7月9日(木)開催の、「抗菌薬適正使用の理論と実践 序論」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。


Q.本日は貴重なご講演をありがとうございました。質問させていただきます。抗菌薬は途中で飲むのをやめると耐性菌のリスクが高くなるので、最後まで飲み切るよう指導しますが、実際に中途半端に飲むことで、どれほどの耐性菌が発生しているという何か具体的なデータや報告はあるのでしょうか。

A.「飲み切らないと耐性菌が増える」は実証されているか?を直接検証した臨床論文はあるか?という問いの結論は、この因果関係を直接・実臨床で検証したRCT(無作為化比較試験)や前向きコホート研究は存在しないというのが現状です。

ただし飲むのをやめると抗菌薬濃度が低下し、耐性化しますが、in vitro・動物実験・PK/PDモデルで一貫して支持されるメカニズムですが、あくまでin vitroの理論です。つまり「中途半端な濃度で薬をさらすと、菌が薬に慣れてしまうだろう」という実験室(試験管内)のロジックから生まれた定説に過ぎなかったのです。

それどころか近年の国際的な医学界では、「症状が消えたら、むしろ早くやめた方が耐性菌のリスクを減らせるのではないか」という、これまでの常識を覆す議論が主流になりつつあります。

2010年代以降、世界的な医学誌(The BMJ や The Lancet など)で、「一律の飲み切り指導は科学的根拠を欠いており、むしろ耐性菌の増加につながる恐れがある」という論文が相次いで発表され、大きな議論を呼びました。

Llewelyn MJ: The antibiotic course has had its day. BMJ 2017; 358 doi:  https://doi.org/10.1136/bmj.j3418 PMID: 28747365では抗生物質に関する一般向け情報では、処方された抗生物質の服用を最後まで完了しない患者が、自分自身や他者を薬剤耐性のリスクにさらすことを強調することが多い。例えば、2016年の「抗生物質啓発週間」を支援する資料の中で、WHOは患者に対し、「たとえ体調が良くなったとしても、必ず処方された期間通りに服用を完了してください。治療を早期に中止すると、薬剤耐性菌の増殖を助長するからです」と助言している。同様の助言は、オーストラリア、カナダ、米国、および欧州における各国のキャンペーンでも見られる。また、英国では、中等教育課程のカリキュラムに事実として盛り込まれている。

しかし実験室の菌とは違い、人間の体には無数の「常在菌(善玉菌も含めた体内の菌)」がいる。必要以上に長く抗菌薬を飲み続けると、ターゲット以外の常在菌まで長期間薬にさらされることになり、結果として体内の常在菌が耐性化してしまうという明確なリスクが指摘されている。

ということで市中肺炎や尿路感染では日本では7~14日間の投与が一般的になっているかもしれませんが、禁煙のエビデンスでは3~5日で十分、長期投与すると副作用や耐性菌リスクがふえるだけだそうです。

ベテラン薬剤師の皆さん、ICTやASTが病院になかったころ、術後感染予防と称してセファゾリンなどを1~2週間投与してましたよね。何のエビデンスもないのに。


Q.先生が殺菌性抗菌薬と静菌性抗菌薬の表を作られていましたが、どのように考えて形ができあがったのでしょうか?勤めている病院(高齢者の長期療養型)では、グラム染色やTDMを行わない為、{今日の治療薬}の抗菌薬の表で菌の名称を見ていると、さらに混乱してきます。ざっくりとしたかんじで理解したいです。よろしくお願いします。 

A.殺菌性抗菌薬と静菌性抗菌薬の表を作ったのは僕ではなく、以前も今もいろんな本に載っていると思います、ただし腎排泄性化肝代謝かというのは僕の専門なので、このデータを外挿すると殺菌性抗菌薬は腎排泄、静菌性抗菌薬は肝代謝にたまたま分かれたことに気づきました。βラクタム系、グリコペプチド系などの細胞壁合成阻害薬は菌の外側に作用する薬が多く、親水性(水に溶けやすい)の分子構造をしている。ただしキノロンのようにDNAに作用する薬もありこれらは例外的に脂溶性だけど、モキシフロキサシンなどは肝代謝だから例外的に殺菌的抗菌薬と覚えました。アミノグリコシド系もタンパク質合成阻害薬ですが強い「殺菌性」を持っているのも実は例外ですがちゃんと水溶性ですね。

そして静菌性抗菌薬は菌の細胞膜を通り抜けて内部に入り、リボソームに作用してタンパク合成を阻害する薬が多いですよね。そのためには細胞膜(脂質二重層)を通過しやすいよう脂溶性が高く、分子が大きく複雑になるというように理屈をつけました。

僕は記憶力が非常に悪いので、何とかして理屈をつけないと覚えられないのです。殺菌性抗菌薬は腎排泄、静菌性抗菌薬は肝代謝だと覚えやすい。合わないものは例外として考えると覚えやすくなると思っています。

グラム染色は僕もやったことがありません。でもグラム染色によって細菌を分類することによって様々な分類ができる発見があって、記憶しなくても理屈で理解できるようになる情報がありますので、記憶力の良くない僕にとっては、このようにしてざっくりとしたかんじで理解しようとしています。この方法は覚えるよりも時間がかかるかもしれませんが、忘れにくい利点があります。


Q.脳外術後の手術部位感染SSI(Surgical Site Infection)で髄膜炎となり、髄液から非結核性抗酸菌が検出された患者がいました。その際4剤の抗菌薬を投与したのですが、その中にAMKとLVFXが含まれていたのですが、移行性的には不適切だったのでしょうか。

A.非結核性抗酸菌症(NTM症)治療薬のCSF移行性はキノロン系ではVdはモキシフロキサシン>シプロフロキサシン>レボフロキサシンと言われており、Vdが大きいキノロンがCSF移行性がよいと思いますので、僕だったらレボフロキサシンよりもモキシフロキサシンを提案するかもしれません。またアミカシンは親水性・高分子量でBBB通過困難と言われています。ただしこれは菌種がM. rhodesiaeによるCNS感染の症例報告からですので、具体的な菌種が分かないと正確な情報は得にくいです(Chen S, et al: Front Me 2024; PMID: 38882659より引用)。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

月別アーカイブ