ダメ薬剤師を続けていて40歳になった時、当時、国立療養所千石荘病院(2003年に国立病院大阪医療センターに統合)の薬剤師だった上野和行先生に出会うことができた。まさに僕にとっては人生を変える運命の出会いだった。ある日、上野先生は僕に「アミノフィリン250mgの中にテオフィリンは200mg相当分入っとるから、アミノフィリン1Aを50kgの人に点滴投与したら、血中濃度はなんぼになると思う、平田君?」と聞かれ、戸惑って何も答えられなかった。だって血中濃度が予測できるなんて知らなかったから。「テオフィリンのVdは0.45L/kgなんや。まぁ、0.5L/kgでもええわ。50kgの患者さんやったらVdは25Lになる。200mg/25Lで8µg/mLになるやろから、喘息発作の治療にはちょっと足らへん。2A投与したら、16µg/mLになるんや。これやったら、ほぼ確実に気管支拡張作用を示して、20以上になったら起こる怖い副作用もでてけーへん。こーゆーことを知っとくと、薬を自由に操れるようになるんや。ほんでもって医者も意のままに操れるようになるんや」。

 これには本当にときめいた。そして上野先生を「師匠」と呼ばせていただくようになった。薬剤師って調剤や薬の管理ばっかりやっていて、病院に勤めていても何の存在感も示せない職業だと思っていたから。この時の経験から、薬物動態を本気で習おうと思った。僕はよく「努力はつらいからやめよう」とか、「好きになったら、それが趣味になって、夢中になれる。そうすればみんな一流になれる」なんてことをよく言うが、それは学ぶだけで身に着いて楽しい「薬物治療学」「薬理学」「病態生理」などの話だ。薬物動態だけはこれらと違って、僕にとってはあまり面白くはなかったが、薬剤師のマストアイテムだと思った。動態の教科書に書いてあること、特に数式は実に難解だったが、学ぶのが辛くても絶対にマスターしなきゃだめなんだ。最初は菅野彊先生やそのお弟子さんの書いた分かりやすいものからはじめて、大学での教科書など、少なくとも3冊は読んでほしい。結構、間違いが書かれていることに気づくようになるから。薬物動態の基本がわかっていない薬剤師を僕は「本当の薬剤師」とは呼びたくない、似非(エセ)薬剤師だ。薬物動態だけは努力してでも薬剤師が身に着ける価値のあるものだと今でも信じてる!だからみんな努力して、僕の師匠のように「ほんまもんの薬剤師」になってほしい。

2023年3月22日 熊本市薬剤師会学術研修会 Q&A
腎機能の正しい評価
~添付文書の腎機能で使われるCCrは実は日本のCCrじゃない~

 


Q1.腎機能評価の指標として、糸球体濾過率が使用されていますが、年齢・体格・疾患や栄養状態など影響を与えうる因子が非常に多いことに評価の難しさを感じます。糸球体濾過率によらない、信頼性のある評価指標の研究結果はないでしょうか。

A.糸球体濾過率は機能している残存ネフロン数や腎血流量の変化を予測でき、CKD患者ではこれらの変化によって腎予後、透析導入までの期間も予測できる非常に優れた腎機能マーカーです。イヌリンクリアランスの実施はややこしい手順があるとしても、うまく病院内でシステム化すればできますし、実測クレアチニンクリアランスやシスタチンCを利用したeGFRは年齢、体格、疾患などの影響をほとんど受けないで極めて正確に腎機能を評価できます。講演ではこのことを中心に解説したつもりです。

 ただしeGFRが使いものにならないサルコペニアやフレイルの患者に対してeGFRや推算CCrなどの従来の方法で腎機能を判断することは腎臓内科の先生方にも僕にも、誰にもできません。eGFRや推算 CCrは血清クレアチニンとちょっとした患者情報があれば算出できますから楽ですよね。でもサルコペニアではいくら楽でも腎機能を過大評価しすぎるため、絶対値としては全く使い物にならないものになります。使えないものを楽だから使おうとして「評価がむつかしい」って言わないでいただきたいです。皆さんは占い師ではなく薬剤師ですよね?だったらなんで腎機能が評価できないって簡単にあきらめるのでしょう?副作用を防ぐために科学的な腎機能評価方法を医師に提言しないのでしょう?

