薬についての真面目な話

CKD診療ガイドラインでのアセトアミノフェンの位置づけ

 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009の21項「薬物投与」の3.消炎鎮痛薬に関してはアスピリンとアセトアミノファンが腎機能に及ぼす影響を検討した臨床研究はそれぞれ異なった結果を報告しているが、エビデンスレベルが低くその優劣はつけられないとし、(中略)今回のステートメントでは「CKD患者の腎機能障害の進行に関しては、安全性が確立された消炎鎮痛薬はなく、いずれの薬剤もできるだけ少量短期間の投与とする」とされている。エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013でもこの内容は21項のCKDにおける薬物投与でCQ4「 NSAIDsはCKDの進展に影響を及ぼすか?」として取り上げられたが「CKDにおいては、いずれのNSAIDsも腎機能を悪化させる危険性がある。ただし、NSAIDsによる腎機能の悪化が長期的なCKDの進展に影響を及ぼすかは、明らかでない」としているものの、いずれのNSAIDsもアセトアミノフェンも腎機能に悪影響を及ぼす危険性があり、使用は最小限にとどめるべきとほぼ同内容になっている。

 当然ながら、ガイドラインであるため、個々のエビデンスの高い原著論文を対象とした結果である。私のこれまでの考えも「NSAIDsを腎虚血を起こしやすいリスクの高い患者(CKD、心不全、高血圧、糖尿病、RAS阻害薬、利尿薬服用患者など)では腎虚血から速やかにGFRが低下し、漫然投与すると週・月単位で急性腎障害になる。かたやアセトアミノフェンはGFRを低下させることはないが、大量を漫然と投与すると年単位で鎮痛薬腎症により慢性腎不全に至り透析導入が必要になる」と考えていた。ただし、これらの報告はアセトアミノフェン単独服用によって慢性腎不全を起こすという報告はほとんどないのである。これに気付いたのは現在執筆中の日本医薬品安全性学会誌第1号に「NSAIDsとアセトアミノフェンの安全性について~特に腎機能障害に着目して~」という総説のために大量の論文を取り寄せ、特に出来のいい総説を含めて精査したことによる。

そもそも鎮痛薬腎症とは?

 これらの報告は鎮痛薬腎症が、オーストラリアに次いで多いと言われたベルギーのアントワープ大学腎臓高血圧内科のElsevierのグループとCCr予測式のCG式で有名なカナダのSt John’s Newfoundland記念大学内科のGaultのグループの報告がやたらと多きことに気付くが、「鎮痛薬腎症とは何ぞや?」ということから調べてみた。

 元来、フェナセチン含有鎮痛薬が原因と考えられていたが、フェナセチン製造中止後も発症しており、アセトアミノフェンを含む2種類の鎮痛薬(アスピリン)とカフェイン±コデインの配合剤が原因と考えられている米国腎臓財団、ヨーロッパ科学者グループは鎮痛薬腎症は2つの鎮痛薬を含み、ほとんどがカフェイン±コデインからなる多種類の鎮痛薬製剤の過剰服用によって腎乳頭壊死と慢性間質性腎炎を起こす進行性の腎不全であると定義した。鎮痛薬腎症は乳頭壊死・慢性間質性腎炎を起こし、腎の疝痛、顕微鏡的血尿を伴うことが多いが、タンパク尿や尿量減少を呈する症例は少ない。60~75%に無菌膿尿、再発性の泌尿器感染を伴う1)。CTによる両側の乳頭部のでこぼこした形状と石灰化を伴う腎萎縮は鎮痛薬腎症の診断の決め手となる。特に両側の乳糖部石灰化の感度(92%)、特異度(100%)は高い2)。

 アセトアミノフェンとアスピリンの服用により皮質および乳糖部で高濃度のサリチル酸(アスピリンの活性代謝物)がグルタチオンを枯渇させる(利尿薬併用により加速)。グルタチオンはアセトアミノフェンの毒性化合物 NAPQIの不活性化に必要なため、枯渇により脂質過酸化、臓器タンパクのアリル化を起こし、乳頭壊死、石灰化することが実証されている(3)。

