前回説明したとおり、生死を分けるような重篤な感染症の時に頼りになる殺菌性の抗菌薬はほとんどが腎排泄である。ということは腎機能低下患者や高齢者では蓄積して中毒性副作用を起こすことがある。しかも腎機能低下患者や高齢者では免疫能が低下し、感染症に罹患しやすいため、抗菌薬を投与する機会が多い。致命的な感染症の時に抗菌薬の投与量不足によって有効性が現れなかったことが分かったときには、非常に後悔する。帯状疱疹におけるアシクロビル、バラシクロビルは副作用を起こさないよう、細心の注意を払って腎機能に応じた投与設計をしたいが、抗菌薬を使うときには初回投与量は十分量投与するなど、基本的に攻める投与設計を心掛けたいと思っている。ただし、腎機能低下患者に腎排泄性で薬剤性腎障害などの副作用を起こすことは避けなければならないし、副作用を起こしにくい投与設計を心がけることが必要となる。そのため今回は腎機能低下患者で起こりやすい抗菌薬の副作用についてまとめたい。
1)感染性心内膜炎に対するバンコマイシン+ゲンタマイシンの1日複数回投与による急性腎障害
薬剤性の急性腎障害(AKI)の最大のリスク因子は既存の腎機能低下および高齢者である。腎毒性のアミノグリコシド系抗菌薬であるゲンタマイシンは1日2回投与ではAUCが200mg・hr/LでAKI発症率は100%近くになるが(図1)、同様に腎毒性のあるバンコマイシンを併用するとさらに1/2量の100mg・hr/Lの低濃度でAKI発症率は100%近くになる1)。ゲンタマイシンの1日1回投与では腎障害発症率が100%になるのは約4倍の800mg・hr/LのAUCのときであり(図2)、バンコマイシン併用の影響も小さくなり、安全性が高くなる1)。アミノグリコシド系抗菌薬の腎毒性は糸球体濾過されたアミノグリコシド系抗菌薬の約15%が尿細管腔からエンドサイトーシスによって近位尿細管上皮細胞に取り込まれ、さらに細胞内のライソゾームに取り込まれることによってリン脂質症を起こし、ライソゾームが障害されることによって尿細管壊死に至るためとされている(図3)。
腸球菌、MRSAを原因菌とする感染性心内膜炎にはバンコマイシンに加えて、シナジー効果を期待してゲンタマイシンの1回1mg/kgの低用量を1日3回投与がIDSAガイドラインで推奨されているが2)、ゲンタマイシンの1回量が少なくても腎毒性はあり3)、複数回投与だとトラフ値がゼロになることがないため、近位尿細管から持続的に取り込まれるため腎毒性が強くなるとされている(図4)。このように腎毒性のあるゲンタマイシンはPK/PD理論から考えると1回少量投与で1日数回投与よりも1日1回大量投与の方が、腎毒性が少なく殺菌力も高い安全で有効性が高くなる投与法と理解し、腎毒性が高くなる投与設計は避けたい。腸球菌の場合はバンコマイシンの代わりにアンピシリンを使用し、バンコマイシンを使わざるを得ないMRSAの場合にはゲンタマイシンは分割投与しなくてもよいという報告もあるので1日1回投与などの投与法を検討していただきたい4)。またCKD患者に2週間以上、ゲンタマイシンのようなアミノグリコシド系抗菌薬投与時には不可逆的な聴覚障害が起こりうるので投与するときにはオージオグラムを取る必要がある。
2)急性腎障害になりやすい抗菌薬
用量依存的なAKIの発症リスクを持つ抗菌薬はアミノグリコシド系、バンコマイシンのほかにも多剤耐性グラム陰性桿菌感染症に対し有効なコリスチン(オルドレブⓇ)があり、コリスチン投与開始3日前後で腎機能検査を実施することが望ましいとされている。腎障害のリスクファクターとしては高齢者、既存の腎障害・腎機能低下、糖尿病、低アルブミン血症、アミノグリコシド系抗菌薬、ACE阻害薬、NSAIDs、利尿薬、活性型ビタミンDの併用などが挙げられる。バンコマイシン自体の腎毒性はそれほど高くはないが(筆者はバンコマイシン単独で脱水を含まない尿細管障害は10%程度の発症頻度だと思っている)、バンコマイシンは腎毒性薬物の併用によって、より腎毒性が増す報告はアミノグリコシド系抗菌薬にとどまらず、上記の要因が加わってバンコマイシンの腎障害が過大評価している報告が多いと考える。
