9月19日(木)に株式会社EPファーマラインによる第36回薬剤師アカデミーで「どんな薬かをイメージしてみよう!学び直し 薬物動態学」というテーマで90分の講演をさせていただきました。
 おかげさまで4000人近くの方が視聴されましたが、当日はネット環境が不調によりマイクの不調、マウスが動かないなどのトラブルがあり、精神的に葛藤があって、決して良い内容とは思わなかったのですが、聞き直してみるとEPファーマラインの担当の方の編集によって、わかりまとめていただいたように思います。おかげさまで多くの方から、高評価をいただきました。
 この講演前に多くの事前質問をいただきました。今回は、その事前質問にお答えさせていただきます。

平田純生


第36回薬剤師アカデミー
「どんな薬かをイメージしてみよう!学び直し 薬物動態学」
【事前質問】に対するQ&A

1. 薬物動態学の学び直しとしてお勧めの書籍があれば教えてください。

A.僕は30年くらい前にどんぐり工房の菅野彊先生が医薬ジャーナルから出版された本を愛用していましたが、医薬ジャーナルが倒産、廃版になっています。
菅野彊先生の薬剤師のための『薬物動態学10の鉄則』 (薬剤師のための書籍)がいいかもです。菅野先生は動態学者ではなく、薬剤師目線で書かれているのでわかりやすいです。でもそれである程度理解出来たら、他の著者の本も読むことをお勧めします。


2. 添付文書の薬物動態の活用方法、薬効が出始めるまでの時間を患者様に説明する時に何をどう調べたら良いかを教えてほしいてす

A.血中濃度と薬効がパラレルに動くNSAIDやアセトアミノフェン、Ca拮抗薬などは説明しやすいですが、PPIなどは血中濃度と関係しない薬では動態と薬効は関係しません。薬の効果発現時間はそれぞれ異なりますから、それなりに調べる必要があると思います。
例えばSGLT2阻害薬の腎保護作用は1年経過しないとeGFRが飲む前よりも改善することはありません。むしろ1~2か月の間は腎機能が悪化することがあるが悪化した方が長期的な腎保護作用は強力だという報告もあります。そして利尿作用はカナグリフロジンでは1日のみ、他のSGLT2阻害薬も利尿作用は2~4週間で消失します。1か月経過すると脱水を起こすどころか脱水を起こす薬と併用しても急性腎障害の発症を抑える作用があります。SGLT2阻害薬はこのように非常にむつかしい薬ですが重要なのでJSNPでは学会HPから無料で患者向け指導箋、医療者向けの解説をダウンロードできます。


3 .スタチンなど薬物動態と薬効に直接相関が見られない薬剤について、薬物動態学動の観点からできるアプローチはありますか?

A.スタチンはLDLがどれだけ下がったか、つまり薬効が分かるので、動態を見なくてもいいのではないかと思います。

4 .服薬フォローをするタイミングは定常状態がベストですか?

A.服薬フォローは常時必要だと思います。定常状態になっているのに血圧、血糖に大きな変化があれば、降圧薬、糖尿病治療薬のノンアドヒアランスが疑われます。

5. 薬局薬剤師として実践的な薬物動態の考え方を学んでスタッフ同士で共有して行きたいと思います。導入しやすい学びのツールなどはありますでしょうか?

A.症例検討会をやってみてはいかがでしょうか?処方箋に検査せんがあれば、どのような患者でどのような経過をたどっていることをディスカッションすれば力がついてくると思います。

6 .色々な薬物動態の考え方があると思われますがその知識に関して「患者からどんな訴えがあった時」「お薬の作用などに関してどんなことを確認したい時」といった視点で各種薬物動態の考え方を教えていただけないでしょうか?実際の現場での活用方法を具体的に教えてほしいです。

A.最も実践的なことは高齢者の脱水による一時的な腎機能低下とそれに伴う腎排泄性薬物の血中濃度上昇でしょうね。脱水はBUN/Cr>20、数日間の体重減、爪毛細血管再充満時間>2秒、皮膚の張りの低下、唾液分泌減少などで簡単にわかります。
水溶性薬物、例えばβラクタム系抗菌薬のVdは浮腫で増加しますし、脱水で縮小します。
肥満患者では脂肪量増加によって脂溶性の薬物のVdが増加すると思われます。例えばクロルプロマジンのVdは20L/kgですから50kgの人で1トンですが、肥満患者でVdが増えれば血中濃度が上がりにくいと思いますし、半減期も結構延長しそうです。

