薬剤師のための講座

③心保護メカニズムは心筋リモデリング抑制、心筋収縮性改善、電解質恒常性維持、利点は主要心脳血管イベント減少、心血管死減少、心不全入院減少

 SGLT2阻害薬の心保護作用は僕のイメージとしては腎保護作用ほど強力ではなく、30%程度だと感じています。CKDも慢性心不全も基本的に改善することはなく、進行を緩徐にすることしかできませんが、心不全の場合には適度な運動や薬物治療によって症状が良くなってNYHA分類がよくなった、あるいはBNPやNT-proBNPの値が この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

②腎保護メカニズムは尿細管糸球体フィードバックの是正、浸透圧利尿・Na利尿、利点は急性腎障害の発症抑制、アルブミン尿軽減、eGFRの悪化速度緩和とそれによる透析導入防止

 この論文を書いたEvans先生は糖尿病医なので、オリジナル文献では「浸透圧利尿・Na利尿」が先頭、その次が「尿細管糸球体フィードバックの是正」になっていましたが、これは明らかに違和感があるので順序を変えました。「浸透圧利尿・Na利尿」はむしろ心保護メカニズムのトップにしてもいいと思っていますが、利尿作用 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

①糖尿病の進行防止のメカニズムは尿糖増加、糖毒性軽減、脂質異常改善、利点はHbA1c低下、血圧低下、体重減少

 平田自身の抱いているイメージは糖尿病に関してはHbA1cを1.0足らず下げる程度で強力ではないし、SGLT2を完璧に阻害してもSGLT1がその分、頑張ってしまうので、SGLT2阻害薬の尿糖排泄作用は糖質を1日200~400kcal(炭水化物50~100gなのでご飯をお茶碗1~2杯分)摂っていなかったくらいにしかなりません。だから痩 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

 いやはや、とんでもなく良く効く薬が現れました。その薬は皆さんご存じのSGLT2阻害薬。ブドウ糖は腎糸球体でろ過されますが、重要な栄養素であるため尿細管で100%再吸収されるので、健常者では尿糖は排泄されませんが、SGLT2阻害薬はブドウ糖の再吸収を阻害して尿糖を増やす薬なので、血糖値を下げる糖尿病の薬として発売されましたが、安全性試験で「強力な腎保護効果、心血管合併症の発症を抑制する効果」が認められ、期待した製薬メーカーは次つぎと大規模無作為化比較試験に打って出ました。そして現在では①糖尿病治療薬だけでなく、②CKD治療薬、③慢性心不全治療薬のそれぞれ切り札的な役割をする、安全で強力な作用を示すことが明らかにされました。

 まずは図11をご覧ください。真ん中に示されている図はブドウ糖が腎糸球体でろ過され、重要な栄養分であるため近位尿細管で再吸収されますが、その再吸収するトランスポータSGLT2を阻害するので、ブドウ糖の近位尿細管からの再吸収が抑制され、尿中のブドウ糖排泄が促進されることがまとめられています。それによって血糖値・HbA1c値が下がり糖毒性が軽減され、糖質制限をしたのと同様な効果(体重減少、脂質異常改善、血圧低下)、それに付随して心血管病変(CVD)の発症率を抑えます。

 ではそれぞれの作用メカニズムと利点について明日から探ってみましょう。内容はEvans1らの論文をもっとわかりやすいよう、アレンジしています。

 

引用文献
1)Evans M, et al: Diabetes Ther 2022; 13: 889-911

『腎の構造と機能から学ぶCKDの病態』のテキスト(PDF)ダウンロードができます。

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『腎の構造と機能から学ぶCKDの病態』の目次です。

1日目体内水分量と電解質の調節:

2日目ヒトは細胞内液に原始の海を細胞内液には太古の海を持っている:

3日目:腎臓の構造について学ぼう

4日目:なんで腎臓病は良くならない?

5日目:最終的にアルブミンを漏らさない糸球体の濾過障壁は何?

6日目:糸球体の仕事をまとめ、糖尿病性腎症の進展について考えてみよう

7日目:腎臓のできることと限界

8日目:輸液療法

9日目:CKDの降圧療法はどうあるべきか?

10日目:蛋白尿(-)のCKD患者の血圧の下げすぎには要注意

11日目:薬剤師の皆さん、イナーシャになってない?

12日目:尿細管の名称と機能を知ろう

13日目:近位尿細管の機能

14日目:傍糸球体細胞による糸球体内圧の維持とレニンの役割

15日目:レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬の使い方

16日目:かなりあくどいアルドステロン

17日目:non-steroidal MRAフィネレノンの快進撃

18日目:集合管は尿量を最終的に決める~主役は水を保つADH~

19日目:水利尿薬としてのサムスカⓇ(トルバプタン)の作用機序と使い方

20日目:ナトリウム利尿ペプチド

21日目:サクビトリル/バルサルタンってどんな薬?

22日目:Fantastic Fourの効果と使い方

23日目:利尿薬について誤解していない?