 糸球体濾過率、あるいはそのサロゲートマーカーであるクレアチニンクリアランス(×0.715でGFRとして評価可能)が最も優れていて、100点満点で評価できて、患者さんに分かりやすく、経時的測定によって腎予後が予測できる点で、これほど優れた診断指標はありません。それが無理ならシスタチンCを基にしたeGFRもあるのです。これらは心不全におけるBNP、肝細胞障害におけるALTなどとは比べ物にならないくらいわかりやすい指標です。年齢・体格・疾患や栄養状態だけではなく、要介護度、筋肉量、服用薬物、サプリメントなどの影響も受けますが、それ等の影響を加味してより正確に「腎機能評価」ができるという話をしたつもりです。糸球体濾過率によらない、信頼性のある新しい腎機能評価指標の研究結果なんてありません。かつて1990年代に登場したシスタチンCは糸球体濾過率に相関性が高い評価指標として期待されました。そしてその有用性も確立されたのに、多くの薬剤師は測定依頼しないので、いまだに高価で3か月に1回しか測定できないままなのです。だからいまだに一般内科医すら「シスタチンCって何?」と言っています。血清クレアチニンが腎機能を表さないような筋肉量の少ない高齢者の正確な腎機能評価方法の決め手は実測イヌリンクリアランス、実測クレアチニンクリアランスがありますし、最も簡単なのがシスタチンCによるeGFRです。安易なものを知りたいと思う前に、正確な腎機能評価方法をしっかりマスターしようと努力してください。


Q2.平田先生が考えられる腎機能評価の理想はどのようなものと表現できるでしょうか。このような方法・指標が良いというようなものがあれば教えてください。

A.Q1、Q2は同じ質問者の方ですが、同様の質問になりますので1の回答で勘弁してください。繰り返しますが、講演で解説したとおり糸球体濾過量あるいはそのサロゲートマーカーであるクレアチニンクリアランス(×0.715でGFRとして評価可能)、シスタチンCによるeGFRがあれば年齢・体格・疾患や栄養状態、活動度、筋肉量の影響を受けずに腎機能を正確に評価することができます。


Q3.先生のブログで、簡易的な脱水の評価方法に毛細血管再充満時間をみると高い特異度でトリアージができるとありました。薬局内で実践しております。服薬期間中のフォローアップをする際に、電話先でご自身で行っていただく際に上記の手技が難しい場合は、口腔粘膜乾燥と舌乾燥の状況を確認することも有用だと感じましたが、いかがでしょうか。    

A.脱水の指標はほかにも様々あります。通常、若年者であれば、脱水になれば口渇を感じ、飲水するのですが、高齢者は口渇中枢に異常のある方がいるので、脱水をきたしやすくなります。患者様ご自身に評価していただくのでしたら、尿量が減少していないか、起立性低血圧によって立ち眩みしていないか、舌が乾燥していないか、皮膚の張り(スキンツルゴール)が低下していないかなどで、ある程度脱水を疑うことができます。脱水を起こしやすい高齢者には日ごろからこまめな飲水を指導してください。ただし心不全でループ利尿薬が投与されている方には循環器医と話し合って1日飲水量を設定し、朝起きた時、お風呂上がりには必ず飲水、それで残った水を定期的にこまめに摂取していただくように指導するとよいと思います。

 本を今までにたくさん書いたし、論文もたくさん書いた。学会での講演もたくさんやらせてもらってきた。だけどいつも時間いっぱい話したくなるし、同じことを何度も繰り返してしまう。論文を書けば、査読者から決まって「冗長(くどくて無駄に何度も繰り返している)」といわれる。でもこれが平田の個性なんだよね。

 子供のころ出来が悪くって、成績は中の下。たまに小テストで満点を取ると、ほぼクラスの半分が満点を取るような内容でも教師から「やればできる」と言われた。運動神経もクラスで一番鈍く、走るのが一番遅かった。さかあがりができるようになったのも一番最後だった。何をやっても不器用で、遅かった。先生の言ってることが理解できないのだ。1回の説明では理解できないんだ、僕の鈍い頭では。1回のお手本では、すぐにさかあがりができないんだ、僕の能力では。1回や2回ではコツがつかめないから。

