10月8日(木)開催の、「SGLT2阻害薬のすべて(初心者編)~単なる血糖降下薬が非糖尿病に有効な腎機能悪化防止、慢性心不全治療の切り札となるまで~」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。


透析患者にSGLT2阻害薬?驚きの報告あり

Q.ちらっとスライドに出ていましたが、やはり透析期でのSGLT2阻害薬は使用は控えるべきでしょうか。様々なメカニズムを介した心保護作用であれば無尿でも中止は必須でないかなと悩んでます。いくつか臨床試験が走っていますが、明らかな心保護のエビデンスはなさそうですし、透析という時点で、ある程度予後は限られるので、心保護効果も弱くなるのかと想像しています。先生のお考えはいかがでしょうか。

A.SGLT2阻害薬のこれまでの大規模RCT(EMPA-REG 、CREDENCE、DAPA-CKD、EMPA-KIDNEYなど)はすべてESKD・透析患者を除外していました。 理由は「SGLT2依存の糖・Na排泄効果が腎機能消失で働かない」という前提でしたが、これは「利尿剤仮説」の時代の産物なのだそうです。

 でもその後、利尿作用なし(というかSGLT2阻害薬のNa利尿も糖利尿も1週間以内に消失します)でも心保護効果が示されてきています。まず、透析導入率が世界1位の台湾の報告でRCTではないのですが、驚きの結果が出ています。透析開始後3ヶ月以内にSGLT-2阻害薬を使用していた患者は非服用マッチング患者に比し、SGLT2阻害薬使用者では長期追跡後の全死因死亡率およびMACEの発生率が有意にほぼ半減し、90日時点で透析継続リスクが低い=離脱できたのです(aHR = 0.49、p < 0.001)。透析開始後3ヶ月以内にSGLT2阻害薬を使用していた患者はわずか1.57%の771名でしたが、同数の年齢、男性をマッチングしたプロペンシティスコアマッチング(PSM)を用いており、交絡をより厳密に除いています。

 同じ台湾で 心不全合併末期腎不全患者患者10,032例の別のコホートでも同様にHR 0.80と複合アウトカムの有意な改善が示されており、再現性が高いです。またこれも台湾ですが腹膜透析患者でも重症敗血症(aHR 0.802)、敗血症(aHR 0.661)、肺炎(aHR 0.664)、およびPD関連腹膜炎(aHR 0.340)のリスクが低いことが示されています。

 これらの文献検索する前に「先生のお考えは?」と聞かれていたら、「CAPD患者ならまだしも透析患者ではSGLT2阻害薬はまず効かないでしょう」と答えるところでした。ただしこれらの研究はRCTではなくって因果関係は確定できませんが、いずれもプロペンシティスコアマッチングなので、交絡をより厳密に除かれています。

 ダパグリフロジンはeGFR25以上なら、エンパグリフロジンはeGFR20以上なら開始できるけど、透析導入になるまで続けよう。だけど透析後は腎機能が廃絶しているから効かなくなるので中止しましょうと言うのが常識だったのですが、やめずに続けた方がいいかもしれませんね。恐ろしや!SGLT2阻害薬の底力。

 米国ADA/KDIGOコンセンサスでは「eGFR≥20で開始し、その後eGFRが低下しても継続可」という方針です。つまり「透析患者への投与禁忌」という明示的な規定は存在しないんだそうです。

 透析患者でも腎外メカニズム(ケトン体→オートファジー・炎症抑制・酸化ストレス軽減によるリバースリモデリング作用、細胞内Na⁺低下による心筋保護、HIF活性化による貧血改善など)が機能するため、利尿作用なしでもこれだけの心保護効果が現れるのかもしれません。現在進行中のDAPA-HF試験の結果如何では透析患者への適用は「禁忌」から「慎重に投与」になる時代がすぐ来るかもしれません。


TPN投与患者に対するSGLT2阻害剤投与

Q.ブログを拝見しております。先ほどの質問の中でTPN投与患者に対するSGLT2阻害剤投与について助言がありました。非糖尿病患者でもケトアシドーシスを考慮し、中止すべきという解釈で宜しかったでしょうか?よろしくお願い致します。