24日目:サイアザイド系利尿薬再び

25日目:フロセミドは浮腫改善作用を持つ利尿薬であり、サイアザイドは利尿降圧薬

26日目:アルドステロン分泌異常疾患、ADHの分泌異常疾患による血清Na値異常

27日目:発汗によって脱水になったら、どうやって水分の喪失を防ぐ?

28日目:最終回『まとめの理解度テスト』

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

28日目(最終回):まとめの理解度テスト



  問  題  

問1.Naを保持して体液減少を防ぐのはなに?1つだけ選べ
①アルドステロン ②抗利尿ホルモン ③Na利尿ペプチド

問2.水を保持して体液減少を防ぐのはなに?1つだけ選べ
①アルドステロン ②抗利尿ホルモン ③Na利尿ペプチド

問3.体液量減少を感知して血圧を上げるために分泌されるものは?1つだけ選べ
①レニン ②アンジオテンシンⅡ ③アルドステロン

問4.Naを保持して体液減少を防ぐホルモンを抑制して利尿作用を示す薬はなに?

問5.水を保持して体液減少を防ぐホルモンが作用する受容体に拮抗して尿量を防ぐ薬はなに?

問6.高カルシウム血症による脱水には以下のうち何を摂取すべき?1つだけ選べ
①水を飲む ②OS-1を飲む

問7.フルマラソンに参加し完走した市民ランナーによる脱水には以下のうち何を摂取すべき?1つだけ選べ
①水を飲む ②OS-1を飲む

問8.ネフローゼ症候群によって血清Na濃度が132mEq/Lに低下した。この時の治療法は?

問9.ARNIとACE阻害薬の併用はあり?

問10.①血漿、②間質液(細胞間液)、③細胞内液、④体内水分量、⑤細胞外液量はそれぞれ体重の何%?

問11.以下の血清電解質濃度の正常値を言え
①血清Na濃度、②血清K濃度、③血清Ca濃度、④血清P濃度、⑤血清Mg濃度、
⑥血漿HCO3濃度

問12.以下の正常値を言え
①心拍出量/分、②腎血流量/分、③糸球体濾過量/日

問13.糸球体細動脈をボウマン嚢の中で束ねているのは何細胞と何組織?

問14.下記の()内に適切な数値を入れよ。
ヒトは最も薄くて(①)mOsm/Lから最も濃くて(②)mOsm/Lの尿を作ることができる。

問15.ヒトの ①尿中正常Na濃度、②尿中正常水素濃度、③尿中正常Ca濃度、④尿中正常リン濃度 をいえ


  解  答   この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

27日目 発汗によって脱水になったら、
    どうやって水分の喪失を防ぐ?
     ~ADHとアルドステロン、ANP/BNPの違い~


 

 尿量は最終的に集合管で決められる。脱水にならないための主役は昇圧系の代償機構の代表であるRAASのアルドステロンとともに、抗利尿ホルモンADHで、これらが尿量を減らすことによって脱水を防いでくれている。ついでに言っておくと、降圧系の代償機構の代表であるANP(心房性Na利尿ペプチド)やBNP(脳性Na利尿ペプチドだが実際には心室で分泌されている)は心房・心室から分泌され、集合管でのNa再吸収を抑制している(図1)。これはANPやBNPの分解を阻害するサクビトリル/バルサルタンというアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の快進撃によって心・腎保護作用が注目されている。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

26日目 アルドステロン分泌異常疾患、
    ADHの分泌異常疾患による血清Na値異常



高ナトリウム血症と低ナトリウム血症

 血清Na濃度の正常値は135-145mEq/Lだが、症状は120 mEq/L未満、あるいは160 mEq/L以上になってから起こる。高ナトリウム血症と低ナトリウム血症の症状はよく似ている。「どちらも悪心・嘔吐、倦怠感、意識障害、痙攣と覚えよう。高ナトリウム血症になって意識障害を起こしたのか、低ナトリウム血症になって意識障害を起こしたのかは患者の原因疾患やシチュエーションを見ればわかる。」と熊本大学の学生には教えていた(図1)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

25日目 フロセミドは浮腫改善作用を持つ利尿薬であり、
               サイアザイドは利尿降圧薬



フロセミドは浮腫改善薬であって長時間作用型ループ利尿薬とは異なる

 ループ利尿薬の中のフロセミドだけは半減期がほぼ1時間以内と非常に短いので、まさにフロセミドこそ「利尿薬」という名にふさわしいと思う。フロセミドの場合、細胞外液量は治療開始後数日の間に失われたナトリウムの量だけ減少したままである。サイアザイド系利尿薬では、最初の塩分と水分の喪失の後、一般的に塩分と水分の平衡が一定期間保たれ、細胞外液量が基礎値に近く(ただし、基礎値には達しない)戻る。この二次的な反応のメカニズムは明らかではないが、ループ利尿薬によるヘンレループからのNaCl排出量の増加は、遠位尿細管と皮質尿細管の肥大とNa再吸収能の増加につながることが示されているが、サイアザイド系利尿薬では、排出量の増加とそれに続く肥大反応は皮質尿細管に限られると考えられている。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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