 中学校に入って最初の中間テストは学年200人中130番だった。たまに何度も繰り返していってくれる先生がいると、その教科が好きになって徐々に成績は良くなってきた。それがたまたま数学と英語と化学と生物だったから、私学の薬学部に入れることができのかもしれない。古典や漢文はいい先生だったけど、手取り足取り教えてくれるタイプではなかったので、理解するコツがつかめなかった。大人になって司馬遼太郎さんの小説にのめりこみ、その後は明治から昭和などの現代史にのめりこむと日本史や世界史全体が大人になってから好きになった。このころ古典や漢文、歴史の授業があったら、僕は前のめりにのめりこむことができたんだろうなと思った。

 で、僕はダメ薬剤師を40歳になるまで続けて、ある出会いがきっかけで「薬剤師」という仕事にのめりこむことができるようになった。そして講演会の前座の10分の症例報告のチャンスをもらい、それがうまくいくと30分の話をさせてもらい、それらの繰り返しで、いずれ教育講演や特別講演を任されるようになったが、もともと理解するのが苦手だったから、かっこいいことを話すんじゃなくって「何にも知らいない人でもわかるような話し方、そして分かりやすいスライドの作り方にしようと心に誓った。そしていずれ、薬学系雑誌に掲載依頼が来ても、出版の話が来ても、くどいくらい何度も何度も、試行錯誤しながら理解できるように繰り返す。だから本当に編集者泣かせなんだ、僕って著者は。そして60分の講演依頼があれば、60分を使って何とかわかってもらいたいために、またいつものようにくどい話をするので座長泣かせなんだ、僕って演者は。たまに僕の話を「熱い」といってくれる人がいるが、僕はほんとに不器用なんだ。だから熱く何度も何度も語って、わかってもらいたいんだ。こんな話し方だから、何度も聞いてる人は飽きちゃうよね。でも大事なのは同じテーマで講演依頼があっても、僕は最新の話題、新たなスライドを必ず入れる。それをしないと僕自身が、エキサイトできないから。ごめんなさい、いつもいつも平田塾は長い話ばかりで、そしてくどい話ばかりで。でも僕は平田塾をやらせてもらっているから、昨日より今日の方が少しだけでも成長している薬剤師になれているんだと思う。

第 23回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
高齢者薬物療法と薬物動態の変化

 


アンケートでの質問


手束病院 楠本倫子先生

Q.いつもわかりやすく熱い講演をありがとうございます。
 バンコマイシン点滴静注用についてですが、MRSA感染症、寝たきりで高齢者、低アルブミン、SCr:0.8以下でも低体重の為CCr30mL/min未満でしたら他の抗MRSA薬を考慮すべきでしょうか?バンコマイシンを例えば負荷投与後は500〜750mgを24時間毎などの低用量を検討しても良いのでしょうか? TDMは外注になるので結果が出るのにタイムラグがあり、最近はあまりしていないのですがそれでも測る方が良いのでしょうか? 先生のお考えをお聞かせいただけたら幸いです。

A.抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022ではバンコマイシンは「eGFR<30 mL/min/1.73 m2 の患者は腎障害発現率が高率になるので代替薬を考慮する」と記載されていますが、推奨度は一番低いⅣ(無効性や害を示す科学的根拠があり,行わないように勧められる)とされています。この引用文献の内容は「初期段階におけるAKIの有意な危険因子は、Cmin > 20 mg/L、ICU滞在、利尿薬またはピペラシリン/タゾバクタムの同時使用、および既存の腎機能障害であると特定された。」とありますので、テイコプラニンなどに変更した方が腎機能悪化の副作用は回避できそうですが、平田の個人的な見解では投与できないわけではないと思っています。

