SGLT2阻害薬による心腎保護作用と急性腎障害抑制作用~ケトン体って何よ?~
2日目 SGLT2阻害薬の目覚ましい臨床試験結果
(1)驚異的なエンパグリフロジンの心・腎保護作用
2015年、エンパグリフロジン投与によるEMPA-REG OUTCOME試験が報告され1)、心疾患による死亡、非致死性の心筋梗塞、非致死性の脳卒中の複合を主要アウトカムとし、二次アウトカムは不安定狭心症での入院としました。RAS阻害薬が投与された方は81%、利尿薬が投与された方は43%で、主要アウトカムにおいてエンパグリフロジン群4,687人中490人(10.5%)に対しプラセボ群では2,333人中282人(12.1%)(ハザード比0.86:CI 0.74-0.99)でした。脳卒中、心筋梗塞では群間で差は見られなかったのですが、心疾患による死亡、心不全による入院ではプラセボ群に比べエンパグリフロジン群において有意に低下させるという、皆さんご存知のように、驚異的なデータを示しました。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
第9回 基礎から学ぶ薬剤師塾 2022年1月4日(火)18時~20時まで の申し込みを始めます。テーマは「透析患者の薬~基礎編 病態と薬物療法~」です。
透析患者は高リン血症、二次性副甲状腺機能亢進症、腎性貧血、高カリウム血症、アシドーシス、尿毒症と腸内細菌叢の変化・腸腎連関、高血圧、低血圧、腸管穿孔と便秘といった様々な合併症とともに、栄養状態の不良、易感染性、高齢化など様々な問題を抱えています。薬物療法も複雑で多彩ですが、慢性腎不全の病態を知るためにはわかりやすい疾患です。今回は透析患者の病態とそれに対して用いられる薬物療法の基本について解説します。
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薬剤師塾への参加者はどなたでも構いませんが、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そしてその先には原著論文を書き、海外の学会で発表し、英語論文をまとめて博士号を取るんだというような大きな夢を持つ人になっていただきたいと思います。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。
『NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~』のテキスト(PDF)ダウンロードができます。
SGLT2阻害薬による心腎保護作用と急性腎障害抑制作用~ケトン体って何よ?~
1日目 SGLT2阻害薬の登場と副作用報告
(1)SGLT2阻害薬の驚異的な心・腎保護作用
ダパグリフロジンが非糖尿病心不全患者を含むDAPA-HF試験の結果を踏まえて2020年11月に慢性心不全(ヘフレフ HFrEF: heart failure with reduced ejection function左室駆出率の低下した慢性心不全)の適応症を取得しました。また非糖尿病CKD患者を含むDAPA-CKD試験によってRAS阻害薬との併用で腎機能の悪化、末期腎不全への進行、心血管死または腎不全による死亡のいずれかの発生による複合主要評価項目のリスクを、プラセボと比較して39%低下させ、全死亡の相対リスクを有意に31%低下させました。これらの試験結果から、アステラス製薬は2020年12月14日に糖尿病のないCKD患者への適応を申請していましたが、2021年8月25日にやっと「慢性腎臓病(ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く)」の効能又は効果の追加承認を取得しました。米国、EU、台湾などではすでに2型糖尿病合併の有無に関わらず、CKDの治療薬として承認を取得しています。これからわが国でも透析導入を防ぐ腎保護薬の決め手として積極的に使われていくものと考えられます。
ダパグリフロジンは慢性心不全の成人患者さんの治療薬としてはすでに承認されており、これから心不全・腎臓病治療が大きく変わると思われます。ダパグリフロジンだけではありません。エンパグリフロジン、カナグリフロジンなどのSGLT2阻害薬による心腎効果を検証した大規模臨床試験が多数報告され、それらのほとんどが既存の糖尿病治療薬、腎保護薬、心保護薬の概念を覆すくらいのクラスイフェクトの数々です。
