薬剤師塾の今後の取り組み2022年5月26日

 来月6月18日(土)から「基礎から学ぶ薬剤師塾」は13:30から開催します。なおこの会からは、まず最初に録画した講演内容を見ていただき、その直後にライブで質問を受けたいと思います。これは「これまでやった薬剤師塾を再放送してほしい」という要望によるものですが、ライブでの講演中に質問が入ると、質問者の了承なく個人の名前が明らかにされるため、再放送ができないからです。ですから再放送・アーカイブ放送になるものは今年の次回、6月以降に行ったもので質疑応答を除いたものが対象になりますが、下記に示しますように薬剤師塾は19-20回で1クールを終え、またほぼ同様のテーマを最初から収録し直す予定です。

 「少人数でのディスカッション」の開催も要望は多いのですが、これも個人情報の問題がありますので、個人情報の使用許可・著作権などの問題で、実施することがむつかしいなと考えています。実際にはI&H株式会社内では薬剤師塾が終わった土曜日の16時から2時間の「平田塾」を開催して「少人数での症例検討会」をやっており、腎臓病に限らず、高血圧、糖尿病、慢性心不全、心房細動、感染症、虚血性心疾患などの症例に関する平田塾(少人数でのディスカッション)をやっています。今後とも、先生方のご意見、ご要望をいただくことによって「基礎から学ぶ薬剤師塾」をよりよいものにしたいと思っておりますので、ご意見、ご要望を頂ければ、幸いです。


今までの薬剤師塾とこれからの薬剤師塾の予定

回数 講演タイトル 日時
01 薬剤師ってなに? 2021.04.24
02 高齢者薬物療法について考える triple whammy処方への対応 2021.06.01
03 腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう 2021.07.06
04 CKD患者の腎機能を守るための薬剤師の役割 ポイントは蛋白尿と血圧 2021.08.10
05 腎機能低下時に減量が必要な薬 根拠は尿中排泄率だけじゃない 2021.09.07
06 NSAIDsの腎障害 アセトアミノフェンに腎障害はある? 2021.10.05
07 SGLT2阻害薬の腎機能低下抑制作用とAKI防止作用 2021.11.02
08 初めての学会発表から、博士号取得までの道 2021.12.07
09 透析患者の薬① 基礎編 病態と薬物療法 2022.01.04
10 透析患者の薬② 応用編 合併症と薬物療法 2022.02.01
11 腎臓が何をやっているか①糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ 2022.03.01
12 腎臓が何をやっているか②尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ 2022.04.16
13 透析患者の便秘と下剤の適正使用
たかが便秘と考えないで!透析による虚血によって腸管穿孔することも
2022.05.14
14 腸腎連関
心血管病変・腎機能を悪化させる尿毒素は腸内細菌によって産生される
2022.06.18
15 透析を科学する CHDFの薬用量、透析後の補充用量ってわかります? 2022.07.09
16 物性から薬物動態を理解してみよう
「動態=薬の顔・特徴」だと思えば動態なんて難しくない
2022.08.13
17 広げてみようTDMの世界 薬剤師が主役になれる薬物療法 2022.09.10


平田への
講演依頼に関しましては平田のメールアドレス
hirata@kumamoto-u.ac.jp までお気軽にご連絡ください。


大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。またsmall group discussionによる少人数の症例検討会なども実施可能です。

第 13回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
透析患者の便秘と下剤の適正使用
 ~たかが便秘と考えないで!腸管穿孔することも~ 

 

甲府城南病院 木下先生

Q.当院ではMgは外注になるためモニタリングされてるケースはあまりありません。CKD患者さまや高齢者で酸化Mgを使用する場合は、必ず医師にモニタリングをお願いした方がよろしいでしょうか?またどのぐらいの頻度でモニタリングをお願いしたら良いですか。

A.はい。定期的に測定することと添付文書や「適正使用のお願い」に書かれています。私のいた病院では透析患者ではMg剤の投与の有無に関わらず全員、2週間に1回電解質・腎機能を測定しており、その中のセットに血清Mg濃度も入っておりました。一般的には患者様の腎機能が低いほど、Mg剤の投与量が多いほど高頻度で測定すべきだと思いますが、私の経験では酸化Mgを6g/日も投与されて紹介入院となった患者さまでも血清Mg濃度が6mg/dLを超えたことはありませんでした。ただしこれはあくまでも平田の数少ない経験上のことです。

 私が薬剤師塾で紹介したイレウスに至った便秘に対してクエン酸マグネシウム34g(クエン酸塩なので多いように見えますがカマグ4.5g分です)を投与された後期高齢患者では血清Mg濃度16.6mg/dL と著明に上昇して嗜眠状態、血圧は50mmHg未満になっていますが、これは結腸内圧上昇によって結腸が菲薄化しバリア機能が失われて通常は吸収されにくいMgが直接血中に移行した可能性があります。腸管内圧が上がると結腸が伸びて薄くなって著明な炎症所見を示します。そして結腸のバリア機能が失われるとMgだけでなく、腸内細菌や吸収されない薬剤のバンコマイシンも重症偽膜性大腸炎患者では59µg/mLと当時の偽膜性大腸炎患者の世界最高濃度になったことを経験しました。ということで、あくまで平田個人の見解ですが、数日間も排便がないため、下剤や浣腸の大量投与などによって腸管内圧が増大すると、結腸の菲薄化や結腸の炎症によるleaky gut状態化で、もともと吸収されにくいMgが極めて吸収されやすくなって致死性の高マグネシウム血症になりうるのではないかと考えています。


望星薬局 加藤博昭先生

Q.高マグネシウム血症に関して、一点質問させて下さい。センナ等の刺激性下剤による”大腸メラノーシス”の有無が、酸化マグネシウムの腸管からの吸収に影響を及ぼす可能性等はあるのでしょうか。

A.平田が薬剤師をやっていたころは結腸が内視鏡で見ると黒くはなるが、深刻な症状は経験したことがない、何も起こらないという認識の医師がほとんどでした。ただしよく調べてみると最近では大腸粘膜が傷害され、色素の正体はリポフスチンと言って、刺激性の下剤で大腸粘膜が傷害され、死滅した細胞をマクロファージが貪食することで、リポフスチンが沈着して黒くなるとありました。これが炎症であればleaky gutを起こしMgが吸収される可能性はないわけではないと思います。ただし腸管内圧の急上昇による虚血性腸炎や結腸穿孔は非常に激烈で耐えがたい腹痛を呈しますので、Mg剤服用中なのに2週間排便がないので高圧浣腸またはプルゼニドやラキソベロンの大量投与をしてleaky gutを起こすとMgだけでなく、結腸内の様々な細菌が血中に移行します。これによって死亡したら敗血症と診断するか、虚血性腸炎と診断するか、腹膜炎と診断するか・・・・。そしてたまたまMg濃度が15mg/dLのような高値になって心停止あるいは呼吸停止したら、高マグネシウム血症と診断するかもしれません。これも平田個人の見解ですが、本当にMg剤が悪いのではなく、腸管の炎症がMgの腸管透過性を亢進させているだけかもしれません。


鹿児島市立病院 薬剤部 中村成志先生

Q.モビコールは溶解して使用する必要があると思うのですが、水分制限がある患者においては溶解の水分量による影響はどの程度あるとお考えでしょうか。適切な溶解量であれば吸収される水分量はほとんどないと考えて問題ないでしょうか。

A.硬結便がない患者さんであれば、ニフレックに比べればモビコールの水分量は少ないです。成人の最大用量はモビコール配合内用剤HDで3包あたり360mLです。水を多く含んだ便が排泄されれば脱水気味になると思いますし、効果ない場合にもマクロゴール4000が浸透圧下剤作用を示して腸管に水分が移行すると思いますので、あまり問題になる水分量とは思えません。ただし溢水が気になる症例であれば飲水を伴う下剤以外を選択すれば問題ありませんね。


I&H 薬事課 那須先生

Q.Ca型レジンに良いところは無いのでしょうか? 

