平田のX

2025年5月3日 X投稿
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 プルゼニドⓇ錠やヨーデルⓇ錠などの刺激性下剤は一般外来では3~4錠/日が最大投与量だが、透析患者は10錠以上+アローゼン4包など、大量を連用することが普通にみられる。アントラキノン系の刺激性下剤は腸管の蠕動を亢進する下剤で、一見、高齢者の蠕動力低下による便秘には有効性が高いように思えるが、刺激性下剤は結腸全体、つまり盲腸から直腸の結腸全体を刺激するため、最初は硬結便、通常便、泥状便、そして腹痛とともに水様便が排泄されて結腸全体が空っぽになる。そのため大腸の再充満時間が延長し排便間隔が長くなって、連用すると依存性や耐性を生じる(図1)。刺激性下剤はもともと頓服で週に2~3回頓服で使用するものなのだ。世界消化器連合ガイドラインでの推奨度・エビデンスレベルはラキソベロンで2B、他のセンナやアントラキノン系の刺激性下剤は3Cと評価が非常に低い。刺激性下剤を使用すると最終的には大量のカリウムを含む水様便が排泄されるため、低カリウム血症を起こすが、透析液中のカリウム濃度は2mEq/Lと低いため、透析によるカリウム喪失によって透析直後は低カリウム血症が助長され、蠕動力がさらに低下して便秘が増悪する。そして食の細い高齢透析患者ではもともと血清カリウムが低値であるため、透析後に麻痺性イレウスをきたすことがある(図2)。それでもなお透析患者が刺激性下剤の処方を望むのはワンフロアで20~30人もが同時透析をしているので、便意を催したくないという心理が働いいているのだろう。透析患者の死亡原因の9位はイレウスで毎年300人以上が死亡する極めて深刻な合併症なのだ。

 

2025年4月30日 X投稿
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 糖尿病患者が感染症や体調不良になって食事が摂れなくなった時や、下痢・嘔吐、発熱などがあることによって血糖値が乱れることを「シックデイ」(著しく体調の悪い日)と言う。血糖値が不安定になるため、薬の服用を一時やめていただき、シックデイルール、つまり血糖コントロールを調整するために安静、水分補給、保温、炭水化物摂取(食欲が落ちて低血糖になりやすい場合は、不足したカロリー分を補う)、血糖値が高いときには脱水になりやすいので、水分や電解質を十分に補給する(目安として、1日1.5Lの水分は摂る)、血糖測定などが必要。かかりつけ医に相談するときに体重、体温、血圧/脈拍、血糖値の変化などの情報があれば、医師が判断しやすくなる。 平田は糖尿病とは直接は関係ないけど、高齢者で高カルシウム血症から多尿・脱水を引き起こす活性型ビタミンDを加えたい。MRA+ACE阻害薬/ARBによって起こる高カリウム血症も突然死のリスクになるが、高カリウム血症の判別はむつかしい。

2025年4月20日 X投稿
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 利尿薬+ レニンアンジオテンシン系阻害薬+NSAIDsの組み合わせは腎機能を悪化させる三重攻撃(Triple Whammy)処方といい、特に高齢者で起こりやすい腎前性腎障害の原因薬物になる。高齢女性では閉経後骨粗鬆症を予防するために活性型ビタミンDが投与されることが多いが、これによって起こる高カルシウム血症は尿濃縮障害から多尿・脱水をきたし急性腎障害、腎細動脈の石灰化の原因、つまり腎機能の悪化につながる。
 2020年10月にはPMDAから「エルデカルシトールによる高カルシウム血症と血液検査の遵守について」という医薬品適正使用のお願いが発行された。エルデカルシトールの添付文書には定期的に血清Ca濃度を測定するよう注意喚起されているものの、高カルシウム血症の副作用報告では定期的な血清Ca濃度のモニタリングがされていない事例が多く報告されている。この文書には①血清カルシウム値を定期的(3~6カ月に1回程度)に測定すること(整形外科・皮膚科ではほとんど実施されてない)、②高カルシウム血症の症状(多尿・多飲・口渇感・便秘、倦怠感、いらいら感、意識レベルの低下等)が出たらすぐに受診するよう、 患者やその家族へ指導することが記載されている。血清Ca濃度を上げるCa剤、サイアザイド利尿薬(ループ利尿薬はCaを下げる)やビタミンAなどが併用されていないかを確認することも薬剤師の極めて重要な任務だ。図の黄色の文字は薬剤師として特に重要なポイント!