 TDMは積極的に行った方が、投与設計能力が身につきますので外注でも積極的にやってみましょう。腎機能として「 寝たきりで高齢者、低アルブミン、SCr:0.8以下でも低体重の為、CCr30mL/min未満」というのはいかがでしょう?寝たきりの方の血清Cr値は0.2~0.4mg/dLが通常ですので、eGFRは過大評価してしまうので、CCrの方がフィットしやすいのですが、高齢の小柄な女性であれば血清Cr値が0.8mg/dLであればCCr30mL/minを切りますが、0.7以下であればCCrはおそらく30以上あるでしょうし、男性で0.8以下であれば推算CCrは確実に30以上あるでしょう。ということでCCr>30でバンコマイシンが投与できるとすれば、体格にもよりますが、50kgであれば初回負荷投与は1.0~1.5gを投与し、翌日からの維持用量は500~750mg/日で投与して、TDM結果のトラフ値が解析ソフトの予測値よりも高ければ、より減量、低ければより増量して、様子を見てはいかがでしょう。低アルブミン血症ではクレアチニンの尿細管分泌の寄与が増大するため血清Crが低値になり、eGFRはGFRよりも高く推算されることも頭の中に入れておいてください。

引用論文
Hashimoto N, et al: Candidates for area under the concentration-time curve (AUC)-guided dosing and risk reduction based on analyses of risk factors associated with nephrotoxicity in vancomycin-treated patients. J Glob Antimicrob Resist; 2021 Dec;27:12-19.



帯広病院 吉田依里先生

Q.急性腎障害のように腎機能が刻々と変化している場合の腎機能評価で気をつけることを教えて頂きたいです。(腎機能が変化している段階だからeGFRの式を使ってはいけないと【熊本腎と薬剤研究会】過去の講義動画で拝聴しました。数時間で変化するから評価自体が難しいという解釈でしょうか?今回の講義内容からの質問ではないため、大変失礼致します。)

A.急性腎障害(AKI)であれば、腎機能が急速に悪化するため、ワンポイントの腎機能を測定しても、変動しているため、「AKIではeGFRを使ってはいけない」というよりも、ワンポイントのeGFRでは正確な薬物の投与設計はできません。その理由として、クレアチニンの産生速度は遅いため、腎機能が低下してゼロになったとしても、ゆっくり上昇し続け、定常状態になりにくいことが考えられます。通常は定常状態になるまで1~2日を要するとされるクレアチニンは100%腎排泄(腸内細菌によるクレアチニン分解がなければ)なので腎機能低下によりさらに定常状態になる期間が延長します。例えば無尿になってクレアチニンが全く排泄されない状態になるとCCrもGFRもゼロになっているはずなのですが、血清クレアチニン濃度はゆっくりとしか上がりません。それによって算出されるeGFRも速やかに下がってくれません(図1)。

 

 

だからワンポイントのeGFRでは投与設計しにくいのです。できれば複数ポイントのeGFRを算出して、悪くなりつつあるのか、腎機能がよくなりつつあるのか、そしてその悪化速度あるいは改善速度を把握した方がよいでしょう。例えば、図1のように無尿の状態が続けば、血清クレアチニン値は直線的に上昇し続け、血液透析か腎移植をしない限り、上がり続けるでしょう(ただしやがて尿毒症で患者さんは生き続けることができなくなります)。この場合、どこからも全く排泄されない血清クレアチニン値は定常状態にならないのですから。この血清クレアチニン濃度の上昇も筋肉量の多い若年男性ではより速やかに上昇し、筋肉量の少ない高齢女性では非常に緩やかにしか上昇しません。

 ただし無尿になった後、徐々に腎機能が回復すれば、クレアチニンが尿中排泄されるため、血清クレアチニン値の半減期は短縮し、直線的に上昇することはなく定常状態になって、eGFRとの乖離も徐々に縮小します(図2)。そしていずれ定常状態になり、数日以内に実際の腎機能とeGFRが一致します。この時点のeGFRによって薬物投与設計すれば、より有効で安全な投与設計ができると思います。

 

 

 とここまで書いてみて、eGFRは全く不明より、あった方がよいのですが、急性腎障害時には絶対値として信用できないので、正確な投与設計はできないのです。正確な投与設計を使用と思ったら実測GFRか実測CCrを測定するしかありません。

 ただしその間にeGFRに基づいてバンコマイシンが投与されていてTDMを実施してトラフ値が予測値以上に上昇してれば、実際の腎機能はeGFRよりも低いことが分かりますし、トラフ値が予測値よりも低ければ、実際の腎機能はeGFRよりも高かったと判断することができます。

参考文献
平田純生: 重症・慢性化を早期に防ぐ! 急性腎障害(AKI)の薬物療法. 月間薬事64: 3351-3356, 2022

僕はこんな人をデジタル薬剤師と呼ぶ。善か悪かだけ?