A.低カルシウム血症気味の方、下痢気味の方にはCa型の方にはよい選択になると思います。Na型は低カリウム血症にもなりやすいので、マイルドなCa型を選びたいということもあるでしょうし、心不全で水分貯留に敏感な医師はNa型を嫌がると思います。


川崎幸病院 市本先生

Q.本日の講会内容についての質問です。刺激性下剤を連日何錠も服用されている患者さんについて、刺激性下剤を頓用にしたり使用量を減量できないかと思うのですが、その際に別の下剤を追加し刺激性下剤を中止してしまっていいのか、徐々に減量するほうがいいのかなど、アドバイスを頂きたいです。

A.下剤は抗凝固薬のようなハイリスク薬ではありませんので、徐々に変更しても、一度に全面的に変更しても、どちらでも構わないと思います。平田はプルセニド10錠以上/日服用中の患者と医師を説得して中止していただき、ソルビトールに変更していただき、毎日、排便が得られるようになった症例を数例経験していますが、ほとんどの症例で1回7.5mL(粉末で5g相当)のソルビトールを1日2~6回程度で効果があり、1日6回を超えたソルビトールが必要な患者さんは皆無でした。ただしソルビトールは腸内細菌に利用されるため腹鳴・放屁の副作用を訴えることがあります。


宜野湾記念病院 後藤夏美先生

Q.168cm43kg85歳男性でCr0.65でVCM初回投与設計を行ったところ、実測値が26.7µg/mlと大きく外れた為、VCM投与終了後、Cys-Cの測定を依頼しました。その結果2.19mg/l、体表面積未補正eGFRcys21.27ml/minとなりました。腎機能低下時はeGFR≒CCrと考え、次回TDM時にはCCr20ml/min程と考え(使用しているTDMソフトがCCrをもとに推算します)この結果を活かせるでしょうか。この薬剤師塾をきっかけにCys-Cの測定提案ができました。この結果を正しく活かしていくために先生のご意見をお聞きできれば大変ありがたいです。

A.血清Cr値を測定すると腎機能正常と思っていたのにTDM結果は高トラフ値なので、血清Cys-Cの測定をしたのはお見事です。少し訂正すると腎機能低下時はeGFR≒CCrではありますが正確にはeGFR=推算CCr×0.789の関係です。ただし問題になるのが使用しているTDMの解析ソフトのデータが2000年以前のものを利用して作成されていれば推算CCrを使っていたとしてもこの推算CCrのCr測定がJaffe法によるもの(CCrJaffe)なのか、酵素法によるもの(CCrEnz)なのか、あるいはこれらが混在しているものかが不明です。2000年以降は日本での血清Cr値はほぼ酵素法に代わりました。CCrJaffeであればeGFR≒CCrとしても構わないと思いますが、より正確に推算するには酵素法で測定した血清Cr値に0.2を加えて推算CCrを算出するとCCrJaffeが算出されます。TDMの解析ソフトのデータがCCrEnzであればそのまま計算して構わないと思います。

 第14回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2022年6月18日(土)13:30から15:30まで の申し込みを始めます。今回より皆さんの要望により土曜日13:30から15:30に変更します。今回のテーマは「腸腎連関~心血管病変・腎機能を悪化させる尿毒素は腸内細菌によって産生される~」です。

 腸脳連関という語句はほぼ確立しており、うつ、不安、自閉症などは腸内細菌叢と関連することが明らかになっていますが、腎機能悪化、心血管病変、動脈硬化の進行、尿毒症の悪化なども腸内細菌叢と関連することが確立しつつあります。例えば血液透析でカルニチンは極めて除去されやすいためカルニチン欠乏になりがちですが、経口カルニチン製剤の吸収率は20%以下と低いため、安易な投与はTMAOという尿毒素を産生し、これは腎排泄性であるため、腎機能低下患者では蓄積し、動脈硬化を進行させ死亡率にも影響します。たんぱく源となるトリプトファン、チロシンなども尿毒素源になりうるのです。今回はこれらの問題について考えたいと思います。

 参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。

 薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書くんだという大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。

 

 

薬剤師塾の今後の取り組み2022年4月27日

 薬剤師塾の運営については、いろいろと悩みながらでも、少しずつでも改善したいと思っています。薬剤師塾開催後にアンケートを取ってみると、以下のようなご意見が出ています。

①これまでやってきた薬剤師塾を再放送してほしい
②開始時間帯を火曜日18時よりも19時から、土曜日13時よりも14時以降にしてほしい
③「一方向性の講演+質疑応答」の従来の形式だけでなく、「少人数でのディスカッション」も取り入れてほしい

 希望者のみに日程を限って再放送することは可能ではないかと思っています。ただし開始時間帯は日常業務を行っているI&H株式会社のスタッフの援助によって、この薬剤師塾の運営が成り立っているため、平日19時以降から(22時近くまで残ることになり、通勤上の問題があります)、土曜日16時から(I&Hの社内の薬剤師塾があります)などの開催は困難で、①②については再放送するとなると平日18時からの開催になると思いますが、これまでのアーカイブも含めて再放送をすることによって解消できそうです。これまでの薬剤師塾、これからの薬剤師塾の予定を以下に示しますが、これからは③症例をベースにした「少人数でのディスカッション」もできればやってみたいと思います。双方向性ですので、得られる情報量は少なくなりますが、考え方が飛躍的に向上すれば、参加者の興味次第で、大きく成長する薬剤師が出そうな気がします。ただしディスカッションに参加する方は、所属・氏名・顔を出していい方のみ8名足らずに絞り、それ以外の方はオーディエンスとして静観していただく形になりますが、オーディエンスにも質疑はできるようなスタイルの薬剤師塾も隔月程度でやってもいいかと思っています。
 今後とも、先生方のご意見、ご要望をいただければ、幸いです。


今までの薬剤師塾とこれからの薬剤師塾の予定

回数 講演タイトル 日時
01 薬剤師ってなに? 2021.04.24
02 高齢者薬物療法について考える triple whammy処方への対応 2021.06.01
03 腎機能をしっかり見れる薬剤師を目指そう 2021.07.06
04 CKD患者の腎機能を守るための薬剤師の役割 ポイントは蛋白尿と血圧 2021.08.10
05 腎機能低下時に減量が必要な薬 根拠は尿中排泄率だけじゃない 2021.09.07
06 NSAIDsの腎障害 アセトアミノフェンに腎障害はある? 2021.10.05
07 SGLT2阻害薬の腎機能低下抑制作用とAKI防止作用 2021.11.02
08 初めての学会発表から、博士号取得までの道 2021.12.07
09 透析患者の薬① 基礎編 病態と薬物療法 2022.01.04
10 透析患者の薬② 応用編 合併症と薬物療法 2022.02.01
11 腎臓が何をやっているか①糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ 2022.03.01
12 腎臓が何をやっているか②尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ 2022.04.16
13 透析患者の便秘と下剤の適正使用
たかが便秘と考えないで!透析による虚血によって腸管穿孔することも
2022.05.14
14 腸腎連関
心血管病変・腎機能を悪化させる尿毒素は腸内細菌によって産生される
2022.06.18
15 透析を科学する CHDFの薬用量、透析後の補充用量ってわかります? 2022.07.09
16 物性から薬物動態を理解してみよう
「動態=薬の顔・特徴」だと思えば動態なんて難しくない
2022.08.13
17 広げてみようTDMの世界 薬剤師が主役になれる薬物療法 2022.09.10

 

第 12回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎臓が何をやっているか ~尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~

 

ゴダイ薬局 足立和夫先生
唯一、声を出していただいたご質問です。ありがとうございます。下記の内容だったと思いますが、記憶間違いしていればごめんなさい。

Q.フロセミドとアルブミンを併用する臨床的な意義は?
A.ネフローゼ症候群では糸球体が壊れて尿中にアルブミンが漏れ出るため、そして肝硬変では肝臓でのアルブミン合成ができなくなるため、低アルブミン血症になって血管外の水分を血管内に引き戻すことができず、ネフローゼは全身浮腫、肝硬変では腹水ができやすくなります。ループ利尿薬のフロセミドは非常に強力な利尿薬ですが、低アルブミン血症の時には、フロセミドを大量投与しても効きにくくなります。特に肝硬変の腹水などのサードスペース(非機能的細胞外液)を形成すると利尿薬は効かなくなります(図1)。消化管浮腫のためフロセミド上の吸収率が低下することがありますので、静注投与に切り替えてみるのもよいでしょう。サイアザイドを加えてみる、トルバプタンを加えてみる、半減期が非常に短いですからフロセミドを頻回投与するのもありだと思います。また血清アルブミン濃度が2.0g/dL前後の著明な低アルブミン血症などで、フロセミドの利きにくい浮腫(医師はよく「硬い浮腫」と言います)に対してアルブミンを併用すると著効します。