これまで、HFpEF(ヘフペフ: heart failure with preserved ejection function:左心駆出率の保たれた心不全)は左心室が硬化して拡張できず、心臓へ血液が戻る力が弱くなるため、うっ血が起こり、むくみなどの症状が起こりやすいといった特徴があり、高齢者に多い心不全です。臨床的に有効と証明された治療法がなく、心血管領域で最大のアンメットニーズとされていましたが、2021年9月にはエンパグリフロジンが心不全だけではなく、HFpEFの治療薬(正確には治療補助薬ですが)としてFDAからブレークスルーセラピー(画期的治療)の指定を受けました。Walters Kluwer社のUpToDateⓇには「 2型糖尿病の有無にかかわらず、一貫してベネフィットが証明された」と記載されております。ということで今更ですが、今回は話題沸騰中のSGLT2阻害薬について解説したいと思います。
(2)SGLT2阻害薬の基礎知識
ブドウ糖は親水性の小分子化合物であるため、糸球体濾過されても受動拡散で再吸収することはできませんが、重要な栄養物であるため、近位尿細管の前半部(S1, S2セグメント)では輸送能力の高いトランスポータであるナトリウム-グルコース共輸送体2、つまりSGLT2(sodium/glucose co-transporter 2)によって90%が再吸収されます。残りの10%は近位尿細管の後半部のS3セグメントに存在するSGLT1によって再吸収されるため、健常者では尿中にブドウ糖が排泄されることはありません。ただしトランスポータはその基質濃度が上昇すると飽和するため、血糖値が170mg/dL以上になると、完全に再吸収することができなくなって尿糖が発現します。SGLT1は小腸にも発現しており、強く抑制すると下痢を起こしてしまうので、臨床使用するにはSGLT2選択性が高い必要があります。ブドウ糖を認識して再吸収するため、SGLT2阻害薬もブドウ糖構造を持っていることから(図1)、SGLT2がこれらの薬物をブドウ糖と誤認識して結合して、作用を表すと予測されます。要するにSGLT2阻害薬はブドウ糖を再吸収させずに、尿中にダダ洩れにして血糖値を下げる薬です。日本人で多い痩せた高齢者には使いにくいですが、前述の凄まじい心保護作用・腎保護作用から、使用量が増えつつあります。
SGLT2阻害薬の薬物動態学的特徴は蛋白結合率が82~98%と高く、尿中排泄率は0~22%と低いです。半減期は図1には載せておりませんが、トホグリフロジンが約5時間と短いのですが、そのほかは10~18時間なので、夜間頻尿を訴える患者にはトホグリフロジンが適しているかもしれません。ただしトホグリフロジンには今のところ2型糖尿病の適応しかありません。

(3)SGLT2阻害薬の安全性

SGLT2阻害薬は2014年に発売され、翌年1月にはSGLT2阻害薬投与中に下痢・嘔吐が頻回に発現していたが水分摂取が不十分であり、脱水によって死に至った症例、おそらくこれも脱水に起因する心筋梗塞や脳梗塞による死亡症例が新聞報道されました(図2)。脱水の原因として、SGLT2阻害薬併用時の下痢、嘔吐、入浴による発汗、利尿薬併用が脱水を助長することが原因と考えられています。発売当初から、メーカーから「適正使用のお願い」が発行され、水分摂取を心がけるよう注意喚起がされていましたが、SGLT2阻害薬の特徴的な副作用として利尿作用による脱水の助長、頻尿・多尿、皮膚乾燥に起因する発疹、大量のブドウ糖の尿中排泄による膀胱炎・性器感染症、サルコペニア、ケトアシドーシスなどがあげられています。そのため、投与を避けたい患者は認知症・うつでは特に摂食中枢の異常を起こしやすいので脱水になりやすい、両総頚動脈狭窄も脱水による脳梗塞になりやすい、下腿切断になると動けないので性器や尿路感染しやすいので避け、BMI 18.5未満のやせ、フレイル、サルコペニア患者なども投与を避けたい患者になります。
SGLT2阻害薬は特に投与初期に利尿作用があるため、RAS阻害薬、利尿薬、NSAIDsのTriple Whammy処方などとの併用はとても危険で、腎前性の急性腎障害を頻発するに違いないと、発売当初から平田は思っており、自ら作成した急性腎障害原因薬物一覧表の腎前性腎障害原因薬物の中にSGLT2阻害薬を明記しました。その後、FDAも2016年6月14日、2型糖尿病に対するSGLT2阻害薬のカナグリフロジンとダパグリフロジンの急性腎障害に関する安全性情報を発出し、添付文書に急性腎障害に関する警告を含めるよう指示を出しています。日本糖尿病学会はSGLT2阻害薬の適正使用のRecommendations1)として、特に後期高齢者には慎重に投与すること、脱水防止について患者に指導し、利尿薬の併用の場合には特に注意すること、発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、ないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬することなどが記載されています。このようにSGLT2阻害薬には利尿作用も降圧作作用もあるし、脱水もきたしやすいので、RAS阻害薬や利尿薬と同様に腎前性腎障害を起こすだろうということは誰もが予想していたと思います。