A.9月10日開催の薬剤師塾でもTPN施行患者でSGLT2阻害薬を投与しても良いのかについての回答のサマリーは以下の通りです。

 TPN施行時のSGLT2阻害薬の使用は、心腎保護作用や予後改善作用という利点があるものの、ケトアシドーシスの潜在的リスクがあり、その発症のリスクが高いため、SGLT2阻害薬を手術3–4日前に中止するというのが現在のガイドラインの主張であり、周術期以外でも「腸管が使えずTPNを継続している入院糖尿病患者」では、SGLT2阻害薬の継続投与あるいは投与開始は一般には推奨されていません。SGLT2阻害薬を継続投与したいのであれば血中ケトン体やpHやHCO3-などのモニタリングが必要だと思います。

 今回の質問ですが、非糖尿病患者でケトアシドーシスになることはよほどのことがない限り、ないと思います。報告はゼロではないですが、急性疾患による経口摂取低下、手術前絶食、厳格すぎる低炭水化物食・ケトジェニックダイエットにSGLT2阻害薬の投与が重なると、あり得るかもしれません。報告はありますが、その中には隠れ糖尿病もあるんじゃないかなと思っています。

 健常人でも絶食時やケトン体食といわれる厳格な糖質制限をするとにケトン体は産生されますが、血糖が少し上がるだけでβ細胞が反応し、インスリンが脂肪組織の脂肪分解(lipolysis)を抑制してくれますから、ケトアシドーシスまでにならないと思います。一方、糖尿病患者ではβ細胞が機能不全になっているので「ケトン体産生への歯止めになるインスリンが最初から分泌されにくくなっている」という理由からケトアシドーシスを発症し得るといえます。

10月8日(木)開催の、「SGLT2阻害薬のすべて(初心者編)~単なる血糖降下薬が非糖尿病に有効な腎機能悪化防止、慢性心不全治療の切り札となるまで~」について以下のようなアンケートの回答をいただきました。原文のまますべてのアンケート内容を紹介させていただきます。


途中からついていけなくなりました。オンデマンドで復習します。


勉強になりました。ありがとうございます。


腎臓への効果は理解できたんですが、心臓への効果がイマイチ です。オンデマンドとブログを見てみます。


SGLT2がいかに素晴らしい薬かよく理解できました。 ありがとうございました。


分かりやすいご講演ありがとうございます。以前の講義の内容が今回の内容でさらに自分の中で整理でき、とても有意義となりました。


論文を使ってわかりやすくDGLT2を説明していただきありがとうございました。 腎臓と心臓に対して効果があることがよくわかりました。


SGLT2阻害薬がどのように腎臓および循環器系統の負荷を軽減するかが理解できた。


深堀して話してくださって日常業務の処方箋がよくわかったように思います。


アーカイブも見返して復習します!


SGLT2阻害薬の作用機序と糸球体のフィードバック機構について 繰り返し説明をいただき、目から鱗でした。いつもわかりやす言葉で様々な知識とエビデンスに基づいた講義は日常業務にいかせています。先生の講義を拝聴しているお陰で腎機能評価に基づく薬剤変更提案の疑義照会の実施やアセトアミノフェンの疼痛治療における適正量への用量変更の提案により患者様の除痛効果を達成できたりと実業務に大変生かせる事ができています


日々の業務の助けになります。 いつもありがとうございます。

2026年11月19日(木)開催の平田の薬剤師塾のお知らせです。

◆第85回「平田の薬剤師塾」平田の薬物治療学・降圧薬を極める(2)
~高血圧が脳卒中、心不全、腎不全の原因になっている~(中級者編)

 高血圧によって起こる合併症の種類によって推奨される降圧薬の種類が大きく異なる。虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞後)ではβ遮断薬が第一選択。左室肥大・心肥大、心不全・無症候性左室機能不全ではACE阻害薬が推奨されている。糖尿病合併高血圧ではACE阻害薬やARBのエビデンスが高いとに思われがちだが、アルブミン尿(-)でのエビデンスは全くないのだ。ALLHAT試験によってチアジド系利尿薬・Ca拮抗薬・RAS阻害薬の間で心筋梗塞・冠動脈死の一次転帰に有意差はないとされる。