血中のアルブミンは血管外にしみ出た水分を血管内に引き戻す働きがありますが、これはアルブミンによる膠質浸透圧の作用によるものです(図2.3)。アルブミン製剤と一緒に投与すると間質液に貯留した水分を膠質浸透圧の力(スターリングの法則)で血管内に引き戻し、循環血漿量を増加させてめざましい利尿効果を上げることができます。しかしこれは一時的な効果なので、高価なアルブミン製剤を大量に使うことは問題があり、尿中アルブミン排泄増加に伴う腎機能悪化も考えられるため、アルブミン製剤の過度の使用は慎まなければならないとされています。

フロセミドは腎臓の濾過装置の糸球体によって濾過された後(後述しますが蛋白結合率が高いため遊離型濃度は低いです)、あるいは近位尿細管のOAT2を介する尿細管分泌によって、蛋白結合していない遊離型のフロセミドが尿細管のヘンレの係蹄に働いて利尿効果を現わします。しかしネフローゼ症候群が悪化した時にはアルブミンも同時に濾過装置である糸球体から漏れやすくなるため、尿細管内から漏れ出たアルブミンがフロセミドと結合して利尿作用を減弱してしまうという説がありますが(フロセミドの蛋白結合率は91~99%と高いため)、蛋白競合する薬物を併用しても利尿作用が強力にならなかったということで否定する論文もあります1)。平田は蛋白競合による相互作用はないと考えていますので(総濃度は低下しても遊離型濃度は変化しない)、尿中に漏出したアルブミンとフロセミドが結合して受容体に結合しにくくなり、利尿作用が低下する説は「あり」だと思っています。いずれにしても高価でヒトの血漿由来の高価なアルブミンを尿中に捨てるのはもったいですし、効果も減弱する可能性があるためネフローゼ症候群の時にはアルブミンを併用しません。

【ポイント】
ネフローゼの悪化によりアルブミンは糸球体基底膜を通過しやすくなり尿細管腔内濃度が上昇する。フロセミド(ラシックス®)の受容体は尿細管のヘンレ係蹄上行脚の管腔側にあるため、尿中に漏出したアルブミンとフロセミドが結合して受容体に結合しにくくなりラシックス®が効きにくくなるかもしれない。

1)Agarwal R, et al: J Am Soc Nephrol 2000; 11: 1100-1105


望星北浦和薬局・鈴木寛美先生
チャットでの質問

Q.「SGLT2阻害薬の、慢性腎臓病に対する投与量について、保険調剤の捉え方に関してご教示ください。
自身の勤務薬局が受ける腎臓内科処方せんにて、SGLT2阻害薬は、副作用回避のため、適応より少ない量(糖尿病に対する小さい規格の投与量)にて開始されることが多く、ほとんどのケースではそのままの量で継続されております。処方せんに検査値の掲載はまだなく、効果の判定はどのように行えばよいのか、投与量の増量は不要なのか疑問です。薬局薬剤師として、どのような関与が必要であるか、ぜひ教えていただければ幸いです。」

A.SGLT2阻害薬は初の大規模無作為化試験EMPA-REG OUTCOME試験で用いられたエンパグリフロジンの用量は10mgと25mgの2用量がプラセボ群と比較されましたが、10mgと25mgで全く差がないため、「腎保護作用・心保護作用については用量依存性はない」とされており、これは他のSGLT2阻害薬でも同じと思われています(ただしSGLT2阻害薬の尿中ブドウ糖排泄、血糖降下作用、尿酸低下作用は用量依存的です)。だから個人的には増量は不要ではないかと思っていますが、ダパグリフロジンの用量は5mgと10mgがありますが、10mgを用いて腎保護作用を見たDAPA-CKD試験や10mgを用いて心保護作用を見たDAPA-HF試験によって定められた保険用量は当然10mgのみになります。ですから糖尿病に用いていて用量が少ないと判断して、増量することは可能ですが、非糖尿病の心不全やCKDに対して用いる場合には定められた用量を変えることはできません。慢性心不全にエンパグリフロジンを用いた大規模試験EMPEROR-Reduced試験ではエンパグリフロジン10mgが用いられたため、10mgしか使えず、25mgに増量することはできません。これが慢性心不全で少量から漸増して最大用量を用いるβ遮断薬やRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の異なるところです。

効果の判定はCKDではアルブミン尿やGFRの傾きの変化、心不全ではBNPの値の変化、自覚症状の変化など様々です。薬局薬剤師としてのSGLT2阻害薬に対する取り組みは非常に重要です。8つの大規模無作為化試験のメタアナリシスではSGLT2阻害薬の投与によって有意に増加した副作用は糖尿病性ケトアシドーシス(発症率0.22%)、性器感染症(3.8%)、脱水(4.5%)の3つのみです。性器真菌感染症は特に活動度の低い患者で多く、温水洗浄便座を用いる、尿量を気にして飲水を制限しすぎず、適切な飲水によって自浄作用を促すなど陰部を清潔に保っていただく指導が重要です。脱水をきたさないようこまめな水分摂取を促す服薬指導、そして稀ではありますが、重篤な糖尿病性ケトアシドーシスがありますので、糖尿病患者さんには厳格な糖質制限やカロリー制限はしないよう、ここでも「こまめな水分摂取」を指導することが重要になります。それと尿糖の排泄を促進して、痩せる薬ですから、サルコペニアやフレイル患者さんには投与すべきではないことも知っておきましょう。

 


薬師山病院 渡部孝太郎先生

Q1.薬剤の排泄過程で、脂溶性・水溶性の懸念があると思いますが、どの程度の分配係数であれば脂溶性薬剤または水溶性薬剤と評価してよいか、ご教示いただけますか。

A.医薬品のインタビューフォームを見ていただければわかると思いますが、分配係数は各社、各医薬品によって測定方法が異なります。多くはn-オクタノール/水分配係数 pH7.4に統一していただきたいのですが、様々な理由によりクロロホルムを使ったり、pH7.0を使ったり、統一性がありません。

平田自身ではn-オクタノール/水分配係数 pH7.4で比較すると10以上(Log>1)であれば肝代謝薬物(プロプラノロール、リドカイン、メチルプレドニゾロンなど)、0.1未満(LogP<-1)であれば腎排泄薬物(アシクロビル、テイコプラニン、エナラプリル)のような脂溶性と水溶性の分岐点のようなイメージを持っていますが、これはきれいに分かりやすい薬物を例示したまでで、実際にはこのようにきれいに分類できるものではありません。だから分配係数だけで正確に脂溶性薬剤または水溶性薬剤と評価することはむつかしいですが、薬物動態の考え方の補助因子として使える可能性はあります。薬物動態パラメータの中でもVdは臨床的には投与設計に使いやすいほうですが、CLは健常者であっても遺伝的な個人差が大きいため、使いにくいですよね。

Q2.加齢に伴い腎機能は低下していくかと考えますが、加齢に伴う正常な腎機能の低下もCKDのような病態と捉えても構わないもの良いのでしょうか。

A.加齢に伴い腎機能は低下します。つまり腎炎や糖尿病などの腎疾患がなくても高齢者は進行性に腎機能は低下します。1つの理由として加齢とともに心機能が低下することです。心機能が低下すると腎血流量も低下しますので、心臓と腎臓はつながっている。これを心腎連関と言います。そのほかにも加齢とともに柔らかかった血管が徐々に動脈硬化気味になります。その顕著な例が腎硬化症ですが、血圧が高い、塩分摂取量が多い、タバコを吸っているなどの様々な影響により、腎機能の悪化は促進します。

