NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
22日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
④鎮痛薬腎症はAKIではなく慢性腎不全。
その真犯人はフェナセチンだけではないことを突き止めたベルギーの論文を抄読してみよう!(2)

 アセトアミノフェンとアスピリンの複合剤で起こる鎮痛薬腎症のメカニズムは、これらを併用するとアスピリンがサリチル酸になり腎皮質および乳頭部に高濃度に濃縮されることが引き金となります。サリチル酸はグルタチオンを枯渇させることによって毒性代謝物NAPQIが生成され、腎乳頭タンパク質のアリル化および 酸化ストレスによって腎乳頭壊死を起こし、不可逆的な腎機能障害を起こす2)といわれています(図65)。また自殺企図や誤飲によるアセトアミノフェン超大量服用で起こる劇症肝炎と同時に、腎に存在するCYPによって毒性代謝物NAPQIが生成され、急性の鎮痛薬腎症をきたすことがあると言われていますが、頻度としては非常にまれと思われます。このような超大量服用した自殺企図や大量誤飲症例を除きAKIの発症はないと考えられ、アセトアミノフェンやアスピリンを含んだOTC鎮痛薬の長期大量連用による乳頭壊死または慢性間質性腎炎によって生じる透析導入に至る慢性腎不全が問題となります6)

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 海外ではフェナセチンが製造中止になった1983年以降、鎮痛薬腎症は減少し続け、またスイスではフェナセチンの毒性代謝物による乳頭壊死と確認された剖検例は1978年~1980年には約3%あったのが、フェナセチンが製造中止になって、アセトアミノフェンに変更されて7年以上経過した2000年~2002年には616名の剖検例中、乳頭壊死は79歳の男性1例のみ(0.2%)に減少した7)という報告があり、乳頭壊死は鎮痛薬中に含まれるフェナセチンの市場からの撤退によって著明に減少したと考察しています。

 鎮痛薬腎症は頭痛ないし腰痛のある中年女性に多く、長年にわたり、連日大量服用した症例で発症し8)、生涯にわたる累積服用量が3kgを超えるなど、多ければ多いほど発症しやすい(9)、あるいは透析導入になった患者22名は 平均 7.8 kg  (2.7~30.8kg)の非ピリン系鎮痛薬(アニリン系、すなわちフェナセチンまたはアセトアミノフェン)を平均21.5年(6~35 年)間服用していたという報告もあり、フェナセチンを含有しない鎮痛薬では末期腎不全の危険性は低いことが示唆されています10)。すなわち鎮痛薬腎症は急性腎障害(AKI)ではなく乳頭壊死による慢性腎不全で、原因は生涯にわたる数kgのフェナセチンまたはアセトアミノフェンだけでなくピリン系やアスピリンなどの複合鎮痛薬の服用によって起こるものです。アセトアミノフェン単独では起こりません。そしてアセトアミノフェンはNSAIDではありませんから、13日目で解説したとおり、①輸入細動脈収縮による腎前性AKI、②尿細管を栄養する輸出細動脈の虚血による尿細管壊死、③免疫反応が介在する糸球体障害、④アレルギー性間質尿細管性腎炎は起こしません。腎機能正常者が対象のコホート研究ではアセトアミノフェンによって腎不全に至る相対危険度は有意に低かったという報告があります11)。さらにCKDステージ4, 5の患者に対してもアセトアミノフェンは安全で、アセトアミノフェン累積服用量は腎機能に影響しないという報告もあります12)。さらにアセトアミノフェン単独で鎮痛薬腎症を起こすというエビデンスは存在せず、健常者への疫学的調査でもアセトアミノフェンの使用と慢性腎不全への進行あるいは古典的な鎮痛薬腎症にいたるという有意な関係を見出すことはできないという報告もあります13)

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 京都大学附属病院の電子カルテからアセトアミノフェンの処方歴があり急性腎障害を発症した1,871名を対象にした検討では、 NSAIDsの投与では有意に急性腎障害を発症するものの、アセトアミノフェン投与者は非投与群とほぼ変わらず、急性腎障害とアセトアミノフェン投与の間の関連性が希薄であることを示しており、APAPが腎臓により安全であることを明らかにしました(図714)

