慢性心不全は延々と緩やかに続く坂道のような病態で、重い荷物を引いている老馬が慢性心不全の心臓にたとえると患者さんには理解しやすくなる。心臓を鞭打つ薬、つまり強心薬を使い続けると、最初は快調に走ってくれても老馬は疲弊して早死にしてしまう。「逆に馬の速度を緩めてあげる役割がβ遮断薬、馬の荷物を軽くして負担を軽減する役割がRAS阻害薬、MRAはさらに荷物を軽くしてくれる薬なので、老馬はより長い距離を歩くことができる。つまり生命予後を延長できる慢性心不全治療薬になるのです(図1)」と説明するとわかっていただけるかも?強心薬は生命の危機を脱するために急性心不全だけでなく慢性心不全の増悪期にも一時的に使うことがある(図2)。心拍出量を上げるにはドブタミン、尿量が減ってきたらドパミン、血圧が下がってきていよいよ危なくなってきたらノルアドレナリンのように使い分ける。じゃあ利尿薬の立ち位置は?
慢性心不全入院理由の多くを占める体液貯留によるうっ血症状を改善してくれるのが利尿薬だ。症状を目覚ましく改善してくれるのでガイドラインでの推奨度はⅠだが生命予後改善効果はない。じゃあSGLT2阻害薬は?
「いっぱいあって説明しにくい」けど、ケトン体によってエネルギー効率がよくなることだと考えると「老馬にこまめにえさと水を与えること」に似ているかも?でもこれは平田の勝手な持論です。


コルヒチンの添付文書には「 肝臓又は腎臓に障害のある患者で、肝代謝酵素CYP3A4を強く阻害する薬剤又はP糖蛋白を阻害する薬剤を服用中の患者には禁忌」とややこしいことが書かれている。わかりやすく説明しよう。
実際にあった香港での有害反応の報告によると1)、「CYP3A4阻害薬剤又はP糖蛋白阻害薬」の正体は、マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンだ。クラリスロマイシンとコルヒチンの2薬物が同時投与された88名中9名(10.2%)が死亡し、2薬物が時間差投与された28名中1名(3.6%)も死亡した。コルヒチンの尿中排泄率は20%と言われており、腎不全患者で減量する必要はない。しかしコルヒチンはクラリスロマイシンと同様にCYP3A4、P糖蛋白の基質でもあり、阻害薬でもあるから、アトルバスタチンとの併用によって横紋筋融解症が起こったという報告もあるが2)、クラリスロマイシンに比べると非常に低用量なので、コルヒチンの代謝が阻害されて毒性の強いコルヒチン中毒が起こり、下痢や脱毛、そして致命的な汎血球減少によって死亡したと考えられる。コルヒチンには抗がん薬並みの怖い副作用があるので気を付けよう。おそらく腎機能が低下すると、相互作用により肝代謝がほぼ完全に阻害された場合には、わずか20%に過ぎない腎クリアランスがほぼゼロになることによって腎障害がコルヒチンの定常状態濃度の急上昇による致死性中毒の原因になったのではないかと平田は推測する。コルヒチンの尿中未変化体排泄率は実は40~65%という説もある。コルヒチンは痛風発作を予兆したときに効果的なので気軽に投与されるが、耳鼻科などでマクロライドが併用されてたら・・・・・。気を付けましょう!
1)Hung IF, et al: Clin Infec Dis 41: 291-300, 2005
2)Tufan A, et al: Ann Pharmacother 40;1466-1469, 2006



バラシクロビルによる薬剤性腎障害を発症しやすい人は①70歳以上、②体重40kg以下、③女性、つまり小柄な女性高齢者だ。症状は①尿量減少、②呂律が回らず会話が成立しない意識障害、③異常行動・言動となっており(図1)、②③はアシクロビル脳症だ!しかも発生時期は夏が多い(図2)。バラシクロビルによる薬剤性腎障害は溶解度の低いアシクロビルが尿細管で結晶を析出して、尿量が減少あるいは無尿になることによって起こる。小柄な人で飲水量の少ない人、あるいは発汗量が多い人で起こりやすい。それに追い打ちをかけるのがNSAIDsやRAS阻害薬、利尿薬の併用だ(図3)。帯状疱疹による痛みはせいぜい1週間程度だからNSAIDsを投与するくらいならトラマドールのほうが安全じゃないかな?腎障害を防ぐには薬剤師による飲水励行の服薬指導が極めて重要になる。バラシクロビルの服用期間は1週間程度だから、夏季は1回200mLをこまめに飲んでいただこう(図4)。汗をかいて褐色尿ではなく、無色に近い尿にしていただくために500mLのペットボトル×3本/日を目標(水を飲んでくださいだけじゃわかんないでしょ)にしていただこう。栄養状態不良で小柄な高齢者が帯状疱疹に罹患しやすいので腎機能の把握が重要なのに、皮膚科医のほとんどが採血すらしなのはとても悩ましい。腎機能が読み取れない痩せた高齢者では、バラシクロビルの投与量に悩むくらいなら、腎排泄ではないアメナメビルへの処方変更の提案をした方が無難じゃないかな。