加齢とともに末梢の細動脈圧は上昇し、動脈硬化が進行し細動脈の内腔はリモデリングによって狭窄して腎血流量が低下して、糸球体での濾過能力が低下しますが、このリモデリングに関わっているのがレニンアンジオテンシン系(RAS)のアンジオテンシンⅡやアルドステロンです。腎血流量が低下しているのに、糸球体濾過量がある程度保たれているのはネフロン数は減少しているのに、RASの亢進によって正常に機能している数少ない糸球体に負荷がかかっているためと考えられます()。だから若年者で腎炎や糖尿病性腎症でCKDになった人と同じように、高齢者もネフロン数は減少し続けます。つまり、加齢に伴う正常な腎機能の低下も広い意味では、CKDのような進行性の病態と捉えても構わないと思います。


九州労災病院 重見貴子先生

Q.危険性は充分承知しておりますが終末期のNSAIDS使用は、やむを得ず、利益も大きいと考えます。もちろん臓器障害によるあらたな苦痛を生む可能性もありますが、実際ご逝去される最後の時間まで腎不全にいたることなくオピオイドとともに力になることが多いようにおもっています。
モルヒネに限ってはCCr30(実測値ではございません)のCKDであっても注射製剤は活性代謝物蓄積はあっても量に注視すればかえって苦痛なく使用できる場面もございます。
リリカやミダゾラムなどと異なり、活性代謝物の主作用が強度でない場合・許容できる場合は問題ないのであれば、躊躇なく提案してもよろしいものか、それとも筋肉量の低下で数値異常のCKDは進行しているととらえて一切使用すべきでないのか尿細管障害がでていない腎障害に関しまして、今後のご講義の中でご教授賜れればと存じます。

A.僕が薬剤師をやっていた2005年まではモルヒネしかがんの疼痛緩和に用いられる強オピオイドのラインナップはそろっていませんでした。そして透析患者さんに使っていましたし、そんなに使いにくいとも思っておりませんでした。でも今はせん妄を起こしにくい強オピオイドのフェンタニルやオキシコドンが使えるようになったので、腎機能低下患者にはあえてモルヒネを使わなくてもいいのではと思っています。

NSAIDsはアセトアミノフェンと異なり、抗炎症作用があります。だから痛風のような急性疼痛については間違いなくNSAIDsを使用すべきでしょう。しかし後期高齢者で膝や腰が慢性的に痛む方やがん患者さんにずっとロキソプロフェン3錠×30日分の漫然処方はいかがなものでしょうか?僕は腎臓が専門なので、腎障害の話をしていますが、実臨床で最も悩ましいのは胃障害と消化管出血だと思っています。後期高齢者は胃も弱っていますし、痩せて体格も小さくなっている方もいます。NSAIDsを漫然投与して、消化管出血による突然死を経験したことはないですか?空腹時に服用して、胃痛のため、のたうち回って苦しんで入院する方を見たことはありませんか?微小変化型ネフローゼの小児がステロイド投与によって、前日まで何の消化器症状もなかったのに、大量輸血が間に合わないくらいの吐血をしながら死亡した症例も複数経験しました。がん患者さんや高齢で栄養状態不良の透析患者さんに「空腹時には飲んではいけません。必ず何か食べてから」というNSAIDsの服薬指導は通用しにくいと思います。またCYP2C9基質薬物が薬剤師の目の届かないところで併用されることもあり得ますが、イブプロフェン、インドメタシン、メフェナム酸、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブもCYP2C9を阻害して起こる消化管出血の報告もありますが、ロキソプロフェンについてはCYP2C9基質かどうかすら分かっていません。

僕は主治医と相談してNSAIDs経口薬の処方に対して、直接の胃障害を防ぐためにNSAIDsの座薬に変更していただいたことも多くありました。ただしこれも漫然投与すると、前述のステロイドと同じようにある日、突然、症状もなく消化管出血を起こすんじゃないかしらと心配しつつ投与することを考えると、まだトラマドールやアセトアミノフェンの方が使いやすいと思っています。そしてもう少し使用経験が増えれば、胃には優しく出血を助長せず、心血管病変や腎障害の少ないセレコキシブの選択もありだと思います。

すみません。感傷的な答えになっているかもしれませんね。経験した症例というのははエビデンスレベルが低いものです。上記の情報に関してエビデンスレベルの高い報告については以下の論文をご覧ください。

Hiragi S, et al. Clin Epidemiol. 2018; 10: 265-276
Miki K, et al: I Orthop Sci 23: 483-487, 2018
Inoue G, et al: Spine Surg Relat Res5: 252-263, 2020


南相馬市立総合病院 中島鉄博先生

Q.腎臓の髄質の高い浸透圧を形成するNa、尿素の蓄積の機序についてご教授下さい。宜しくお願い致します。

A.おっしゃる通り、尿の濃縮は髄質で行われますが、機序はヘンレループの下行脚での水の再吸収によって濃縮されます。腎臓のはなし – 130グラムの臓器の大きな役割(中公新書)の著者の坂井建雄先生は言及されていませんが、その駆動力にはアクアポリンが関わっているという説があります。水だけが再吸収されればヘンレ係蹄の最下部の髄質ではNa、尿素が濃縮されて高くなります。尿素は細胞膜を自由に行き来できるため、有効浸透圧物質にはなりませんが、髄質の管腔外の尿素濃度はもともと高く、尿素は下降脚で尿細管腔内に分泌されるため、Na、尿素濃度ともに高くなることによって髄質内の高浸透圧を保つことができます。しかも髄質はヘンレループだけではなく集合管や細動脈などの周囲の浸透圧も高いのです。これは対向流増幅系モデルと言われます()。細動脈ではNaは受動拡散によって上行血管から下行血管に、水は下行血管から上行血管に入ることによって髄質の深部に行くほど高い浸透圧を保っています。そしてヘンレループの上降脚(太い部)ではNa+/K+/2Cl共輸送体(ループ利尿薬が作用する共輸送体)がNaと水を再吸収するので浸透圧が低くなります。ADHが分泌されない、あるいは最終的に集合管にADHが作用しなければヒトは1200mOsm/Lの濃縮尿を出せます。この機序によって、不感蒸泄(呼気や汗)によって失われる水(1日約1000mL)に対する対応ができるのです。ただし血漿の約4 倍の1,200mOsm/Lの濃縮尿を出せるのがヒトの限界です。だからヒトは水があって体脂肪が20%あれば2か月程度は、何も食料がなくても生きられますが、水がなければ炎天下では1~4日で死亡すると思います。砂漠に住む哺乳類であれば5,000mOsm/Lの濃縮尿を排泄できますので、水がなくてももっと長期間生きることができますし、海中に棲息するイルカやアザラシなどの哺乳類は腎葉の数を増やすことによって海水よりも濃い塩水の排泄能力を高めています。でもより高い濃縮尿を排泄できるということは、砂漠由来の猫と同じように腎後性腎障害になりやすく寿命も短くなること意味すると思います。ヒトでも髄質深くまで達する長ループネフロンのヘンレループでは1,200mOsm/L以上に濃縮できるかもしれませんが(平田のopinion)、長ループネフロンの方が障害を受けやすいといわれています。

そしてヒトが稀釈尿を排泄することができるのはヘンレループの上行脚がNa+を再吸収することによりますが、ここでは水や尿素は非透過性であるため、髄質の浸透圧は高いまま。そしてさらに遠位尿細管でも能動輸送によってNa+が再吸収され水に対して不透過性であるため、尿の稀釈が起こって浸透圧が非常に低くなりますが、ゼロではなく50~100mOsm/の中途半端な低張尿にするのは、尿素という老廃物でヒトにとって全く不要なものなので、尿素を排泄するためだと勝手に思っています(平田のopinion)。まとめますと髄質の高い浸透圧を作っているのはヘンレループの上行脚と下行脚の物質透過性の違いによる対向流増幅系モデルによると考えられます。