ということでSGLT2阻害薬についての最新の副作用の関する論文についてまとめてみました(図3)2)。8つの大規模試験をまとめたもので、赤色で書いてある糖尿病ケトアシドーシス、性器感染、脱水が統計的に有意に起こりやすい副作用と言えますが、発売当初から注目されていた低血糖や下肢切断、尿路感染は有意ではありません。急性腎障害(AKI)に関しては1をまたがず左側にありますし、RR(相対危険度)が0.75になっていますので、AKIはSGLT2阻害薬の投与によって有意に減少したといえます。「えぇっ!なんで?」と思う方がいると思いますが、実はSGLT2阻害薬がAKIを防ぐということは2016年ころから言われ続けています。今に始まったことではないのです。2019年以降になって、平田も薬剤性腎障害原因薬物一覧表からSGLT2阻害薬を削除しています。これについては4日目に詳述したいと思います。

引用文献
1)日本糖尿病学会: SGLT2阻害薬の適正使用のRecommendations 2020年12月25日.
2)Qui M, et al: Diab Vasc Res Mar-Apr 2021;18(2):doi: 10.1177/14791641211011016.
平田・浦田・村上式(HUM式)の予測性
薬物の特性を以下の特徴的な6つのカテゴリーに分類し、予測式に用いなかった薬物を主に用いてHUM式による予測性を再確認した(図14)。①分子量100Da未満の水溶性物質は極めて除去されやすい、②PBRが低く水溶性の薬物で細胞外液のみに分布する薬物の除去率はとても高い、③水溶性の薬物で細胞外液のみに分布する薬物の除去率はPBRに依存して変化する、④Vdが小さいもののPBRが95%以上の脂溶性薬物は除去されない、⑤分子量が数万Da以上のものおよびPBR 100%の薬物は全く除去されない、⑥Vdが5L/kg以の上脂溶性薬物は除去されない。それぞれのカテゴリーに合致した特徴的な薬物でMW、PBR、fe、Vdの4つのパラメータが既知の薬物を2~3個ずつ、ランダムに示した。実測値と予測値の間にはy=1.009x-2.113でR2=0.924, P<0.0001の有意な正相関が認められた(図15)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
村上らによる透析による新たな薬物除去率予測式の改訂11)
Urataらによる簡易式は静注製剤のみによって構築されていたため、筆者の指導学生であったMurakami11)はこれに信頼性の高いバイオアベイラビリティのデータの備わった経口薬を含め、これまでに重要と言われてきたPBR、1/Vd、MWに加え、新たなパラメータとしてインタビューフォームの多くで記載されているn-オクタノール/水分配係数(O/W係数)の導入を検討したが、フィット性はUrataの示した3項目が最大であったため、断念した。再びMW、PBR、fe/Vdを用いるUrataの方法を踏襲して、新たな透析除去率の予測式の構築を試みた。これまでの簡易式の問題点として医薬品インタビューフォームに記載されているデータは この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
浦田基樹らによる透析による薬物除去率を予測する簡易式の構築10)
2018年当時、筆者の属する熊本大学生命科学研究部大学院博士課程に在籍していたUrataら10)は成人の透析による除去率ならびに、全ての薬物動態パラメータが抽出された90品目の注射薬を対象として薬物の透析性の予測式作成を試みた。Spearmanの順位相関係数の検定より透析による除去率と有意な相関を示すパラメータは、 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
『NSAIDsによる腎障害 ~Triple whammyを防げ~』の目次です。
2日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その1)
3日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その2)
4日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その3)
5日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その4)
6日目:NSAIDsはTriple Whammyの1つ(その5)
7日目:Triple Whammy の片割れ、RAS阻害薬の利点・欠点
11日目:薬剤師の服薬指導でTriple whammyを防げれば
12日目:Triple whammyによる脱水を早期発見せよ
13日目:NSAIDsの腎障害は腎前性腎障害(腎虚血)だけじゃない
14日目:経口NSAIDsを使うとしたら腎障害の少ないエビデンスレベルの高いものは?
