NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
16日目 ワルファリンとNSAIDsを併用してはいけない本当の理由

 医師、薬剤師を含め多くの医療人が、ワルファリン服用者がNSAIDsを併用することによって重篤な消化管出血が起こる原因は、ワルファリンの抗凝固作用とNSAIDsによる胃障害・抗血小板作用による出血、つまり薬物動力学的相互作用と思っているかもしれません。これは確かにあります。また一部の薬剤師はワルファリンの蛋白結合率が99%以上と高いため、同様にほぼ90~99%以上の蛋白結合率で高用量のNSAIDsを併用することによって、ワルファリンの遊離型分率が上がるためと考えている方もいるかもしれません。

 しかし現在の薬剤学的な考え方では遊離型分率が上がってもワルファリンの肝代謝が亢進し、組織移行性が高まることによる分布容積増大によって遊離型濃度は変化しないのです(当ブログの薬物動態学が苦手なあなたへ→4限目の理解度テスト5.「蛋白競合による副作用ってある?」を参照)。20世紀の薬剤学で習っていたワルファリンとNSAIDsのフェニルブタゾン(製造中止)やブコローム(パラミジン)は蛋白結合の競合といわれていましたが、現在ではフェニルブタゾンやブコロームによるCYP2C9を介するワルファリンの代謝阻害によると考えられています(表1)。ただし今もNSAIDsのピロキシカム(バキソカプセル)の添付文書には、ワルファリンとの相互作用の機序について「本剤のヒトでの蛋白結合率が99.8%と高いため、ワルファリンの活性型が増加するためと考えられる。」と書かれていますが、表1の著者Rolan PEは「蛋白結合置換の相互作用、なんでこれらが臨床的に重要なの?」と述べています。

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 平田も病院薬剤師時代に、ワルファリン服用者にロキソプロフェンが併用されることによって、透析患者さんが消化管出血によって突然死したことを経験しました。その時のデスカンファレンスはとても沈痛だったことを覚えており、その時には薬物動力学的相互作用+蛋白結合の競合阻害を疑っていました。それ以来、透析患者のNSAIDsは胃への直接刺激の少ない坐薬の頓服処方に変更していただくことが多くなりました。

 薬剤師として知っておくべきことは薬物動力学的相互作用だけでなく、NSAIDsの多くがCYP2C9で代謝され、ロルノキシカムはCYP2C9阻害薬でありS-ワルファリン濃度(AUC)を1.58倍上昇させる(ラセミ体で1.32倍)1)といったワルファリンとの薬物動態学的相互作用の問題です。イブプロフェン、インドメタシン、メフェナム酸、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブもCYP2C9を阻害し、セレコキシブに関してはワルファリンの相互作用により重篤な出血の副作用を起こした報告があります2)。さらにわが国の報告では19人のワルファリン服用患者のセレコキシブ併用前のPT-INRが併用前1.53±0.43が、併用後2.18±1.01 に上昇した(P<0.01)といわれています3)。しかもセレコキシブの米国添付文書には「遺伝子型または他のCYP2C9基質(ワルファリン、フェニトインなど)の既往歴/経験に基づいて、CYP2C9のpoor metabolizersであることがわかっている、または疑われる成人患者では、推奨される最低用量の半分(変形性関節症で100mgを1日2回、関節リウマチでは100~200mgを1日2回)で治療を開始する。」と記載されていますが、わが国の添付文書には残念ながらここまで踏み込んだ記載はありません。

 また、ワルファリン服用患者へのNSAIDsの投与は消化管出血のリスクを高めるため、極めて慎重であるべきであり、このような症例にはNSAIDsではなくアセトアミノフェンを併用していただきたいと切に思います。平田の米国での経験では、薬剤師の運営するAnticoagulation Clinicを訪れる患者さんの鎮痛療法はアセトアミノフェンばかりで、NSAIDsの処方は抗血小板薬としての低用量アスピリン併用例を除けば皆無でした。またワルファリン服用者の大出血は腎機能が悪化するほどリスクが高くなることが知られており、末期腎不全では有意に大出血発生率が上昇します(図14)、GFR<30mL/minではCYP2C9代謝が阻害されS-ワルファリン濃度が27%上昇し半減期が20%延長することも報告されています5)。そのためPT-INRの目標値は通常2.0~3.0ですが日本の高齢者では1.6~2.6、透析患者は2.0以下とされています。

