アスヤクLife研修会 Q&A(2022.2.28)
Q1.様々なことに興味を持って調べたり、勉強します。コロコロと変わっても良いものでしょうか。
A.次々と興味を持ったことを調べることはとてもいいことです。ぜひとも幅広い知識、多様性のある情報を身に着けてください。これをやっていない医療人との差は、すぐにつくと思いますので頑張って興味あることについて調べてみてください。
衝撃を受けるくらい興味を抱いたことについては深掘りしてみるのもいいですね。僕の場合は書籍を購入して読破し、さらに最新の情報をPubMed検索するなどして最新の情報を導き出します。このような習慣を身に着ければ、いずれあなたは○○市でトップの情報を身に着けた薬剤師→○○県でトップの→日本で有数の情報を身に着けた薬剤師になれることでしょう。
Q2.リリカのお話を聞きまして、普段、有害反応、と判断するのが難しいと感じてることを思い出しました。起こった事象が、その薬物が原因であると、何を根拠に判断すればいいのでしょうか。
A.副作用報告に関する論文を書くと、「有害事象と有害反応が区別できていない。有害反応の定義はどうやって定めたの?」って査読者に聞かれることがあります。「有害反応 有害事象 違い」でググってみてください。あるいはNaranjo scaleなどを知らべてみてください。副作用を①9以上で確実、②5-8点でほぼ副作用だろう、③1-4点で副作用の可能性あり、④0点で副作用とは疑わしいに分類できます。①②を副作用と定義したという論文が多いように思います。
この他にも「血清Ca濃度が10mg/dL以上とか、リン濃度が6mg/dL以上、クレアチニン濃度が1.2mg/dL以上になると」、とか、「血清クレアチニン値が0.3mg/dL上昇すれば急性腎障害」など診療ガイドラインなどを見ると、副作用と定義しやすくなると思います。
Q3.いつも薬剤師塾をわくわくしながら拝聴しております(ときめいています)。平田先生の影響を受けて英語の論文を少しでも読もうとしていますが、英単語を調べるのに時間がかかりなかなか進みません。おすすめの媒体はありますか?今は主にインターネットで単語を調べています。医療用英語の辞書の方が良いのでしょうか…
A.2000年ころまではリーダーズ英和辞典 が28万語だったのでこれを使っていましたが、ALCの出版している「英辞郎 第11版」は217万語が単語数で群を抜いて多いので(もちろん医療英語も満載です)、これをPCにインストールしていました。今はオンライン英会話もやっていますし、英語論文投稿時や個人輸入時のトラブル、海外旅行の旅程の予約などに英文Eメールを書くこともありますので、例文数が多い年額3,630円で英辞郎on the Web Proを使っています。
翻訳ソフトに関してはGoogle翻訳よりも韓国のPapago、Papagoよりも日本のDeepL翻訳のほうが医療系文献の翻訳能力では高いと思っていますので、試してみてください。どれも無料で使えます。DeepL翻訳は特におすすめです。
Q4.6年制の第1期生です。大学院に行き博士号を取りたいと思いながら、気づけば10年目の薬剤師になってしまいました。出身大学は遠方なので難しいです。何かきっかけが欲しいです。アドバイスお願いします!
A.学位が欲しいために博士号を取りたいのですか?博士号を持っていても得になることと言えば、大学の教員になりやすいことくらいではないでしょうか?これから薬剤師として生き残るには認定・専門薬剤師をとった方がよいのではないかと思います。僕は臨床の面白さに没頭した薬剤師なので、博士号は不要だと思っています。薬剤師として学会発表し、論文を書くようになると実力のある薬剤師になれるし、周りの方々も注目してくれます。つまり薬剤師としてのスキルを高めるために、自分のやった仕事を残すために、査読付き論文を書いてきました。「博士号」が目的ではなかったです。論文を書いていたら博士号がおまけについてきたようなものです。
博士号を取るために大学院に入学する方のほとんどは基礎研究しています。基礎研究が好きであれば近い大学に行けばいいでしょう。ただし働きながらだと、大学卒業して大学院に入った学生と比べて非常に不利ですから、留年することも覚悟が必要ですし、薬剤師をやめて研究を3~4年続けるつもりで大学院に入った方がよいように思います。
Q5.若手対象のお話のようで恥ずかしいのですが・・子育てが一段落して学会発表を試みて2年たちました。症例報告をしました。次回は研究レベルに挑戦したいと思っています。調剤薬局に勤務しています。調剤薬局の方々の研究発表はアンケート調査がほとんどです。違った視点での薬局薬剤師の研究で先生がご存じのもの、何かありましたら教えていただけるでしょうか
A.テーマになる候補のものは探せば、薬局薬剤師でもいっぱいありますが、あなたが何に興味があり何をやりたいかが一番重要です。興味のないことに人は一生懸命になれませんから。薬剤師のあなたであれば、学生と違うのですから、「このテーマをやりなさい」と言われるのを待つのではなく、自分が薬剤師として仕事をしていくうちに疑問に思ったことに関して、いっぱい文献を読んで、何が分かっていないか?何をやるべきか?を自分で見つけてください。アンケート以外でもできることはいっぱいありますが、何がやられていないかを知るには、いっぱい学会で情報を得て、いっぱい論文を読まないと分からないです。
論文をチェックできれば、いいテーマが見つかります。やられていることは知識として身に着け、やられていないことを研究テーマして解明すればいいのです。
結構身近なことでわかっていそうで分かっていないことは多いものです。薬剤師の論文はレベルが低くてもやられていないことが多いから、結構英語論文になりやすいのです。
Q6.基本的なことかもしれません。日本語論文と英語論文の違いとその理由を知りたいです。英語論文の方が審査が厳しいということでしょうか?