15日目:NSAIDsのパップ剤や全身作用する貼付薬は安全?
16日目:ワルファリンとNSAIDsを併用してはいけない本当の理由
17日目:米国で見た「Tylenol is not an NSAIDs」 というテレビCM
28日目:腎機能低下患者にはセレコキシブかアセトアミノフェンか?
29日目:(最終回)整形外科医のNSAIDs処方の実態と抗炎症作用
血液透析で除去されにくい薬物
1997年に筆者は血液透析で除去されにくい薬物の共通点はPBRの高い薬物、脂溶性の高い薬物、腎排泄性の低い薬物、Vdが大きい薬物、分子量の大きい薬物であると推測した7)。さらに2004年に筆者は血液透析による除去率とVdの関係は図4に示すように双曲線を描くため8)、直線回帰では1/Vdの方が相関性は高くなるというKellerら6)の報告を確認した。そのうえで、①PBR>90%以上の薬物は血液透析によって除去されない(図5)、②Vd>2.0L/kgの薬物は除去されにくい(図6)、③PBR>80%かつVd>1.0L/kgの薬物は除去されにくい(図7)ことを明らかにした9)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます
薬物の透析性
透析で除去されやすい薬は透析後に補充投与しないと効かなくなる。例えばアミノグリコシド系の抗菌薬は細胞外液のみに分布し、アルブミンなどの蛋白質にほとんど結合しないため、透析で半分以上が除去されてしまう。当然、濃度依存性の抗菌作用を示すこの抗菌薬の殺菌力は期待できなくなってしまうであろう。βラクタム系抗菌薬も細胞外液のみに分布するが、蛋白結合率(PBR)は薬によってさまざまだ。汎用されているカルバペネム系抗菌薬のメロペネムのPBRはほぼ5%足らずで、ほぼアミノグリコシド系と同様、半分以上は透析で抜ける。ただし第3世代セフェムのセフトリアキソンやセフォペラゾンのPBRは90%なので、ほぼ除去できないので透析後の追加投与は必要ない。グリコペプチド系のテイコプラニンのPBRは90%と高いだけではなく、分子量が1,564~1,894Da(6種の薬物の混合物である)と大きいため、主に拡散の原理によって生体内物質を除去する血液透析では全く除去できない。
薬物の透析性予測式なんて、必要ないと思っている方もいるかもしれないが、体中から抜けた薬物を抜けた分だけ補充する必要があるとすれば、「抜けやすい」「抜けにくい」だけではなく明確に何%抜けるという精度の高い予測式があれば、それは有用なものになるであろう。たとえば抗がん薬を透析患者に投与された報告は極めて乏しい。投与量も論文によって実にさまざまだ。そして透析による除去について体系的に言及した論文はさらに少ない、というかほとんどない。抗がん薬の場合、効きすぎれば、当然、有害反応が起こるであろうし、効かなければがんの悪化によって生死を分けるかもしれないのに、透析によってどれくらい除去されるかどうかについて分かっているものは、シスプラチンなど特殊な抗がん薬を除いてほとんどない。
米国では麻薬の濫用が大きな問題になっており、オピオイドの透析性についてはかなり探求されている。横紋筋融解症やQT延長といった重篤な副作用の多いメサドンに関しては、PBRが89.4%で分布容積(Vd)が1~8L/kgであることから、動態的に見て透析では抜けないことは明らかである(後述)。透析で抜けないという報告が古くからすでに複数あり1)2)、最近の報告ではメサドンの1日投与量の2.3%(範囲、1,25-3,70%)であったという報告3)や古い報告でも1%しか抜けないという報告4)があるにもかかわらず、メサドン専用の透析性の予測式を作ったという報告もあるが5)、ほとんど臨床的な価値はないと思う。
ある種の薬物の透析性は論文になりやすいのだ。例えばAという新薬の透析性については検討がされていなければ、動態的には除去されないことが分かり切っていたとしても、医師が査読をすると「新規性がある」とみなされ、容易にアクセプトされる。そしてCHDならまたノイエス、CHDFの報告は初だからノイエス、CHFでもノイエス、CVVHDFでもノイエスとみなされアクセプトされる。もっとひどい文献だと、知りうる限り最大の分布容積の薬物「アミオダロンによる透析性」についての英語論文の査読を依頼されたことがあるが、本来、筆者は教育的な配慮からrejectしない方針であるが、さすがにこれは「透析で全く除去されないことは動態的に明らかなことなのに、数名の透析患者で頻回採血を行って透析性を調べた」ことは倫理的に間違っているということですぐさまrejectしたことがある。このように薬物個々の報告、様々な血液浄化法での報告もまた、あまたとあるが、このような報告を待たなくても、あるいは文献を検索しなくても、1つの予測性の高い式ができれば、有用なことは間違いないのだが、これに関する報告は極めて少ないのが現実なのだ。