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 さらに新しい日本の報告では241,167人が分析対象となり15)、アセトアミノフェンを服用した患者の年間の1/血清Cr値の傾きは-0.038(-0.182-0.101)に対し、NSAIDsを服用した患者の年間変化は-0.040(-0.187-0.082)で有意に腎機能悪化速度が速いことが明らかになりました。NSAIDsの腎障害が問題になりやすい高齢者を対象とするとやはりアセトアミノフェンよりもNSAIDsの方が有意に腎機能悪化速度が速かったのです(図8)。 これらの変化は腎機能の低い患者間で有意差は認められませんでしたが、アセトアミノフェンは有意に腎機能の低い患者により頻繁に処方された(P<0.001)ことがバイアスになったものではないかと考えられます。さらに加えれば、自殺企図などによるアセトアミノフェンの過量服用はNAPQIの蓄積(19日目の図1参照)によって肝細胞障害だけでなく尿細管障害も引き起こすことがあります16)。25日目にその詳細を記載しようと思いますが、大量飲酒とアセトアミノフェンの過量服用の組み合わせは肝臓だけでなく腎臓にとっても極めて危険です。

そして今日の内容をまとめると
①鎮痛薬腎症は生涯にわたり数kgのアセトアミノフェンを含む鎮痛薬の複合剤のOTC薬を飲み続けた時に起こりえます。
②鎮痛薬腎症はアセトアミノフェンだけではなく、ピリン系鎮痛薬やNSAIDsの合剤を含むものです。アセトアミノフェンやアスピリン単剤では鎮痛薬腎症は起こしません。
③アセトミノフェンはNSAIDではないのですから京都大学の報告のようにAKIを起こしません(図714)。 また倉敷中央病院の報告のようにNSAIDs群に比しアセトアミノフェン群の腎機能低下速度は有意に緩徐です(図815)

 

20211021_8.png だからCKD患者や高齢者にNSAIDsが漫然投与されていれば、アセトアミノフェンに処方変更していただくことが推奨され、Triple whammy処方であれば、患者さんのリスクが高まるため、アセトアミノフェンに処方変更していただかなくて困るのです!

 

引用文献
1) Brix A: Toxicol Pathol 30: 672-674, 2002
2)Elseviers MM, et al: 鎮痛薬とアミノサリチル酸, “臨床家のための腎毒性物質のすべて”, De Broe ME, et al編, シュプリンガー・ジャパン, 東京, 2008, pp214-226, 2008
3)Elseviers MA, De Broe ME: Analgestics and 5-aminosalycilic acid. Clinical Nephrotoxins 3rd ed, P2399-417, SPRINGER-VERLAG, 2008
4) Elseviers MM, De Broe ME: Am J Kidney Dis 28: S48-55, 1996
5) Elseviers MM, De Broe ME: Drug Saf 20: 15-24, 1999
6) Martin U, et al: Eur J Clin Pharmacol 41: 43-46, 1991
7)Mihatsch MJ, et al: Nephrol Dial Transplant 21: 3139-3145, 2006
8)Stewart JH, et al: Br Med J 1:440-443, 1975
9)van der Woude FJ, et al: BMC Nephrol 5: 8-15, 2007
10)Michielsen P, et al: Nephrol Dial Transplant 24: 1253-1259, 2009
11)Rexrode KM, et al: JAMA 286: 315-321, 2001
12)Evans M, et al: Nephrol Dial Transplant 4: 908-1918, 2009
13)Blantz RC: Am J Kidney Dis 28: S3-S6, 1996
14)Hiragi S, et al. Clin Epidemiol. 2018; 10: 265-276
15)Ide K, et al: Int Urol Nephrol 53: 129-135, 2020
16)Bessems JG, et al:Crit Rev Toxicol 31: 55-138, 2001

 



プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)