薬剤によるAKIと断定する前にまずは重症感染症に伴う炎症や高熱・発汗に伴う脱水症を除外していただきたい。簡易な脱水指標であるBUN/Cr値(通常は10程度)が重症感染症症例では20以上、30~40になることもまれではなく、輸液投与により血清Cr値が低下することが多いので、投与設計が振出しに戻ることをよく経験する。RAS阻害薬、NSAIDs、利尿薬、活性型ビタミンⅮなどの腎虚血誘引薬物が併用されている症例ではなおさらである。そのため溢水のない症例では輸液するなど体液管理を行ったうえで、腎機能に応じた抗菌薬の用量調節を行う必要がある。
また抗菌薬は一般的にアレルゲン性が高く、薬剤性の急性尿細管間質性腎炎の発症率では最多であり(図5)、特にアレルギー性の間質性腎炎はペニシリン系、キノロン系が多いことが明らかになっている(図6)5)。アレルギー性副作用として併発しやすい皮疹や好酸球増多などが現れることがあるが、頻度としては高くなく(表)6)、この腎障害は薬と患者個人の相性によるものであるため、予測や予防することはむつかしい。さらにバンコマイシンとタゾバクタム・ピペラシリン(ゾシンⓇ)の併用群のAKI発症率は22.2%でバンコマイシン単独時の発症率12.9%に比し、有意に高いことがシステマティックレビューで報告されている7)。
3)腎機能低下患者特有の抗菌薬の有害反応
無尿の透析患者であれば、腎機能が廃絶しているためAKIのことを考慮する必要はない。ただし、腎機能低下患者特有の抗菌薬による有害反応が報告されているので気を付けよう。特に低アルブミン血症を伴う症例では蛋白結合率90%と高いセフトリアキソン(ロセフィンⓇ)の遊離型分率が上昇しやすくなる。尿中排泄率50%だが腎不全のため、胆管クリアランスは不変なものの、腎クリアランスが著明に低下するため胆管中のセフトリアキソンが高濃度で胆汁排泄されるため胆汁中のCaイオンと結合してセフトリアキソンのCa塩を主成分とする胆嚢総胆管偽結石を生じることがある。2018年の日本透析医学会では4施設から同様の症例報告があった。透析患者の場合、胆道閉塞・胆管炎の発症を念頭に置き、胆道ドレナージを検討する必要がある8)。
ST合剤(バクタⓇ)に配合されているトリメトプリムによる高カリウム血症には他の降圧薬併用時に比しRAS阻害薬と併用時に高カリウム関連入院が6.7倍になるという報告9)、スピロノラクトンとST合剤の併用は高カリウム血症による入院リスクを12.4倍上昇するという報告10)がある。トリメトプリムにはCrの尿細管分泌を抑制して偽性腎障害を起こすること知られているが、カリウムの尿細管分泌も阻害し突然死リスクが上昇するため要注意である。
引用文献
1)Ryback MJ, et al: Antimicrob Agents Chemother 43: 1549-1555, 1999
2)Liu C, et al: Clin Infect Dis 52:e15-55, 2011
3)Cosgrove SE, et al: Clin Infect Dis 48: 713-21, 2009
4)感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン2017年改訂版
5)Muriithi AK, et al: Am J Kidney Dis 64: 558-566, 2014
6)Praga M, Gonzalez E: Kidney Int 77: 956-961,2010
7)Luther MK, et al: Crit Care Med 46: 12-20, 2018
8)棚橋 仁, 他: 日本消化器内視鏡学会雑誌55: 3594-3596, 2013
9)Antoniou T, et al: Arch Intern Med 170: 1045-1049, 2010
10)Antoniou T, et al: BMJ 2011 Sep 12;343:d5228. doi: 10.1136/bmj.d5228.