NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
15日目 NSAIDsのパップ剤や全身作用する貼付薬は安全?

 モーラステープなどのいわゆるNSAIDsの貼付薬ではどうなのか?これについてはよく質問を受けますので考察してみましょう。医学中央雑誌ではロキソプロフェン×AKIで88件ヒットしましたが(2021年8月12日の調べ、以下も同じ)、パップ剤に関しては間質性腎炎を含む報告が少数例あるのみです。ロキソプロフェンテープ×AKIは0件でロキソプロフェンパップ×AKIは0件。ただし局所パッチ剤での間質性腎炎の症例報告がありました(Int Med 53: 1131-1135, 2014)。

 ではモーラスで有名なケトプロフェンパップはケトプロフェン×AKIで35件(AKI症例はなし)、ケトプロフェンパップ×AKIで0件、モーラス×AKIでは34件ヒットしましたがAKIの報告なし。ケトプロフェンテープ×AKIで1件だけですがAKI症例ではなくkey wordsに入っていただけでジェネリックの製剤についてのものでした。

 胃障害についてはケトプロフェン経皮製剤大量使用(20 mg×8枚/日)による小腸出血が中止後に回復した報告がありますし1)、NSAIDs小腸による障害に関しては酸分泌抑制薬の併用は無効です2)。2年にわたり治癒が遷延した胃潰瘍が,ケトプロフェン経皮製剤(40 mg×4~6枚/日)の使用中止により2か月後に治癒したという症例があります3)。モーラステープの経皮吸収率はインタビューフォームによると69.7 %という、経口投与以上ではと思わせる高さです。テープを何枚も貼付すると内服薬カプセルの常用量である50mg連続投与時のAUCよりも高くなり、胃への直接刺激がないだけでもましではなく、胃潰瘍の原因になるということです。ロコアテープでも出血性胃潰瘍の学会報告はあります。

 ではロコアテープなどの経皮吸収型NSAIDsで腎障害は起こりうるのか?インタビューフォームから血中濃度の推移を見てみましょう。図1に40mg単回投与時のエスフルルビプロフェン貼付薬と錠剤のフルルビプロフェンの血中濃度推移を示しますが、これは実は軸の幅が異なりますし、S体とラセミ体の違いがあります。

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図2はエスフルルビプロフェン換算にした経口剤のY軸の血中濃度、X軸の時間のスケールを貼付薬に合わせたものですが、経口剤ではピーク濃度が高く、消失が早く、かたや貼付剤のピーク濃度は低く消失が遅いのが分かりますが、AUCはロコアテープ2枚貼付時の全身曝露量がフルルビプロフェン経口剤の通常用量投与時と同程度に達します。

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これまでの報告の多くで長時間作用型のNSAIDsはAKIを起こしやすいのではということに焦点を当てた検討はされていますが、短時間型のNSAIDsがAKIを起こしにくいという明確なデータはあまり見たことがありません。ロコアテープによるAKIの報告は地方学会レベルの発表が1報、地域の医学雑誌に1報あります。

 PubMed検索では「Esflurbiprofen patch×AKI」、「Ketoprofen patch AKI」では全くヒットしませんでしたが、「Loxoprofen patch×AKI」で76歳の女性でロルノキシカム投与によりネフローゼレベルの蛋白尿を伴う微小変化型の腎炎・間質性腎炎を発症した報告があります4)。ロルノキシカムの投与によってネフローゼを発症したのですが、中止により改善傾向だったところ、ロキソプロフェンパッチを投与すると、アルブミン尿が再燃し腎機能が悪化したという報告です。ただしステロイドなどの治療なしで投与中止のみによって回復しています(図34)

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ロキソニンパップ2枚を反復投与した時の活性体AUCは内服の37.6%、Cmaxは約20ng/mLとロキソニン錠活性体trans-OH体のCmax850ng/mLのわずか、2.3%しかありません。しかし特にアレルギー性の間質性腎炎、免疫系を介した蛋白尿など用量依存的でないAKIは無視できないように感じました。

 例えば免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を用いると免疫系が賦活化され、T細胞の免疫寛容の破綻を反映する尿細管間質性腎炎、糸球体障害による蛋白尿が起こりやすくなることが話題になっています。場合によっては透析をしてでもがんを治すべきか、がんが悪化してでも透析導入を避けるべきか、非常に苦しい選択を迫られることがあります。ICIによるAKIはNSAIDs、PPIの併用によって発症率が高くなるという報告もあり5)6)、特にNSAIDsが問題になっています。平田自身は局所作用する外用NSAIDsはAKIを起こしにくく、安心と思っていましたが、ICI投与時には、この考えは正しいとは言い切れません。報告はあまりされていないものの、外用であってもアレルギーや免疫系を介する腎障害に関しては、やはり安全とは言えないのではと思っています。13日目の図3のNSAIDsによる腎障害の③免疫反応が介在するポドサイト障害による微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症などの糸球体障害、④アレルギー性間質尿細管性腎炎の発症は濃度依存的ではないため、NSAIDsを経口から貼付薬や外用薬に変更してもAKIを起こしうると思われます。

 ただし高齢者で多いのは中毒性の①輸入細動脈収縮による腎前性AKI以外にも、様々なメカニズムでAKIを発症します。②尿細管を栄養する輸出細動脈の虚血による尿細管壊死(脱水状態が持続すると重篤化します)のメカニズムですから、高齢者に関しては吸収率の低い局所作用型のNSAIDs貼付薬は経口製剤に比べると腎障害のリスクは少なくなると考えられます。

 

引用文献
1)Hirose S, et al: Scand J Gastroenterol 53: 120-123, 2018
2)Maiden L, et al: Gastroenterology 128: 1172-1178, 2005
3)木本正英, 他: 日本プライマリケア学会 42: 158-161, 2019
4)Kikuchi H, et al: Intern Med 53: 1131-1135, 2014
5)Cortazar VB, et al: J Am Soc Nephrol 31: 435-446, 2020
6)Shirali AC, et al: Am J Kidney Dis 68: 287-291, 2016

 


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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