頸動脈内膜中膜肥厚(動脈硬化の初期指標):Ca拮抗薬がより強い内膜中膜厚の減少を示した。
尿中アルブミン排泄増加(腎障害初期):ACE阻害薬が有意に改善するが、前述のようにアルブミン尿(-)でのエビデンスはない。

 高血圧治療ガイドライン2025より第1選択肢は従来のCa拮抗薬、RAS阻害薬、利尿薬とともに心不全に使われているβ遮断薬のビソプロロール、カルベジロールが加わった。またその次の選択肢としてARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬のサクビトリル・バルサルタン)、MRA(ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬)が降圧薬として選択可能になった。これらを各症例の病態に応じて適切に使いこなし有効かつ安全な薬物療法を提供できる薬剤師を目指そう。

 

お申し込みは こちら から
【申込期限:講演会開始直前まで】
【定員:300名】
 お支払いが完了していれば、開始直前でもご視聴いただけます。また、受講者の方は講演終了後、数日後から1週間、オンデマンド配信にて繰り返しご聴講いただけます。あわせて、講演終了後に講演スライドをお送りいたします。

(クリックするとPDFが表示されます。)

2026年11月12日(木)開催の平田の薬剤師塾のお知らせです。

◆第84回「平田の薬剤師塾」平田の薬物治療学・降圧薬を極める(1)
~血圧管理の重要性とイナーシャ~(初心者編)

 高血圧の定義は診察室血圧で最高血圧(収縮期血圧):140mmHg以上または最低血圧(拡張期血圧):90mmHg以上で、家庭血圧では135mmHg以上または85mmHgになる。高血圧とは心臓から送り出される血液が動脈を流れる際、血管の壁にかかる圧力が慢性的に高くなった状態のことで、遺伝的要因や塩分の過剰摂取、肥満、飲酒、ストレスなどの生活習慣が重なって起こるのがほとんどだ。
高血圧治療ガイドライン2025の改訂から、高血圧の定義は変わっていないものの、米国・欧州ガイドラインとの整合性を図るためか、治療時の降圧目標は原則として「全年齢・合併症にかかわらず130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)」に統一された。ただし蛋白尿のない低リスクCKD患者や後期高齢者では過剰降圧リスクによる腎機能悪化も報告されているが、現状の日本では「降圧不足による被害」の方が圧倒的に多い。

 我が国の保険制度は非常に発達しており、降圧薬を投与しやすい国であるにもかかわらず、高血圧の管理率(140/90mmHg未満)は先進国中、下から2番目という低さ、わが国の高血圧患者は4,300万人で降圧目標(130/80mmHg未満)を達成できているのは1200万人足らず。これによって脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全が多発している。高血圧を甘く見てはいけない!

 薬剤師の皆さん、投薬時に「血圧を下げる薬ですね。1日1回、朝食後、1錠お飲みください」だけしかいわないのはイナーシャ(怠惰)なんだよ。

「血圧を下げる薬です」+ひとこと言ってる?
「血圧を下げる薬です」+あなたの目標血圧は・・・・と言ってる?
「血圧を下げる薬です」+「最近の血圧はどれくらい?」を聞いてる?

 降圧薬を飲みたくなるような指導をする。つまり薬を服用するメリットと、注意すべき副作用をわかりやすく指導することこそ、薬剤師の力だよね。イナーシャは糖尿病や脂質異常症でも問題になっているんだ。

 もう1回言わせてほしい。高血圧の管理不良によって脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全が多発している。脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全の予後がどんなに厳しい病態か知ってるよね。

 今回は初心者編なので「血圧ってなに?」「高血圧が持続すると何が起きるか?」「生活習慣」などからわかりやすく解説しよう。

 

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9月17日(木)開催の、「腎臓が何をやっているか?(2)尿細管編 ~腎臓の最も重要な体液の恒常性維持は尿細管の仕事~」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。


Q.透析患者さんにおいてもフロセミドとサイアザイドの併用は効果があるのでしょうか。CKD患者においてサイアザイド単剤での利尿効果はほぼないと認識しております。

A.高度の腎機能障害患者では、サイアザイド系利尿薬単独での利尿・降圧効果は低下するため、作用の強い長時間型ループ利尿薬へと切り替えられこともあります。しかし末期腎不全(ESRD)の段階であっても、ループ利尿薬単独で十分な利尿が得られない場合にサイアザイド系利尿薬を併用すると、相乗効果により強力な利尿降圧作用が得られるケースは少なくありません(Sequential Nephron Blockade:連続的ネフロン遮断によるとされます)。僕が薬剤師時代にも腎臓内科の先生方はよく併用されていましたが、併用時は低Na・低K・高尿酸・腎機能悪化に注意し、効果と有害事象を見ながら減量・中止を検討する必要があります。

