腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
17日目 米国では薬剤投与量・腎機能の推算にCG式を使うなと指示


 

 2011年(細かいことを言うと2010年12月31日)以降から、血清Cr値の標準化(IDMS traceable)が行われた。それとともに米国の治験ではeGFRが使用されるようになったのだと思う。おそらく平田の推測では、肥満患者が非常に多い米国では過大評価の著明な推算CCrは役に立たなくなったと判断したのだろう。推算CCrはIDMSに準じた測定法に適するように改定されることはなく、ほぼ捨てられたのも同然のような扱いになったと思われる。米国腎臓財団(NKF: National kidney foundation)のGFR calculatorのサイトでは(図11)、CKD-EPICr式、CKD-EPICr-CysC式、CKD-EPICysC式のみが載っており、「Cockcroft-Gault formula (use for drug research only)となっている。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
16日目 クレアチニン測定法がJaffe法からIDMS法に準じた方法になるとともにeGFR推算式も変化していった米国


 

米国の腎機能評価の歴史はどのようになっているのだろうか、調べてみよう。

まず1976年にCockcroft and Gault式が18~92歳の男性249人のデータを用いて開発された。
推算CCr= [Weight (kg) × (140 – age) / (72 × SCr)] ×0.85 (if female)

1990年代に血清シスタチンC の測定が可能になった。

1999年にJaffe法による血清Cr値、年齢、性別、アルブミン、人種を基にしたMDRD式によるeGFR推算式 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
15日目 クレアチニン測定法~Jaffe法と酵素法の違い~



Jaffe法の様々な問題点

 Jaffe法はクレアチニン(Cr)にピクリン酸を加えると赤色を呈するので、生成したピクリン酸-クレアチニンを比色計を用いて490nmで比色定量する血清Cr測定法だ。Jaffe法ではアスコルビン酸やピルビン酸などのCr以外のカルボニル基を持った物質によるnon-creatinine chromogen(NCC)とも反応してしまうので、Jaffe法では血清Crは酵素法に比し0.2mg/dL高く測定される(図1)。逆に酵素法ではビリルビンなどの還元物質により負の誤差を生むことが知られている。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

第 26回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
CKD患者の血圧・血糖管理~クリニカルイナーシャに陥るな!~

 


 

2023年6月3日(土)アンケートによる質問

手束病院 楠本倫子先生

Q.前回の勉強会でシスタチンCの話題が出てきましたが、初めてDr.にシスタチンCの測定を依頼する時に、その理由を短い時間で示すにはどの資料や説明がわかりやすいでしょうか?まだ測定依頼を始めたばかりなので、きちんと説明出来ている自信がありません。何かヒントがあれば、ご教授お願いいたします。

A.僕たちの経験を示しましょう。図1に寝たきり患者さんの血清クレアチニン値によるeGFRは赤丸でしまします。5人とも実測値(実測クレアチニンクリアランス×0.715でeGFRに近似します)と比べるとeGFRcrはすごく高い腎機能に見えますが、筋肉量が少ないだけなのです。この腎機能によって腎排泄型薬物を常用量投与したら、おそらく重篤な中毒性副作用を起こしてしまうでしょう。図2では赤丸の寝たきり患者でもシスタチンCによるeGFRと実測値はほぼY=Xの線上に乗って乖離がなくなりました。つまりシスタチンCの測定によって正確な腎機能が把握できるたのです。

 

 

 

 「シスタチンCは3か月に1回しか測定できない、測定が外注、測定費が高価、医師も薬剤師もシスタチンCについて詳しく知らない」という実態は、薬剤師がほとんど測定依頼をしていないから、医師も何の検査かご存じない、測定機会が少ないままだから、3か月に1回の頻度が改善することもなく、測定費用は高いまま、測定が外注になっているのです。測定機会を増やしていけば、毎月、いや何回でも安く、病院内で迅速に測定できるようになるはずだと平田は考えます。


金沢医科大学病院 山崎幸恵先生

Q.腎不全でも心不全治療薬(β遮断薬、SGLT2阻害薬、利尿薬など)は止めるべきではないという認識であっているのでしょうか。

A.心不全治療薬はFantastic Fourと言って、「β遮断薬+RAS阻害薬をARNI(サクビトリルバルサルタン)に変更+MRA+SGLT2阻害薬」+呼吸困難などの溢水の症状があれば自覚症状の改善のためのループ利尿薬の治療がメインになりつつあります。心不全で使うβ遮断薬はビソプロロールは腎機能に応じた減量が必要ですが、腎機能が低下しても止める必要はないです。SGLT2阻害薬も添付文書上は「高度腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者では本剤の効果が期待できないため、投与しないこと」となっていますが、透析導入になるまでは使っていいと思います。ただしMRAは腎機能低下あるいは高カリウム血症になれば投与できません。一番緩いフィネレノンに関しては末期腎不全(eGFR<15mL/min/1.73m2)や血清カリウム濃度が5.5mEq/Lを超えた患者には投与できないことにはなっていますが、問題なければ医師との協議のうえ、使うこともできるかもしれません。