 鎮痛薬を少量、毎日服用しても鎮痛薬腎症を起こすには最低5年は必要であり、5年以下では起こらない4)。頭痛を持つ女性に多く、消化性潰瘍を含む上部消化管障害を併発しやすい5)。555年間、鎮痛薬を連用し、5060歳で発症するが1)、緩徐にする腎障害で慢性腎不全(GFR15~30mL/min)になるまで症状は出ない6)。フェナセチンが製造中止になっても鎮痛薬腎症が起こるのに平均22年要するため7),製造中止しても直ちには鎮痛薬腎症は減らない8)。

 鎮痛薬腎症の発症率は1970年代のオーストラリアでは22%と世界一であったが9)、1990年代初頭にはオーストラリア9%10)、ヨーロッパ3%H)、米国0.3%であり、国別ではオーストラリア、ベルギー、カナダで高い。少なくとも2成分の鎮痛薬を含むOTC薬の販売禁止によってオーストラリアの鎮痛薬腎症による透析患者数を減らせることができた。

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アスピリン、アセトアミノフェンの配合剤が鎮痛薬腎症を発症する

 上記のことから鎮痛薬腎症にアセトアミノフェン+アスピリンの併用は必須である。上述のようにアスピリン、アセトアミノフェンの単独長期大量使用ではほとんど発症しない8)11)のであって、アスピリン、アセトアミノフェンの配合剤が鎮痛薬腎症を発症する。アセトアミノフェン単独で相対危険度3.2倍という報告12)もあるが、アスピリン服用者とフェナセチン+アスピリン+コデイン服用者のみで相対危険度が計算されている。またアセトアミノフェン年間服用量が366錠を超えると末期腎不全になるオッズ比が2.1倍に、あるいは生涯5000錠以上の服用でオッズ比が2.4倍になるという報告13)も他の鎮痛薬も含まれておりアセトアミノフェン単独の報告ではない。しかもこの報告では生涯NSAIDs服用量が5000錠以上で8.8倍になることも明らかにしている。

 また驚くことに動物実験によっても鎮痛薬腎症については相反する報告があり、いまだに解明されていない14)のである。前章で示したようにアセトアミノフェン単独では鎮痛薬腎症は起こらず、アスピリンの配合が必須であり、さらに多くの鎮痛薬配合剤にはカフェイン±コデインの配合剤が多いのでこれも切り離して考えられないのである。

AAC処方・ACE処方は日本にもある。ただし鎮痛薬腎症は日本で起こるか?

 となると日本で問題になるのはAAC処方であり、アセトアミノフェン+アスピリン+無水カフェインから成りOTC薬のバファリンプラスがまさにこの処方である。AAC処方にアリルイソプロピルアンチピリンを加えたものがエキセドリンA錠であり、これもAAC処方と言える。SG配合顆粒の成分はイソプロピルアンチピリン+アセトアミノフェン+アリルイソプロピルアセチル尿素+無水カフェインから成り、アスピリンは含まれていない。 

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 もう1つ可能性がある日本のOTC薬としてACE処方がある。これはアセトアミノフェン+カフェイン+エテンザミドから成るが、エテンザミドも体内で代謝されサリチルアミドになり胃障害が少ないと言われている。AAC処方から成るOTC薬はセデスファースト、新セデス錠、ノーシン、ナロン錠・顆粒、サリドンエース、ハッキリエースなどがあります。医療用医薬品のセラピナ配合顆粒、ピーエイ配合錠などはACE処方+プロメタジンの配合された感冒治療薬である。ただしエテンザミドはあまり海外では使われていないのか情報に乏しく、PubMedで「analgestic nephropathy+ ethenzamide」で検索しても全く論文はヒットせず、薬剤性腎障害の原因になるかどうかは現時点ではわからない。 

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 ただし上述のようにこれらの配合鎮痛薬の大量連日服用、それも最低5年は連日大量服用して50歳代~60歳代になって発症するということは日本で鎮痛薬腎症を見つけること自体が難しそうであり、本当に数年にわたりこれらを連日服用していればやめるように勧告したいが、皆保険制度の日本でこのような症例に出会うことはないのではないかとも思ってしまう。