 ただし透析導入後となると、血液透析自体が体外循環による体液除去や血圧変動を伴い、腎虚血を引き起こしやすい操作であるため、尿量のある透析導入直後はループ主体、必要時にサイアザイド併用によって尿量を確保できますが、時間の経過とともに残存腎機能・尿量は徐々に低下していきますので、サイアザイドを続けるのはどうかと思っています。ループ利尿薬も尿量がかなり減少した段階になっても漫然と併用を継続することには疑問が残ります。

 特に尿量が300mL/日以下まで低下した場合、無尿(100mL/日未満)への移行が近いため、ループ利尿薬を含めた利尿薬の効果が乏しくなるため中止・減量を検討するのが望ましいと考えられます。また、両剤の併用(特にサイアザイド系)は近位尿細管の有機アニオントランスポーター(OAT)を介して分泌されるため、尿酸の分泌と競合するほか、体液量減少に伴う近位尿細管での尿酸再吸収亢進によって血中尿酸値を上昇させるのが悩ましいです。

Q.サムタス1V/日を使用してもフロセミドを併用したがらず、やっと説得して0.5A/日を併用(内服薬10㎎/日処方あるも嚥下困難で服用できていない)。サムタスも3日で終了。同時にフロセミドも中止。やっと利尿が始まり、浮腫が改善、体重は2k gほど減少して効果がみられていたのに、主治医は血管内脱水だと全部中止。その後経口困難で点滴必須となるもK↑、水分貯留で利尿剤0.5Aのみ、対処法をご指導ください。

A.目的が「心不全患者の尿量を出すこと」だけなら、通常はまずループ利尿薬の適正化、順次ネフロン遮断(サイアザイド、MRA併用)を投与し、低Na時であればサムタス(トルバプタンリン酸エステルNa注)、必要なら限外濾過(ECUM:透析器に透析液をつながないで除水だけを行う方法)による水除去などを検討します。

 本症例の場合、尿量、尿中Na排泄分画、血清電解質などの検査結果の推移を知ることができないので明確に回答できないのですが、血管内脱水(体液量減少/循環血流量減少)と、細胞内脱水(高ナトリウム血症/高張性脱水)は、「どの画分の水が失われているか」によって自覚症状や検査値の特徴が明確に異なります。

 心不全による溢水で尿量がないとなると腎機能の悪化も懸念されますよね。そんな症例にサムタス±フロセミドが3日間投与され、やっと利尿が得られ、体重2k減少、浮腫改善ということは、「効果あり」ということだと思います。その後、主治医は血管内脱水と判断したということは、サムタス±フロセミドが効いた(効き過ぎた?)と判断したのでしょうね。血管内脱水では生食や乳酸リンゲルなど細胞外液補充液を投与する必要がある病態ですから、フロセミド、サムタスも中止になるのは当然と思います。

 細胞内脱水(=高張性:血清Na高値や自由水欠乏)が懸念される場合、まず溢水(細胞外液過剰)と高張性(細胞内脱水)が併存し得る点を踏まえ、張度是正とうっ血管理の両立を図ります。ただし「点滴必須となるもK↑」の、この点滴がわからないです。輸液による点滴でその中に入っているカリウム剤(3号輸液など)でカリウムが上昇したのか、サムタス点滴の水利尿によってカリウムが上昇(多分Naはもっと上昇?)したのかも不明です。「水分貯留で利尿剤0.5A」というのはフロセミドのことでしょうね。水分貯留(特に輸液後の細胞外液過剰)で高カリウム血症の是正が必要となると、フロセミドが前回は効き過ぎているので少量投与から開始というのは理にかなっていると思います。