平成横浜病院 廣瀬 里美子先生

Q.腎機能が悪くなると、尿酸値が上がってきますが、尿酸値を下げる薬は飲んだほうが良いのでしょうか? 低腎機能だと処方しにくい薬も多いのですがそれなりの補正は必要なのでしょうか。補正する医師と、無視する医師、混在する私の病院では意見が分かれています。先生のご意見もうかがいたくよろしくお願いいたします。 

A.平田はアロプリノールによる中毒性表皮壊死融解症(TEN)による死亡者を経験しています。その時、僕の病院でも死亡に携わった医師のように補正しない派と尿酸値10以上ではさすがに放っておけないという派に分かれました。僕は前者で、痛風腎以外では放っておいていいと思っています。ある地方都市で透析クリニックの院長ばかり20名が集まって講師をしたことがあり、この話題になって、「アロプリノールによる死亡者を経験したことがある人はいますか?」と聞くと、なんと半数の10名がアロプリノールによるTENによる死亡者を経験しており、そのうち3名は「全くアロプリノールを投与していない」と言っており、透析患者では13mg/dLまで上昇するがそれ以上は上がらず、何も起こらないということでした。これも個人的な経験談で申し訳ありません。

アロプリノールは台湾ではHLA-B*5801というHLAの遺伝子検査をしないと投与できないという話もありますし、アロプリノールの活性代謝物のオキシプリノールが腎不全患者で蓄積しやすいことが問題になっており、Hung ら 1)も腎不全患者 ではこの過敏症が 4.7 倍起こりやすいこともあわせて報告しています。TENは3型アレルギーという説もありますがラモトリギンでも過量投与によるTENの報告が多いことから、やはり腎機能に応じたアロプリノールの減量は必要と思いますが、高度腎障害で1日1回50mgの用量では実際には尿酸値をコントロールできないことが多いです。

透析患者ではフェブキソスタット、CKDではそれに加えてドチラヌドという選択肢が出てきましたので、TENを防ぐにはこれらを使えると思います。ベンズブロマロンはよく効きますが、肝障害がきつくて海外では製造中止になっている国が多いです。フェブキソスタットはアロプリノールに比し、心血管死の発症が多かったという報告も併せて薬剤の選択を考慮していただければと思います。

1)Hung SI, et al: Proc Natl Acad Sci U S A. 102: 4134-4139, 2005

 

 第13回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2022年5月14日(土)13時~15時まで の申し込みを始めます。今年度より皆さんの要望により土曜日(5月以降は第2土曜日の13-15時の予定)です。今回のテーマは「透析患者の便秘と下剤の適正使用」です。

 な~んだ、今回のテーマは便秘?ずいぶん軽いテーマだなと思っていませんか?透析患者は健常者の5~10倍便秘しやすく、腸閉塞は透析患者の死因の第9位で、毎年300人以上が死亡していますが、透析患者の死亡原因病名リストには「腸閉塞」しかありません。透析患者の致死性腸病変は腸閉塞だけでなく、虚血性腸炎、腸管穿孔、腸管壊死など様々で、これらの病変に続発する腹膜炎や敗血症は感染症に分類されるかもしれないため、年間300名は過小評価されている可能性があります。少なくとも300名以上が便秘に関連した死亡が認められると考えた方がよいでしょう。

 この原因としてはカリウム吸着薬やリン吸着薬などの不溶性薬剤の投与、血液透析による腸管虚血が原因として考えられます。さらに透析患者さんはカリウム制限で十分な食物繊維を摂れない、水分制限があることや、安易な経口抗菌薬の投与により、腸内細菌叢の多様性が失われていることも重要な要因と考えられます。その対策についても考えたいと思います。

 参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。

 薬剤師塾への参加者はどなたでも構いませんが、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書き、海外の学会で発表し、英語論文をまとめて博士号を取るんだというような大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。

 

 

第 11回 基礎から学ぶ薬剤師塾 Q&A
腎臓が何をやっているか ~糸球体編 ようこそこの複雑で精密な世界へ ~

 

Q.貴重なお話ありがとうございます。チャットで記入していましたら間に合いませんでした。基礎的で申し訳ないのですが腎機能低下は両方で同じように起こるのでしょうか?片方摘出する場合摘出後は、腎機能は改善するのでしょうか?

A.透析導入の3大疾患である糖尿病、腎炎、腎硬化症は両方同じように腎機能低下が起こります。片方だけ悪くなるのは腎がん、腎結核くらいでしょうか。


Q.NSAIDは避けてカロナールを推奨されてたのですが、実際には痛みを訴える患者さんが多くてロキソニンやボルタレンも使われていて、効かないからもっと多くほしいと希望されることもあります。(カロナールも効かないと訴えあり)許容範囲を決める時にどの視点から考えれば良いか教えてください。また、トラムセットも併用で出されたりしていますが、カロナール以外の痛み止めのおすすめがあれば教えてください。

A.若い方へのNSAIDsはあまり気にしなくてもよいでしょうが、問題は高齢者(と小児)です。もともとRAS阻害薬や利尿薬が投与されている高齢者には非常に危ない。しかも胃障害もきついし出血しやすいし血圧は上がり心血管疾患に罹患しやすくなる。NSAIDsは抗炎症作用があるので、痛風などの炎症を伴う急性疼痛には第一選択ですが、漫然と投与する高齢者の膝、腰の痛みは急性ではありません。アセトアミノフェンを投与してもらいたいものです。また1回500mgくらいで「効かない」と判断しないでほしいです。1回750mg×3回、頓服で1日1回程度なら1000mgくらい使ってから効かないと判断してもらいたいです。透析患者の半数近くがPPIを必要とし、NSAIDsでは胃痛、消化管出血が怖いので、直接の胃刺激の少ないボルタレンサポやインダシン座薬を勧めたこともあります。RAS阻害薬や利尿薬が投与されている高齢者で痛みがきつければ、トラマドールの方がよほど安全だと思っています。


Q.貴重なご講演をありがとうございました。腎障害の患者、透析を行なっている患者の方への手術後の疼痛管理ですが、アセトアミノフェンが効かない患者へはどういった薬剤がいいでしょうか?ご教示をよろしくお願いします。

A.透析患者ではこれ以上腎機能が悪くならないので「腎障害が悪化するため禁忌」という考え方は間違っています。ただし透析患者さんは胃が弱い方が多く、胃障害が怖いので、僕は医師にボルタレンサポやインダシン座薬を勧めていました。今はトラマドールも使えます。

腎障害の患者さんに対しては前問の回答をご覧ください。


Q.毎回わかりやすく丁寧な塾を開講いただきありがとうございます。SGLT2阻害薬について質問させてください。SGLT2阻害薬間で腎保護作用の違いはあるのでしょうか?SGLT2の選択性が高いダパグリフロジンで効果が認められていますが、SGLT2にそれほど選択性のない(SGLT1にも作用する)カナグリフロジンでも腎保護作用が認められたとの報告もあり、今後のSGLT2阻害薬の使い分けが気になります。何かお考えがあれば、ご教示ください。

A.SGLT2阻害薬間で腎保護作用の違いを調べた報告はないと思います。そして腎に関してはダパグリフロジンとカナグリフロジンしか主要評価項目を腎にしていないと思います。それに加えてエンパグリフロジンでもサブ解析で腎保護作用が認められていますし、ほぼクラスイフェクトと言ってよいと思っています。ほかにもSGLT2阻害薬もありますが、大規模試験をやるだけの体力・財力がないだけかもしれませんね。

カナグリフロジンの次に選択性が低いのはダパグリフロジンのはずです。SGLT2選択選択性の低いものであれば腸管上皮のブドウ糖の吸収に関与するSGLT1の活性も阻害するので血糖降下作用が腎機能に依存しないので、この2つが腎に関するトライアルをやったのではと勘繰る人もいます。報告によってはSGLT1は小腸、心、肝、肺にも存在するためSGLT2選択性は副作用に関与(特に小腸に作用すれば下痢)すると総説には書かれています。