7. 保育園等で分3の抗生剤(ワイドシリン、メイアクトなど)の昼を飲めないとき、帰宅後と眠前が3時間あけられれば飲むように指導してよいのでしょうか?また、3時間開けられない場合、安全性の面から耐性菌や効果不足のリスクもあるが1回分はとばして分2でよいと考えてよいのか教えてください。

A.PK/PD理論から言えば、睡眠時間を除いた時間が16時間であれば朝起床時、寝る前、起きて8時間後が理想的です。
ただし、ワイドシリンAMPCのFは90%近くあって抗菌スペクトルもそんなに広くないペニシリンなのであまり問題ありませんが、メイアクトは第3世代なのでグラム陰性感染症に小児が罹患することってありますか?しかもFが不明ですが、イヌで9.5%のデータしかありませんが、ヒトでも非常に低いはずです。そうすると腸内殺菌のために使われる。そのため腸内細菌叢が破壊されることによって小児のアレルギー発症の原因になることは論文もありますし、若年期の自己免疫疾患の原因になります。同じ第3世代セフェムのトミロン、セフゾン、セフスパンのFはすべて30%以下です。70%以上は腸内殺菌に使われることになります。

8 .薬物動態の基礎を学ぶのにお勧めの書籍を伺いたいです。抗生剤の供給が非常に不安定です(サワシリンやケフラールが入りにくい)。そんな中での、抗生剤の選び方や使い方をご教示ください

A.経口抗菌薬を使うなら、サワシリンやケフラール、ケフレックスは良い薬です。それは抗菌スペクトルがあまり広くなくてFが高いからです。Fの低い第3世代経口セフェムは使わないでほしいと思っています。飲んですぐはメリットがあるかもしれませんが、腸内殺菌によって共生細菌の多様性が失われて1~数年後にアレルギーや自己免疫疾患を起こすことが報告されているからです。

9. RAS阻害薬などによるinitial dipに合わせて腎排泄薬剤は投与量を調節した方が良いでしょうか。

A.RAS阻害薬、SGLT2阻害薬ともに腎排泄ではありません。でも腎機能がかなり悪くなってからの投与開始は腎機能を悪化させる可能性がありますが、異論もあります。initial dipが大きい方がより腎保護作用が強いという報告もあります。とはいえ、initial dipが大きいと一時休薬する医師の気持ちは十分理解できます。

10. 腎機能低下時の薬の投与量決定に使用されるGiusti-Hayton法で計算式に入れる値の決め方について質問です。健常者Ccrは100か120か?尿中未変化体排泄率に幅がある場合は高い値で?より安全性を重視した値で計算するのがよいかお考えを伺いたいです。

A.健常者Ccrの正常値は125をお勧めします。120でも構いません。

11 .インタビューフォームなどに計算式で使う数値、単位がない場合は何を参考に計算すればよいか教えて下さい。

A.多くの数値は単位があるはずですが、例えば脂溶性を表すO/W係数は係数なので、単位がありません。質問の意味がよく分かりません。

12 .プラリアでカルシウム値が下がりすぎる患者さんへの対処方法を教えてください

A.下がりすぎれば危険ですので、活性型ビタミンD+Ca剤という強力な治療を行います。

13 .凄く初歩的な内容なのですが、患者さんからどれくらいで薬が効いてくるのかとよく質問を受けます。添付文書内だと、Cmax時間やTmaxを参考にお答えしているのですが、問題ないでしょうか。また、OTCにおいては医療用医薬品のデータを参考にすればよいでしょうか。

A.動態と薬効がパラレルな薬であればいいのですが、そうではない薬、つまりPPIやSGLT2阻害薬(尿糖は服用中止してもしばらく持続します)など受容体やトランスポータや酵素を不可逆的に阻害する薬などは血中濃度の推移を見ても仕方ありません。

14 .薬物動態の評価に必要なのデータが添付文書やIFに載っていない場合、どこから情報を入手しますか?Pubmedなどを活用して論文を検索するのが効率的でしょうか?