やはり腎機能低下患者にはカロナールが第一選択であり、アスピリンとの併用は避けよう

 そろそろ結論に移ろう。今まで私は腎機能低下患者にはNSAIDsを漫然投与してはいけない。可能な限りNSAIDsは頓服として投与し、腎虚血リスクの高い患者(CKD、心不全、高血圧、糖尿病、RAS阻害薬、利尿薬服用患者など)には漫然投与は絶対に避けよう。そのような症例には十分量のアセトアミノフェンを使用しよう。効果がなければ外用パップ剤を併用しよう。痛みが強ければ弱オピオイドに使用もやむなし。という腎臓保護スタンスをとってきた。また米国腎臓財団が腎機能の低下した症例には優先的にアセトアミノフェンを使うことを推奨したため、優先的に投与されるアセトアミノフェンで透析導入に至るという報告はそれ自体がバイアスが強くかかっていると言ってきた。今回の調査でアセトアミノフェン単独使用は腎障害の原因にならない可能性がより強くなった。アセトアミノフェンは大量投与によって肝障害を起こす危険性があるが全般的にみて極めて安全性の高い薬剤である(表)。やはり腎機能低下した症例に推奨される鎮痛薬の第一選択薬はアセトアミノフェンであり、NSAIDsの漫然投与を避けるようやめようと声を大にして言いたい。またカロナールとアスピリンの長期連日服用は鎮痛薬腎症の原因になりうることに留意されたい。

表.アセトアミノフェンの長所

20151105_4.jpg  引用文献

1)Elseviers MM, De Broe ME: Analgesic nephropathy: is it caused by multi-analgesic abuse or single substance use? Drug Saf. 1999 Jan;20(1):15-24.

2)Elseviers MM, De Broe ME: Is analgesic nephropathy still a problem in Belgium?Nephrol Dial Transplant. 1988;3(2):143-9.

3)Duggin GG: Combination analgesic-induced kidney disease: the Australian experience. Am J Kidney Dis. 1996 Jul;28(1 Suppl 1):S39-47.

4)Elseviers MM, Waller I, Nenoy D, Levora J, Matousovic K, Tanquerel T, Pommer W, Schwarz A, Keller E, Thieler H, et al. Evaluation of diagnostic criteria for analgesic nephropathy in patients with end-stage renal failure: results of the ANNE study. Analgesic Nephropathy Network of Europe. Nephrol Dial Transplant. 1995;10(6):808-14

5)Gault MH, Wilson DR: Analgesic nephropathy in Canada: clinical syndrome, management, and outcome.Kidney Int. 1978 Jan;13(1):58-63.

6)Rastegar A1, Kashgarian M: The clinical spectrum of tubulointerstitial nephritis. Kidney Int. 1998 Aug;54(2):313-27.

7)de Broe ME, Elseviers MM: Analgesic nephropathy–still a problem? Nephron. 1993;64(4):505-13.

8)Gault MH, Barrett BJ: Analgesic nephropathy. Am J Kidney Dis. 1998 Sep;32(3):351-60.

9)Nanra RS: Analgesic nephropathy in the 1990s–an Australian perspective. Kidney Int Suppl. 1993 Jul;42:S86-92.

10)Disney AP: Demography and survival of patients receiving treatment for chronic renal failure in Australia and New Zealand: report on dialysis and renal transplantation treatment from the Australia and New Zealand Dialysis and Transplant Registry. Am J Kidney Dis. 1995 Jan;25(1):165-75.

11)Barrett BJ: Acetaminophen and adverse chronic renal outcomes: an appraisal of the epidemiologic evidence. Am J Kidney Dis. 1996 Jul;28(1 Suppl 1):S14-9.

12)Sandler DP1, Smith JC, Weinberg CR, Buckalew VM Jr, Dennis VW, Blythe WB, Burgess WP: Analgesic use and chronic renal disease. N Engl J Med. 1989 May 11;320(19):1238-43.

13)Perneger TV1, Whelton PK, Klag MJ: Risk of kidney failure associated with the use of acetaminophen, aspirin, and nonsteroidal antiinflammatory drugs. N Engl J Med. 1994 Dec 22;331(25):1675-9.

