第 11回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎臓が何をやっているか ~糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~

 

Q.貴重なお話ありがとうございます。チャットで記入していましたら間に合いませんでした。基礎的で申し訳ないのですが腎機能低下は両方で同じように起こるのでしょうか?片方摘出する場合摘出後は、腎機能は改善するのでしょうか?

A.透析導入の3大疾患である糖尿病、腎炎、腎硬化症は両方同じように腎機能低下が起こります。片方だけ悪くなるのは腎がん、腎結核くらいでしょうか。


Q.NSAIDは避けてカロナールを推奨されてたのですが、実際には痛みを訴える患者さんが多くてロキソニンやボルタレンも使われていて、効かないからもっと多くほしいと希望されることもあります。(カロナールも効かないと訴えあり)許容範囲を決める時にどの視点から考えれば良いか教えてください。また、トラムセットも併用で出されたりしていますが、カロナール以外の痛み止めのおすすめがあれば教えてください。

A.若い方へのNSAIDsはあまり気にしなくてもよいでしょうが、問題は高齢者(と小児)です。もともとRAS阻害薬や利尿薬が投与されている高齢者には非常に危ない。しかも胃障害もきついし出血しやすいし血圧は上がり心血管疾患に罹患しやすくなる。NSAIDsは抗炎症作用があるので、痛風などの炎症を伴う急性疼痛には第一選択ですが、漫然と投与する高齢者の膝、腰の痛みは急性ではありません。アセトアミノフェンを投与してもらいたいものです。また1回500mgくらいで「効かない」と判断しないでほしいです。1回750mg×3回、頓服で1日1回程度なら1000mgくらい使ってから効かないと判断してもらいたいです。透析患者の半数近くがPPIを必要とし、NSAIDsでは胃痛、消化管出血が怖いので、直接の胃刺激の少ないボルタレンサポやインダシン座薬を勧めたこともあります。RAS阻害薬や利尿薬が投与されている高齢者で痛みがきつければ、トラマドールの方がよほど安全だと思っています。


Q.貴重なご講演をありがとうございました。腎障害の患者、透析を行なっている患者の方への手術後の疼痛管理ですが、アセトアミノフェンが効かない患者へはどういった薬剤がいいでしょうか?ご教示をよろしくお願いします。

A.透析患者ではこれ以上腎機能が悪くならないので「腎障害が悪化するため禁忌」という考え方は間違っています。ただし透析患者さんは胃が弱い方が多く、胃障害が怖いので、僕は医師にボルタレンサポやインダシン座薬を勧めていました。今はトラマドールも使えます。

腎障害の患者さんに対しては前問の回答をご覧ください。


Q.毎回わかりやすく丁寧な塾を開講いただきありがとうございます。SGLT2阻害薬について質問させてください。SGLT2阻害薬間で腎保護作用の違いはあるのでしょうか?SGLT2の選択性が高いダパグリフロジンで効果が認められていますが、SGLT2にそれほど選択性のない(SGLT1にも作用する)カナグリフロジンでも腎保護作用が認められたとの報告もあり、今後のSGLT2阻害薬の使い分けが気になります。何かお考えがあれば、ご教示ください。

A.SGLT2阻害薬間で腎保護作用の違いを調べた報告はないと思います。そして腎に関してはダパグリフロジンとカナグリフロジンしか主要評価項目を腎にしていないと思います。それに加えてエンパグリフロジンでもサブ解析で腎保護作用が認められていますし、ほぼクラスイフェクトと言ってよいと思っています。ほかにもSGLT2阻害薬もありますが、大規模試験をやるだけの体力・財力がないだけかもしれませんね。

カナグリフロジンの次に選択性が低いのはダパグリフロジンのはずです。SGLT2選択選択性の低いものであれば腸管上皮のブドウ糖の吸収に関与するSGLT1の活性も阻害するので血糖降下作用が腎機能に依存しないので、この2つが腎に関するトライアルをやったのではと勘繰る人もいます。報告によってはSGLT1は小腸、心、肝、肺にも存在するためSGLT2選択性は副作用に関与(特に小腸に作用すれば下痢)すると総説には書かれています。


Q.ダイエット、筋トレ後の筋肉増強のため、プロテインをたくさん摂る人がいます。タンパク質多量摂取における、腎臓への負担について教えていただきたいです。

A.浅学の方が「プロテインの摂取は腎機能を悪化させる」と言うことがありますが、これは間違いです。熊大の時に健常な筋肉系スポーツ選手を対象に臨床試験をやろうとして、1つの目的は筋肉量が多い方なので、血清クレアチニン値が過大評価されないかということ、そしてもう1つは1年間のクレアチンサプリメント、プロテイン摂取で腎機能は悪化しないかということでした。実は後者の試験はクレアチンサプリメントの臨床報告が結構よくない報告が少なからずあったのでやめたのですが、プロテインの摂取で腎機能が悪くなったという報告は皆無に等しいくらいになかったです。