A.薬剤師も医師も実力のある研究者は、研究を開始した時点からすべて英語論文を目指しますが、英語論文にならないレベルの内容であれば、仕方なく日本語論文にしています。だから違いは「レベルが違う。英語論文の方が日本語論文よりもはるかにレベルが高い」のです。日本語論文の読者は1.2億人に過ぎないが英語論文だと78億人が見る可能性があるのだから当然と言えば当然です。さらに言えば、英語論文でも日本語雑誌や日本語学会誌に英語で書いたものの評価はあまり高くありません。査読付き英文専門誌に掲載されれば、PubMedにも載りますし、さらにimpact factorの高い英文誌に載れば、この著者はかなりの実力者と専門家が判断してくれます。
ただし非常にレベルの高い日本語総説もあります。これは広く日本人読者に読んでもらいたいために、専門家が英文総説になるのに、意図的に日本語で書くことがあります。たとえば日本腎臓学会誌などの専門分野の学会誌に載っている総説は非常にレベルが高く、読みごたえがあり、ありがたいと思っています。僕もよく知ってもらいたいことについては日腎薬誌に査読付き総説として投稿します。
Q7.調剤薬局で勤務している場合、病院と異なりカルテなどが見れないなどの特徴がありますが、その場合どのような調剤薬局で臨床研究をし、発表につなげていくことができると考えられますでしょうか。
A.カルテが見れると、患者さんの検査データだけではなく、看護師が聞き取りした家族背景、性格や病歴などの個人情報も見ることができます。毎日の血圧・脈拍の変動、食事摂取量も分かります。これらを繰り返し見れば、僕は病棟に行き初めて、2年もたてば検査データを見るだけで「病態が予測できる」ようになり「副作用はなにをマークすべきか」が分かるようになりました。これは単にカルテを見れるからではなく、病棟に行って医師やナースと症例についてディスカッションできることも関係していると思います。つまり臨床現場を見ることができるところが病院薬剤師の良さです。さらに病院を選ぶなら回診に連れて行ってくれる科、病院を選ぶとさらに実力アップします。
そのような経験から僕はその後、大学で教えることになるのですが、奨学金を返すのに、給与の高い薬局に就職しなければならない子や病院のハードワークに耐えれないような子は除き、学生たちには「2年間は病院薬剤師を経験した方がいい」と言っていました。今は薬局で働いている方も、あとからでもいいから病院で経験した方がいいでしょう。そうすれば調剤薬局ですぐに実力を発揮できる薬剤師になれるリーダー格になれると思っています。調剤薬局チェーン店の中には大学病院薬剤部で、調剤薬局の給与をもらいながら研修できるシステムのある所があります。実は僕の所属するI&H株式会社もこのようなシステムがあり、その研修を終えた薬剤師は「さすが」と言えるほどの薬剤師に成長していますが、このシステムがありながら、利用者が少ないらしいのです。なんで?
おっと、答えが随分とずれてしまいました。研究テーマはいろいろなものがあります。アンケートも気の利いたものであればアンケートは有用です。僕もCa拮抗薬全盛時に、RAS阻害薬が登場して、透析患者への使用頻度はCa拮抗薬が高かったのです。これは関西腎と薬剤研究会の仲間と組んで様々なデータを集めたのですが、使用頻度を調べました。患者数は2500人くらい。透析患者としてはすごいデータです。しかもβ遮断薬はその当時第1選択薬だったのに心不全目的以外で降圧薬としては全く使われていないことも分かりました。これを透析医学会誌に載せました。その後、医師はこれから透析患者に対してどの降圧薬を使いたいのだろうと疑問に思い、これをアンケートに取りました。当時、Ca拮抗薬は頻脈になるものばかりで、心臓を鞭打ってしまうので透析患者にどんどん投与するのはいかがなもんだろうと思ったからです。で、出た結果はARBを使いたい医師が最多だったのです。これで関西腎と薬剤研究会のスタッフは全員2報の原著論文の著者になれたのです。
DOACが出てきたときに透析患者にはワルファリンしか使えないことに事実上なっていましたが、ここで医師にアンケートをとると「ワルファリンが重篤な腎障害に禁忌」ということを80%以上の医師が知らなかったのです。
アセトアミノフェンの添付文書を見せると「これはNSAIDs」だと間違ってしまう医師も多いはずです。だってアセトアミノフェンの添付文書の内容は完璧に間違っていますから。こんな間違いだらけのクイズをやって医師、薬剤師の正答率を見てみると興味深い内容になると思いませんか?
臨床的な問題を見つけて、よーく論文をチェックすると何がやられていて、何がやられていない=今後の研究テーマになる ということが見えてきます。アンケートでもうまくやれば英語論文になっています。Q5の回答と同じになりますが、論文をチェックできれば、いいテーマが見つかります。やられていることは知識として身に着け、やられていないことを研究テーマして解明すればいいのです。
結構身近なことでわかっていそうで分かっていないことは多いものです。薬剤師の論文はレベルが低くてもやられていないことが多いから、結構英語論文になりやすいのです。
講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。