Q.ダイエット、筋トレ後の筋肉増強のため、プロテインをたくさん摂る人がいます。タンパク質多量摂取における、腎臓への負担について教えていただきたいです。

A.浅学の方が「プロテインの摂取は腎機能を悪化させる」と言うことがありますが、これは間違いです。熊大の時に健常な筋肉系スポーツ選手を対象に臨床試験をやろうとして、1つの目的は筋肉量が多い方なので、血清クレアチニン値が過大評価されないかということ、そしてもう1つは1年間のクレアチンサプリメント、プロテイン摂取で腎機能は悪化しないかということでした。実は後者の試験はクレアチンサプリメントの臨床報告が結構よくない報告が少なからずあったのでやめたのですが、プロテインの摂取で腎機能が悪くなったという報告は皆無に等しいくらいになかったです。

だから健常者のプロテイン摂取は大丈夫だと思いますが、腎不全患者であればたんぱく摂取は窒素老廃物だけでなく、腎機能を悪化させ心血管病変を悪化させる尿毒素(インドキシル硫酸、p-クレジル硫酸、TMAO)が蓄積します。炭水化物・脂質は水とCO2になるとてもクリーンなエネルギーですが、たんぱく質はBUN、クレアチニン、尿酸などの老廃物を作りますから腎の負担にもなります。だから腎機能が悪化すれば0.8g/kg、さらに悪化すれば0.6g/kgにたんぱく質摂取量を少なくしてもらいます。ただし、肉、魚、卵などは良質なたんぱくですから後期高齢者などで栄養状態が悪い方へのたんぱく制限は、サルコペニアになってしまい、免疫力低下から感染症による死亡も懸念されますので極端なたんぱく制限は避けた方がよいと思います。実は腎不全患者のたんぱく制限によって予後が改善したという報告はほとんどないのです。


Q.薬局の外来で腎機能が落ちてきた高齢者に「お水をこまめに飲みましょう」とよく言うことがありますが、「そんなに多く水を飲めない」と言われることがあります。脱水状態になるのも良くないと思いますが、実際どのくらいの飲水量を維持できれば急激な悪化なく腎機能を保つことができるでしょうか?

A.暑い夏以外は「お水をこまめに飲みましょう」という服薬指導は必要ありませんし、若年者にも不要だと思っています(のどが渇けば水を飲んでくれますので)。ただし利尿作用の強い(特に投与初期の利尿作用が強い)SGLT2阻害薬が高齢者に投与された場合には夏以外では、起きた時、10時と3時にもお茶か水を程度でよいのではないかと思います。

夏に利尿薬、RAS阻害薬、NSAIDs、バラシクロビル、活性型ビタミンD、SGLT2阻害薬のいずれかの複数の組み合わせが高齢者に投与されれば、起きてすぐ、朝食時、10時、昼食時、3時、夕食時、ふろ上がりなどにグラス1杯の水を飲めばほぼペットボトル500mL×3本分になりますね。

ただし溢水のために利尿薬が処方されている患者さんに対して飲水の是非については主治医と相談をしてから指導をしましょう。


Q.心不全など何らかの原因で胸水がある患者さんの場合、利尿剤をフロセミド、サムスカなど数種類併用され続けられるのですが、体重が減少していっても胸水は減らず、腎機能が悪い高齢者だとBUN、SCrがどんどん上昇します。しかし、Dr.は利尿剤を減らしてくれませんし、補液投与もしてくれない事があります。高齢者だと水分補給もなかなか進みませんし、そうしているうちに腎機能もさらに悪化してしまいます。薬剤師として何かできることはあるのでしょうか?また、尿酸値も上昇するのですが、Dr.は10を超えるようならフェブリクを検討されています。そんなに上昇するまで放っておいていいのでしょうか?

A.溢水で呼吸困難になるためにフロセミド、サムスカが投与されているのであるのに、飲水すれば、より呼吸困難が悪化しますので飲水指導を勝手にやってはいけませんが、BUN、SCrがどんどん上昇するのは脱水による腎機能低下の可能性が極めて高いです。直ちに医師と相談して、脱水を防ぐための「約束事」を作ってみませんか?フロセミド、サムスカが投与されていて体重が1.0kg以上減少した時、血圧が10mmHg以上低下した時には脱水の可能性があるので、〇mLの飲水指導をする、体重が2.0kg以上減少した時、血圧が20mmHg以上低下した時には脱水の可能性があるので、飲水をして直ちに受診する、その他のシックデイ対策などを考えた方が患者様のためになると思います。


Q.退出前ににっこりしたモノクロの平田先生の写真を拝見しましたが、いつ頃のお写真ですか?いい笑顔で癒されて退出しました。

A.ありがとうございます。そんなに前じゃないですが、Facebookに参加した5年前の写真で、僕の誕生日に学生たちがケーキを買ってきてくれて祝った時に写真です。最近、眼鏡をかけなくなったのは遠視が進みすぎて近視が治ったためです。今は年老いて鏡を見るのが嫌になりました。


Q.仕事と家庭を両立させる秘訣は?

A.自慢させてください。とても性格が良く、ちょっとだけかわいい妻を持てたこと、自分が楽しいと思うことに一生懸命になったことが秘訣だと思います。


Q.最近、この講座の事を知りました。初回からの講座を視聴する方法はないのでしょうか?

A.これまでずっと新ネタをやってきましたが、あと数回で新ネタが尽きれば、今までの講演内容をアップデートして繰り返し講演しますので、ずっと聴き続いけていただければ幸いです。


Q.パワーポイント等のテキストが、頂ければ、幸いです。

A.一般の方々にはテキストを配布して、見ていただければ、理解力が高まっていいなと思いますが、そのままコピペして自分の講演で「平田の講演内容から引用」などと断らずに使う輩、ほぼ同じスライドを少しだけ変えて自分が作ったかのように総説論文で使う輩が結構いるのです。僕はスライド作りにかなりの労力とお金をかけています(図や写真を購入する費用など)。この盗用する方々は実力がある人ですが、引用元を明記したり、引用論文として記載していただくなどのルールを守らずに盗用されるのはやはりいい気がしません。ブログの図も無断引用されますし、こんなことが続けばブログも薬剤師塾もやってられないくらいに悔しいです。


 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。

 

アスヤクLife研修会 Q&A(2022.2.28)

 

Q1.様々なことに興味を持って調べたり、勉強します。コロコロと変わっても良いものでしょうか。

A.次々と興味を持ったことを調べることはとてもいいことです。ぜひとも幅広い知識、多様性のある情報を身に着けてください。これをやっていない医療人との差は、すぐにつくと思いますので頑張って興味あることについて調べてみてください。

衝撃を受けるくらい興味を抱いたことについては深掘りしてみるのもいいですね。僕の場合は書籍を購入して読破し、さらに最新の情報をPubMed検索するなどして最新の情報を導き出します。このような習慣を身に着ければ、いずれあなたは○○市でトップの情報を身に着けた薬剤師→○○県でトップの→日本で有数の情報を身に着けた薬剤師になれることでしょう。


Q2.リリカのお話を聞きまして、普段、有害反応、と判断するのが難しいと感じてることを思い出しました。起こった事象が、その薬物が原因であると、何を根拠に判断すればいいのでしょうか。

A.副作用報告に関する論文を書くと、「有害事象と有害反応が区別できていない。有害反応の定義はどうやって定めたの?」って査読者に聞かれることがあります。「有害反応 有害事象 違い」でググってみてください。あるいはNaranjo scaleなどを知らべてみてください。副作用を①9以上で確実、②5-8点でほぼ副作用だろう、③1-4点で副作用の可能性あり、④0点で副作用とは疑わしいに分類できます。①②を副作用と定義したという論文が多いように思います。

この他にも「血清Ca濃度が10mg/dL以上とか、リン濃度が6mg/dL以上、クレアチニン濃度が1.2mg/dL以上になると」、とか、「血清クレアチニン値が0.3mg/dL上昇すれば急性腎障害」など診療ガイドラインなどを見ると、副作用と定義しやすくなると思います。


Q3.いつも薬剤師塾をわくわくしながら拝聴しております(ときめいています)。平田先生の影響を受けて英語の論文を少しでも読もうとしていますが、英単語を調べるのに時間がかかりなかなか進みません。おすすめの媒体はありますか?今は主にインターネットで単語を調べています。医療用英語の辞書の方が良いのでしょうか…

A.2000年ころまではリーダーズ英和辞典 が28万語だったのでこれを使っていましたが、ALCの出版している「英辞郎 第11版」は217万語が単語数で群を抜いて多いので(もちろん医療英語も満載です)、これをPCにインストールしていました。今はオンライン英会話もやっていますし、英語論文投稿時や個人輸入時のトラブル、海外旅行の旅程の予約などに英文Eメールを書くこともありますので、例文数が多い年額3,630円で英辞郎on the Web Proを使っています。

翻訳ソフトに関してはGoogle翻訳よりも韓国のPapago、Papagoよりも日本のDeepL翻訳のほうが医療系文献の翻訳能力では高いと思っていますので、試してみてください。どれも無料で使えます。DeepL翻訳は特におすすめです。


Q4.6年制の第1期生です。大学院に行き博士号を取りたいと思いながら、気づけば10年目の薬剤師になってしまいました。出身大学は遠方なので難しいです。何かきっかけが欲しいです。アドバイスお願いします!

