2005年10月

今日は事務員のネイサンの案内で授業前に白衣を買いにいく。久しぶりの快晴、「これぞ、オレゴンだよ。アスファルトの道なんかやめて土の道を歩こう」と言うネイサンと一緒に白衣を買ってからMackenzy Hallで午前中は学部長のDr. Kradjan(Applied Therapeuticsの編集者の1人)の心不全の講義その2とSandra Earles先生の薬物動態の講義。学部長は心不全治療の概論を述べ、Dr. Sinが実践の臨床的なことについて補則するという形式で、これはほぼ医学部で習うようなエビデンスに基づいた講義内容で、相変わらず学生の鋭い質問があった。これが3回生ではじめて臨床について習っていると学生から聞いて、日本の学生の甘さが感じられた。1004.pngだってかなり予習していないとあんな鋭い質問はできっこない。薬物の成分名だけでなく多くの学生が「ラシックス」や「ノルバスク」などの商品名まで記憶している。講義はメトプロロールとカルベジロールを比較して長所・短所を説明するなど、内容はかなり濃い。1時間後に5分間の休憩があるが学部長とDr. Sinの周りには質問をする学生が列を作っている。これもなんという積極性、日本と大違い。
2時限目は実践的な薬物動態。薬物を連続投与し、3ポイントの血中濃度を測定し、その結果から、X時間後の濃度はどれくらいになるかを関数電卓を使うだけではなく、片対数グラフを使ってOHPのシートに書きながら説明する。もちろん学生も片対数グラフをもらって半減期、AUCの計算、平均定状状態濃度の計算をする。最後には数人ずつに1台コンピュータが配られ、どのようにしてグラフを書くか、濃度の計算をどのような式を用いて行うかを習得する。こんな講義は薬剤師会の講演でも必要だと思う。だって日本の薬剤師はTDMをやるにも解析ソフトがないとできないと思っているし、VdもFもCLもほとんど知らないんだから。
食欲がないというか食堂のハンバーグやピザのにおいをかいだだけでもむかつくので昼ごはんはなし。本当はご飯と漬物と味噌汁がほしい。
午後は昨日と同じAli Olyaeiのオフィスに行くが、方向音痴なので何度も道に迷った。でもみんな親切に案内してくれた。オレゴンの人はみんな優しい。
Aliにはレジデントの学生2人と一緒に最初に高リン血症治療薬、ACE-I, ARB、腎毒性について講義を受けた。主に学生2人に先に質問をしてくれたが、日本の大学院生とは比較にならないくらいレジデントの学生のレベルはかなり高い。彼らは常にPDAを持っていてその中に医薬品集formularyが入っていて、先生の質問にもすぐに答えられる。
講義の後は5時までAliと一緒に病棟に回る。クレアチニンが2.2mgの心内膜炎にゲンタシンとバンコマイシンが併用されていることが判明。TDMはドクターが指示を出しているが、ゲンタシンを200mg近く投与し、トラフ値が11.5mg/Lと異常高値であることが判明。このままでは腎機能は悪くなる一方のはず。直ちにドクターにゲンタマイシンの投与をやめて血中濃度測定を依頼する。TDMは医師が指示するが実際には薬剤師が主導権を握っている。バンコマイシンの目標トラフ値を聞くと「10~20μg/mL、で肺炎の時には20μg/mLに設定する」といわれ、AliはDr.Craigの最新の文献をチェックしていることがわかった。日本では添付文書が10μg/mL以下になっているから、こんなことを言う人は僕と森田先生(同志社女子大)しかいないと思う。
Aliはどんなに患者が重症でも積極的に服薬指導に連れて行ってくれた。この内容がすごい。まず処方を作成し、ドクターの了解を得ると薬の一覧表を作り、処方箋を薬局にFAXしできた薬を持って説明する。ここまでは僕たちと一緒(僕は最初から処方することはなかったが)。服薬指導では膵腎同時移植した患者に一覧表を渡し、薬の名前、いつのむか、何錠飲むか、食後に服用するべきか、副作用は、について説明し終えたら、リピートさせる。つまり「朝飲む薬の名前は?何錠のむんだっけ?食後か食間かいつに飲むんだっけ?」のように。これは南カリフォルニア大学のDr.Sigbandが提唱している「フィードバック」の手法をちゃんと守っている。患者のほうも免疫抑制剤やステロイド、そしてそれらの副作用を防止する薬だから必死になって答える。答えが完全になるまでフィードバックさせる。日本では患者の理解力がありそうならそこまではしないが、患者は見た目では判断できない。理解しているようで理解していないことが多いため、この手法は日本でも取り入れるべきだと思った。
1004_2.png米国ではPTPや散剤はほとんどなく錠剤を瓶に詰めて渡す。そのかわり一週間分の朝昼夕寝る前の28分割のケースはちゃんと渡してた。錠剤を半錠にするのも錠剤を砕いて粉にする器械(ピルクラッシャー)も簡単なプラスチック製のものがあってそれを患者に渡し、患者自身が粉にしたり、1/2錠にしたりで、案外不親切なようだが、考えようによっては患者に任せている、つまり独立心を大切にする国民性の表れなのかもしれない。
次に腎不全からCAPD導入後、腎移植を受けたが、タクロリムスの副作用で糖尿になってしまった1歳の女の子のところにいく。小児病棟では白衣を見るだけで赤ん坊は泣くので、白衣を脱いで部屋に入る。免疫抑制剤を投与されているので、厳重に手を洗うが、マスクやガウンは着ない。なぜなら個室なのに日本の6人部屋よりも広いから患児から遠く離れて父親に服薬指導をする。免疫抑制剤などの大切な薬なので、父親も一生懸命になって話を聞いてくれる。「ほかの薬剤師が食間に服用って服薬指導しても絶対に食後に服用しなきゃだめ」と説明しているのが気になったが、胃腸障害を起こさない配慮だと思う。
服薬指導の途中でAliの顔見知りの女性腎臓内科医と会う。僕を紹介してくれて「腎障害患者のNa制限は日本では6~7g/日なんだって?アメリカでは2~3gよ」と聞いてビックリ。日本人は1日2~3gの食事は不可能だ。アメリカ人との食生活の違いを感じたが「東北地方の人は1日30gの食塩を摂るんですよ」と説明すると今度は相手がビックリ。
ほかにもかなり重症の患者を見た。だってAliは腎専門薬剤師といっても移植病棟の専任薬剤師だから。彼の実力は本当にすごい。僕も完全に脱帽である。今日も寂しくホテルに帰る。早く日本に帰りたい。母ちゃんのおかずが食べたい。漬物と味噌汁だけでもいい。でも学ぶべきことは多い。辛抱、辛抱。

