第 12回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎臓が何をやっているか ~尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~
ゴダイ薬局 足立和夫先生
唯一、声を出していただいたご質問です。ありがとうございます。下記の内容だったと思いますが、記憶間違いしていればごめんなさい。
Q.フロセミドとアルブミンを併用する臨床的な意義は?
A.ネフローゼ症候群では糸球体が壊れて尿中にアルブミンが漏れ出るため、そして肝硬変では肝臓でのアルブミン合成ができなくなるため、低アルブミン血症になって血管外の水分を血管内に引き戻すことができず、ネフローゼは全身浮腫、肝硬変では腹水ができやすくなります。ループ利尿薬のフロセミドは非常に強力な利尿薬ですが、低アルブミン血症の時には、フロセミドを大量投与しても効きにくくなります。特に肝硬変の腹水などのサードスペース(非機能的細胞外液)を形成すると利尿薬は効かなくなります(図1)。消化管浮腫のためフロセミド上の吸収率が低下することがありますので、静注投与に切り替えてみるのもよいでしょう。サイアザイドを加えてみる、トルバプタンを加えてみる、半減期が非常に短いですからフロセミドを頻回投与するのもありだと思います。また血清アルブミン濃度が2.0g/dL前後の著明な低アルブミン血症などで、フロセミドの利きにくい浮腫(医師はよく「硬い浮腫」と言います)に対してアルブミンを併用すると著効します。
血中のアルブミンは血管外にしみ出た水分を血管内に引き戻す働きがありますが、これはアルブミンによる膠質浸透圧の作用によるものです(図2.3)。アルブミン製剤と一緒に投与すると間質液に貯留した水分を膠質浸透圧の力(スターリングの法則)で血管内に引き戻し、循環血漿量を増加させてめざましい利尿効果を上げることができます。しかしこれは一時的な効果なので、高価なアルブミン製剤を大量に使うことは問題があり、尿中アルブミン排泄増加に伴う腎機能悪化も考えられるため、アルブミン製剤の過度の使用は慎まなければならないとされています。
フロセミドは腎臓の濾過装置の糸球体によって濾過された後(後述しますが蛋白結合率が高いため遊離型濃度は低いです)、あるいは近位尿細管のOAT2を介する尿細管分泌によって、蛋白結合していない遊離型のフロセミドが尿細管のヘンレの係蹄に働いて利尿効果を現わします。しかしネフローゼ症候群が悪化した時にはアルブミンも同時に濾過装置である糸球体から漏れやすくなるため、尿細管内から漏れ出たアルブミンがフロセミドと結合して利尿作用を減弱してしまうという説がありますが(フロセミドの蛋白結合率は91~99%と高いため)、蛋白競合する薬物を併用しても利尿作用が強力にならなかったということで否定する論文もあります1)。平田は蛋白競合による相互作用はないと考えていますので(総濃度は低下しても遊離型濃度は変化しない)、尿中に漏出したアルブミンとフロセミドが結合して受容体に結合しにくくなり、利尿作用が低下する説は「あり」だと思っています。いずれにしても高価でヒトの血漿由来の高価なアルブミンを尿中に捨てるのはもったいですし、効果も減弱する可能性があるためネフローゼ症候群の時にはアルブミンを併用しません。
【ポイント】
ネフローゼの悪化によりアルブミンは糸球体基底膜を通過しやすくなり尿細管腔内濃度が上昇する。フロセミド(ラシックス®)の受容体は尿細管のヘンレ係蹄上行脚の管腔側にあるため、尿中に漏出したアルブミンとフロセミドが結合して受容体に結合しにくくなりラシックス®が効きにくくなるかもしれない。
1)Agarwal R, et al: J Am Soc Nephrol 2000; 11: 1100-1105
望星北浦和薬局・鈴木寛美先生
チャットでの質問
Q.「SGLT2阻害薬の、慢性腎臓病に対する投与量について、保険調剤の捉え方に関してご教示ください。
自身の勤務薬局が受ける腎臓内科処方せんにて、SGLT2阻害薬は、副作用回避のため、適応より少ない量(糖尿病に対する小さい規格の投与量)にて開始されることが多く、ほとんどのケースではそのままの量で継続されております。処方せんに検査値の掲載はまだなく、効果の判定はどのように行えばよいのか、投与量の増量は不要なのか疑問です。薬局薬剤師として、どのような関与が必要であるか、ぜひ教えていただければ幸いです。」
