9月10日(木)開催の、「腎臓が何をやっているか?(1)糸球体編~足細胞は再生できないから腎機能がよくなることはない~ (初心者編)」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。
Q.糸球体上皮細胞の脱落による弊害はアルブミンの漏出以外には
A.糸球体内圧の上昇と糸球体過剰濾過は足突起の癒合・消失(foot process effacement)して足突起によるジッパー構造が壊れて隙間が開いて、濾過障壁であるスリット膜の破綻を招き、アルブミン尿が出現します。
さらに進行すると糸球体上皮細胞(タコ足細胞またはポドサイト)の脱落が起こり、ポドサイトは分裂再生能が乏しいため数の補充ができず、ポドサイト密度の低下が不可逆的に進行します。ポドサイトが一定以上失われると分節性硬化が生じ、糸球体硬化が進行して糸球体ろ過量が低下し、ネフロン数の減少を通じて慢性腎臓病は末期腎不全へ進展します。
この過程はアルブミン尿の程度と密接に関連し、尿中ポドサイト(mRNA等)増加は腎機能低下進行リスクの指標になります。従って、ポドサイト脱落の弊害は「アルブミン・タンパク漏出」に加えて「糸球体硬化・ネフロン喪失・腎機能低下の不可逆的進行」を含みます。
とっても怖いでしょ?タコ足細胞の脱落はタコ足細胞は再生しにくいため、通常、腎機能が良くなることはなく、ネフロン数が減少し、進行性に腎機能が低下して末期腎不全になると、いずれは透析導入が必要になります。だから薬剤師は「尿検査をしていただいていますよね」という患者さんへの声かけ、腎臓内科、糖尿病内科の受診勧奨によってアルブミン尿・タンパク尿定量をしていただくとDMであればFour Pillars、非DM患者ではtriple therapyを投与していただいて、透析導入を防ぐことができます。これをせずに「血糖値を下げる薬ですね、朝食後に1錠飲んでくださいね」だけでいいと思っている薬剤師、検尿をしてくれない医師はどちらもイナーシャ(怠惰)だと思います。
Q.TPN施行中患者にSGLT2阻害薬の投与はあり?
TPN施行中のほぼ腸管を使用していない患者に対してSGLT2阻害薬を使用しても問題はないですか?高カロリー輸液にインスリンを加え、さらにSGLT2阻害薬を入れることにいささか疑問を感じますが、有益な場合もあるのでしょうか。先生のお考えをお聞かせ願えますでしょうか。
A.AHA/ACC等2024 perioperative guideline:SGLT2阻害薬は周術期の代謝性アシドーシス/正常血糖DKAリスクがあるため、手術の3–4日前に中止を推奨しています。
英国多学会コンセンサス(2025):SGLT2阻害薬は前日と当日に中止(多くは3日前推奨)
上記のように、現在の周術期ガイダンスの多くは、絶食・手術・感染・脱水などのストレス下では正常血糖DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)リスクが上がるため「周術期はSGLT2阻害薬を原則中止(術前3–4日)」を推奨しています。
絶食患者に、SGLT2阻害薬を投与すると血糖値低下→インスリン分泌低下、相対的なグルカゴン高値→脂肪分解・脂肪酸酸化亢進→糖尿病患者ではケトン体の異常上昇により、正常血糖DKAの発症リスクが上がります。SGLT2阻害薬を投与された糖尿病患者がこれから「血糖値改善のためにこれから厳格な糖質制限食(いわゆるケトン体食)にする!」といったら絶対にやめさせてください。TPNのような絶食相当の状況でも同様です。つまり「が急性期は中止すべき」というのが最新の国際的コンセンサスです。TPNは「経口摂取不可=絶食相当」で、ストレスホルモン・インスリン用量変動が重なり正常血糖DKAの好発状況だからです。
ただし論文の中にはTPN施行中でほぼ腸管を使っていない患者でも、SGLT2阻害薬は「腎糸球体で濾過されたブドウ糖の近位尿細管における再吸収を抑えて尿中に排泄させる」薬なので、腸管からの糖供給が乏しくても、作用機序上は問題なく作用すると思います。つまり糸球体過剰濾過を是正し、糖利尿を増加するはずです。それによる腎保護作用・心保護作用、急性腎障害や死亡率低下作用などが期待できるという報告もあります(PMID: 41721639)。TPNは栄養状態を安定化させるために実施するものであり、インスリンにより血糖値がコントロールされていれば、ケトアシドーシスの発症リスクが低下するので、SGLT2阻害薬の投与継続は可能だという報告もあり(PMID: 36872114)、特に急性腎障害や死亡リスクを軽減していますが、正常血糖ケトアスドーシスは増えています(PMID: 40305034)。絶食・TPNなど「低インスリン/相対的炭水化物不足」環境ではケトアシドーシス(特に正常血糖性DKA)の相対リスクが高まることもといわれています(PMID: 41721639)。
ということでまとめますと、TPN施行時のSGLT2阻害薬の使用は、心腎保護作用や予後改善作用という利点があるものの、ケトアシドーシスの潜在的リスクがあり、その発症のリスクが高いため、SGLT2阻害薬を手術3–4日前に中止するというのが現在のガイドラインの主張であり、周術期以外でも「腸管が使えずTPNを継続している入院糖尿病患者」では、SGLT2阻害薬の継続投与あるいは投与開始は一般には推奨されていません。SGLT2阻害薬を継続投与したいのであれば血中ケトン体やpHやHCO3-などのモニタリングが必要だと思います。