今日習ったこと:
ラシックスの最大投与量は注射で240mgを1日2回。
急性期には半減期の長いカプトリルがよい。
Ejection fractionの改善はカルベジロールのほうがメトプロロールよりもよい。しかし血圧はカルベジロールのほうが低下しやすい。
βブロッカー全体にいえることだが、メトプロロールは倦怠感、めまいを起こしやすい。
腎毒性について調べるにはClinical Nephrotoxins ?Renal injury for Drug and Chemicals, 2nd Edがよい。Kluwer Academic PublishersからMark E DeBroeらの編集で売っている成書。
ACE, ARBの使用はDM発症率を低下させる。
イトラコナゾールはin vitroでは効果が高いがin vivoでは弱い。
アメリカの透析患者は健常者に比べて35倍早く死ぬ。
リン吸着薬の使用は炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、レナジェルの順。
シナカルセットの効果は高い。
アムホテリシンBの構造は水溶性サイドと脂溶性サイドがあり、そのため組織移行性が高い。
アムホテリシンBは尿細管障害により2~3週間の使用でGFRが低下する。ただし早期にクレアチニンやBUNが上昇する(80%)。
アムホテリシンBを3ヶ月使用すると85%の腎障害が回復しない。
アムホテリシンBを2g(約20日)以上の使用で45%の腎障害が回復しない。
Deptomycinは肺炎に有効だがcyclo lipopeptideという新しい種類で横紋筋融解症が起こることがある。
フェニトインには心毒性があるため投与初期から注意深い観察が必要。