 最近の若い人たちは物事をメリットかデメリットだけで判断しがちな人が増えつつあるように思える。 いいか悪いか、デジタル(0か1)でしか考えられない。CKDか非CKDかだけ?いつもCCrが50以上の人が1度だけ、それも明らかな脱水によってCCr<30未満で、即、添付文書通りに疑義照会をやって、ドクターに怒られる。僕はこんな人をデジタル薬剤師と呼ぶ。善か悪かだけ?

若者よ、昔のレコードよりも、生で見るライブよりも、

デジタルのMP3がいいに決まってると思っていない?

 第24回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2023年4月8日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。

 登録していただいた方は再放送を繰り返し視聴できますが、再放送は質疑応答はできかねます。今回のテーマは「腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう」です。

 このテーマは、薬剤師塾の中で一番、人気の高いテーマじゃないかなと思います。腎機能別至適投与量については、今、一番のスタンダードは「日本腎臓病薬物療法学会」の一覧表、あるいはこれと同内容のじほう社の「腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK 第4版」だと思います。見やすく、使いやすくはなっていますが、表の腎機能分類には「GFRまたはCCr(mL/min)」と書いてあるのはご存知でしょうか?添付文書はCCr(mL/min)で腎機能を記載しているもののもあれば、eGFR(mL/min/1.73m2)で記載されている薬物もあるのに、「これってアバウトすぎない?」と思ったことはありませんか?腎機能についての話は、結構難しい内容になりがちですが、薬物投与設計のための腎機能の推算方法などの基本から、できるだけわかりやすくしたいと思います。でも1回だけでこの深いテーマを説明できるか少し心配……です。

 参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。

 薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そして活発なディスカッションに参加して薬剤師塾を大いに活性化いただける方に参加していただきたいと思っています。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。

 

 僕はこれまでにも関西腎薬や熊本腎薬を結成してきました。そしてそれらの講演会では必ず講師の先生には若手の薬剤師に質問してもらっていました。僕が若かったときには講演会を聞いたときに誰からも質問がなければ、たとえ知っていることでも知らないふりをしてでも必ず質問をしていました。だって何の質問のない講演会なんて、全然面白くないし、講師に失礼だからと思っていましたから。

 今回の薬剤師塾では、久しぶりに女性の先生(名前は出しませんが、覚えていますよ)が薬剤師塾で勇気を振り絞って(たぶん)、質問してくれました。本当にありがとうございます。すごく感謝しています。顔を見せて、質問するって恥ずかしいかもしれないし、誰も何も言わない中で1人だけ、声を出すって、本当にやりにくいですよね。だって日本人ってみんなと違うことをやるっていうことを容認しづらいヘンな国だから。

 でも誰もが黙って、みんな何を考えているのかわからないっていうのはおかしいとは思わないですか?聞きたいことがあったら、「チャットやアンケート欄に書いたらいつでも答えてくれるんだから、声に出さなくてもいいじゃん」という考えは、いいかげんもうやめにしないですか?チャットやアンケートの短い質問内容じゃ症例の全体像がつかめないから、クリアカットな答えが出せないこともよくあります。症例の薬物療法について聞かれることがよくありますが、もしもその症例が90歳以上だったら?飲んでる薬が10種類以上あったら?血圧が異常に低かったら?心拍数が120/分以上だったら?BMIが18以下の痩せた症例だったら?によって答えは大きく変わるかかもしれないのです。でもディスカッションして言葉のキャッチボールをすればそのような情報があるかないかくらい、分かるじゃないですか。

