加齢とともに動脈硬化が進行して40歳代で150gの重量は80歳代では100gに委縮する(図1)1)。
前回の抗菌薬シリーズ第4回で、腎毒性のあるゲンタマイシンはPK/PD理論*から考えると1回少量投与で1日数回投与よりも1日1回大量投与の方が、腎毒性が少なく殺菌力も高い安全で有効性が高くなる投与法であると解説した。しかし若い薬剤師や医師の方は当たり前に理解しているPK/PD理論であっても、なぜ「1回少量を1日数回投与」の方が「1日1回大量投与」よりも安全性が低いのかについては理解に苦しむ方がいるのではないだろうか。ここで、抗菌薬のPK/PD理論について改めて説明したい。これらの理論は米国ウィスコンシン大学のWillian A Craig先生の研究成果1)によるもので、2008年の日本TDM学会の特別講演でCraig先生が講演していただける予定であったが、脳梗塞のため来日が急遽中止になったのが非常に残念であったことを思い出す。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
前回説明したとおり、生死を分けるような重篤な感染症の時に頼りになる殺菌性の抗菌薬はほとんどが腎排泄である。ということは腎機能低下患者や高齢者では蓄積して中毒性副作用を起こすことがある。しかも腎機能低下患者や高齢者では免疫能が低下し、感染症に罹患しやすいため、抗菌薬を投与する機会が多い。致命的な感染症の時に抗菌薬の投与量不足によって有効性が現れなかったことが分かったときには、非常に後悔する。帯状疱疹におけるアシクロビル、バラシクロビルは副作用を起こさないよう、細心の注意を払って腎機能に応じた投与設計をしたいが、抗菌薬を使うときには初回投与量は十分量投与するなど、基本的に攻める投与設計を心掛けたいと思っている。ただし、腎機能低下患者に腎排泄性で薬剤性腎障害などの副作用を起こすことは避けなければならないし、副作用を起こしにくい投与設計を心がけることが必要となる。そのため今回は腎機能低下患者で起こりやすい抗菌薬の副作用についてまとめたい。
殺菌性の抗菌薬はなぜか腎排泄
2,000種類以上ある薬物のすべてについて腎排泄性か肝代謝性かを片っ端から記憶することは容易ではない。というか多すぎて超記憶力の良い特殊な方にしか勧められない。くすりオタクだけど記憶力が悪い(というかほとんどない)筆者はどうやって克服したかというと、少ない例外の薬物を覚える方が、楽なので、少ない方の腎排泄性薬物だけ覚えた。そのおかげで肝代謝型薬物は覚えなくてもだいたいわかるようになった。だって、図を見ればわかるように薬物の7割以上が肝代謝、5%程度のレアな胆汁排泄を除けば残りの2割だけが腎排泄だからだ。でもこの図はトップ200の薬物だけなので、いずれは2000くらいある成分でどれくらいの割合になるのかを検証してみたいと思う。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
抗菌薬の添付文書の適応菌種・適応症を見ると気が狂いそうになるのは筆者だけだろうか?適応菌種・適応症って不変のものじゃなく承認時期によって書き方が変わるし、菌種名が変わることもあるし、耐性化することもある。クロラムフェニコールは一世を風靡した抗菌薬で、適応症のなんと幅広いこと。だが、現在はほとんどの病院に在庫すらしていない(海外から帰国した腸チフス患者に使うかも?)。今回は抗菌薬によってさまざまな差が見られる抗菌スペクトルantibacterial spectrumについて、極めて記憶力の悪い筆者がどうやって自分なりにざっくりと分類して対処したのかについてまとめてみたい。
図1にあくまで広域スペクトルの抗菌薬であればということで最大限カバーできる範囲を示した。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
最初に断っておくが、筆者は微生物学を正式に習っておらず、非常に苦手な分野だったが、筆者が病院薬剤師だったころ、透析患者が感染症に罹患しやすいので、「学ばなければ!」とは思ったものの、細菌名ってとても覚えにくいし、どのように分類すべきかもわからなかった。今も得意とは言えないけれど、現場で体験した感染症を起こす細菌はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSAや表皮ブドウ球菌MRSE、肺炎球菌、溶連菌など、グラム陽性菌って「ほとんど丸い球菌じゃん!」ということに気づいた。偶然かもしれないが大腸菌、インフルエンザ菌や難儀な感染症の緑膿菌などはグラム陰性菌って「ほとんど細長い桿菌じゃん!」と気づいた。これでようやく覚えられることができるような気がしたのだった。この連載の最初の部分では頭の悪い筆者がややこしい細菌の名前や分類にどうやって対処したかについて解説したい。まずは非常に基本的なグラム染色について知ってもらおう。微生物学や細菌学などの専門家にとっては間違った理論になるかもしれないので閲覧注意です。あくまで、感染症が苦手な方で正確な理論を知る前に実践に強くなりたい方のみに読んでいただければ幸いです。