いよいよ今日から大学へ。興奮しているからか朝4時頃目が覚めました。MAXという市電に乗ってバスに乗り換えていくんだけど少しややこしいい。行ってみると僕は教授扱いで広いオフィスとコンピュータをもらいました。学生も教授たちもみんな僕のことを知っていていろいろな人に話しかけられて戸惑いました。でもやってることは学生か実習生だけどね。授業は心不全と薬物動態の二科目。薬物動態も日本とは異なり実践で使える臨床薬物動態学すごく白熱していてしょっちゅう学生が先生に質問するし、先生も学生に問いかけると学生はみんな先を競って答えを言う。教授の教え方も丁寧でわかりやすく手作りテキストも充実している。日本の大学で教授が難しいことを言って、何も反応しない学生ばかりなのとはわけが違う。
午後になって腎臓専門薬剤師のAli Olyaei(イラン系のnephrologist、すごい病棟薬剤師で、腎毒性の講義もうまい)について病棟を回る。オレゴン州の薬剤師には処方権はないが、重症患者の処方は全面的に任されている。処方を病態、体格にあわせて処方し、ドクターのところに行くと「Perfect!」の一言。それから薬局に処方せんを送り、処方をもらったら、即、患者のところに行き、服薬指導。今日は腎移植を受けた1歳の赤ちゃんや肝移植を受けて退院間近の高齢女性。どちらも免疫抑制剤やその副作用防止のための処方で、処方数もかなり多い。頻繁にポケベルが鳴り、そのたびごとに病棟に行く。患者さんや意思やドクターから「Hi! Ali」と声をかけられていつもにこやかに対応する。その後、薬学研修生2名と一緒に腎毒性についてPower Pointを使った講義を受ける。僕も薬物の腎毒性についてはよく知っているつもりだったけど、完敗だった。もっと勉強しなくては・・・・。それと驚いたことに腎不全の薬物療法の世界一の権威であるWilliam Bennet先生がポートランドに住んでいて、Ali Olyaeiもムナ先生も彼の教え子のnephrologistだった。僕がBennet先生のことを尊敬しているというと、すぐに電話をかけてBennet先生と話ができた。彼はシカゴ出身でホワイトソックスの大ファン。井口の話もした。
大変な一日だった。これが毎日続くと神経が参りそう・・・・。

今日習ったこと:10/3
Pixisという自動薬物引渡し装置が薬局にあったこと。
ACE-Iは副作用を考慮して少な目から投与すること。
ACE-Iの中でラミプリルは半減期が飛びぬけて長い(50~120hr)。心筋梗塞後の予後もACE-Iの中で一番よい(Pilotel, et al: Am J Intern Med 141: 102-112, 2004)。
ACE-Iの蛋白尿抑制作用はdose dependentだが、降圧作用はdose dependentではない。
ACE-Iによる血管浮腫はいつ起こるかわからない。投与後1年後に起こることもある。これはbradykininは関与していない。
ACE-Iに比べてARBのほうがカリウムは上がりにくい。
MDRD法は従来のCockcroft法に比べて優れている。計算式は複雑だが、検索エンジンでMDRPとCalculationで自動計算できる。
トリメトプリム、シメチジン、セファキシジンは腎毒性がない。

今日あった先生:Hearleen Sings(Internal medicine, Heart failure), Dale Kramer(統計と薬学経済学)、Donna Bella(PK), Wayne Kradjan(Heart Failure, Dean)、Allison(Aliのボスのnephrologist)、Ali Olyaei(イラン系のnephrologist、すごい病棟薬剤師で、腎毒性の講義もうまい)、Anji and Neithan(事務)

今日、会った学生:Sully(大阪出身の友達がいるメキシコ系の?女の子)、Hai(ベトナム系の男の子でカリフォルニアに家がある)、Thuy Duong(日本語のうまい子)

今日行った所:Gaines Hall, School of Nursingを通って講義室(Mackenzie Hall)、Hatfield research Center/HRCV emergency Dept 9階:Ali Olyaeiのオフィス)