 その後はNa/K/Cl/HCO3−、Cr、尿量・尿Na、体重、うっ血指標などのモニタリングをしつつ、最初に述べたようにループ利尿薬±サイアザイド、MRA併用を投与し、低Na(細胞内浮腫)であればサムタスの投与を検討します。薬剤投与によっても水分過剰が改善せず、腎機能悪化、血圧低下が懸念される場合はECUMという限外濾過によって等張体液を除去できます。

9月17日(木)開催の、「腎臓が何をやっているか?(2)尿細管編 ~腎臓の最も重要な体液の恒常性維持は尿細管の仕事~」について以下のようなアンケートの回答をいただきました。原文のまますべてのアンケート内容を紹介させていただきます。


初心者編のオンデマンドも見てから参加しました。 オンデマンドがあると聞き逃しても安心して自分の速度でみることができるので頭にしっかり入りました。今回もまたわかっているところは2倍速度、難解な部分はストップしたりてのじっくり理解に時間を取って先生の講義を自分の知識にしっかりしまい込む予定です。特に腎臓の構造と働き、薬剤の作用点の図は今回チラ見ではもったいないくらい良くできていてうれしかったです。


腎臓の特定の部位で何をやっているかということはあまりわかっていなかったので大変勉強になりました。前回の講義と合わせて復習したいと思います


2週間に渡り、腎臓という臓器を勉強させていただき、今まで何もわからずに処方提案や服薬指導をしていたことに呆然としております。質問のフロセミドとサムスカの話も非常に勉強になりました。ありがとうございました。


貴重なご講演ありがとうございました。学んだ内容を院内で共有し、より良い薬物療法を実践していきたいと思います。


ありがとうございました。


後半をしっかり聞きたかったので 後半が早足のようになり残念でした


普段なんとなく利尿薬としてまとめていた薬たちの違いを学び直し、監査で活かせるようになったと思います

9月10日(木)開催の、「腎臓が何をやっているか?(1)糸球体編~足細胞は再生できないから腎機能がよくなることはない~ (初心者編)」について以下のような質問をいただきましたので回答させていただきます。


Q.糸球体上皮細胞の脱落による弊害はアルブミンの漏出以外にはありますか?

A.糸球体内圧の上昇と糸球体過剰濾過は足突起の癒合・消失(foot process effacement)して足突起によるジッパー構造が壊れて隙間が開いて、濾過障壁であるスリット膜の破綻を招き、アルブミン尿が出現します。

 さらに進行すると糸球体上皮細胞(タコ足細胞またはポドサイト)の脱落が起こり、ポドサイトは分裂再生能が乏しいため数の補充ができず、ポドサイト密度の低下が不可逆的に進行します。ポドサイトが一定以上失われると分節性硬化が生じ、糸球体硬化が進行して糸球体ろ過量が低下し、ネフロン数の減少を通じて慢性腎臓病は末期腎不全へ進展します。

 この過程はアルブミン尿の程度と密接に関連し、尿中ポドサイト(mRNA等)増加は腎機能低下進行リスクの指標になります。従って、ポドサイト脱落の弊害は「アルブミン・タンパク漏出」に加えて「糸球体硬化・ネフロン喪失・腎機能低下の不可逆的進行」を含みます。

 とっても怖いでしょ?タコ足細胞の脱落はタコ足細胞は再生しにくいため、通常、腎機能が良くなることはなく、ネフロン数が減少し、進行性に腎機能が低下して末期腎不全になると、いずれは透析導入が必要になります。だから薬剤師は「尿検査をしていただいていますよね」という患者さんへの声かけ、腎臓内科、糖尿病内科の受診勧奨によってアルブミン尿・タンパク尿定量をしていただくとDMであればFour Pillars、非DM患者ではtriple therapyを投与していただいて、透析導入を防ぐことができます。これをせずに「血糖値を下げる薬ですね、朝食後に1錠飲んでくださいね」だけでいいと思っている薬剤師、検尿をしてくれない医師はどちらもイナーシャ(怠惰)だと思います。


Q.TPN施行中患者にSGLT2阻害薬の投与はあり?
TPN施行中のほぼ腸管を使用していない患者に対してSGLT2阻害薬を使用しても問題はないですか?高カロリー輸液にインスリンを加え、さらにSGLT2阻害薬を入れることにいささか疑問を感じますが、有益な場合もあるのでしょうか。先生のお考えをお聞かせ願えますでしょうか。