14)Porter GA: Acetaminophen/aspirin mixtures: experimental data. m J Kidney Dis. 1996 Jul;28(1 Suppl 1):S30-3.

 

 


【 問い合わせ内容 】20151104_2.jpg

 医師からの問い合わせが多く、よく困っているのがCHDF(continuous hemodiafiltration)持続的血液透析濾過)の患者の抗菌薬、特にバンコマイシンの投与量に関してです。メーカーに問い合わせをしたり、他にいろいろ調べたりしていますが、的確な回答が出来ていない現状があります。条件によって、大きな差がでてくるので一概に「この投与量を推奨します」というのは難しいと思いますが、CHDF患者の抗菌薬の投与量はサンフォードのCRRTの用量を用いればいいのでしょうか?あるいは無尿の患者であれば透析患者と同じで用量でよいのでしょうか? 

回 答 】

透析クリアランスはCCr5~10mL/minの患者と同等

 おっしゃる通り、CHDFの場合、施行条件によって、薬物除去率に大きな差がでてくるので一定の薬物投与量を提示することは困難です。米国など血流量100~150mL/minでやっている場合もあり(表1)、そんなデータを引用しては抗菌薬の除去率を過大評価し、過量投与の原因になります。

表1.血液透析とCHDFの施行条件の日本と海外の差

血流量(mL/min)

透析液流量(mL/min)

置換液流量(mL/min)

透析時間

ダイアライザーの膜面積

血液透析HD

日本

200

500

0

4hr×3回/週

大きい

海外

360

700

0

4hr×3回/週

大きい

持続的血液透析濾過CHDF

日本

80~120

7~10

5~8

24hr以上

小さい

海外

140~150

14~24

14~24

24hr以上

小さい

 

 血液透析(HD)は透析液流量よりも血流量が低いため、より小さい方のクリアランス以上は得られないので、血流量がHDクリアランスを決定する最も大きな要因になります。小分子量物質のHDクリアランスは血流量と相関します。通常の透析では分子量113と非常に小さいクレアチニンで200mL/minの血流量で回した場合、150mL/min程度のクリアランスになり、分子量がもっと小さい尿素(MW60)のHDクリアランスは180mL/min程度のクリアランスが得られます。ただし週に4時間×3回しか稼働しないため、尿素クリアランスは12.8mL/min、CCrは10.7mL/minと計算されますが、一般的な薬物の分子量は200dalton以上で、ある程度のタンパク結合を考慮すると、5~10mL/min程度のクリアランスしかないと考えられます。実際、透析患者の至適投与量はCCr10mL/min未満の患者と同じとされています。

CHDFクリアランスは無尿患者でサブラッド20L/日仕様の場合、CCr14mL/minの患者と同様

 CHDF時の薬物の血液浄化法による抗菌薬の除去については、さまざまな文献がありますが、それぞれ血液浄化方法が異なり、一律にまとめることができません。欧米では透析液流量+置換液流量が20~40mL/minと日本よりもかなり高い条件で24時間以上の持続的血液透析(CHD)、CHF(持続的血液濾過)、CHDF(持続的透析濾過;これらを総称してCRRT:持続的腎代替療法 continuous renal replacement therapyと言います)が行われることがあり、末期腎不全患者であっても血清Cr値が3mg/dL未満に保たれており、βラクタム系の抗菌薬などはほとんど減量の必要がないこともあります。しかし日本のCHDFは海外に比し血流量、透析液流量ともかなり低めですので(表)、海外の文献データの至適投与量を用いると過量投与になってしまいます。ただしやサンフォードガイドではバンコマイシンのCRRTの至適用量は500mgを24~48時間毎と少な目の投与量になっており、意外と日本のCHDFに適しています。ちなみに日本化学療法学会の抗菌薬TDMガイドライン2015では「CHDF患者に初回は25-30 mg/kg(実測体重)を投与し、以降の維持量は1回500 mg(7.5-10 mg/kg)を24時間毎に投与し、適宜TDMで調節する」となっており、ほぼサンフォードガイドよりも多めの投与量が推奨されています。