1.細菌の構造とグラム染色
グラム染色は染色によって紫色に染まるものをグラム陽性、紫色に染まらず赤く見えるものをグラム陰性という(図1)。この染色性の違いは細胞壁の構造の違いによる。
グラム染色の手順と原理 (図2)
1.検体(喀痰の場合、唾液ではなく膿性の黄色~黄緑色の粘稠の物がよい)をスライドグラスに定着する。
2.クリスタルバイオレットを作用させるとグラム陽性菌も陰性菌も青色に染まる。
3. 次にヨウ素液で媒染して濃紺色を定着させる。
4.アルコールをかけると濃紺に染色されたグラム陰性菌の脂質二重層でできた外膜が溶けて無色になるが、ペプチドグリカン層の厚いグラム陽性菌はアルコールによっても染色液は流出しないので濃紺色のまま。
5. 最後に赤色色素を作用させると, 無色となっていた細胞壁の薄いグラム陰性菌は赤色に染色される。
6.十分な水洗,・乾燥の後、顕微鏡で観察し、濃紺色をグラム陽性 (+), 赤色をグラム陰性 (-) と判定する。そして検体の採取部位(喀痰、尿、穿刺液など)、形状(双球菌、連鎖状の球菌、ブドウの房状の球菌など)から起因菌を推定する。
2.臨床で問題となる菌、つまり怖いのはたいてい青丸と赤長
ここで重症細菌感染症になりやすい6種の代表的な病原菌を見てみよう。高齢者の院内感染として問題となるMRSAやブドウ球菌Staphylococcus aureus:図3)はブドウの房状の陽性球菌で皮膚に常在する表皮ブドウ球菌Staphylococcus epidermidisも見た目は同じ。MRSAは健常者の鼻にも常在菌として存在することがある。
一般的に溶連菌と呼ばれ壊死性筋膜炎の原因菌となり、感染後に急性糸球体腎炎を起こすことで有名でペニシリンが有効なA群β溶状連鎖球菌(化膿レンサ球菌)Streptococcus pyogenesは陽性で連鎖状の球菌(図4)、市中肺炎の原因菌として最多の肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeは陽性の双球菌(図5)。3つとも球菌なので、菌名には必ずcoccus(球菌)がついている。
普通に台所の水回りに生息し、日和見感染して多剤耐性になるとコリスチンしか効かない多剤耐性緑膿菌が現れて大問題になることがある陰性の桿菌は緑膿菌Pseudomonas aeruginosa(図6)、細菌性髄膜炎や小児肺炎の原因菌となりインフルエンザウイルスとは全く関係ないインフルエンザ菌Haemophilus influenzae(図7)も陰性の桿菌、通常は無害な腸内細菌として生息しているが細菌性尿路感染の最大の原因菌となり病原性を持つと赤痢を起こすこともある大腸菌Escherichia coli(図8)も陰性の桿菌である。
前者3つがグラム陽性菌で、後者3つがグラム陰性菌である。好中球による貪食像が見えるのは保菌者ではなく感染症を起こしていると考えよう。またバイオフィルムで包まれた緑膿菌感染症ではバイオフィルム外の緑膿菌をたたくと症状は改善するが、上記の嚢胞感染と同様に再発を繰り返すことが多いので難儀だ。この場合は14員環マクロライドのエリスロマイシン、クラリスロマイシンの少量投与でバイオフィルムを破壊し、裸になった菌を別の抗菌薬でたたくことによって治療できる(らしい)。1990年代以前、日本では5年生存率40%以下だったびまん性汎細気管支炎が、14員環マクロライドの少量投与でほぼ消滅するくらい画期的な療法になったのは有名な話だ。バイオフィルムの透過性が高いリファンピシンの併用が難治性感染では有効なこともある。もっとたくさんの細菌を見ていただきたいが、これだけ見ただけでも感染症の原因菌は濃紺色で丸いグラム陽性球菌と赤くて細長いグラム陰性桿菌が多いことが分かる。そう、細菌感染症となる起因菌としてマークすべきは青丸(グラム陽性球菌)と赤長(グラム陰性桿菌)なのだということを頭の中に入れておこう(すべてじゃないけどね)。
さて話が長くなったので、「抗菌スペクトルの理解の仕方」は次回のお楽しみにしよう。