 「薬剤師塾」っていう名前を付けたのは一方向性の講演・講義とは違って、講師が身近にいて、何でも聞きたいことが聞ける、講師がおかしなことを言っていたら「それは間違ってる!」と言い返せるような熱いやり取りができる場、つまり単なるレクチャーではなくインタラクティブなものにしたいからです。そうすれば若い人、初心者の人もいつかその熱いディスカッションの輪の中に入ってみたいと思ってくれて、そのために勉強しようと思うようになればいいなと思っています。そして、いずれは若い人たちが僕に代わって薬剤師塾の講師を務めてくれるようになるように育ってくれたら、なおさらいいなと思っているからです。

 これからも皆さん、お願いですから黙ってないで、気軽に声に出して質問をしてくれませんか。「薬剤師塾」を盛り上げるためにも。一方向性のレクチャーでは教科書を読むのと一緒で、面白みがありません。「本当にわからないこと」を本当に知りたい人たちのために、「薬剤師塾」はあるんだと思ってください。お願いします。

 でもこんなことを言うと、チャットすらできない雰囲気の講演会になってしまうのは最悪です。いずれ声を出して聞きたいけれど、今はやっぱり声を出す勇気が今はないので、という方はチャットでもアンケートでもいいですから、質問してください。何にも出てこない薬剤師塾はやっても意味ありませんから。意味のない薬剤師塾であればやめた方がいいですから。

第 22回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
慢性心不全とその治療薬
~これからはFantastic Fourの時代~

 


チャットでの質問


荒木脳神経外科病院薬剤部 戸田智美先生

Q.脳梗塞患者への持参薬継続としてSGLT2阻害薬の継続は可能でしょうか。

A.「脳梗塞を起こした患者さんの持参薬の中にSGLT2阻害薬が入っていたが、継続しても大丈夫か?」という質問と理解しました。SGLT2阻害薬の重要な副作用として脱水があり、それによって脳梗塞が起こることを懸念されているのかもしれませんが、SGLT2阻害薬による脱水は投与初期の利尿作用による血液濃縮によって脳梗塞を起こすことがあり得ます。ただしSGLT2阻害薬による利尿作用はNa利尿と糖利尿による尿量増加によりますが、この尿量増加はカナグリフロジンでは1日のみで、2日目以降は利尿作用が消失します(Tanaka H, et al,: Adv Ther 2017; 34: 436-51)。エンパグリフロジンの利尿作用は4日後も減少しませんが、この報告では全員ループ利尿薬が投与されており(Damman K, et al: Eur J Heart Fail. 2020 Apr;22(4):713-722. doi: 10.1002/ejhf.1713.)、エンパグリフロジンはフロセミドと相乗作用を示します。フロセミドとの併用で6週間以降も利尿作用は持続するするが、Na排泄は変化がなかったと報告されています(Mordi M, et al: Circulation 2020 Nov 3;142(18):1713-1724.)。

 まとめますと、SGLT2阻害薬によるブドウ糖排泄作用は持続しますが、Na排泄量は10日程度持続するものの、それ以降は低下し1か月後にはプラセボ群と差がなくなります。ということで本題に戻りますが、SGLT2阻害薬は利尿作用がありますが、本症例が1か月以上投与されていれば、利尿作用は消失し、SGLT2阻害薬は心血管病変の発症を低下させますので、継続投与は問題ないというか、推奨されるかもしれません。ただし、この症例にループ利尿薬が併用されていれば(脳梗塞を発症した症例には通常、入院していない限りループ利尿薬を投与はしないと思いますが)脱水による脳梗塞を起こさないよう循環器医と相談のうえ、こまめな飲水指導をして投与を継続する必要があると思います。


アンケートでの質問


北九州宗像中央病院 高田由美子先生

Q.66歳男性、糖尿病性腎臓病で糖尿病外来に通院して3年になります。eGFRは29と30を切ってしまいました。今はグラクティブ(シタグリプチン)を50mg服用中ですが、この先、このままでいいのか、SGLT2阻害薬に変えなくていいのか心配です。どのようにお考えになりますか。