 またCHDFは急性膵炎など腎機能正常者に対して炎症性サイトカインを吸着除去するために行われることもあるため、常用量以上の投与量が必要なこともあります。ただし使用している置換液(サブラッドBなど商品名が違っていてもOK)の量とCHDFクリアランスはほぼ一致します。20L/日なら例えば20L/日(約14mL/min)のCCrになります。なぜならサブラッドを使って補液しているということは補液した量とほぼ同じかそれ以上の限外濾液量が出てきます。その限外濾液中Cr濃度は血清Cr濃度と等しいからです。血清中でCrは血漿タンパクと全く結合していない小分子量物質だから当然ですね。

 それからサブラッドの一部は透析液としても使いますが、日本のHDの透析液流量は500mL/minですが、CHDFの透析液流量ははるかに少ない量(7~10mL/min)なので、透析液廃液中Cr濃度と血清Cr濃度は等しくなります。ということは透析液と補液(併せて総廃液量)として1日20L使っていればクレアチニンに関しては1日当たり血清20Lを完全に浄化しているということになりますので20L/日(14mL/min)がCCrになります。ということはHDよりもCHDFのほうがクリアランスが高いため、薬物除去率も高く、抗菌薬もHD患者よりも多めの投与量が必要になります。ただし輸液スペースを確保し、溢水を防ぐため総廃液量が22LになるようなCHDFを施行すると22L/日(15.3mL/min)がCHDFクリアランスになります。つまりCHDFをやっている患者さんが無尿で腎機能が全くなかったとしてもCHDFがCCr14~15mL/minの保存期腎不全患者さんの腎機能と同じ腎機能を肩代わりしてくれているということになります。

投与設計ではCHDF患者の腎機能も考慮する

 ということはCHDFによるCCrは14~15mL/minになり、その人が無尿であればCCrが14~15mL/minの人と同じ投与量をすればよいことになります。しかし患者の腎機能が無尿ではなく20mL/minであれば、34~35mL/minの保存期CKD患者と同じ投与量にすればよいということになります。つまりシミュレーションは非常に簡単で、無尿の患者さんで除水をしなければシミュレーションソフトの患者の腎機能にCCr14mL/minを代入すればよいわけです。ただし患者に残腎機能が残っておればそれを足せばよいのです。患者の腎機能が16mL/minであればこの人の腎機能はCHDFをやっている間は14+16mL/minで30mL/minにクリランスがアップしていると考えればよいのですからCCrが30mL/minの人と同じ投与量をすればよいことになります。

 このようにCHDFのクリアランスを予測することはサブラッドの使用量が分かれば簡単です。もしもCHDF患者がずっと同じメニューのCHDFをやっていて、患者の腎機能が安定しており、4~5日経過していれば患者の血清クレアチニン値は定常状態になっているためeGFRを算出して、あるいはCockcroft-Gault式からCCrを算出して、その値をシミュレーションソフトの意腎機能に入力してみても大過ないと思われます。

患者の腎機能の変動には要注意

 ただしCHDFをやっている人の腎機能は容易に変動するからそう簡単にはいかないというのは確かです。その場合は最初の腎機能に応じた投与量にして予測血中抗菌薬濃度よりも高くなっていれば減量し、予測血中抗菌薬濃度よりも低くなっていれば増量するなどで試行錯誤するしかありませんが、腎機能が安定すれば、その時の至適投与量に当てはまる腎機能からCHDFクリアランス14mL/minを差し引いたものがこの患者の腎機能と予測されます。

 CHDF施行時の薬物投与量については腎臓病薬物療法専門薬剤師テキストに古久保先生1)が書いていますし、山本武人先生2)がより詳しい総説を書いており、私も総説を最近書きました3)ので参考にしてください。

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 1.CHDFの方法

 CHDFクリアランスは に規定されます。透析液流量は非常に小さいため、透析液の廃液中薬物濃度は血中遊離型薬物濃度と近似し、限外濾液濾液中薬物濃度も血中遊離型薬物濃度と近似するためです。

まとめ

①CHDFのクリアランスはHDクリアランスより小さいがHDは週に12時間しか施行しないためトータルで見るとCHDFクリアランス(サブラッドBを20L/minを使用した場合には14mL/min)はHDクリアランス(通常5~10mL/min)よりも高いため、透析患者の至適投与量では投与量不足になります。

