度の診断が可能だ。そして2種類の周波数の異なる音叉を使って聴覚試験、血圧測定も行われていた。そしてそれらの結果をレポートにまとめて実習は終わり。これが2年生で行われているのである。さらに教授の部屋で秘密兵器を見た。上半身のマネキンの機械でメモリーを入れ替えるだけで心音や呼吸音を聞くことができる。たとえば正常の呼吸音と喘息患者の呼吸音の違いが聴診器で聞き分けることができるすばらしい機械である。
実習終了後6人の教官がランチを食べながら来週に行われる眼疾患のスライドをチェックしている。ウイルス性、細菌性結膜炎、化学物質による炎症などさまざまなスライドが用意されていて、どのように教えるかについて議論している。教官たちも新しいカリキュラムについては1人の教官に任せっきりではなく、本当に真剣に取り組んでいる。
OSUの学生の8~9割がオレゴン出身で彼らは他の州の人の1/2の学費で済むらしい。やはり州立大学だ。ただしアラスカやハワイにはや薬学部がないため、この2州出身者も学費は1/2になっている。入学してしばらくするとwhite coat ceremonyというのがあって、日本の看護学校の戴帽式と同じように始めて白衣を着る儀式を行うことで自覚を持たせているのだろう。同時期に薬剤師としての倫理ethicsについても早期に学ぶ。
薬学部に入ってくる学生の半分以上が4年制大学(多くは生化学などの化学、生物系)を卒業しているそうだ。仕事をやめて薬剤師を目指している人もいるため平均入学年齢は27歳だとのこと。これからPharm Dの資格を取るには最短でも6年はかかるのだ。入学者の多くが理学部の化学や生物などの学位を持って入学してくることは教官たちにとって、基礎的なことを理解しているため教えやすいと言っていた。あとからベトナム系のクラスメートでいまや親友になったHaiに聞くと、米国の高校の数学のレベルは低く、大学に入って日本やベトナムなみの数学を学ぶので、薬学に入るには大学を卒業していないと付いて生けないみたいだ。
日本の薬学部には多くの研究室のような実習室があるがここでは非常に少ない。このように臨床的なことが主要になってきたのはこの10年くらいで大きな変革がなされていたとのこと。彼らのカリキュラムを見ると最初から薬理学が重要視されており、まずはOTC薬について学んでいる。開局薬剤師にとって必要な服薬指導、コミュニケーションスキルについても1年生から学んでいる。これは将来、開局薬剤師になる人にとっては利点だと思う。開局薬剤師も近年は今日のような聴覚試験は薬局内に器機を置いて、簡易検査をし、疾患によってはどの耳鼻科に行けばよいかについてアドバイスしている。血圧測定なんて調剤薬局では当然である。アメリカでは薬剤師の信頼が高いのはこのようなところにあるのだろう。ただし最近はWalgreenのようなOTC薬やサプリメントだけでなくコンビニのようにタバコやコーラ、パンなどの商品から健康器具まで扱っている巨大なドラッグストアがいたるところにあるし、巨大なスーパーには必ず処方箋を扱う薬局が併設されている。患者は処方箋を渡して買い物を終えてから待つこともなく薬をもらえるので便利だ。そういえばアメリカに来るごとにstreet corner pharmacyという個人経営の薬局の数が減っていることに気づく。
今日はなぜ薬剤師のレベルが米国で日本に比べ著しく高いかについて考えてみた。オレゴンでは優秀な薬剤師であるJoeやAliであっても処方権は医師にあるため、最終的には医師のサインが必要となる。でも実際に処方内容を点検し改善しているのは病棟薬剤師だ。彼らはPKや薬物間相互作用、副作用だけでなく、最新のEvidence based medicineを知っているため、信頼されているだけでなく、Board of certification of pharmacotherapyから認定された薬物療法の専門薬剤師なのだ。この試験を受けるためには1年間レジデントの後、専門のドクターのもとでさらに1年間の研修が必須である。しかもJoeはBoard of certification of oncologyという腫瘍専門薬剤師でもある。これらの試験は極めて難しいそうだ。薬物療法の専門薬剤師は小児科や産婦人科、耳鼻科、眼科の薬物療法に精通していないといけないため大変な知識が必要となるため、この試験に合格することは非常に難しい(当然、国家試験よりもはるかに難しい)。でもこれらの資格があるから病棟薬剤師としての仕事が立派にできるのだろう。病棟薬剤師は病院の調剤室にいる薬剤師とは明らかに違うし、Community pharmacistとはさらに異なる。やはりこれからの医療に専門薬剤師は必要だろう。米国ではこれらのほかにNutrition support、infection control、genetic、精神病など10種類があるそうだ。
