腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

16日目 かなりあくどいアルドステロン


 アルドステロンは実は、前述のように水や塩がなくても即死しないために、陸上生物にとっては必須のホルモンだった。血圧が低くては機敏に動くこともできないために容易に猛獣に襲われしまうし、水が得られない場所で遭難しても水・Naを保持することによって生きてゆくためにはアルドステロンは必要だったのだが、人類の生活が豊かになって豊かで平和な世の中が続き、肥満・飽食・塩分を過剰に摂取するようになると、アルドステロンの主作用のNa・水の貯留による血圧上昇は高血圧などの生活習慣病にとって非常に危険なものに変わってしまった。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

15日目 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬の使い方



陸上生活するうえでどうしても必要なシステム

 海で生まれた生物が進化をして、陸上生活をするためには水や塩がなくても生きてゆけるシステムが必要だ。循環血漿量の減少を感知した腎臓の傍糸球体装置からレニンが分泌され、副腎皮質でアルドステロンを産生してくれることによって、Naを腎臓で再吸収して尿中に出すことなく循環血漿中に保持することができる。細胞外液の喪失、つまり脱水(この場合、下痢・嘔吐・出血などによって起こるhypovolemiaまたはvolume depletionであって、高齢者に多いdehydrationではない:わからなかった人は8日目の図2参照)や血圧低下による腎機能悪化から守ってくれているありがた~い存在なのだ。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

14日目 傍糸球体細胞による糸球体内圧の維持とレニンの役割



全身血圧が変化しても糸球体内圧が一定、腎機能(GFR)が一定に保たれているのはなぜ?

 薬剤師であれば「傍糸球体細胞(あるいは傍糸球体装置)からレニンが分泌される」という文言は何度か聞いたことがあるだろう。じゃあ傍糸球体細胞ってどこにあるの?これは読んで字のごとく「糸球体の傍(そば、わき、かたわら)」にある細胞だ(図1)。傍糸球体細胞は全身血圧が大きく変動しても健常者であれば糸球体内圧を50mmHgと一定に保ち、GFRを100mL/minに維持している。これらの調節には輸入細動脈、輸出細動脈の血流を調節して一定にするための傍糸球体装置における尿細管糸球体フィードバック(TGF: 6日目に説明済み)とレニン-アンジオテンシン系が関与している

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 第30回の「基礎から学ぶ薬剤師塾」は2023年10月20日(金)18時半から(20時半までの予定)です。

 基本的に第3金曜日の18:30に録画ではなくライブとなります。登録していただいた方のみ視聴できますが、ライブのみで再放送はありません。

 今回のテーマは前回、好評であった初心者向けシリーズの第2回目として初心者向けシリーズ② 2型糖尿病とその治療薬です。大学で学んだ薬物治療学ではわかりにくかった糖尿病のという病態と最新の薬物療法について、できるだけ分かりやすく解説したいと思っています。

 参加を希望される方は 申し込みフォーム に記入のうえ、送信してください。

 薬剤師塾となっていますが、医師・看護師など医療従事者であれば参加可能です。ただし薬剤師塾への参加者は、ぜひ学会発表を目指している方に参加していただきたいと思います。そして活発なディスカッションに参加して薬剤師塾を大いに活性化いただける方に参加していただきたいと思っています。300名まで参加可能ですが、最近の登録者数は200名を超えていますので、早めに登録してください。

 

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

13日目 近位尿細管の機能
~刷子縁膜構造を持ち、必要な栄養素を完全に再吸収し尿に出さない~


 近位尿細管上皮細胞の管腔側は図1左に示すような、大草原のような刷子縁膜(微絨毛ともいう)構造をしている。極性の高いアミノ酸やブドウ糖、ペプチドやアルブミンなどは身体にとって必要な栄養分だ。それらを尿中に排泄していたら、栄養失調になってしまうが、これらの栄養物は親水性なので細胞膜上にある脂質二重層を介して再吸収できないため、図1右の小腸の刷子縁膜構造と同様に、面積を広くして栄養物を再吸収できるよう、脂質二重層上に能動輸送をするためのトランスポータが豊富に埋め込まれている(図2)。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

12日目 尿細管の名称と機能を知ろう


 腎臓は大量の糸球体濾過を行っている。「1.5Lの尿を作るのに150Lもの大量の原尿を濾過するなんて無駄なことをやってるな」と思ってことはない?でも健康な人の原尿産生量、つまりGFRが150L/日から半分の75L/日に減少するだけで、GFRは正常値の100mL/minから明らかにCKD患者と分類される50mL/minに低下する。ということはあと少し悪化しただけで30mL/min未満という不可逆的に悪化して重度腎障害患者になってしまい、徐々に高カリウム血症、高リン血症などの電解質異常、高窒素血症、アシドーシス、溢水、腎性貧血などの腎不全症状が次々と起こり、透析導入になってしまう可能性が高くなる。すなわち、150L/日(GFR100mL/min)という十分な余力がないと、速やかにCKDになり、不可逆的に腎不全へと進行してヒトの死亡率トップはがんや心臓病ではなく、猫(がんに次いで死因の第2位が腎不全)のように腎不全が主要死因になってしまうであろう。慢性腎臓病は基本的に良くはならない この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

11日目 薬剤師の皆さん、イナーシャになってない?


