NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
12日目 Triple whammyによる脱水を早期発見せよ

 Triple whammyによる腎機能の悪化は脱水の早期発見で悪化を食い止めることが可能です。ではどうやってこれらの腎前性AKIの診断をしているかというと、血清クレアチニン値の上昇、尿量の減少はすべてのタイプのAKIの診断基準ですが、最も正確な腎前性AKIのマーカーは尿中Na排泄分画(FENa: fractional excretion of sodium米国人はフィーナと発音する)が1%未満、あるいは尿中Na濃度の低下、
 尿浸透圧の上昇などで鑑別できるという検査です(表1:このような一覧表はこのブログのカテゴリ→育薬に活用できるデータベース薬剤性腎障害で印刷も可能です)。

20210916_1.png

尿中Na排泄分画=(尿中Na/血漿Na)×(血漿Cr/尿中Cr)×100 で示されますが、Triple whammyには利尿薬が含まれますので、Naの尿中排泄が増えるのが当然ですから、利尿薬併用者では特異度の高いFENaが信頼できないためFEurea(尿中尿素排泄分画:35%未満で腎前性、50%以上で腎性腎障害を疑う)を測定しますが、このような尿検査は腎臓内科以外ではあまりやりません。
 そのためより簡易な腎前性AKIのマーカー(脱水のマーカー)としてはBUN/Cr比>20が使いやすいと個人的には感じております。通常はBUN/Cr比は10程度ですが、脱水になると20を超えます。ではCrに比べて尿素濃度だけが上がるのはなぜだかわかりますか?Crは尿細管からわずかに分泌されますが、再吸収されないため、生体内物質で最も優れた腎機能マーカーですが、尿素もCrと同様に窒素老廃物として尿中に排泄されますが、再吸収されてしまうのです。脱水時に腎臓は尿量を減らして、脱水を防ぎます。その時にCrは全く再吸収されませんが尿素は水・Naとともに再吸収されるため、Crは上がらないのに、BUNのみ上がってBUN/Cr値が通常、10だったのが20を超えてしまうということで、BUN/Cr>20が脱水のマーカーとなるのです。
 病院薬剤師であれば検査値で脱水が分かるため、医師に輸液を依頼すれば済むことですが、検査データの得られない保険薬局で脱水を早期にキャッチする方法をご存知でしょうか?一番簡単な方法は爪毛細血管再充満時間≧2秒です(3秒という人もいますが原著論文では2秒だったと思います)。これは片方の人差し指を5秒間圧迫すると、つめの色はピンク色から白色になりますが、圧迫を解除しても2秒以上白色のままだと特異度95%で脱水を疑えます。そして口腔内を観察させていただくと、唾液がなく口腔粘膜乾燥があれば感度85%で脱水が疑われるので、この2つを組み合わせると非常に高い精度で脱水を発見できます(表21)

20210916_2.png

もともと大災害や大事故などの時に大量の救急患者が押し寄せた時に、どの患者をICUに入れるかを決める簡易な判断として、爪毛細血管再充満時間≧2秒を使っていたそうです。これが2秒以上だと循環機能が低下しているため優先的にICUに入れるというトリアージに有用だとされています。この簡単な検査をMcGeeが脱水に使えることを明らかにしました1)。もっと簡単なのは体重減少や血圧の低下ですので、保険薬局には体組成も測定できる体組成計や血圧計を置いておくべきでしょう。
 著名な輸液の専門家は皮膚の張り(ツルゴール)の低下が脱水の良いマーカーになることで推奨しています。手の甲をつまんでピラミッドを作ると速やかに元に戻るのですが、脱水をきたすとピラミッドがそのままになります()。20210916_3.pngただし高齢者はしわが多いのでもともとツルゴールが低下している方もいるそうですが、これらの簡単な脱水の見分け方は、患者さんやその家族の方に覚えていただいてもいいのではないかと思っています。
 脱水になりやすいリスクを持っている患者さんはもともと腎機能が低下しているCKD患者、高血圧患者、糖尿病患者、高齢者で起こりやすく、脱水状態(下痢・嘔吐、夏季の発汗、発熱、感染症、食べられない、起立性低血圧、腋下乾燥、口腔内乾燥、急激な体重減少)、そして薬剤についてはTriple whammyなど、詳しくは1日目の表. NSAIDsによる腎前性急性腎障害の危険因子が参考になります。

 

引用文献
1)McGee S, et al: JAMA 281: 1022-1029, 1999


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