②海外のCHDF(厳密にいうと国によって持続的血液浄化法CRRTのやり方は異なる)は日本に比べクリアランスが大きいため、海外文献やサンフォードガイドを参考にすると日本のCHDF患者では過量投与になります。

③通常、日本では1日20Lの補液が使われているということは患者が無尿で除水も行っていなければ20L/日、つまり14mL/minのCCrの保存期腎不全患者への至適投与量と同じ投与量にすればよいのです。残腎機能があればその腎機能に14mL/minを加えたものがCHDF施行中の患者の腎機能としてシミュレーションソフトに代入してもよいです。

④抗菌薬のタンパク結合率が90%以上と高い、あるいは分布容積が2L/kg以上と大きければ血液透析HDでは除去できません。しかしCHDFでは組織に分布した薬物がゆっくりと除去される可能性があるため、分布容積が2L/kg前後の薬物でも除去される可能性があるかもしれませんが、タンパク結合率が90%以上と高い薬物はやはり除去できません。

参考文献

1)山本武人, 他: CRRT中の薬物投与量 抗菌薬の投与設計を中心として. INTNSIVIST 2: 329-345, 2010

2)古久保 拓: 透析患者の薬物投与設計⑤透析方法による薬物除去の違い. 腎臓病薬物療法専門・認定薬剤師テキストP219-225, じほう, 東京, 2013

3)平田純生: 急性血液浄化施行中の投薬管理. 急性血液浄化法徹底ガイド第3版, 救急・集中治療 26(3, 4): 471-479, 2014

 


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今年の国家試験を見ていてとんでもない問題が出ているので驚きました。す。それは問334です。じっくり見てください。

第100回薬剤師国家試験問題(2015年

問334

65歳男性。体重72kg。非弁膜症性心房細動との診断で下記の処方薬を服用していた。数日前から、めまい、ふらつき、冷汗、手の震え、軽度の意識障害にて昨日入院となった。本日病室を訪問した薬剤師は、下記の処方薬を日頃欠かさず服用していたことを付添いの家族から聴取した。また、カルテから入院時検査結果が血清クレアチニン値は2.0mg/dL、BUN は39mg/dL、空腹時血糖は40mg/dLであることを確認した。

シベンゾリンコハク酸塩錠100mg   1回1錠(1日3錠)
ベラパミル塩酸塩錠40mg  1回1錠(1日3錠)
ニコランジル錠5mg1回1錠(1日3錠)  1日3回 朝昼夕食後
ダビガトランエテキシラートカプセル110mg 1日1カプセル(1日2カプセル)
ニフェジピン徐放錠10mg (12時間持続)    1回1錠(1日2錠)1日2回 朝夕食後

担当の薬剤師は、入院時の不快症状と検査値から薬の副作用を疑い、医師に薬剤の変更を提案しようと考えた。該当する薬剤はどれか。1つ選べ。

1 シベンゾリンコハク酸塩錠
2 ベラパミル塩酸塩錠
3 ニコランジル錠
4 ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセル
5 ニフェジピン除放錠

 

まず血清クレアチニン値は2.0mg/dL、BUN は39mg/dLであることから明らかに腎不全。腎機能低下による有害反応は肝代謝型薬物のベラパミル塩酸塩錠、ニコランジル錠、ニフェジピン除放錠では起こりません。これで選択肢は1か4になります。だけどどちらも超ハイリスク薬です。

ただし起こった有害反応は「めまい、ふらつき、冷汗、手の震え、軽度の意識障害」しかもご丁寧に空腹時血糖は40mg/dLとくれば、問題なくシベンゾリンコハク酸塩錠が正解になるはずです。比較的やさしい問題だけど、ダビガトランエテキシラートも腎排泄でCCr<30mL/min未満の患者には禁忌です。じゃあ念のためにCCrを計算してみましょう。CCrの計算にはCockcroft-Gault式を用いればいいですね。体重は計算しやすいように72kgになっています。

推算CCr={(140-年齢)×体重×0.85(女性)}/(72×血清Cr値)

    ={(140-65)×72×0.85(女性)}/(72×2.0)=37.5mL/min

CCrが30以上あるから投与しても問題ない・・・・

じゃないです!腎排泄型のハイリスク薬は腎機能の推算結果だけで投与の可否を簡単に線引きしちゃいけません!