 薬剤師のみんな、高血圧に対してイナーシャになってない?えぇ!「イナーシャ」を知らない?実は僕も4年前に高血圧ガイドライン2019を読んで初めて知ったんだけど(図1)。Clinical inertia(臨床的な惰性・怠惰)とは、治療目標が達成されていないにもかかわらず、治療が適切に強化されていないことだ。患者さんの問題を認識していながら、それを解決する行動を起こすことができずに医療人の惰性によって患者の症状が悪化することが問題になっている。 この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます

腎の構造と機能から学ぶCKDの病態

10日目 蛋白尿(-)のCKD患者の血圧の下げすぎには要注意


 日本の高血圧の定義は140/80mmHg未満、つまり診察室血圧で収縮期血圧(SBP)140mmHg未満で、かつ拡張期血圧(DBP)が90mmHg未満でなければならない。だから140/65だとSBPが140未満じゃないし、135/90だとDBPが90未満じゃないので高血圧と判定され、家庭血圧はそれぞれ診察室血圧よりも5mmHg低い135未満、かつ85未満でなくてはならない。ただしこの降圧目標にしてよいのは高血圧ガイドライン2019では75歳以上の高齢者(併存疾患の降圧目標がSBP130未満の場合、忍容性があれば130未満)、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)、CKD患者(蛋白尿陰性)だけなのだ(前回の表2右参照)。つまり実質的にほとんどの患者の降圧目標は130/80mmHg未満になったと考えてよい。欧州も血圧の定義は従来通り140/90mmHg未満だが、実質上はほとんどの患者で130/80mmHg未満にしなくてはならないという日本の考え方と同じだが、心血管病変による死亡リスクが極めて高い米国では血圧の定義を130/80mmHg未満にしてしまった。なんで? この続きは登録ユーザーのみ閲覧できます


 9/15(金)発刊予定! 定価3,500円(+税)

(実際の書店やAmazonでの販売は月末になりそうです。)

 

 「平田の薬剤師塾」という熊本大学時代からこのブログで皆さんからいただき、僕が回答してきた膨大なQ&Aを分類し、最重要なもの厳選して121にまとめました。

 この最重要な121個のQ&Aはどこからでも読み始めることができ、「点としての疑問」が1つずつ解消できます。そしてすべての章を読み通せば、腎と薬に関する臨床の疑問が徐々に線となって理解でき、最終的にあなたの頭の中の空白のジグソーパズルが「1つの絵画」として見えるようになればいいなと思って書きました。

 

 

 序 文 

 薬剤師をやっていると疑問は尽きない。「この処方のままでいいのだろうか?」「この患者さんに投与量はこれでいいのか?」「処方医に疑義照会すべきだろうか?」「患者さんにどうやって説明すればいいんだろう?」こんな問い合わせが,私のメールアドレスに届く。熊本大学薬学部に赴任した当初から「平田の薬剤師塾」なるものを研究室ホームページ上で開設し,届いた質問のほぼすべてに回答してきた。熊本大学を定年退職後,現職に就いてからも継続し,15年以上積み重ねた記録として残ったワードのページ数は2,000以上になった。これを整理してみると(実はこの整理がとても大変な作業であったが),質問の文言はさまざまで異なってはいたものの,類似した問い合わせをまとめると最重要事項はほぼ100個に絞り込むことができた。

 薬物動態,相互作用や薬の化学的性質についてご存知ない医師が処方箋を書いている。それを何の疑いもなくただ「ミスをしないように正確に調剤する」。これでは危険な処方や無駄な処方は減ることはなく,適正な投与量の設定,副作用に対する対応もできないだろう。薬剤師としての最低限の知識や判断方法を身につけて,薬剤師でなくてはできない仕事,やるべき仕事をちゃんとできる薬剤師になろう。そうすれば医療現場で必要不可欠な存在になれるはずだ。すべては目の前の患者さんのために,最適の薬物療法を提供したい。薬のことなら薬剤師に任せておけ!と言われるような信頼される薬剤師を目指したい。「平田の薬剤師塾」を開設した理由はそんな薬剤師になってもらいたい,それに尽きるのだ。

 実際に私自身への問い合わせを受けて,その回答を共有するためにまとめられたのはこの本が初めてである。質問内容は臨床現場での臨場感を感じられるように,できるだけナマのままにしておいた。幸い,この最重要なほぼ100個のQ&Aはどこからでも読み始めることができて「点としての疑問」が1つずつ解消できる。そしてすべての章を読み通せば腎と薬に関する臨床の疑問が徐々に線となって理解でき,最終的にあなたの頭の中の空白のジグソーパズルが1つの絵画として見えるようになれば望外の幸いである。

2023年8月
平田の薬剤塾 塾長 平田 純生

 

その他の平田の書いた本! 興味のある方は コチラ から。
また、腎臓病薬物療法に関するご質問,あるいは本書に関するご意見・コメントなどがあれば,
連絡先メールアドレス  hirata_s@i-h-inc.co.jp まで,よろしくお願いいたします。

 

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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