今日は昼にムナ先生一家がたずねてきて中華レストランで昼をご馳走になりました。ご主人はウイリー、長男は高1のマシュー、小学校5年のジャスミン、その後、お宅を訪問しましたが、これが大豪邸、築10年だけどすごくきれいで、子供2人ともスポーツ好きで、ジャスミンとは英単語をどれくらい知っているか競争したり(これは僕の圧勝)、クイズをしたりで仲良しになりました。そのあとコウズのような量販店Coscoに行き防水コートとジャージの上下を買いました。驚くほど安いです。昨日行ったダウンタウンは日本のデパート並みに高くて何も買えませんでしたが・・・・。マル1002.pngちゃんのカップめんが24個入りで6ドル足らずという安さだったので、思わず買ってしまいました。買い物を済ませてからムナ先生のお宅に行って夕食をご馳走になりました。10月末にはハロウィンがあって、僕も招かれましたが、仮装していかなきゃならないそうです。アメリカ人との付き合い方ってよくわからないから少し不安・・・。アパートには10月10日に引越しです。ホテル住まいはビュッフェスタイルの朝食付きなので、食べ終わってからパンやりんごをポケットに入れて昼ごはんにしています。1人でレストランに行くのは苦手です。

ポートランドのエージェントの方の助けで今日になってようやくインターネットがつながりました。でもおかげで東京に30分も国際電話しました。今月の電話代は高いだろうね。
今日は1人で大学まで行ってきました。だけど、どうやっていけばいいかエージェントの人もホテルの人も誰も知らない。交通会社に電話で問い合わせたけど今日は土曜日だから電話も休み。さっぱりわからないので、不安だったけど電車の中で南米から来て10年以上住んでいるエマというおばさんに話しかけられて、親切にも大学まで連れて行ってくれました。話によると娘さんがこの病院で亡くなったみたいで、だからよく病院の行きかたを知っていたんだろうけど、この話を聞いてつらかったです。ホテルからだと大学まで電車とバスの乗り継ぎで30~40分くらいかな?

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メール:T先生(白鷺病院の元同僚でテニス仲間)へ
明日、会う約束の先生からのメールでは月曜日は先生たちと昼ごはんを食べて紹介するとメールで書いていましたので、長引くかも知れません。明日、いつか早く終われる日があるかどうか聞いて見ます。
今日、日本食を売ってる店「安全」に行きましたが、約2倍以上しますね。「緑のたぬき」が300円から400円なんて信じられないくらい高いですね。お米だけは安いですが。

メール:T先生より
こちらにも、それに似た店がありますが、特価日で、160円ぐらいでしたけどね。オレゴンは、日本食を売っている店は、高いのかもしれませんね。
確かに、こちらでも日本食品は、割高ですが、1個買えば、結構一人なら十分ですよね。
もし、可能なら10月8日に、平田さんが、レンタカー借りて、シアトルに来て、10月9日の夕方にポートランドに帰るというのは、どーですか?多分、その頃には、僕の車がないので。
多分、車を持たないなら、シアトルに来るのは難しくなると思うので。どーですか?この機会に。
まあ、ガソリン代、車代を考えると割り高になりますが、ホテル代は、いりませんよね。でも、フトンが、一人分しかないのですが、敷布団は、近所にTN先生が住んでいるので、キャンプに使うマットは、借りてこれるので、上フトンを買ってもらえれば、ありがたいのですが?
でも、アパートに移ったならば、必要になるでしょう。その分で、シアトルで買ってもらうというのは、どーですか?IKEAと、いうのが、あって結構なんでもそろっているので、Twinならば、$40ならば、いい掛けフトンが、売っていますが、もし来るなら買っときますが。代金は、後払いでお願いしたいのですが。
もし、来るとしても夕方になるでしょう。来た時に、フトンが無ければ、寒くて眠れませんよね。
地図は、インフォーメーション・センターに行けば、もらえると思いますよ。土曜日で朝ならば、I-5は、すいていると思うので、運転しやすいと思います。左車線を走って、こちらは、右車線が、追い越し車線です。

I-5を北に向かい、I-405(Bellevue)に入って、北に向かいます。Exit13で、降りて、NE8thを東に向かうと、156thAveというのが、あってそこが、Cross Road Mallになっています。そこで、電話をくれれば、待ち合わせ場所まで、徒歩10分くらいで行けるところです。
また、連絡下さい。

T先生へ
国際免許は持ってますが、僕が車の保険に入っていないのでレンタカーは難しいですね。数日間の保険でもあれば別の話ですが。それよりも「地球の歩き方」をなくしたため地図がないので地理をほとんど知らないのが一番の不安ですね。
お会いしたいのはやまやまですが・・・・。
 
この後の電話で結局、レンタカー代は出すからT先生にシアトルから来てもらうことにしました。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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