A.SGLT2阻害薬は初の大規模無作為化試験EMPA-REG OUTCOME試験で用いられたエンパグリフロジンの用量は10mgと25mgの2用量がプラセボ群と比較されましたが、10mgと25mgで全く差がないため、「腎保護作用・心保護作用については用量依存性はない」とされており、これは他のSGLT2阻害薬でも同じと思われています(ただしSGLT2阻害薬の尿中ブドウ糖排泄、血糖降下作用、尿酸低下作用は用量依存的です)。だから個人的には増量は不要ではないかと思っていますが、ダパグリフロジンの用量は5mgと10mgがありますが、10mgを用いて腎保護作用を見たDAPA-CKD試験や10mgを用いて心保護作用を見たDAPA-HF試験によって定められた保険用量は当然10mgのみになります。ですから糖尿病に用いていて用量が少ないと判断して、増量することは可能ですが、非糖尿病の心不全やCKDに対して用いる場合には定められた用量を変えることはできません。慢性心不全にエンパグリフロジンを用いた大規模試験EMPEROR-Reduced試験ではエンパグリフロジン10mgが用いられたため、10mgしか使えず、25mgに増量することはできません。これが慢性心不全で少量から漸増して最大用量を用いるβ遮断薬やRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の異なるところです。
効果の判定はCKDではアルブミン尿やGFRの傾きの変化、心不全ではBNPの値の変化、自覚症状の変化など様々です。薬局薬剤師としてのSGLT2阻害薬に対する取り組みは非常に重要です。8つの大規模無作為化試験のメタアナリシスではSGLT2阻害薬の投与によって有意に増加した副作用は糖尿病性ケトアシドーシス(発症率0.22%)、性器感染症(3.8%)、脱水(4.5%)の3つのみです。性器真菌感染症は特に活動度の低い患者で多く、温水洗浄便座を用いる、尿量を気にして飲水を制限しすぎず、適切な飲水によって自浄作用を促すなど陰部を清潔に保っていただく指導が重要です。脱水をきたさないようこまめな水分摂取を促す服薬指導、そして稀ではありますが、重篤な糖尿病性ケトアシドーシスがありますので、糖尿病患者さんには厳格な糖質制限やカロリー制限はしないよう、ここでも「こまめな水分摂取」を指導することが重要になります。それと尿糖の排泄を促進して、痩せる薬ですから、サルコペニアやフレイル患者さんには投与すべきではないことも知っておきましょう。
薬師山病院 渡部孝太郎先生
Q1.薬剤の排泄過程で、脂溶性・水溶性の懸念があると思いますが、どの程度の分配係数であれば脂溶性薬剤または水溶性薬剤と評価してよいか、ご教示いただけますか。
A.医薬品のインタビューフォームを見ていただければわかると思いますが、分配係数は各社、各医薬品によって測定方法が異なります。多くはn-オクタノール/水分配係数 pH7.4に統一していただきたいのですが、様々な理由によりクロロホルムを使ったり、pH7.0を使ったり、統一性がありません。
平田自身ではn-オクタノール/水分配係数 pH7.4で比較すると10以上(Log>1)であれば肝代謝薬物(プロプラノロール、リドカイン、メチルプレドニゾロンなど)、0.1未満(LogP<-1)であれば腎排泄薬物(アシクロビル、テイコプラニン、エナラプリル)のような脂溶性と水溶性の分岐点のようなイメージを持っていますが、これはきれいに分かりやすい薬物を例示したまでで、実際にはこのようにきれいに分類できるものではありません。だから分配係数だけで正確に脂溶性薬剤または水溶性薬剤と評価することはむつかしいですが、薬物動態の考え方の補助因子として使える可能性はあります。薬物動態パラメータの中でもVdは臨床的には投与設計に使いやすいほうですが、CLは健常者であっても遺伝的な個人差が大きいため、使いにくいですよね。
Q2.加齢に伴い腎機能は低下していくかと考えますが、加齢に伴う正常な腎機能の低下もCKDのような病態と捉えても構わないもの良いのでしょうか。