A.AHA/ACC等2024 perioperative guideline:SGLT2阻害薬は周術期の代謝性アシドーシス/正常血糖DKAリスクがあるため、手術の3–4日前に中止を推奨しています。

英国多学会コンセンサス(2025):SGLT2阻害薬は前日と当日に中止(多くは3日前推奨)

 上記のように、現在の周術期ガイダンスの多くは、絶食・手術・感染・脱水などのストレス下では正常血糖DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)リスクが上がるため「周術期はSGLT2阻害薬を原則中止(術前3–4日)」を推奨しています。

 絶食患者に、SGLT2阻害薬を投与すると血糖値低下→インスリン分泌低下、相対的なグルカゴン高値→脂肪分解・脂肪酸酸化亢進→糖尿病患者ではケトン体の異常上昇により、正常血糖DKAの発症リスクが上がります。SGLT2阻害薬を投与された糖尿病患者がこれから「血糖値改善のためにこれから厳格な糖質制限食(いわゆるケトン体食)にする!」といったら絶対にやめさせてください。TPNのような絶食相当の状況でも同様です。つまり「が急性期は中止すべき」というのが最新の国際的コンセンサスです。TPNは「経口摂取不可=絶食相当」で、ストレスホルモン・インスリン用量変動が重なり正常血糖DKAの好発状況だからです。

 ただし論文の中にはTPN施行中でほぼ腸管を使っていない患者でも、SGLT2阻害薬は「腎糸球体で濾過されたブドウ糖の近位尿細管における再吸収を抑えて尿中に排泄させる」薬なので、腸管からの糖供給が乏しくても、作用機序上は問題なく作用すると思います。つまり糸球体過剰濾過を是正し、糖利尿を増加するはずです。それによる腎保護作用・心保護作用、急性腎障害や死亡率低下作用などが期待できるという報告もあります(PMID: 41721639)。TPNは栄養状態を安定化させるために実施するものであり、インスリンにより血糖値がコントロールされていれば、ケトアシドーシスの発症リスクが低下するので、SGLT2阻害薬の投与継続は可能だという報告もあり(PMID: 36872114)、特に急性腎障害や死亡リスクを軽減していますが、正常血糖ケトアスドーシスは増えています(PMID: 40305034)。絶食・TPNなど「低インスリン/相対的炭水化物不足」環境ではケトアシドーシス(特に正常血糖性DKA)の相対リスクが高まることもといわれています(PMID: 41721639)。

 ということでまとめますと、TPN施行時のSGLT2阻害薬の使用は、心腎保護作用や予後改善作用という利点があるものの、ケトアシドーシスの潜在的リスクがあり、その発症のリスクが高いため、SGLT2阻害薬を手術3–4日前に中止するというのが現在のガイドラインの主張であり、周術期以外でも「腸管が使えずTPNを継続している入院糖尿病患者」では、SGLT2阻害薬の継続投与あるいは投与開始は一般には推奨されていません。SGLT2阻害薬を継続投与したいのであれば血中ケトン体やpHやHCO3-などのモニタリングが必要だと思います。

9月10日(木)開催の、「腎臓が何をやっているか?(1)糸球体編~足細胞は再生できないから腎機能がよくなることはない~ (初心者編)」について以下のようなアンケートの回答をいただきました。原文のまますべてのアンケート内容を紹介させていただきます。


何度も初心者向けを聞かせていただいていますが、何度聞いても、自分で理解できていなかった部分の再発見が見つけられて勉強になります。また、先生のお話も少しずつ時代とともに新情報も入りバージョンアップされているので何度聞いても価値があるなあと感じています。難解な部分を図で表して理解しやすく工夫してくださっているのもありがたいです。これからもよろしくお願いします


詳しく丁寧に解説頂きありがとうございます。


勉強になりました。ありがとうございました。


腎保護作用のある薬にどのような腎保護効果があるか理解できた


前半の最初の部分は、他の講義でも説明されたこともあるので省略していただいて、尿浸透圧の部分や後半の部分に重きを置いて、ゆっくり説明していただいた方がよかったのではないかと思います。糸球体ろ過フィルターの主役が、研究が進むにつれ変遷していることなどももっと詳しく教えていただきたかったと思いますが、自分でも調べてみます。