A.僕自身はDPP-4阻害薬をあまり評価していません。血糖は下げますが糖尿病性腎臓病の腎予後や先生予後を改善するという効果は証明されていないからです。でもSGLT2阻害薬を投与するには腎機能が高度腎障害のステージ4では、腎に作用するこの薬の効果が100%発揮できないと思いますが、効果が期待できないわけでもありません。平田は個人的には末期腎不全(eGFR<15mL/min/1.73m2)になっても、透析導入までは継続していいのではないかと思っています。 RAS阻害薬が併用されていれば血圧の下がりすぎに配慮してARNIに変更する(ただし腎保護の適応はありません)、腎機能がこのレベルになると高カリウム血症が怖いので場合によってはケイキサレートやロケルマを併用しつつMRAを併用するなど、腎臓内科医と相談してベストな薬物療法を考えるとよいと思います。



東京歯科大学市川総合病院 薬剤部の平井さやか先生

Q.最近ではダパグリフロジンでフレイル患者に使用した場合の論文がでており、フレイル患者でも比較的安全に使用できるのではないかという話も耳にします。フレイル患者には慎重に使用すべきであると考えますが、平田先生は避けたほうがよいというお考えでしょうか。

A.海外の論文で確かにフレイルの心不全患者でSGLT2阻害薬の有効性が示されたという報告があります。DAPA-HF試験のサブ解析で、ダパグリフロジンは、フレイル指数(0から1)にかかわらず、心不全の悪化や心血管死のリスクを減少させたことが報告されています(Butt JH, et al: Ann Intern Med. 2022 Jun;175(6):820-830. doi: 10.7326/M21-4776.)。ただしこの論文の内容をよ~く精査するとClass1(フレイルのない患者)のBMIは平均26.9、Class2のフレイル患者で平均28.9、Class3の強度フレイル患者の平均BMIはなんと30.6なのです(175cmで体重93~4kgに相当します)。白人・黒人ともにインスリン分泌能が高いため、これだけ太ったフレイル患者が多数を占めているのです。そりゃBMI30の患者にSGLT2阻害薬を投与すれば、グルカゴン/インスリン比が上がって体脂肪をケトン体に変換してエネルギーにしますので、体脂肪率がみるみる減って、動くのが楽になり、心不全も軽快するよねと思ってしまいました。

 ただし欧米人とアジア人は異なります。痩せ気味の日本人のフレイル高齢者ではSGLT2阻害薬は尿糖を排泄することによって、体脂肪だけでなく、さらに筋肉量が減少してサルコペニアになってしまう危険性があります。しかもフレイルの高齢女性だと性器感染症も懸念されますので、平田は痩せが特徴的な日本人の高齢フレイル患者にはSGLT2阻害薬は投与を避けた方が無難だと考えています。



金沢医科大学病院薬剤部 高多瞭治先生

Q.大変勉強になりました。ありがとうございます。心不全(HFrEF)の透析患者さんに対して、ARNIやβブロッカーは積極的に使用していただくように医師とディスカッションを行っております。SGLT2阻害薬に関しては、透析患者さんでは効果が期待できないため投与は検討されませんが、MRAに関しては少し迷うところがあります。心臓のアルドステロン受容体遮断による心臓の線維化や心肥大の抑制は期待できますでしょうか?添付文書上はスピロノラクトンなどは禁忌であり、適応としても薬剤選択に苦慮します。何かご存知のエビデンスがありましたらご教授ください。

A.MRAは利尿作用、Na排泄促進作用などの腎臓への作用を介した効果が透析患者の心不全ではあまり期待できない可能性がありますが、アルドステロンによるリモデリング抑制、線維化抑制作用は期待できるかもしれません。ただし、一番効果が期待されているフィネレノンも「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病、ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く」となっていますので、投与すべきではありませんし、カンレノ酸カリウム、エプレレノン、エサキセレノンも添付文書上では透析患者には禁忌になっています。

 スピロノラクトンに関してはPubMed検索では透析患者に投与した大規模研究はなく、少人数であまりレベルの高くない医学雑誌のものが多いのですが、左室肥大の改善、左室駆出率の上昇、心血管機能が改善したという報告が散見されます。それらのうちRCT>のメタ解析では全死亡や左室肥大やEFの改善が認められましたが、アジア人では25mgの低用量で有効性が高かったものの副作用も多かったことが記載されていました(Liu J, et al: Front Med (Lausanne). 2022 Mar 17;9:828189. doi: 10.3389/fmed.2022.828189. eCollection 2022.)。