ダビガトランは2011年にワルファリン以来50年ぶりに発売された新規経口抗凝固薬ですが尿中排泄率85%と非常に高い薬物であるため、発売後半年間に、腎機能の低下した高齢者が23名出血死した超ハイリスク薬です。

添付文書を見ると腎機能正常者に比べCCr<30mL/minの重度腎障害患者ではAUCが6.3倍、半減期が13.4hrが27.2hrに延長しています。ということから「透析患者を含む高度の腎障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)のある患者では本剤は主に腎臓を介して排泄されるため、血中濃度が上昇し出血の危険性が増大するおそれがあるため投与禁忌」になっています。

AUCが6.3倍になるのならCCr<30mL/minでは常用量の1/6以下の50mg/日以下にすべき薬ですが禁忌になってますが、CCrが30mL/minであれば220mg/日投与できるのです。ハイリスク薬なのに大胆すぎる投与設計なので怖い感じがしています。それとCockcroft-Gault式をよーく見直してください。これって体重が2倍になると腎機能は2倍に推算されちゃいますよね。

推算CCr={(140-年齢)×体重×0.85(女性)}/(72×血清Cr値)

つまりCockcroft-Gault式は肥満を考慮していないのでに示すように体重の影響を強く受けます。

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ということはこの患者の身長は不明ですが、本来は肥満患者では身長から理想体重をを算出して入力すべきです。160cmだったら理想体重は56.88kgになり、腎機能は29.63mL/minに計算され禁忌になります。150cmだとしたら理想体重は47.83kgになり、腎機能は
24.91mL/minに計算されます。非常に危ない投与になります。

処方をもう1度見直してもらえますか?相互作用は考えられないでしょうか?心房細動では当たり前のように併用されるレートコントロール薬のベラパミルが投与されています。ベラパミル錠は120mg/日をジゴキシンと併用するとおそらくジゴキシンの血中濃度は1.5倍になるため、私が薬剤師時代には、あらかじめジゴキシンの投与量を2/3に減量することを医師に提言してからベラパミルを投与してもらっていました。そうです。ベラパミルにはP-糖タンパク阻害作用があり、ジゴキシンもダビガトランもP-糖タンパク質の基質なのです。ではダビガトランの添付文書の記載を見てみましょう。

以下の患者では、ダビガトランの血中濃度が上昇するおそれがあるため、本剤1回110mg1日2回投与を考慮し、慎重に投与すること。

・中等度の腎障害(クレアチニンクリアランス30-50mL/min)のある患者
・P-糖蛋白阻害剤(経口剤)を併用している患者

[「慎重投与」、「重要な基本的注意」、「相互作用」の項参照]

以下のような出血の危険性が高いと判断される患者では、本剤1回110mg1日2回投与を考慮し、慎重に投与すること。

・70歳以上の患者
・消化管出血の既往を有する患者

 ご覧のように「70歳以上の患者は出血の危険性が高いため、本剤1回110mg1日2回投与を考慮し、慎重に投与すること」ということも添付文書に書かれていますが、本症例は65歳です。これも安易に線引きしていると思いませんか?それから「中等度の腎障害は220mg/日に減量」かつ「P-糖タンパク質阻害剤(経口剤)を併用している患者は220mg/日に減量」の患者には何mgにすべきでしょうか?220mg/日でよいはずはなく、これは投与禁忌と考えるべきでしょう。

さらにさらに、カナダの添付文書では日本と同じくCCr<30mL/minは禁忌になっています(なぜか米国は減量して投与可能)。ただし日本の血清Cr値は正確な酵素法により測定しているためCCrの正常値は120-130mL/minであるのに対し、血清Cr値が酵素法より0.2高いJaffe法によって測定している国のCCrの正常値は100mL/minです。すなわち海外でCCr<30mL/minで禁忌なら30mL/minをやや超えている日本の症例も明らかに禁忌と考えるべきです。