A.学位が欲しいために博士号を取りたいのですか?博士号を持っていても得になることと言えば、大学の教員になりやすいことくらいではないでしょうか?これから薬剤師として生き残るには認定・専門薬剤師をとった方がよいのではないかと思います。僕は臨床の面白さに没頭した薬剤師なので、博士号は不要だと思っています。薬剤師として学会発表し、論文を書くようになると実力のある薬剤師になれるし、周りの方々も注目してくれます。つまり薬剤師としてのスキルを高めるために、自分のやった仕事を残すために、査読付き論文を書いてきました。「博士号」が目的ではなかったです。論文を書いていたら博士号がおまけについてきたようなものです。

博士号を取るために大学院に入学する方のほとんどは基礎研究しています。基礎研究が好きであれば近い大学に行けばいいでしょう。ただし働きながらだと、大学卒業して大学院に入った学生と比べて非常に不利ですから、留年することも覚悟が必要ですし、薬剤師をやめて研究を3~4年続けるつもりで大学院に入った方がよいように思います。


Q5.若手対象のお話のようで恥ずかしいのですが・・子育てが一段落して学会発表を試みて2年たちました。症例報告をしました。次回は研究レベルに挑戦したいと思っています。調剤薬局に勤務しています。調剤薬局の方々の研究発表はアンケート調査がほとんどです。違った視点での薬局薬剤師の研究で先生がご存じのもの、何かありましたら教えていただけるでしょうか

A.テーマになる候補のものは探せば、薬局薬剤師でもいっぱいありますが、あなたが何に興味があり何をやりたいかが一番重要です。興味のないことに人は一生懸命になれませんから。薬剤師のあなたであれば、学生と違うのですから、「このテーマをやりなさい」と言われるのを待つのではなく、自分が薬剤師として仕事をしていくうちに疑問に思ったことに関して、いっぱい文献を読んで、何が分かっていないか?何をやるべきか?を自分で見つけてください。アンケート以外でもできることはいっぱいありますが、何がやられていないかを知るには、いっぱい学会で情報を得て、いっぱい論文を読まないと分からないです。

論文をチェックできれば、いいテーマが見つかります。やられていることは知識として身に着け、やられていないことを研究テーマして解明すればいいのです。

結構身近なことでわかっていそうで分かっていないことは多いものです。薬剤師の論文はレベルが低くてもやられていないことが多いから、結構英語論文になりやすいのです。


Q6.基本的なことかもしれません。日本語論文と英語論文の違いとその理由を知りたいです。英語論文の方が審査が厳しいということでしょうか?

A.薬剤師も医師も実力のある研究者は、研究を開始した時点からすべて英語論文を目指しますが、英語論文にならないレベルの内容であれば、仕方なく日本語論文にしています。だから違いは「レベルが違う。英語論文の方が日本語論文よりもはるかにレベルが高い」のです。日本語論文の読者は1.2億人に過ぎないが英語論文だと78億人が見る可能性があるのだから当然と言えば当然です。さらに言えば、英語論文でも日本語雑誌や日本語学会誌に英語で書いたものの評価はあまり高くありません。査読付き英文専門誌に掲載されれば、PubMedにも載りますし、さらにimpact factorの高い英文誌に載れば、この著者はかなりの実力者と専門家が判断してくれます。

ただし非常にレベルの高い日本語総説もあります。これは広く日本人読者に読んでもらいたいために、専門家が英文総説になるのに、意図的に日本語で書くことがあります。たとえば日本腎臓学会誌などの専門分野の学会誌に載っている総説は非常にレベルが高く、読みごたえがあり、ありがたいと思っています。僕もよく知ってもらいたいことについては日腎薬誌に査読付き総説として投稿します。


Q7.調剤薬局で勤務している場合、病院と異なりカルテなどが見れないなどの特徴がありますが、その場合どのような調剤薬局で臨床研究をし、発表につなげていくことができると考えられますでしょうか。

A.カルテが見れると、患者さんの検査データだけではなく、看護師が聞き取りした家族背景、性格や病歴などの個人情報も見ることができます。毎日の血圧・脈拍の変動、食事摂取量も分かります。これらを繰り返し見れば、僕は病棟に行き初めて、2年もたてば検査データを見るだけで「病態が予測できる」ようになり「副作用はなにをマークすべきか」が分かるようになりました。これは単にカルテを見れるからではなく、病棟に行って医師やナースと症例についてディスカッションできることも関係していると思います。つまり臨床現場を見ることができるところが病院薬剤師の良さです。さらに病院を選ぶなら回診に連れて行ってくれる科、病院を選ぶとさらに実力アップします。

そのような経験から僕はその後、大学で教えることになるのですが、奨学金を返すのに、給与の高い薬局に就職しなければならない子や病院のハードワークに耐えれないような子は除き、学生たちには「2年間は病院薬剤師を経験した方がいい」と言っていました。今は薬局で働いている方も、あとからでもいいから病院で経験した方がいいでしょう。そうすれば調剤薬局ですぐに実力を発揮できる薬剤師になれるリーダー格になれると思っています。調剤薬局チェーン店の中には大学病院薬剤部で、調剤薬局の給与をもらいながら研修できるシステムのある所があります。実は僕の所属するI&H株式会社もこのようなシステムがあり、その研修を終えた薬剤師は「さすが」と言えるほどの薬剤師に成長していますが、このシステムがありながら、利用者が少ないらしいのです。なんで?

おっと、答えが随分とずれてしまいました。研究テーマはいろいろなものがあります。アンケートも気の利いたものであればアンケートは有用です。僕もCa拮抗薬全盛時に、RAS阻害薬が登場して、透析患者への使用頻度はCa拮抗薬が高かったのです。これは関西腎と薬剤研究会の仲間と組んで様々なデータを集めたのですが、使用頻度を調べました。患者数は2500人くらい。透析患者としてはすごいデータです。しかもβ遮断薬はその当時第1選択薬だったのに心不全目的以外で降圧薬としては全く使われていないことも分かりました。これを透析医学会誌に載せました。その後、医師はこれから透析患者に対してどの降圧薬を使いたいのだろうと疑問に思い、これをアンケートに取りました。当時、Ca拮抗薬は頻脈になるものばかりで、心臓を鞭打ってしまうので透析患者にどんどん投与するのはいかがなもんだろうと思ったからです。で、出た結果はARBを使いたい医師が最多だったのです。これで関西腎と薬剤研究会のスタッフは全員2報の原著論文の著者になれたのです。

DOACが出てきたときに透析患者にはワルファリンしか使えないことに事実上なっていましたが、ここで医師にアンケートをとると「ワルファリンが重篤な腎障害に禁忌」ということを80%以上の医師が知らなかったのです。

アセトアミノフェンの添付文書を見せると「これはNSAIDs」だと間違ってしまう医師も多いはずです。だってアセトアミノフェンの添付文書の内容は完璧に間違っていますから。こんな間違いだらけのクイズをやって医師、薬剤師の正答率を見てみると興味深い内容になると思いませんか?