 医中誌検索では大学の腎臓内科医の先生が臨床透析誌38: 29-34, 2022に「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬では,抄録に透析患者においても有用である可能性が示されている」と書かれていました。



佐賀大学医学部附属病院 橘川奈生先生

Q.エンレストには蛋白尿減少効果はございますでしょうか。もともとタンパク尿がありARBを内服していた患者がが、ARBからエンレストに切り替えた場合、タンパク尿が増えますでしょうか。ご教示いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。

A.エンレストはバルサルタン群に比し、有意にアルブミン尿を増加させるという報告が確かにあります(Voors AA, et al: Eur J Heart Fail 2015; 17: 510-517)。それによると36週間後のARNI群の腎機能悪化は-1.5mL/min/1.73m2、バルサルタン群は-5.2mL/min/1.73m2でARNIの方が有意に腎機能悪化速度が緩やかでした(調整後のP = 0.002)。ARNIの尿中アルブミン/Cr比の幾何平均値はARNI群で増加した(2.1-4.0mg/mmol)のに対し、バルサルタン群では横ばいに推移し(1.5-2.6mg/mmol、36週間の差に関するP=0.016)、2群間で尿中アルブミン/クレアチニン比に有意差が生じました。これって2.1-4.0mg/mmolは18.6-35.4mg/gCrにあたり、1.5-2.6mg/mmol は13.3-23mg/gCrにあたります。尿中アルブミンは30mg/gCr未満が正常ですので、ARNI群はバルサルタン群に比し有意にアルブミン尿を増やしたのは確かですが、単位に騙されました。アルブミン尿はARNIを投与しても、ほぼほぼ正常域内です。だから正解はわずかにアルブミン尿は増えますが、増えたところでほぼ正常域内ですから、あまり心配ないように思っています。

平田の独り言

努力って辛いよね、頑張るって辛いよね。

 努力って辛いよね、頑張るって辛いよね。でも頑張らなくては一流な薬剤師にはなれない。 その以前に薬剤師の仕事を面白くないと思っていては一生懸命にはなれない。

面白いからこそ頑張れるんだ。

興味を持つからこそ一生懸命になれるんだ。

 でも患者さんや他の医療者を好きになれない人はどうやっても、 薬剤師の仕事を面白いと思うことはできないだろうね。仕事が面白くなるための努力、 いや努力じゃなくてちょっとした工夫、呼び水のようなものかな?これはちょっとだけ必要だと思う。

 第23回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2023年3月11日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。

 登録していただいた方は再放送を繰り返し視聴できますが、再放送は質疑応答はできかねます。今回のテーマは「高齢者薬物療法と薬物動態の変化」です。

 
 加齢とともに生理機能は低下します。その中で顕著なのが呼吸機能、心機能、そして最も低下しやすいのが腎機能です。また加齢とともに併発疾患も増え、薬の種類も増えますが、それに伴い薬の有害反応が起こりやすくなります。だからトリプルワーミー処方、特にNSAIDsで腎機能が悪化するのは若年者では非常にまれで、ほとんどが高齢者です。そして最近の「適正使用のお願い」では「小柄な高齢女性」に副作用が極めて高頻度で起こっています。

 腎機能など薬物動態に応じて、薬物投与設計をするのは薬剤師の重要な役割ですが、寝たきりなどの活動度の低い高齢者の腎機能は、血清クレアチニンを測っても絶対値としてはほとんど意味ありません。そして利用できる薬物動態パラメータの情報はほとんどが若年成年男子のものであるため、高齢者ならばどのように変化するのかを考慮したうえで投与設計するのも薬剤師の極めて重要な役割です。世界で類を見ないほどの超高齢者大国になっている日本での今、高齢者薬物療法は非常に重要な課題なのです。

 まずはこれらの作用機序、副作用の対処法、各々または併用時の有効性のエビデンス、投与する順序などについてしっかり把握することから始め、Fantastic Fourによる有効性をより高め、安全に使用するキーパーソンとして薬剤師は必要不可欠だといえるようになれればと思っています。

 参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。

 薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そして活発なディスカッションに参加して薬剤師塾を大いに活性化いただける方に参加していただきたいと思っています。そしてその先には原著論文を書くんだという大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)