NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~
24日目 アセトアミノフェンについて深く知ろう
⑥アセトアミノフェンの添付文書は明らかに間違っている

◆クイズ
以下の添付文書の記載はロキソプロフェンのものでしょうか?
アセトアミノフェンによるものでしょうか?

禁忌(次の患者には投与しないこと)
1.消化性潰瘍のある患者[症状が悪化するおそれがある。]
2.重篤な血液の異常のある患者[重篤な転帰をとるおそれがある。]
3.重篤な肝障害のある患者[重篤な転帰をとるおそれがある。]
4.重篤な腎障害のある患者[重篤な転帰をとるおそれがある。]
5.重篤な心機能不全のある患者[循環系のバランスが損なわれ,心不全が増悪するおそれがある。]
6.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
7.アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者[アスピリン喘息の発症にプロスタグランジン合成阻害作用が関与していると考えられる。]

正解:アセトアミノフェン(カロナール)の添付文書

 この添付文書っておかしくありません?アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)って鎮痛解熱薬であって非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)ではないアセトアミノフェンでは関係ないでしょ。NSAIDsの喘息誘発作用はCOX阻害によってリポキシゲナーゼ(LOX)経路にシフトして、強力な気管支収縮作用を有するロイコトリエンの産生増加に起因しますが、アセトアミノフェンにはCOX阻害作用はありません。

 「消化性潰瘍のある患者」ってなんで?だってOTC薬のタイレノール(アセトアミノフェンの世界的ブランド)には「空腹時にのめる優しさで、効く」って書いているのに(写真参照)!重篤な血液の異常のある患者って、20211028_1.pngアセトアミノフェンに抗血小板作用なんてないでしょ。心不全が増悪する?肝機能障害なら増悪しますが……。そしてアセトアミノフェンによる腎機能悪化ってOTCの鎮痛薬複合剤(アセトアミノフェン単独では起こしません)の大量長期服用して起こる非常にまれな鎮痛薬腎症による「腎乳頭壊死」か高用量投与によって重篤な肝障害を伴う細胞障害性毒素NAPQIによる尿細管壊死ですよ。ではNSAIDsの代表格であるロキソプロフェンの添付文書と比較してみましょう。

以下がロキソプロフェンの添付文書

2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)
2.1 消化性潰瘍のある患者[プロスタグランジン生合成抑制により、胃の血流量が減少し消化性潰瘍が悪化することがある。]
2.2 重篤な血液の異常のある患者[血小板機能障害を起こし、悪化するおそれがある。]
2.3 重篤な肝機能障害のある患者
2.4 重篤な腎機能障害のある患者
2.5 重篤な心機能不全のある患者
2.6 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.7 アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤等による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者[アスピリン喘息発作を誘発することがある。]
2.8 妊娠後期の女性

 

 ほぼ内容が同じですよね。これじゃ同じ薬効群と間違えてしまいますよね。日本の添付文書は、薬機法に基づいて作成される公文書ですが、「医療用医薬品の添付文書は,医薬品医療機器法の規定に基づき,医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために,医師,歯科医師,薬剤師等の医薬関係者に対して必要な情報を提供する目的で,当該医薬品の製造販売業者が作成するもの」となっています。

 NSAIDsは末梢に作用し、アセトアミノフェンは中枢に作用という差があり、アセトアミノフェンは知覚神経の通り道である視床に作用して、痛み閾値を上昇させますがNSAIDsは末梢のCOX阻害によるPG産生を抑制するため胃障害、腎障害、易出血性、アスピリン喘息、心不全の悪化などの副作用があります(セレコキシブには心不全悪化作用はありません)。

 NSAIDsに比し、アスピリン喘息に対しては安全性が高いと考えられています。ただしアセトアミノフェンも喘息の原因になるという報告もありますので1)、添付文書上の禁忌もやむを得ないでしょう。ただし「アスピリン喘息の発症にPG合成阻害作用が関与していると考えられるためアスピリン喘息(NSAIDsによる喘息発作の誘発)、又はその既往歴のある患者にはアセトアミノフェンは禁忌」という添付文書の記載もアセトアミノフェンをNSAIDsと混同した間違いと考えられます。

 アセトアミノフェンは低用量では胃障害はほとんど起こさないため2)、NSAIDsと同様に消化性潰瘍に禁忌にすると鎮痛薬の選択肢を狭めてしまうし、抗血小板作用がないため、重篤な血液の異常がある患者に禁忌にすべきではありません。また重篤な腎障害のある患者にもAKIを起こさないアセトアミノフェンは、米国では慢性腎臓病(CKD)患者に対して禁忌ではなく、鎮痛療法の中心になっています3)。重篤な肝障害、重篤な腎障害にはNSAIDsもアセトアミノフェンも使えないとなると、オピオイドをこのような患者に第1選択薬にさせたいのでしょうか?非常に不可解であり、わが国でも重篤な腎障害に禁忌とするよりも、逆に慎重投与としNSAIDsに代わって積極的に推奨すべきではないでしょうか。またNSAIDsでも「重篤な腎障害には禁忌」に付け加え、腎機能の廃絶した無尿の透析患者では腎機能の悪化を考慮する必要はないため「ただし無尿の透析患者は除く」と追記していただきたいと切に願っております。

 これだけじゃないのです。米国の添付文書はFDAが何か起こったら速やかに添付文書の改訂をメーカーに書き換えを命じていますが、日本ではそのスピードが著しく遅いのです(というか、社会的問題にならない限りやろうとしない)。有機アニオントランスポータを介したスタチンの肝取り込みがOATP1B1阻害薬のシクロスポリンによってリバロ、クレストールという新薬の血中濃度が上昇するため、添付文書に禁忌事項に併用禁忌と載っているのに、シクロスポリンによるOATP1B1阻害だけではなく、CYP3A4阻害も受けるため、最も血中濃度が上がって筋症myopathyを頻繁に起こすアトルバスタチンの添付文書が、いつまでたっても書き換えられていない。だから配合禁忌のリバロ、クレストールが処方されると、ORTP1B1だけではなく、CYP3A4も阻害して、より危ないアトルバスタチンに変えようとする医師・薬剤師がはびこる。透析医学会のシンポジウムでの「添付文書上、併用禁忌になっていないのにシクロスポリンの併用でリピトールによるmyopathyが何度も起こるんだ!」というある医師の質問にシンポジストたちは全く答えられなかったため、フロアから「新しい薬の添付文書に載っている禁忌情報は、すでに発売されている薬にまでは反映されないのです」と代わりに平田が答えたことがあります。だからちゃんと添付文書の整合性を取ってほしい。改訂が遅すぎるし、緩すぎるのが日本の添付文書!厚労省の皆さん、何とかしてくれませんか?我々薬剤師ももっと声を上げなきゃだめだよ。

 

引用文献
1)Shaheen SO, et al: Thorax 55: 266-270, 2000
2)Sakamoto C, Br J Clin Pharmacol 62:765-772, 2006
3)Wu J, et al: Clin J Am Soc Nephrol 10: 435-442, 2015


プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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