 RAS阻害薬は透析導入後は心不全リスクが増しますので、降圧薬の中では透析導入になっても使い続けたい薬だと思います。利尿薬は腎不全(eGFR<30mL/min/1.73m2とさせていただきます)ではループ利尿薬が中心になると思いますが、透析導入後も使えなくはないです。ARNIはサクビトリラートの血中濃度は上昇しますが、透析患者でも一応、禁忌にはなっていません。透析患者ではARBは効いたとしても、Na利尿ペプチドの作用がどれだけ期待できるのかについてはよくわからないと思っておりましたが、先日、参加した日本腎臓学会では、他院の循環器医が心不全治療のために透析患者にARNIを投与するとSBPが40mmHgも下がり、透析中の過降圧も見られなかった。心駆出率も改善したという症例を聞きました。あくまで1症例ではありますが…。


日本調剤 中島鉄博先生

Q.NSAIDs, RAS-I, 利尿薬のうち、組み合わせの順番を比較した報告で、1st NSAIDs,2nd RAS-IだけNSAIDsとの組み合わせでリスクが低く、この順番による差異はなぜでしょうか。

 もう一つ、Schmidtの報告を心腎連関で考えますと、SGLT2阻害薬などについても場合によってはリスクとなり得ますか。また、臨床的にCr上昇を抑えられるような、RAS-Iの使い方、患者背景への介入などはありますか。

A.順番による差異がなぜ起こったかという理由まではこの報告の結果だけからは判断できかねます。

 2番目の質問ではSGLT2阻害薬がメタ解析で急性腎障害の発症を抑制している結果は出ているものの、SGLT2阻害薬も投与初期には利尿作用が強く表れますし、ループ利尿薬と利尿作用においては相乗作用を示すことも報告されていますので、投与初期には脱水から腎機能悪化を起こす可能性はあると考えて、服薬指導に生かすべきだと思います。

 RAS-Iはアルブミン尿、蛋白尿の陽性の患者を対象に投与すれば多くの報告で腎機能悪化を抑制できています。逆に蛋白尿(-)では腎保護作用のエビデンスはなく、高齢者では腎虚血による腎機能悪化リスクが高くなる可能性があるので、定期的な腎機能のモニタリングをしながら使用すべきでしょう。腎機能悪化リスクの高い、特に後期高齢症例の降圧療法にはCCBを中心に治療するのが一番無難だと個人的には思っています。

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14日目 クレアチニンの動態



クレアチニンの動態~分布容積は?消失半減期は?~

 本ブログの5日目にも記載したように、尿素は分子量60Daで分子量100Da以下の水溶性物質なので細胞膜を自由に行き来できるが分子量180Daのブドウ糖はGLUT4というトランスポータによって細胞内に入ることはできるが、尿素のように細胞内外濃度が瞬時平衡にはならないので有効浸透圧物質になる。だから高血糖の糖尿病患者は口渇(それにともない多飲・多尿)になるが、高尿素血症になった非糖尿病CKD患者は血清浸透圧は高いのに口渇を起こさない。それは尿素が有効浸透圧物質にならないからだ。

 じゃあ薬剤師の諸君、クレアチニン(Cr)の動態は知ってる? Crのクリアランスの正常値が120~130mL/minで、おそらく尿中排泄率が100%でアルブミンなどの血漿蛋白質と結合しないということは分かっているだろうが、Crの分布容積はどれくらいだろう?実は平田もCrのVdが0.2L/kgが0.6L/kgのどちらなのだろうかと迷っていた。分子量は113Daなので尿素よりも大きいが、ブドウ糖よりも小さいから細胞内に入れるかどうかがよくわからなかったのだ。

 腎機能正常者であれば1日1gのCrを産生し、1日1gのCrを排泄して定常状態になっている。その時のCCrは125mL/minだから、もしもCrが細胞外液のみに分布するのであれば体重50kgの人だと この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

 第27回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2023年7月8日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。

 登録していただいた方は再放送を繰り返し視聴できますが、再放送は質疑応答はできかねます。今回のテーマは「初心者向けシリーズ①循環器系の基礎と心不全治療薬」です。最近、難しいテーマが続きましたので、大学の講義ではわかりにくかった循環器の基礎についてお話ししたいと思います。最新の心不全治療薬はファンタスティック・フォーと呼ばれる4種類の併用が驚くほどの強力な効果を示すことが話題になっていますが、私のくどい(丁寧な?)話し方では、どこまで進むことができるでしょう?