2025年4月18日 X投稿
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 活性型ビタミンDの添付文書には「血清カルシウム上昇を伴った急性腎障害があらわれることがあるので、血清カルシウム値及び腎機能を定期的に観察すること」と書かれているが、整形外科医はほとんど採血検査をしてくれないことが非常に悩ましい。活性型ビタミンDを服用中の高齢女性には「こまめな飲水」の服薬指導は必須だまた閉経後骨粗鬆症の多くの患者さんが「Caが足りない」と信じ込んでいるのではないだろうか。活性型ビタミンDを投与されている方が、Ca剤を服用したら当然、重篤な高カルシウム血症になるのは当たり前。むしろ服薬指導で「主治医の許可なくCa剤やCaサプリメントを一緒に服用してはいけません」という指導をすることが重要だと思う。整形外科医(皮膚科もですが)はほとんど採血しないので、血清Ca濃度をモニターしていないため、高カルシウム血症に気づかない。そして多尿から脱水、そして腎機能が悪化して内科を受診、そして腎臓内科に紹介入院になることが多々ある。「平田先生、整形外科向けの講演会ではNSAIDsだけじゃなくエディロールⓇのことも言ってくださいよ」と腎臓内科医の先生方によく言われる。そしていつも思う。やせた超高齢女性にエディロールⓇ0.75、アルファロールⓇ1.0µgって多すぎるんじゃないの?

2025年4月17日 X投稿
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 〇年8月5日、85歳女性、身長155cm、体重41kg。65歳の時に2型糖尿病と診断され、いつもeGFR50~60mL/min/1.73m2で推移していた。猛暑のため食欲不振が続いて昨夜は眠れず、倦怠感があり、軽度熱中症と診断され、採血(検査値は表を参照)。その後、ラクテックⓇ注を1L輸液した後、元気になって来局。

Rx: 下記処方が1年継続
オルメテックOD錠20mg1錠
メトグルコ250mg3錠
ジャディアンス10mg1錠 

 皆さん、疑義紹介しますか?服薬指導、どうしますか?

 僕の考えた回答を図の黄色で示します。BUN/Cr比>30で脱水が強く疑われますが、SGLT2阻害薬による利尿作用は数日以内で持続しません。脱水の主原因は猛暑による発汗だと思われます。eGFR30mL/min/1.73m2未満なら「メトホルミンを中止して」と自動的に疑義紹介する「デジタル薬剤師」にならないようにしましょう。医師に怒られても仕方ありません。

 

2025年4月16日 X投稿
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 シタグリプチン(ジャヌビアⓇ、グラクティブⓇ)、アログリプチン(ネシーナⓇ)は腎排泄型で、腎機能の程度に応じて用量調節が必要となるため、腎機能が低下すれば使いにくいので腎機能に関わらず用量調節が不要なDPP4阻害薬に変更すべき、あるいは「○○は腎不全患者でも減量不要なDPP4阻害薬」と書かれたものをよく見ます。でも本当でしょうか?僕はDPP4阻害薬は血中濃度に応じて用量依存的に低血糖が起こるような危険な薬ではないので、「投与すべきではない」とも「使いにくい」とも思っていません。私見ですが、薬剤師がAUCの上昇率に合せて減量を提案すれば、シタグリプチン、アログリプチンは腎機能低下患者では低用量で効いてくれる安価な薬とも考えられます。これは腎機能が安定している患者さんであればかえって利点だと思うのですが…。

 

2025年4月7日 X投稿
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 腎排泄性薬物は全体の2~3割を占めるに過ぎないが、抗菌薬の多くは腎排泄性である。抗菌薬以外でもアシクロビルやガンシクロビルなどの抗ウイルス薬は腎排泄性で用量調節を間違えると容易に中毒性副作用をきたしてしまう。殺菌性の抗菌薬は免疫能の低下したCKD患者にはなくてはならないが、これらのほとんどが腎排泄性である。用量依存性の副作用がほとんどないβラクタム系やホスホマイシン、殺菌力の強いアミノグリコシド系、グラム陽性菌にはめっぽう強いグリコペプチド系、濃度依存性の殺菌作用を持つ抗MRSA薬のダプトマイシン、多剤耐性緑膿菌の切り札であるコリスチンなどはすべて水溶性で腎排泄性の殺菌性抗菌薬なのだ(表)。多くが経口薬で抗菌スペクトルが広く殺菌力の強いキノロン系はレボフロキサシンの尿中排泄率が90%と高いことから、腎排泄性のイメージが強いが、基本的には腎嚢胞感染症にも効果的で細胞内寄生菌にも有効な組織移行性の高い脂溶性薬物であり、ノルフロキサシンやレスピラトリーキノロンとして効果の高いモキシフロキサシンのように尿中に排泄されないものもある。一方、オキサゾリジノン系、マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系、チゲサイクリン、クロラムフェニコールなどの静菌性抗菌薬は脂溶性であり、腎排泄性で静菌性のものはST合剤中のトリメトプリムくらいしか思い当たらない。

詳しくは  第3回:殺菌性の抗菌薬はなぜか腎排泄 を参照してください。

 

2025年4月5日 X投稿
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 僕が小学生のころの1960年代に喘息、アトピー、花粉症の子供を見たことも聞いたこともなかった。そして20年後、1980年代に恵まれた僕の2人の子供の同級生の子供たちの約半数がこのようなアレルギーマーチになっていた。このたった20年間に何が変わったのであろうか?