A.加齢に伴い腎機能は低下します。つまり腎炎や糖尿病などの腎疾患がなくても高齢者は進行性に腎機能は低下します。1つの理由として加齢とともに心機能が低下することです。心機能が低下すると腎血流量も低下しますので、心臓と腎臓はつながっている。これを心腎連関と言います。そのほかにも加齢とともに柔らかかった血管が徐々に動脈硬化気味になります。その顕著な例が腎硬化症ですが、血圧が高い、塩分摂取量が多い、タバコを吸っているなどの様々な影響により、腎機能の悪化は促進します。
加齢とともに末梢の細動脈圧は上昇し、動脈硬化が進行し細動脈の内腔はリモデリングによって狭窄して腎血流量が低下して、糸球体での濾過能力が低下しますが、このリモデリングに関わっているのがレニンアンジオテンシン系(RAS)のアンジオテンシンⅡやアルドステロンです。腎血流量が低下しているのに、糸球体濾過量がある程度保たれているのはネフロン数は減少しているのに、RASの亢進によって正常に機能している数少ない糸球体に負荷がかかっているためと考えられます(図)。だから若年者で腎炎や糖尿病性腎症でCKDになった人と同じように、高齢者もネフロン数は減少し続けます。つまり、加齢に伴う正常な腎機能の低下も広い意味では、CKDのような進行性の病態と捉えても構わないと思います。
九州労災病院 重見貴子先生
Q.危険性は充分承知しておりますが終末期のNSAIDS使用は、やむを得ず、利益も大きいと考えます。もちろん臓器障害によるあらたな苦痛を生む可能性もありますが、実際ご逝去される最後の時間まで腎不全にいたることなくオピオイドとともに力になることが多いようにおもっています。
モルヒネに限ってはCCr30(実測値ではございません)のCKDであっても注射製剤は活性代謝物蓄積はあっても量に注視すればかえって苦痛なく使用できる場面もございます。
リリカやミダゾラムなどと異なり、活性代謝物の主作用が強度でない場合・許容できる場合は問題ないのであれば、躊躇なく提案してもよろしいものか、それとも筋肉量の低下で数値異常のCKDは進行しているととらえて一切使用すべきでないのか尿細管障害がでていない腎障害に関しまして、今後のご講義の中でご教授賜れればと存じます。
A.僕が薬剤師をやっていた2005年まではモルヒネしかがんの疼痛緩和に用いられる強オピオイドのラインナップはそろっていませんでした。そして透析患者さんに使っていましたし、そんなに使いにくいとも思っておりませんでした。でも今はせん妄を起こしにくい強オピオイドのフェンタニルやオキシコドンが使えるようになったので、腎機能低下患者にはあえてモルヒネを使わなくてもいいのではと思っています。
NSAIDsはアセトアミノフェンと異なり、抗炎症作用があります。だから痛風のような急性疼痛については間違いなくNSAIDsを使用すべきでしょう。しかし後期高齢者で膝や腰が慢性的に痛む方やがん患者さんにずっとロキソプロフェン3錠×30日分の漫然処方はいかがなものでしょうか?僕は腎臓が専門なので、腎障害の話をしていますが、実臨床で最も悩ましいのは胃障害と消化管出血だと思っています。後期高齢者は胃も弱っていますし、痩せて体格も小さくなっている方もいます。NSAIDsを漫然投与して、消化管出血による突然死を経験したことはないですか?空腹時に服用して、胃痛のため、のたうち回って苦しんで入院する方を見たことはありませんか?微小変化型ネフローゼの小児がステロイド投与によって、前日まで何の消化器症状もなかったのに、大量輸血が間に合わないくらいの吐血をしながら死亡した症例も複数経験しました。がん患者さんや高齢で栄養状態不良の透析患者さんに「空腹時には飲んではいけません。必ず何か食べてから」というNSAIDsの服薬指導は通用しにくいと思います。またCYP2C9基質薬物が薬剤師の目の届かないところで併用されることもあり得ますが、イブプロフェン、インドメタシン、メフェナム酸、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブもCYP2C9を阻害して起こる消化管出血の報告もありますが、ロキソプロフェンについてはCYP2C9基質かどうかすら分かっていません。
僕は主治医と相談してNSAIDs経口薬の処方に対して、直接の胃障害を防ぐためにNSAIDsの座薬に変更していただいたことも多くありました。ただしこれも漫然投与すると、前述のステロイドと同じようにある日、突然、症状もなく消化管出血を起こすんじゃないかしらと心配しつつ投与することを考えると、まだトラマドールやアセトアミノフェンの方が使いやすいと思っています。そしてもう少し使用経験が増えれば、胃には優しく出血を助長せず、心血管病変や腎障害の少ないセレコキシブの選択もありだと思います。