 参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。

 薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そして活発なディスカッションに参加して薬剤師塾を大いに活性化いただける方に参加していただきたいと思っています。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。

 

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
13日目 クレアチニンを科学する



そもそもクレアチニンって何よ?

 クレアチニン(Cr)の前駆物質であるクレアチンはメチオニン、グリシン、アルギニンから腎臓及び肝臓で合成され、健常者の体内量は約100gでその95%は骨格筋内に貯蔵され、筋肉濃度は4g/kgで、80%がクレアチンリン酸、20%が遊離のクレアチンとして存在する。クレアチンはクレアチンキナーゼの作用によってクレアチンリン酸が産生される。クレアチンリン酸は無酸素運動時の骨格筋の高強度運動のエネルギー源となる主要ATP産生源になるため、アメフトやラグビー、重量挙げ選手やボディビルダーなどのパワーアスリートたちはクレアチンモノハイドレートをサプリメントとして摂取することが多い。平田は熊本大学在籍中に「クレアチンサプリメントの血清Cr値に及ぼす影響」に研究しようとしたが、Webで調べるとサプリメントの広告ではよいことばかり書かれていたが、侵襲的な研究であり腎障害などの副作用の懸念が払拭できなかった(腎障害の症例報告が結構あった)ことから、断念した経験がある。

 筋肉組織のクレアチンとクレアチンリン酸の1%が不可逆的な非酵素的脱水によって1日約1gのクレアチニン(Cr)が産生され(図1)、腎機能が正常であればCrは老廃物として100% この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
12日目 国立大学病院の検査データ13項目を薬物療法にどう生かすか


 
 京都大学医学部附属病院、熊本大学医学部附属病院などが処方せんと一緒に患者さんに渡している13項目の検査データ(表1)は国立大学病院機構で、ある程度共通しているのかもしれないが、私立大学病院薬剤部でもまったく同じ様式のものを使っていることもある。この13種類の検査値の選択については、幅広い薬物療法に関与しており、よくできた組み合わせだと感心する。皆さんは、これらの検査値を使いこなしているだろうか?今回はこれらの検査値が薬剤師的にどういうときに有用かについて解説したい。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
11日目 透析患者Aさんの検査値
    ~腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(7)~



血清総蛋白(6.5~8.0g/dL)Aさんは6.2g/dL; 透析患者ではやや低め
アルブミン(4.2~4.9g/dL)Aさんは3.6g/dL; 透析患者ではやや低め

 アルブミンは血液中に 100種類以上存在している蛋白質(総蛋白)のうち、60%ともっとも多く占める蛋白質で分子量66,000Daで血管内に水を保持する膠質浸透圧物質としての役割、薬物などの外来異物と結合して、その毒性を和らげ、全身の血中を循環することで臓器に運搬する蛋白質であり、栄養指標にもなる。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎臓病教室 ~検査値と腎機能~
10日目 透析患者Aさんの検査値
    ~腎機能が低下すると起こる検査値異常や症状(6)~


 
赤血球数(男410~550万/µL、女380~480万/µL)Aさんは370万/µL

ヘモグロビン(Hb;男14~18g/dL、女12~16g/dL)Aさんは11.2g/dL; 透析患者では週初めの採血で10≦目標Hb 値<12 g/dL、保存期CKD患者およびPD患者では11≦目標Hb 値<13g/dL

ヘマトクリット(Ht;男40~50%、女34~45%)Aさんは33.9%; 透析患者では30~36%に維持するが保存期CKDでは33~39%でも可

 これらは貧血を表わす指標で、CKD患者では腎におけるエリスロポエチン(EPO)産生細胞である尿細管周囲の間質細胞が線維化によってEPOの産生低下によって赤血球産生が低下し、腎性貧血に至る(図1)。腎性貧血は通常、正球性正色素性貧血、つまり1個当たりの赤血球あたりの血色素量や赤血球のサイズは正常なので、Hb濃度×3倍≒Ht値となり、Hb値11g/dLのHt値は33%だと暗算で予測できる。Ht値×10倍ちょっと×104≒赤血球数/μLとなるが、そうはならなかったら、腎性貧血以外の原因も疑っていいだろう。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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