アシクロビル、バラシクロビルによって呂律が回らなくなって会話が通じなくなる「アシクロビル脳症」を経験したことのある病院薬剤師は結構多いはず。発汗の多い夏には脱水によって腎血流が低下して遠位尿細管や集合管にアシクロビル結晶が析出して腎後性腎障害を発症しやすい。2019年の報告でバラシクロビル・アシクロビル表1赤字)は薬剤性腎障害の原因薬物でNSAIDsのロキソニン・ジクロフェナク(黄色字)を抑え圧倒的な第1位になるほど急増しており(、腎機能が読み取れない痩せた高齢者では腎排泄ではないアメナメビルへの処方変更の提案を考慮した方がよいだろう。
腎機能正常者の糸球体ろ過量は約150L/日だが、尿細管で水や塩、必要な栄養物・ミネラルは再吸収されて約1.5L /日程度の尿量になる。つまり100倍に濃縮されるのだ。アシクロビルは水溶性で腎排泄だが、プリン体骨格を持っているので尿酸と同様、溶解度が低いため、遠位尿細管や集合管でアシクロビルは脱水時には100倍以上に濃縮されて、結晶を析出して尿路を塞ぐ(図1赤丸)。各ネフロンで作られた尿は腎盂に集められ、尿管を通って膀胱に送られ尿道から排泄されるが、これらの結晶によって通り道が塞がれて、尿が流れなくなると腎盂に尿が貯まり、腎臓や尿管が腫れてくる水腎症になって腎機能が低下する(図1左)。薬剤師の皆さん、夏季の飲水励行の服薬指導、しっかりやってる?これについては明日説明しよう。


ファンタスティックフォーの慢性心不全への治療効果はすごい。でも①ACE阻害薬かARBを腎機能悪化、高カリウム血症に気を付けながら低用量から漸増する→②β遮断薬を心機能が悪化しないよう低用量から漸増する→③MRAを血清カリウム値をモニタリングしつつ投与→④ACE阻害薬かARBを血圧の下がり過ぎに気を付けながらARNIに変更する。ACE阻害薬の場合は変更する少なくとも36時間前に中止しておく→⑤最強のSGLT2阻害薬を投与。ってどれだけ日数をかけてんの?最初の2剤が漸増するので、数か月、全部で半年かかっちゃうじゃん!この順番は心不全治療薬としての開発順なだけじゃん(図1と図2の左)。
β遮断薬の漸増は必須で、しかも心臓突然死を抑えてくれるので最初に投与しよう。これは仕方ないけど、一番効くSGLT2阻害薬は一緒に最初ら使うべきだ。ARNIとMRAによる高カリウム血症を防げるなどのメリットもあるからね。だからこの報告ではβ遮断薬とSGLT2阻害薬をいきなり併用して、ACE阻害薬かARBなしでいきなりARNIだってあり。MRAもARNIもSGLT2阻害薬も漸増する必要ないから、1か月でファンタスティックフォーを完成して退院処方とする(図2の右)。そうすりゃ開業医もほぼDo処方をしてくれるはず。2025年改訂版心不全診療ガイドラインにも「予後改善が示されている基本の4種類の薬剤をできるだけ早く導入し,忍容性があるかぎり目標量まで増量するのが最も重要」と明記されている。杓子定規に古い教科書に従うのはいい加減にやめにしよう。


SGLT2阻害薬の8つのRCTをもとにメタアナリシスでプラセボ群に比し、有意に多い副作用は示されたのは3つのみ。①糖尿病性ケトアシドーシス、②性器感染、③脱水の3つで、下肢切断、尿路感染、骨折も有意ではないが高い傾向だった。発売当初は糖利尿・Na利尿伴う脱水から腎機能が悪化するのではないかと嫌疑をかけられたが、実際には急性腎障害の発症を25%有意に抑制した。利尿作用があり、脱水の副作用が起こりやすいのに、急性腎障害の発症を25%低下させる?SGLT2阻害薬はなんと不思議な薬なんだろう。
①~③に共通して予防対策になる服薬指導は「こまめな飲水」である。ケトアシドーシスでは浸透圧利尿による脱水が1つの原因になって発症するが、非糖尿病患者ではインスリン分泌能が保たれているため通常、ケトアシドーシスは起こりえない。