私はここで減量・投与すべきでないことばかり書きましたが、経口抗凝固薬は投与量を少なすぎて出血が起こらなければよいという種類の薬ではありません。致死的な血栓症を抑えなくては意味がありません。つまりこの薬の有効治療域は「出血と梗塞の間」なのです。多すぎても少なすぎてもダメで、上手にコントロールする必要があります。

経口抗凝固薬は超ハイリスク薬です。腎機能が低下すると同様に血中濃度が上昇するアレグラやセフゾンのような安全性の高い薬物とは一緒にしてはいけません。CCrが30mL/minあれば投与できる、29mL/minでは投与してはいけない、あるいは69歳だったら300mg/日、70歳なら220mg/日というような簡単に線引きができる薬でもありません。

いずれにしてもこの問題が過去問として国家試験対策用の問題集に載り、薬学生だけでなく薬剤師までもが、「国家試験に出るくらいだからダビガトランやティーエスワンはCCrが30mL/min以上なら何も考えずに投与しても問題ない。相互作用も重要じゃないんだ」と思ってしまうことを予想するとぞっとしてしまいます。

 


sokisonin01.jpg2013年11月20日CKDチーム医療研究会での佐中孜先生(社会福祉法人仁生社江戸川病院生活習慣病CKDセンター長、元東京女子医科大学東医療センター腎臓内科教授)と話して

佐中先生:「平田先生、OTC薬のネット販売、この中にはロキソニンSというNSAIDも入っているけど、どう思うかね?」

平田「まあ、離島の人もいますからね。必要性はあると思います。」

佐中先生「しかしOTC薬といっても痛みのある高齢者が毎日、ロキソニンSを3錠、欠かさず飲んだらどうなります?」

平田「高齢者だと虚血腎になり、腎機能が低下しますね。私も透析導入になった人の導入原因を探していると、腎炎も糖尿病もない、悪性の高血圧もない。なんでこの人は透析導入になってしまったのだろうと調べてみると、整形外科の処方のNSAIDを2~3か月毎日飲んだために急性腎障害になって、それが慢性化したということはよく経験しましたね。高齢者の膝関節症などで単なる痛みどめ目的で、いきなりロキソニン3錠を30日分投与して、血清クレアチニンをモニターしないのは問題ですね。」

佐中「多くの腎臓内科医や透析専門医が経験していることです。特にNSAIDを2~3か月毎日連用した人が『最近食欲がなくて全身倦怠感がある』と訴えて内科医へ受診したときには『透析しなくちゃいけない』ってことはよく経験します。」

という話をした。

高齢者だけならまだしも、高齢者でACE阻害薬やARBなどのレニン-アンジオテンシン系阻害薬や利尿薬を服用している患者(これらも腎虚血原因薬物)、高血圧患者・糖尿病を合併した患者(動脈硬化を併発し腎不全になりやすい)ではNSAIDsを連日服用すると急性腎障害になってしまう患者は必ず現れます。

1回のネット販売量を規制し、連続した購入を規制できるシステムができたとしても楽天とDeNA、アマゾンと3社から同時購入した場合、相互のチェック機能がない限り、ロキソニンSのようなNSAIDをネット販売することは、非常に危険だ。

ガスター10でも腎機能が低下している人が胃がよくならないからといって1日2錠飲むと汎血球減少を起こすことがあることはよく知られた話です。適正使用しなければ生命を脅かす可能性のあるOTC薬はほかにもあるはずです。

適切な情報も与えられずにネット販売で購入したOTC薬によって死に至ったら、楽天の三木谷社長は全責任を取ってくれるのでしょうか?

離島や無医村の人たちのことを考えると私は必ずしもOTC薬のネット販売に反対ではありません。しかし腎臓病薬物療法学会理事長として、適正な情報なしに腎機能を悪化させる薬や、腎機能の低下した方が中毒性副作用を起こす可能性のある薬をモニターできる体制ができていないまま、他社から少しずつ購入できて、結局いくらでも購入できるシステムであれば問題と考えます。「何か体調に変化があったらすぐに薬局に問い合わせてくださいね」という対面販売はやはり必要だと考えます。

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プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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