臨床的な問題を見つけて、よーく論文をチェックすると何がやられていて、何がやられていない=今後の研究テーマになる ということが見えてきます。アンケートでもうまくやれば英語論文になっています。Q5の回答と同じになりますが、論文をチェックできれば、いいテーマが見つかります。やられていることは知識として身に着け、やられていないことを研究テーマして解明すればいいのです。

結構身近なことでわかっていそうで分かっていないことは多いものです。薬剤師の論文はレベルが低くてもやられていないことが多いから、結構英語論文になりやすいのです。

 

講演依頼に関しましては平田のメールアドレスhirata@kumamoto-u.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。
大学での非常勤講師も可能です。「実務実習で代表的な8疾患」のうち高血圧、糖尿病、心疾患、感染症の4疾患の薬物治療学+腎疾患、輸液、TDMなどについて国家試験対策も含めを教えることができます。

 


 第12回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2022年4月16日(土)13時~15時まで の申し込みを始めます。今回のテーマは「腎臓が何をやっているか ~②尿細管編 ようこそこの複雑で精密な世界へ~」です。

 腎不全患者はたんぱく制限、水分制限・食塩制限、カリウム制限、リン制限などを怠ると、それぞれ、尿毒症、溢水・浮腫、高カリウム血症・不整脈・突然死、腎性骨症・血管石灰化などの致命的な合併症が起こりますが、腎臓が正常である限り、これらの症状は全く現れません。その理由は腎臓が非常に狭い範囲内で血清電解質濃度、血清pH、体液量などの恒常性を保っているからなのです。2つ合わせて500g足らずのこの小さな臓器が、どうやってこんなにすごいことをやり遂げられるのでしょうか?それは濾過した大量の原尿を尿細管が最終的に必要なものを再吸収し、不要なものは分泌するなどして取捨選択してくれているからです。

 腎臓が異常をきたすと老廃物がたまるだけではなく、貧血が起こり、骨がもろくなり、血圧も高くなるのはなぜ?これらの深遠な謎を解き明かすには、腎臓のどの部分が何をやっているか、つまり解剖とその機能を知ることが意外と近道になります。CKDの病態が理解でき、薬物投与設計の基本が理解でき、薬剤性腎障害のメカニズムなどが「な~るほど!」と理解できるようになることでしょう

 参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。

 薬剤師塾への参加者はどなたでも構いませんが、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書き、海外の学会で発表し、英語論文をまとめて博士号を取るんだというような大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。

 

 

先日、ある県の薬剤師会の講演会で以下のような質問がありました。

Q.ナラティブとイナーシャはどう使い分けたらいい?

 今まで医療者は患者様に寄り添う「ナラティブ・ベイスド・メディスン」というが重要と信じてきましたが、高血圧治療ガイドライン2019に「臨床イナーシャ」が高血圧で問題になっていると聞き驚きました。イナーシャとナラティブはどう使い分ければよいのでしょうか?(保険薬局薬剤師)

 「ナラティブ・ベイスド・メディスン(NBM: narrative based medicine)は患者さんが対話を通じて語る病気になった理由や経緯、病気についていまどのように考えているかなどの「物語(narrative)」から,医療者は病気の背景や人間関係を理解し、患者の抱えている問題に対して全人的(身体的、精神・心理的、社会的)にアプローチしていこうとする臨床手法です。NBMは患者さんとの対話と信頼関係を重視し、サイエンスとしての医学と人間同士の触れあいのギャップを埋めることが期待されています。「根拠に基づく医療(EBM:evidence based medicine)」という科学的な根拠も重要だけど、NBMによって傾聴も大事だと気付かせてくれました。

 それに対して臨床イナーシャ(clinical inertia)は高血圧治療ガイドライン2019に記載されて注目をされるようになりました(図1)。Clinical inertiaは直訳すると「臨床的な惰性」という意味で、治療目標が達成されていないにもかかわらず、治療が適切に強化されていないことです。患者さんの問題を認識していながら、それを解決する行動を起こすことができずに医療人の惰性によって患者の症状が悪化するのが問題になっています。これは高血圧だけでなく糖尿病や脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病でも同じです。血圧・血糖・脂質が高くても、「これまでより頑張っているからいいや」ではなく医療者は達成すべき目標のために行動を起こす必要があることを自覚しなくてはなりません。だって蛋白尿があって至適血圧130/80mmHg(家庭血圧では125/75)未満が守れていないけど、150/100だったのが140/90によくなったから「頑張っていますね、その調子ですよ」と言っていながら、透析導入になっちゃったら患者さんが一番つらいわけですから。いくら心やさしい医療者であっても、全く患者さんのためになっていなかったら問題だと思うのです。

 これに対する僕は「難しいけど、うまく使い分けてください」とわけのわからない回答をしてしまいました。後で、よーく考えなおしてみると、ナラティブもイナーシャも

A.どちらも患者さんのことを思ってのことであり、使い分けるものではなく、むしろ共存させるべきもの

だと思ったのです。

 わが国の高血圧患者は4,300万人で降圧目標を達成できているのは1,200万人のみ。これによって脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全による透析導入患者が増加していますので、高血圧を甘く見てはいけないのです!そしてわが国の糖尿病患者は1,000万人で23.4%が未治療、予備軍の4割が未治療。糖尿病や脂質異常症の分野でもイナーシャは問題視されています。

平田からのアドバイス

皆さんは、服薬指導するときに

「血圧を下げる薬です」+ひとこと言っていますでしょうか?

つまり

「血圧を下げる薬です」+「あなたの疾患の目標血圧は○○/○○mmHg未満です。家庭血圧はそれより5mmHg低いですね」と言っていますでしょうか?

「血圧を下げる薬です」+「最近の血圧はどれくらいですか?」をうかがっていますでしょうか?

DM患者に「最近のHbA1c値はどれくらいの値ですか?」を聞いていますでしょうか?

そして

 糖尿病の目標血圧を知っているでしょうか?診察室血圧で130/80未満でしたね。「この血圧より低い値を守っていれば長生きできますよ」と優しく指導してあげてください。

 蛋白尿のないCKD患者さんの目標血圧を知っているでしょうか?診察室血圧でやや高めの140/90mmHg未満でしたね。米国の高血圧の定義を140/90mmHg未満から130/80mmHg未満に変えるきっかけとなったSPRINT研究では標準血圧群(収縮期血圧140mmHg未満)に比し、厳格降圧群(収縮期血圧120mmHg未満)では心血管病変を29%も低下させたものの(図2左)、腎機能悪化は3.53倍も増えてしまったため(図2右)、蛋白尿のないCKDでは収縮期血圧120mmHg未満になると虚血による腎障害が心配ですよね。米国ではCKDは心血管病変のリスクとして大変恐れられていますが、日本ではCKDは心血管病変のリスクよりも透析導入リスクの方が強く表れます。血清クレアチニン値をモニタリングしつつ、「血圧が下がりすぎたり、しんどくなったら来院してくださいね」と優しく指導してあげてください。

 蛋白尿のあるCKDの第1選択薬、蛋白尿のある糖尿病の第1選択薬を知っているでしょうか?そのような方にARBあるいはACE阻害薬が投与されていれば「この降圧薬があなたにぴったりの血圧を下げる薬です。蛋白尿を少なくすることによって腎機能が悪化するのを防いでくれますよ」とやさしく指導してあげてください。おそらく今まで以上に忘れずにのんでいただけることでしょう。蛋白尿のない後期高齢者であれば、RAS阻害薬でもいいのですが、腎虚血を起こしにくいCa拮抗薬の方が安全かもしれません。

 基本的に医療人は患者さんに対して優しくあるべきですから「ナラティブ」の気持ちを忘れてはいけません。ただしイナーシャは厳しく指導しろと言っているわけではありません。平田はナラティブとイナーシャは使い分けるものではなく、むしろ共存させるべきものだと考えています。十分に傾聴したうえで、常に患者さんのことを思って、以上のような「一言」を付け加えていただきたいと思います。

 

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)