薬物の透析性に関わる因子
1983年にKellerらがPBR, 分布容積の逆数(1/Vd), 分子量を基に薬物の透析性の予測式を作成したが、R2=0.27と低く、臨床では全く使えないものであった6)。ただしこの報告により薬物の透析性に関わる因子はPBRと分子量以外にも、Vdが重要であることが明らかにされた。
Vdは薬物の組織移行性を表す指標で、前述のようにアミノグリコシド系の抗菌薬やβラクタム系抗菌薬は親水性であるため細胞膜の脂質二重層を通過できないので細胞外液のみに分布する。細胞外液が体重の20%であるためこれらの薬物のVdは0.2~0.3L/kg(重症感染症では炎症によってアルブミンが間質液に漏出するため0.3L/kg近くになる)となるが、PBRが90%のセフォペラゾン、セフトリアキソンはアルブミンにトラップされているため、間質液内濃度は血清濃度の1/10になるので、Vdは0.2L/kg以下になる(図1)。
尿素や炭酸リチウムは分子量が100Da以下の水溶性物質であるため、脂質二重層の細孔を自由に行き来できるため(図2)、細胞内液・細胞外液に均等に分布する。そのためこれらのVdは体内水分量に等しい0.6L/kgになる。

では強心配糖体のジゴキシンはどうだろうか?ジゴキシンはNa+-K+-ATPase阻害薬であるためこの酵素が多く存在する心筋や骨格筋に高濃度で分布し、心筋では血清濃度の30~70倍、骨格筋には10~20倍の高濃度で分布するため、血清濃度は相対的に低くなる。Vd=体内薬物量/血清濃度で表されるため、ジゴキシンのVdは4~8L/kgと高い。血清及び間質液、つまり細胞外液を中心に浄化している血液透析だが、ジゴキシンは体内総量の4%しか細胞外液には存在しない(図3)。また組織から細胞外液へのジゴキシンの移行速度が透析による除去速度に比し極めて遅いため、Vdの大きいジゴキシンは透析では除去不可能だ。PBRが高くても活性炭による血液吸着や血漿交換によって除去可能であるが、Vdが大きい薬物は透析だけでなく、いかなる血液浄化法によっても除去されにくいのである。
引用文献
1)Furlan V, et al: Methadone is poorly removed by haemodialysis. Nephrol Dial Transplant 14: 254-255, 1999
2)Perlman R, et al: Intradialytic clearance of opioids: methadone versus hydromorphone. Pain 154: 2794-2800, 2013
3)Opdal MS, et al: Effects of Hemodialysis on Methadone Pharmacokinetics and QTc. Clin Ther 37: 1594-1599, 2015
4)Kreek MJ, et al: Methadone use in patients with chronic renal disease. Drug Alcohol Depend 5: 197-205, 1980
5)Linares OA, et al: In silico ordinary differential equation/partial differential equation hemodialysis model estimates methadone removal during dialysis. Daly AL. J Pain Res 8: 417-429, 2015
6)Keller F, Wilms H, Schultze G, Offerman G, Molzahn M: Effect of plasma protein binding, volume of distribution and molecular weight on the fraction of drugs eliminated by hemodialysis. Clin Nephrol 19: 201-205, 1983