 早めに登場した経口抗生剤のアモキシシリン、セファレキシン、セファクロルなどの吸収率は極めて高い。もともとβラクタム系抗菌薬は親水性が高いため、消化管の脂質二重層を通過できないはずだが、立体構造がジペプチド構造に似ていれば小腸上皮細胞に存在するペプチドトランスポータPEPT1の基質としてたまたま認識されて吸収されるからだ。

 しかし第3世代セフェムはピボキシル基などをくっつけて脂溶性を高めて無理やり吸収率を上げさせたものばかりだ()。外来などの軽症例であればグラム陽性菌に効果のある第1世代抗菌薬が最も使う頻度が高いはずなのに、なぜこんなにたくさんの第3世代セフェムが必要なのかも理解できない。これらの第3世代セフェム系抗菌薬は吸収率が低いことが大問題で、腸内細菌叢が激変することによって今までは起こることのなかったアレルギー性疾患が増えてしまったのではないだろうか。これに関しては英国ブリストル大学の報告で2歳までに抗菌薬を投与されていた小児は7.5歳になるまでに喘息(OR1.75: 95%CI 1.40-2.17)を発症する率が有意に高く、2歳までに4回以上投与された場合には、喘息(OR2.82: 95%CI 2.19-3.63)だけでなく湿疹(OR1.41: 95%CI 1.14-1.74)、花粉症(1.60 95%CI 1.21-2.10)などのアレルギー性疾患を発症するオッズ比が有意に高かったことが明らかにされている()。

詳しくは ★◆連載◆吸収率の低い第3世代経口セフェムってこんなに必要? 第8回 を参照してください。 

 

 

 

2025年4月2日 X投稿
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 2020年、初の薬剤師が主役のテレビドラマであるアレクサングシンデレラで「薬剤師って要らなくない?」ということばが話題になった。「薬剤師なんて要らない?なんで要らないの?だって処方箋を書く医師は病態や診断のことはよくご存じだけれど、薬物動態や相互作用、薬の化学構造や物性、製剤学などをほとんど習っていないんだよ。併用することによって血中濃度が5%に低下して薬が全く効かなくなったり、20倍近くの血中濃度になって副作用が必発になる相互作用はふつうにあるし()、抗がん薬や抗凝固薬では血中濃度が1.5倍になっただけでも致死的副作用が起こることがある。薬剤師はそれを防ぐ減量法や薬の組み合わせを提言できる。注射薬や内服薬を混合することで起こる配合変化を防ぎ、副作用が起こらないよう、起こっても早期発見できるような服薬指導するには薬剤師が絶対に必要だろ。患者さんが使っている薬の有効性・安全性を担保するために薬剤師が監査し、疑義紹介しなければならない。多くの患者さんが薬物療法によって病気を治療しているよね。薬剤師は患者さんの薬の安全性を守る最後の砦なんだ。だから薬剤師は絶対に必要なんだよ!」これはこのドラマが始まる前から僕が熊本大学薬学部で繰り返し学生たちに話してきたことだ(1)

1)平田純生: 薬剤師と医師.腎と透析増刊号 腎疾患治療薬Update 腎疾患患者の薬剤管理. 91: 33-37, 2021

 

 

 

2025年4月2日 X投稿
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 ある日、上野先生が僕に「アミノフィリン250mgの中にテオフィリンは200mg相当分入っとるから、アミノフィリン1Aを50kgの人に点滴投与したら、血中濃度はなんぼになると思う、平田君?」と聞かれ、戸惑って何も答えられなかった。だって血中濃度が予測できるなんて知らなかったから。「テオフィリンのVdは0.45L/kgなんや。まぁ、0.5L/kgでもええわ。50kgの患者さんやったらVdは25Lになる。200mg/25Lで8µg/mLになるやろから、喘息発作の治療にはちょっと足らへん。2A投与したら、16µg/mLになるんや。これやったら、ほぼ確実に気管支拡張作用を示して、20以上になったら起こる怖い副作用もでてけーへん。こーゆーことを知っとくと、薬を自由に操れるようになるんや。ほんでもって医者も意のままに操れるようになるんや」。

 これには本当にときめいた。薬物動態の基本がわかっていない薬剤師を僕は「本当の薬剤師」とは呼びたくない、似非(エセ)薬剤師だ。薬物動態だけは努力してでも薬剤師が身に着ける価値のあるものだと今でも信じてる!だからみんな努力して、僕の師匠のように「ほんまもんの薬剤師」になってほしい。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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