NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
8日目 利尿薬の利点・欠点
~Triple whammy処方のシックデイ対策、していますか?
利 点
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018 1)ではCKDステージ全域でサイアザイド系利尿薬・ループ利尿薬は、浮腫を呈するなど体液過剰の症例に推奨されています。またサイアザイド系利尿薬は血清Ca濃度を上げるため、高齢者に高頻度で見られる骨折リスクを予防効果が報告されています2)。さらにALLHAT試験ではHFpEF(拡張不全)による心不全入院率はアムロジピン群,リシノプリル群に比べてサイアザイド系利尿薬のクロルタリドン群で有意に減少しています3)。だから利尿薬は日本での処方率は低くても第1選択薬から離れないのだと思います。
欠 点1)
後期高齢者でCKD ステージG4~G5 では脱水や虚血に対する脆弱性を考慮し,Ca拮抗薬を推奨するとされています。またサイアザイド系・ループ利尿薬ともに低カリウム血症に十分注意が必要であるとされており、アルドステロン阻害薬は高カリウム血症などの副作用の懸念からCKD患者への投与の際には慎重を要するとされています。またサイアザイド系はステージG4~G5 では効果が減弱します。
利尿薬+RAS阻害薬+NSAIDsのTriple Whammy処方は腎機能悪化のリスクが上昇する恐れがあり、腎機能悪化のリスクがさらに上昇する可能性が高いため、CKDステージ3b以降では、お薬手帳などを参照して、できるだけ避けるべきであると記載されています1)。
CKD患者ではAKIを発症しやすいため、発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、ないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)にはRAS阻害薬、NSAIDs、利尿薬のTriple Whammy処方は休薬することが提唱されています。特に高齢者では飲水不良や嘔吐・下痢、発汗過多などによる脱水や過度の塩分摂取制限には注意する必要があると記載されています1)。KDIGOガイドライン4)ではAKIを防ぐために利尿薬の投与を推奨していません。
上記のようにRAS阻害薬にも利尿薬にも欠点はありますが、様々な利点もあります。しかし痛みを抑える以外に、NSAIDsに何らかの利点があるでしょうか?NSAIDsの副作用についてはすでに論じたように、胃障害、出血、肝障害、腎障害、アスピリン喘息、高血圧をはじめとした心血管病変の悪化など非常に多彩ですから、低用量アスピリンを除き、痛みを抑える以外のメリットは感じられません。抗炎症作用があるって?本当に抗炎症作用があるなら慢性炎症にNSAIDsは有効でしょうか?整形外科の先生方に聞いてみるとNSAIDsを疼痛緩和(痛み止め)以外の目的で使っている方は皆無でした。だからTriple whammy処方の中で、RAS阻害薬、利尿薬はベネフィットがある限り、うまく使っていきましょう。でもベネフィットのないNSAIDsはできるだけ飲んでもらいたくない。これから医師と協議して以下の服薬指導を実践していただきたいと考えます。
NSAIDsによる腎障害については実は多彩なのですが、これについては11日目以降に解説します。
引用文献
1)日本腎臓学会: エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018.
2)van der Burgh, et al: Bone. 2020 Sep;138:115475.
3)Davis BR, et al: Circulation 118: 2259-2267, 2008
4)KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury 2012