薬剤師試験は州によって異なるが、オレゴンでは10日間の通常の試験と2時間の口頭試問があるそうだ。さらに論文を提出して合格すれば薬剤師になれるというから日本と比べて格段に厳しい。そして8割は薬剤師として仕事をし、割合は開局薬剤師のほうが多く(とは言っても多くはスーパーに併設されている処方箋薬局が多いが)、病院薬剤師のほうが少ないそうだ。薬剤師になる人が多いから、基礎科学・実験的な実習よりも臨床医学・臨床的な実習に重きを置くのは当然だろう。
オレゴンの薬学部の学生は非常に真剣に勉強している。米国では大学に入学するのは簡単で、卒業するのが大変だと思っていたが、実際には留年するのはOSUでは90人中1人か2人だそうだ。日本では10%くらいが留年し、新設薬科大学では国家試験合格率を上げるためにさらに効率で留年すると言ったら、ムナ先生は驚いていた。
以下は米国の専門薬剤師についてインターネットより引用
BPS(Board of Pharmaceutical Specialties、薬学専門職委員会)BPSは1976年にAPhA(米国薬剤師会)によって設立され、薬剤師実務領域での専門職の認定証を交付している唯一の機関である。下記の5つの専門業務分野について、2000年1月現在で約3000名の薬剤師がBPS認定証を受けており、名前はWeb上で公開されている。
原子核薬学(Nuclear Pharmacy)・・・444名
栄養補助薬学(Nutrition Support Pharmacy)・・・451名
腫瘍薬学(Oncology Pharmacy)・・・184名
薬物療法(Pharmacotherapy)・・・1546名
精神疾患薬学(Psychiatric Pharmacy)・・・311名
この認定は7年毎に更新を受けなければならない。
2.CCGP(Commission for Certification in Geriatric Pharmacy、老年病専門薬剤師認定委員会)
CCGPは、高齢者向け薬剤師実務の認定を行なうために、1997年にASCP(米国顧問薬剤師協会)から分かれた独立の法人である。委員9名の構成は薬剤師5名、医師1名、支払・雇用者1名、一般消費者1名及びASCP理事から1名となっている。試験はアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの多くの会場で年に2回実施されている。受験生用に刊行されているハンドブックに、この認定制度の説明、試験内容の概略、受験資格などが記載されている。2000年1月現在で約400名が老人病専門薬剤師の称号を得ているが、5年ごとに筆記試験に合格して更新を受ける必要がある。
3.NISPC(National Institute for Standards in Pharmacist Credentialing、薬剤師認定基準研究会)
NISCPは、1998年にNABP(連邦薬事委員会連合)を中心に、APhA、、NACDS(チェーンドラッグストア協会)及びNCPA(全国地域薬剤師会)の基金により設立された。その目的は、近年の薬剤師に求められる疾患管理(Disease State Management、DSM)サービスの能力を有する薬剤師を認定するためであり、NABPの行なう疾患専門試験の合格者にDSM認定証を発行する。
NABPは本来、アメリカ全土50州とDCのほか、グアム、プエルトリコ、バージン諸島、ニュージーランド、カナダ9州、オーストラリア4州の薬事委員会の連合体であり、薬剤師試験や免許交付の取りまとめを行なっている。
アメリカでは、薬剤師免許受験資格として、薬系大学の卒業資格のほかに、NAPLEX(学力試験)とMPJE(法規試験)に合格することが必要とされ、アメリカ全土50州の試験センターで年間を通じて試験が実施されているが、これらを開発し実施しているのがNABPである。免許受験資格等については後に項を改めて述べる。
さて、DSMとしてNISPCは現在、糖尿病、喘息、血中脂質異常及び抗凝血療法という4つの疾患管理について認定を行なっている。これらの疾患状態にある患者に薬学的ケアを提供する薬剤師の能力と適性を証書として示すためであり、業務報酬を受ける上で有利になる取り扱いがなされている州がある。2000年5月現在で、1089名の薬剤師がNISCP認定を保持しており、Web上に名前が公開されているが、内訳は次のとおりである。
糖尿病・・・653名
喘息・・・227名
血中脂質異常症・・・110名
抗凝血療法・・・99名
試験はコンピュータ試験として全国的に実施されており、年間を通じて受験可能である。
ダメだ、全然英語が上達しない。これから英語で日記を書くことにしよう。