①Ca 拮抗薬、ARB、α遮断薬はすべて肝代謝型薬物なので腎機能が低下しても減量の必要はない。
②ACE-I、ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬、クロニジンは腎排泄型降圧薬。
③β遮断薬だけは薬によってさまざまでアテノロール、ナドロール、カルテオロールだけは腎排泄、それ以外は肝代謝と覚えよう。
だけど降圧薬はそんなにハイリスクではないし、降圧薬の効き目には個人差があるから、実際にはあまり気にすることはないね。詳しくは以下のブログをご確認ください。
『薬物動態学が苦手なあなたへ』2限:プロプラノロールとアテノロールの違いからADMEを知ろう!


インタビューフォームで一番、薬剤師として重要な部分はなんといっても「薬物動態」だ。血中薬物濃度の時間的推移が分かるからね。プレガバリンの半減期は6時間程度だから、4~5倍すれば定常状態に達するので、効き始めるのは結構早いよね。300mg投与してピーク濃度が8µg/mLだから、吸収率が100%だとしたら、Vdは37.6L。ということは60kgの男性の体内水分量60%にほぼ等しい水っぽい薬だ、クリアランスも腎排泄性薬物として納得できる小ささ、などいろんなことが分かる。でもプレガバリンを高齢者に投与すると意識消失などの副作用がとても起こりやすい。なんで?
よ~く見てほしい。動態情報を得るための第1相試験の対象はほぼ健常成年男子だ。でも実際にプレガバリンが使われるのは高齢者がほとんどだ。つまり薬剤師は健常者で得られた動態データを実際に投与する患者用に翻訳しなくてはならない!尿中排泄率90%のプレガバリンは腎機能の低下した高齢者では当然、血中濃度は上がるだろうし、加齢とともに筋肉量が減って脂肪に置き換わるから、体内水分量は60%ではなく50%になるので、血中濃度の振れ幅は1.2倍になるはず(定常状態濃度はVdではなくCLによって決まる)。ほとんどが米国で行われた第3相臨床試験データをそのまま日本に持ってきて米国人と同じ用量に設定するのも乱暴すぎる。だって対象をみたら平均BMIが30を超えてることが普通にあるが、日本人高齢者は太れない。これを日本にそのまま持ってくるなんて・・・。


高齢者にNSAIDsが連用されていたのでアセトアミノフェンに変更をお願いすると 「NSAIDsを高齢者に漫然と投与するのは良くないのはよくわかっている。でもアセトアミノフェンはNSAIDsに比べて鎮痛作用が劣るので患者さんがNSAIDsを欲しがるんだよ」と断られることが多いらしい。でも5月8日の平田の薬剤師塾「学び直しの薬物動態学」で、アセトアミノフェンの処方は500mg×3回/日が約半数で、2000mg/日以下が大半を占めることが明らかになった(図1)。
ではアセトアミノフェンの鎮痛効果を狙った適正投与量はどれくらいなのだろう?アセトアミノフェン500mgを空腹時単回投与しても鎮痛作用を表す血中濃度5µg/mL以上になるのは1時間程度に過ぎない。これが食後服用だったらTmaxが延長しCmaxが低下するので、ほぼ鎮痛効果は期待できない。1回1000mgの単回投与では十分効果はあるが(図2)、1日4000mg/日は体格が小さな日本人ではAST, ALTの上昇が危惧される(必ずしも肝障害を起こすわけではない)。論文上では、600mg×4/日でロキソニン3錠/日に劣らない、または750mg×3回/日が適切とされている。


医師の学会やメーカー勉強会では、医師がわからないことを解決しようと活発に質問し、意見が飛び交う。マイクに列ができることもあり、緊張感の中で新たな学びや気づきを得られ、演者の考え方がより理解できる。
一方、薬剤師の学会では誰も質問せず、座長が形式的な質問をして終わる。講演後、演者に個人的に質問する薬剤師は「恥ずかしい」「無知を晒したくない」と思い、他の人に聞かれたくないらしい。
医師はわからないことを遠慮せず質問し、回答を共有する。薬剤師の皆さん、学会や講演会は講演だけでなくディスカッションが重要なんだ。質問がないのは「講演がひどかった」と演者を失望させる失礼な行為だ。