だから健常者のプロテイン摂取は大丈夫だと思いますが、腎不全患者であればたんぱく摂取は窒素老廃物だけでなく、腎機能を悪化させ心血管病変を悪化させる尿毒素(インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、TMAO)が蓄積します。炭水化物・脂質は水とCO2になるとてもクリーンなエネルギーですが、たんぱく質はBUN、クレアチニン、尿酸などの老廃物を作りますから腎の負担にもなります。だから腎機能が悪化すれば0.8g/kg、さらに悪化すれば0.6g/kgにたんぱく質摂取量を少なくしてもらいます。ただし、肉、魚、卵などは良質なたんぱくですから後期高齢者などで栄養状態が悪い方へのたんぱく制限は、サルコペニアになってしまい、免疫力低下から感染症による死亡も懸念されますので極端なたんぱく制限は避けた方がよいと思います。実は腎不全患者のたんぱく制限によって予後が改善したという報告はほとんどないのです。


Q.薬局の外来で腎機能が落ちてきた高齢者に「お水をこまめに飲みましょう」とよく言うことがありますが、「そんなに多く水を飲めない」と言われることがあります。脱水状態になるのも良くないと思いますが、実際どのくらいの飲水量を維持できれば急激な悪化なく腎機能を保つことができるでしょうか?

A.暑い夏以外は「お水をこまめに飲みましょう」という服薬指導は必要ありませんし、若年者にも不要だと思っています(のどが渇けば水を飲んでくれますので)。ただし利尿作用の強い(特に投与初期の利尿作用が強い)SGLT2阻害薬が高齢者に投与された場合には夏以外では、起きた時、10時と3時にもお茶か水を程度でよいのではないかと思います。

夏に利尿薬、RAS阻害薬、NSAIDs、バラシクロビル、活性型ビタミンD、SGLT2阻害薬のいずれかの複数の組み合わせが高齢者に投与されれば、起きてすぐ、朝食時、10時、昼食時、3時、夕食時、ふろ上がりなどにグラス1杯の水を飲めばほぼペットボトル500mL×3本分になりますね。

ただし溢水のために利尿薬が処方されている患者さんに対して飲水の是非については主治医と相談をしてから指導をしましょう。


Q.心不全など何らかの原因で胸水がある患者さんの場合、利尿剤をフロセミド、サムスカなど数種類併用され続けられるのですが、体重が減少していっても胸水は減らず、腎機能が悪い高齢者だとBUN、SCrがどんどん上昇します。しかし、Dr.は利尿剤を減らしてくれませんし、補液投与もしてくれない事があります。高齢者だと水分補給もなかなか進みませんし、そうしているうちに腎機能もさらに悪化してしまいます。薬剤師として何かできることはあるのでしょうか?また、尿酸値も上昇するのですが、Dr.は10を超えるようならフェブリクを検討されています。そんなに上昇するまで放っておいていいのでしょうか?

A.溢水で呼吸困難になるためにフロセミド、サムスカが投与されているのであるのに、飲水すれば、より呼吸困難が悪化しますので飲水指導を勝手にやってはいけませんが、BUN、SCrがどんどん上昇するのは脱水による腎機能低下の可能性が極めて高いです。直ちに医師と相談して、脱水を防ぐための「約束事」を作ってみませんか?フロセミド、サムスカが投与されていて体重が1.0kg以上減少した時、血圧が10mmHg以上低下した時には脱水の可能性があるので、〇mLの飲水指導をする、体重が2.0kg以上減少した時、血圧が20mmHg以上低下した時には脱水の可能性があるので、飲水をして直ちに受診する、その他のシックデイ対策などを考えた方が患者様のためになると思います。


Q.退出前ににっこりしたモノクロの平田先生の写真を拝見しましたが、いつ頃のお写真ですか?いい笑顔で癒されて退出しました。

A.ありがとうございます。そんなに前じゃないですが、Facebookに参加した5年前の写真で、僕の誕生日に学生たちがケーキを買ってきてくれて祝った時に写真です。最近、眼鏡をかけなくなったのは遠視が進みすぎて近視が治ったためです。今は年老いて鏡を見るのが嫌になりました。


Q.仕事と家庭を両立させる秘訣は?

A.自慢させてください。とても性格が良く、ちょっとだけかわいい妻を持てたこと、自分が楽しいと思うことに一生懸命になったことが秘訣だと思います。


Q.最近、この講座の事を知りました。初回からの講座を視聴する方法はないのでしょうか?

A.これまでずっと新ネタをやってきましたが、あと数回で新ネタが尽きれば、今までの講演内容をアップデートして繰り返し講演しますので、ずっと聴き続いけていただければ幸いです。


Q.パワーポイント等のテキストが、頂ければ、幸いです。

A.一般の方々にはテキストを配布して、見ていただければ、理解力が高まっていいなと思いますが、そのままコピペして自分の講演で「平田の講演内容から引用」などと断らずに使う輩、ほぼ同じスライドを少しだけ変えて自分が作ったかのように総説論文で使う輩が結構いるのです。僕はスライド作りにかなりの労力とお金をかけています(図や写真を購入する費用など)。この盗用する方々は実力がある人ですが、引用元を明記したり、引用論文として記載していただくなどのルールを守らずに盗用されるのはやはりいい気がしません。ブログの図も無断引用されますし、こんなことが続けばブログも薬剤師塾もやってられないくらいに悔しいです。


 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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