2月28日の第44回の「基礎から学ぶ薬剤師塾」の「透析患者の便秘はたかが便秘ではない~死亡者300人/年は過小評価されている~」でお受けしたアンケートに記載されていた質問です。
質問
抗血栓薬と一緒にPPIを投与し続けることが多いですが、胃のpHが上がり、腸内環境にも影響することで、下痢などの消化器症状はないのですが、味覚異常を訴える患者に、プロバイオテックスは有効なカギになるでしょうか。亜鉛を投与したり、今回はPPIをH2ブロッカーに変えて、様子を見ているところです。何か他の提案があればご教授いただければ、幸いです。
回答
今回の講演は「透析患者の便秘」でしたので、透析患者について答えさせていただきます。透析患者の胃は脆弱でPPIは致命的な消化管出血を防いでくれる強力な薬です。そのため多くの透析患者にPPIが投与されていますが、胃内pHを上げる作用が強力なため、胃酸による外界生物の殺菌をできないため、腸内環境に悪影響をする可能性はおそらくあると思います。でもそれはPPIが悪いのではなく、胃内pHを上げることによるデメリットがあるということです。だからPPIだけでなくボノプラザンでもH2ブロッカーでも同様に胃内pHを上げるデメリットがあると思います。それ以前に、PPI投与によって胃の諸症状を改善し、消化管出血リスクを防いでくれる大きなメリットもあるということも忘れないでほしいです。
Proton pump inhibitors ×Taste disordersでPubMed検索しましたが、具体的にPPI投与によって「味覚異常」が起こるということは明確にされていません。「味覚異常」に対してプロバイオテックスが有効かどうかについても分かっていません。 プロバイオテックスは万能な薬でもなく、強力な薬効を持つわけではありません。ただし我々の腸内環境の悪化を防いでくれる共生微生物だと理解していただければと思います。野菜をたくさん摂ると腸内の善玉菌が増えて生活習慣病になりにくいから、10年~20年摂り続けた人は野菜不足の人に比べて長生きするかもしれません。でも食物繊維の多い野菜って、消化されにくいから腸内細菌のエサになるのですよね。例えば下痢気味の時に「身体のためにいいから」と思って野菜をたくさん摂ると、消化されにくいので、下痢はひどくなります。同様にプロバイオテックスを摂れば身体にいいと思って、免疫能の極端に低下した90歳の高齢者に投与すると身体にいいはずのプロバイオティクスによって致命的な感染症を起こす例だってあります。
この症例に対しては、私なら、やはり透析患者で欠乏しやすい血清亜鉛濃度を測定し、正常下限程度まで下がっていたらポラプレジンクの投与を医師に勧めるかもしれません。ほかに味覚異常をきたす併用薬がないかもチェックし、消化器専門医を受診することを勧めるとよいかもしれません。