すみません。感傷的な答えになっているかもしれませんね。経験した症例というのははエビデンスレベルが低いものです。上記の情報に関してエビデンスレベルの高い報告については以下の論文をご覧ください。
Hiragi S, et al. Clin Epidemiol. 2018; 10: 265-276
Miki K, et al: I Orthop Sci 23: 483-487, 2018
Inoue G, et al: Spine Surg Relat Res5: 252-263, 2020
南相馬市立総合病院 中島鉄博先生
Q.腎臓の髄質の高い浸透圧を形成するNa、尿素の蓄積の機序についてご教授下さい。宜しくお願い致します。
A.おっしゃる通り、尿の濃縮は髄質で行われますが、機序はヘンレループの下行脚での水の再吸収によって濃縮されます。腎臓のはなし – 130グラムの臓器の大きな役割(中公新書)の著者の坂井建雄先
そしてヒトが稀釈尿を排泄することができるのはヘンレループの上行脚がNa+を再吸収することによりますが、ここでは水や尿素は非透過性であるため、髄質の浸透圧は高いまま。そしてさらに遠位尿細管でも能動輸送によってNa+が再吸収され水に対して不透過性であるため、尿の稀釈が起こって浸透圧が非常に低くなりますが、ゼロではなく50~100mOsm/の中途半端な低張尿にするのは、尿素という老廃物でヒトにとって全く不要なものなので、尿素を排泄するためだと勝手に思っています(平田のopinion)。まとめますと髄質の高い浸透圧を作っているのはヘンレループの上行脚と下行脚の物質透過性の違いによる対向流増幅系モデルによると考えられます。
平成横浜病院 廣瀬 里美子先生
Q.腎機能が悪くなると、尿酸値が上がってきますが、尿酸値を下げる薬は飲んだほうが良いのでしょうか? 低腎機能だと処方しにくい薬も多いのですがそれなりの補正は必要なのでしょうか。補正する医師と、無視する医師、混在する私の病院では意見が分かれています。先生のご意見もうかがいたくよろしくお願いいたします。
A.平田はアロプリノールによる中毒性表皮壊死融解症(TEN)による死亡者を経験しています。その時、僕の病院でも死亡に携わった医師のように補正しない派と尿酸値10以上ではさすがに放っておけないという派に分かれました。僕は前者で、痛風腎以外では放っておいていいと思っています。ある地方都市で透析クリニックの院長ばかり20名が集まって講師をしたことがあり、この話題になって、「アロプリノールによる死亡者を経験したことがある人はいますか?」と聞くと、なんと半数の10名がアロプリノールによるTENによる死亡者を経験しており、そのうち3名は「全くアロプリノールを投与していない」と言っており、透析患者では13mg/dLまで上昇するがそれ以上は上がらず、何も起こらないということでした。これも個人的な経験談で申し訳ありません。
アロプリノールは台湾ではHLA-B*5801というHLAの遺伝子検査をしないと投与できないという話もありますし、アロプリノールの活性代謝物のオキシプリノールが腎不全患者で蓄積しやすいことが問題になっており、Hung ら 1)も腎不全患者 ではこの過敏症が 4.7 倍起こりやすいこともあわせて報告しています。TENは3型アレルギーという説もありますがラモトリギンでも過量投与によるTENの報告が多いことから、やはり腎機能に応じたアロプリノールの減量は必要と思いますが、高度腎障害で1日1回50mgの用量では実際には尿酸値をコントロールできないことが多いです。
透析患者ではフェブキソスタット、CKDではそれに加えてドチラヌドという選択肢が出てきましたので、TENを防ぐにはこれらを使えると思います。ベンズブロマロンはよく効きますが、肝障害がきつくて海外では製造中止になっている国が多いです。フェブキソスタットはアロプリノールに比し、心血管死の発症が多かったという報告も併せて薬剤の選択を考慮していただければと思います。
1)Hung SI, et al: Proc Natl Acad Sci U S A. 102: 4134-4139, 2005