生理食塩液(NaCl)はNa+が細胞膜を自由拡散しないため細胞外にとどまり、細胞外液補充と「有効浸透圧(tonicity)」の上昇に寄与しますが、5%ブドウ糖液は輸送体依存で細胞内に入るので細胞内脱水に用いるというのは常識。では高血糖は口喝を起こすがBUNの上昇するCKDでは口喝になりにくいのはなぜ?
【生食とブドウ糖液】
Na+は細胞膜を自由拡散せず細胞外にとどまるため細胞外液補充に用い、有効浸透圧(tonicity)を強く上げ、口渇や水移動を引き起こします。一方、ブドウ糖は輸送体(GLUT/Na+-グルコース共輸送体)依存で細胞内に入る(そのため細胞内脱水に使用)が、細胞外に瞬時に入ることができないため、急性高血糖では有効浸透圧有効浸透圧物質として働きます。
【糖尿病と口渇】
糖尿病関連腎臓病の初期症状は口喝・多尿・多飲です。高血糖は血漿浸透圧と有効浸透圧(tonicity:細胞膜を越えて水移動を起こす実効的な浸透圧)を上げ、視床下部の浸透圧受容器を刺激して口渇とバソプレシン(ADH)の分泌を促します。ADHは集合管のV2受容体→cAMP→AQP2(水チャネル)を介して水再吸収を増やし、尿を濃縮して浸透圧を是正します 。Na+だけでなくブドウ糖も「有効浸透圧物質」であり、細胞外の高張化→細胞内脱水→口渇という連鎖を起こします 。
【CKDのBUN上昇で口渇が弱い理由】
BUNは血漿浸透圧には寄与しますが、細胞膜を容易に通過するためtonicityに乏しく、持続的な細胞脱水を起こしにくい=口渇刺激が弱いです。尿素が膜を通過しやすいのは、分子量が60Daと小さいことによる単純拡散だけではなく、UT-A/UT-Bと総称される尿素トランスポータや一部アクアポリンにより促通拡散(濃度勾配に従い、輸送担体を使って物質を速やかに移動する現象)されるためです 。エタノールも小分子で膜透過性が高くいので、tonicityは上げにくいのですが、リチウム(Li+)はNa+チャネルや交換輸送などで移動はできますが自由拡散はせず、急性には細胞外にとどまるのでブドウ糖と同様、tonicityに寄与します(細胞内への取り込みは輸送体依存で比較的遅い)。
ただしややこしいことに尿素は浸透圧に寄与しないはずなのに、透析導入時の不均衡症候群のように急激に血中から除去されると一過性の脳内外勾配が生じ、水移動を促して嘔気・嘔吐などの不均衡症状を起こします。これは尿毒症では脳内のUT‑Bが50%減少し、逆にアクアポリン(AQP4/9)が2倍程度増加するため、尿素の脳外排出は鈍るのに水は入りやすいという不利な状態になる のが原因とされています。
またCKDでは血中ADHが高めでもV2受容体–cAMP–AQP2系や髄質高張維持の障害により尿濃縮不全が生じ、夜間多尿につながりますが、口渇は弱い一方で尿量は増えます。そのため、「こまめな飲水指導」をしても「夜中に起きてトイレに行くのが嫌なので、夕方以降は水を飲んでくれない」という人は男性の前立腺肥大症だけではなくCKD患者でもいらっしゃいます。
【まとめ】
・高血糖やNa上昇は「有効浸透圧」を上げて口渇を強く誘発 。
・BUN上昇は浸透圧を上げても「有効浸透圧」を上げにくく、口渇が目立ちにくい。
・尿素透過はUT-A/UT-B等で促進されるため細胞内外で平衡化しやすいが、透析導入時にBUNだけ急速低下すると脳浮腫が起こり不均衡症候群の原因になるので透析導入時は緩やかな透析を心がける。