腎臓の機能形態を復習することができ、改めてSGLT2阻害薬、RAS阻害薬、フィネレノンの重要性を理解できました。往診同行で処方提案をする機会が多いため、今日の知識を生かしたいと思います。


初学者にもわかりやすく、すぐに活かせる知識をありがとうございます。


糖尿病性腎症について勉強していますが、肥満の方でeGFRがなぜ高い症例があり、糸球体過剰ろ過だろうかと思っていましたが、本日の講義で理解できました。有難うございました。


平田先生の講義は、どう考えたら良いのかということを分かりやすく解説いただけるので、大変勉強になります。ありがとうございます。


尿タンパクが出る機序がよくわかりました


非常に勉強になりました 


尿腎機能と尿濃縮・希釈の部分が理解出来ませんでした。 今から調べます。 来週もよろしくお願いいたします。

2026年10月29日(木)開催の平田の薬剤師塾のお知らせです。

◆第83回「平田の薬剤師塾」日本腎臓病薬物療法学会大阪大会 出発前特別企画
腎機能悪化を防ぐために薬剤師にできることA to Z
※19時~22時(質疑含め3時間、休憩あり)

 腎機能悪化を防ぐために薬剤師にできることって、何がある?透析導入を防ぐ、腎機能の正しい評価、薬剤性腎障害を防ぐこと、シスプラチン、バンコマイシン、アミノグリコシド系抗菌薬などの腎毒性薬物の使い方は薬剤師が主導すべきだろう。高齢者では腎虚血によって起こるトリプルワーミー処方には要注意。じゃあNSAIDs、利尿薬の中で特に注意が必要なものはどれだろう? NSAIDsを避ける鎮痛療法は「アセトアミノフェン」だけ?じゃあアセトアミノフェンを確実に痛み止めとして効かせるには?こんな、様々な疑問を解消できる力のある薬剤師になってもらいたい。

 腎機能が悪化して透析が必要となると患者さんのQOLは著しく低下するし、透析医療費は450万円/年で透析患者数は減少傾向にあるとはいえ、現在も33万人以上で透析医療費は国民医療費46.7兆円の3.6%を占めている。しかし朗報がある。DAPA-CKD試験では腎機能悪化速度-2.85mL/min/1.73m2が-1.09 mL/min/1.73m2まで緩やかにできた。最強の腎保護薬SGLT2阻害薬の登場だ。ダパグリフロジンだけで透析導入を平均19年も延長できるかもしれないのだ。このような腎保護薬が充実してきたので透析導入患者数を大幅に減らせるはずだ。

 SGLT2阻害薬、フィネレノンのアルブミン尿抑制作用は完全な相加作用が示される。つまり単独でSGLT2阻害薬で30%のアルブミン尿が軽減できるとすれば、フィネレノンの併用によってほぼ60%のアルブミン尿が軽減できるため、典型的な糖尿病性腎症という病名はなくなすことができるかもしれない。

 ただしSGLT2阻害薬には脱水、性器感染、ケトアシドーシスが有意な副作用としてあげられる。投与開始時の腎機能悪化も気になる。でも最近の考え方は最強で速やかな腎保護作用、心保護作用をもつSGLT2阻害薬はケトアシドーシス以外ではSGLT2阻害薬を継続する方向に傾いている。性器感染・尿路感染ともに原則はSGLT2阻害薬を継続し、再発・重症時のみ中止を検討。脱水は特に利尿作用の認められる投与初期とループ利尿薬併用患者に要注意でSGLT2阻害薬は基本的に継続する。一時的な腎機能低下を理由にSGLT2阻害薬中止する前に脱水・利尿薬過量・RAAS阻害薬など可逆要因を評価し是正する。SGLT2阻害薬の心腎保護の利益は極めて大きいため、安易な中止は避けるのだ!

 

お申し込みは こちら から
【申込期限:講演会開始直前まで】
【定員:300名】
 お支払いが完了していれば、開始直前でもご視聴いただけます。また、受講者の方は講演終了後、数日後から1週間、オンデマンド配信にて繰り返しご聴講いただけます。あわせて、講演終了後に講演スライドをお送りいたします。

(クリックするとPDFが表示されます。)

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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