A.そのようにしています。PubMedは無料で、よほどレベルの低い論文でない限り英語論文はみれますのでどんどん活用しましょう。検索ワードは薬名とpharmacokinetics, 知りたいパラメータを入力すればよいでしょう。JSNPの発行しているグリーンブックの動態パラメータはそのようにして得ています。

15 .薬物動態学を薬歴に結びつけることが出来れば、より深い分析となると思います。取り入れやすいものなどあれば教えていただきたいです。

A.たとえば心不全で呼吸困難になった状態では消化管浮腫が起こり、フロセミド錠が吸収されにくくなるので、効きにくくなります。入院して静注製剤を投与して浮腫が改善すれば効果が戻ります。
また脱水・腎虚血によって腎機能は容易に悪化します。トリプルワーミー処方では当たり前に腎機能が悪化しますが、急性腎障害ですから輸液・飲水で腎機能が改善するのが普通です。

16 .帯状疱疹で、クレアチニンクリアランス35程度の場合、ファムビル(250)2錠/分1となるが、分2では駄目なのでしょうか?

A.ファムビルが濃度依存性の薬ならば1日1回の方が効きそうですが、時間依存性の薬であれば分2の方が効きます。AUCと相関性が高ければどちらでもいいという考えになりますが、ファムビルのPDがよくわかりません。

17 .脱水がある場合の薬物動態は、脱水がない場合と比べてどのようになるのでしょうか?(日赤名古屋第二病院の、研修医誤診と見出しをつけられた件で、鎮静剤セレネース注が通常量の半量を二回投与された状況の血行動態の考え方が知りたいです)

A.脱水がある場合、最も影響を受けるのは腎機能です。一時的に腎排泄脳が低下するため、腎排泄性薬物中毒が起こりやすくなります。細かなことですが細胞外液量が減少しますので、細胞外液に分布するβラクタム系抗菌薬などの水溶性薬物の血中濃度が上昇することがありますが、安全性が高い薬であれば、これで副作用が起こることはあまりないと思います。

18 .定常状態について、何となくわかっているつもりでおりましたが、いざ説明をしようとすると途端に自信がなくなります。実務実習生や患者さんにわかりやすく説明するにはどのようにお話したら良いか教えてください。

A.薬を連続投与した場合,血中から薬がなくならないうちに次回分を投与すると、血中濃度は徐々に上がっていきますが、半減期の4~5倍の時間が経過すると、薬物が体内に入る速度と体外に排泄される速度が同じになって、薬物の血中濃度の平均値が一定し安定した状態になります。これを定常状態と言います。ただしフロセミドのように半減期が非常に短い薬で1日に1~2回の投与の薬は定常状態にはなりません。

19.降圧薬、利尿薬、スタチンなどの薬物動態と薬効は相関しますか?

A.降圧薬、利尿薬、スタチンなどの血中薬物濃度の変化と相関する薬物はあまりありません。これらの薬の血中濃度の時間的推移を測定してインタビューフォームを載せているのは、薬物を商品化するために必須の薬物動態を知るためです(Phase 1試験)。でも例えばある種のスタチン薬を投与して血中濃度の上昇に伴ってLDLは低下するでしょうか?投与初期は低下するでしょうが、定常状態になるとLDLは朝測定しても夜測定しても大差ありません(時間薬理学の手法によって細かく調べると若干の差があるかもしれませんが・・・)。ただし薬物濃度が定常状態になるまでの投与初期に関しては薬物動態と薬効は相関する薬物はあり得ます。例えば講演で示したアダラートカプセルを頓服で投与すると血中濃度の上昇に伴いミラーイメージのように血圧が下がり、反射性の交感神経興奮によって血中濃度と相関して心拍数が急上昇するかもしれません。しかしこれは例外的でして、一般的に降圧薬、利尿薬、スタチンなどの薬物動態を知る必要性はあまりないです。それぞれ薬効である血圧、尿量・Na排泄量、LDLを見れば薬効は分かりますから。

20.利尿薬の利尿作用は持続しないのですか?

A.利尿薬を初回投与した時の尿量・Na排泄量が、繰り返し投与することによっても毎回、同じ利尿作用を示すことはありません。そのようなPK/PDを示す利尿薬があれば非常に危険な薬になりますが、利尿薬は劇薬でもありません。脱水気味になれば生体はNa・水を保つために生理的な水・Na保存メカニズムのレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の刺激や抗利尿ホルモンが分泌されるので、利尿作用は連続投与すると弱まりますが、耐性によって効かなくなったのではなく、生体の防御反応あるいは調節系によってNa・水の再吸収が亢進することによって利尿作用が相殺されたと考えるべきでしょう。同様の理由でSGLT2阻害薬の利尿作用も1日~数日で消失します。
 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