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 米国のAnticoagulation Clinicでは5mg/日を超えて投与されている患者さんが大半を占めていたのですが、もともと上記の理由により日本人のワルファリン用量は3.21±1.46mg/日と少なめです。この理由として最近になって日本人ではVKORC1の変異患者が多いことが明らかになっています(図26)。この報告ではVKORC1の遺伝子多型とともに日本人では腎機能の低下に伴い、ワルファリンの非腎クリアランスが低下しワルファリン用量を少なくしなくてはならないこと、野生型ではワルファリン用量が高めでであることを示しました(図2の紫色の〇)。

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 ここまでCYP2C9のことについて書いてきて、ふと気づいたのですが、イブプロフェン、インドメタシン、メフェナム酸、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブなど多くのNSAIDsはCYP2C9の基質(ロキソプロフェンは不明)ですが、末期腎不全になるとCYP3A4も1A2も2C19も発現量が低下するのですが、最も顕著に低下するのがCYP2C9なのです7)。ひょっとしたら透析患者などの末期腎不全患者にNSAIDsを単回投与でなく、常用量で漫然投与すると代謝されないため、過量投与になり、中毒性副作用が起こりやすくなる、あるいはワルファリンの代謝をより強力に阻害して出血しやすくなることなどが考えられるかもしれません。これは平田の薬剤師の「気づき」です。NSAIDsの蛋白結合率はイブプロフェン99%、インドメタシン99%、メフェナム酸85-99%、ピロキシカム99%、セレコキシブ97%と極めて高いのですが、腎不全患者では尿毒素の蓄積と低アルブミン血症によって蛋白結合率が低下しますが、これによる薬効増強はないことはすでに説明しました(当ブログの薬物動態学が苦手なあなたへ4限目参照)。しかしこれだけ蛋白結合率の高い薬物の遊離型濃度を測定することは非常に難しそうです。しかも尿を濃縮して排泄することができない透析患者の血漿は夾雑物が多くて測定しにくいのです。どなたか分析技術の高い方を巻き込んで、末期腎不全患者の遊離型NSAID濃度は腎機能正常者に比し高いということを証明してもらえませんでしょうか?このネタなら英語論文になりますし、考察などは平田が協力させていただきます。

コラム: 経口NSAIDsの空腹時服用はとっても危険
  NSAIDs内服時は添付文書では空腹を避けなければならない。そのため薬剤師はNSAIDsが頓服で処方されると「何か軽食やスナックなどを食べてから多めの水、できれば牛乳と一緒に飲んでください」と服薬指導しなければならない。ほとんどのNSAIDsは酸性であるために酸性条件下では非イオン化し、消化管粘膜の細胞膜を通過することによって細胞傷害をより強く引き起こすが、食後の場合には食物の影響により胃内pHの上昇が起こるため、細胞中への移行が妨げられ直接作用が減弱すると考えられている。これに関しては明確なエビデンスはなく、動物実験で証明されているのみだ。しかしヒトに対して空腹時投与の安全性を調べる検討はできっこない。今までに多くの患者さんが空腹時に服用して死にそうな目にあったということをよく聞いているし、自分でも食後1時間くらいなのでいいかと思ってバファリンをのんで、のたうち回った経験があったからだ。そういえば「早く溶けて胃にやさしいバファリン」って大ウソだ。アスピリンだから酸性度も高く(pKaが低く)、たとえ制酸剤が配合されていたとしても胃には非常に厳しい(表2)。

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胃障害リスクはアセトアミノフェン、セレコキシブが+、他のNSAIDsは2+、そしてアスピリンは6+と評価されているのだから8)。「空腹時のNSAIDsの服用は消化管穿孔によって生命を危うくする行為」だということを知っていただきたい。透析患者の半数以上がPPIを服用するほど、胃が脆弱で、食事も満足に取れないのに痛みがあるとロキソニン錠などが処方されることが何度もあったが、胃障害の頻度が極めて高かったため、平田が薬剤師時代には特に高齢者では低用量のボルタレンサポやインダシン坐薬などに変えてもらっていた。これだと胃への直接刺激を回避できるし、坐薬なので痛くないときには無理して挿入することがないので漫然投与も防げたのではないかと思う。

 

引用文献
1)Kohl C, Steinkellner M: Drug Metab Dispos 28: 161-168, 2000
2)Malhi H, et al: Postgrad Med J 80: 107-109, 2004
3)鈴木信也, 他:医薬品情報学18:35-241, 2016
4)Jun M, et al: BMJ 2015;350: h246
5)Albrecht D, et al: Thronm Haemost 117: 2026-2033,2017
6)Ichihara N, et al: J Cardiol 65: 178-184, 2015
7)Deri MT, et al: pharmacol rep 72: 1695-1705, 2020
8)Wells BG, et al ed: Pharmavotherapy Handbook sixth edition

 



プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)