薬剤師のための講座

  医薬品の供給、調剤、服薬指導などが中心であったわが国の薬剤師の職能が大きく変化しつつある。それは2012年より6年制カリキュラムを終了した薬剤師が生まれたことと、2010年4月の厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」が公表された。さらにこの通知に対して日本病院薬剤師会が解釈と具体例を明示した。。40118462_s.jpgその具体例の1つとして「維持透析患者のミネラル代謝異常の管理」が挙げられており、医師と薬剤師が協働して最適なプロトコールを作成し、血清リン値、血清Ca値、インタクトPTH値に基づいてリン吸着薬の選択・投与量調整を行うことが例示されている。また、2012年病棟薬剤業務実施加算が算定できるようになり、病院薬剤師は臨床薬剤師に変わろうとしている

明日『腎疾患の専門分野の薬剤師の職能拡大』に続く

~おかげさまで「平田の薬剤師塾」も過去最高の参加者でした~

 いつも8月に開催される卒後教育「薬剤師のための医療薬科学研修会」は過去最高の221名の方々に参加していただきましたが、この時に前宣伝をして、9月に開催される育薬フロンティアセミナーも「平田の薬剤師塾・薬物動態って難しくない」というテーマで4回で過去最高の延べ261人の参加者でした。

  20161005_1.png私は薬物動態学を好きでもありませんしでしたし、得意でもありませんでした。でも薬がどのように吸収されて、どのように効果器官に分布し、どのような代謝・排泄され消失していくのか、いわば生体内の薬の行方をたどっていくことを知ることは、とても興味深いことです。薬がどのようにして効果を現すのか、どのようにして有害反応を起こすのかにつながる重要なことなのですので、40歳を過ぎてから勉強し始めて、何とか動態の基本はマスターしたつもりです。

 日本腎臓病薬物慮法学会が会員向けのみに発行しているグリーンブックの右側のパージの表に載っているクリアランス、分布容積、尿中未変化体排泄率、バイオアベイラビリティ、タンパク結合率の5種類のパラメータと代謝・消失に関わるCYPやトランスポータに関する情報があれば投与設計は可能です。消失半減期があれば投与間隔の調節などの便利ですし、特記事項には有害反応を起こさないようになるための情報などが記載されています。でも、左ページの表が臨床現場で使われているという話はよく聞くものの、右側ページが実際に活用されたという話はあまり聞いたことがありません。

  1回目、2回目で分布容積をはじめとしたパラメータの活用法について解説しましたが、難儀だったのが3回目のクリアランスでした。私の説明が下手だったからでしょうが、わずか30枚のスライドに90分以上の時間を費やしてしまいました。これに関しましては来場者の先生方にお詫びいたします。でもこのクリアランスの概念を理解すると4回目の相互作用については、この相互作用はいつ起こるのか、投与をやめてすぐに相互作用が消失するのか?この相互作用の強度は?どの薬の組み合わせが一番危ないのか?などの疑問が解けてきます。

 20161005_2.png薬物動態を好きになるには、まずはわかりやすい薬物動態の教科書を読破しましょう。管野 彊先生の「わかる臨床薬物動態理論の応用」(医薬ジャーナル社)がお勧めなのですが、残念ながら絶版になっています。でも、アマゾンでは中古品が1840円から販売されています。あるいは治療薬マニュアルの最初の部分、TDMの実践書から入ってもかまいません。2冊目以降、薬物動態学の専門書を読破するのが楽になります。

  1500~200種類もある薬物の動態パラメータは1つ1つ記憶しようとすることは苦行に等しいと思います。覚えなくてもいいものは忘れましょう。タンパク結合率80%未満のものは覚える必要がないと思っていますし、アミノグリコシド系のタンパク結合率は数%、3%、5%、10%以下など様々なデータが引用されていますが0%と考えて全く問題ありません。これからは覚えるのではなく、動態を理解し、予測できるようになることが重要だと思います。様々な薬物のTDMにトライすれば、飛躍的に薬物動態に強くなれます。解析ソフトに頼ってバンコマイシンのTDMのみでとどまっているのではなく、まず動態を好きになって、理解が高まれば異常値が予測されても、慌てることはありませんし、バンコマイシンだけでなく広範囲の薬物のTDMを始めることが可能になります。

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 熊本に来て早や10年。極度の方向音痴、人の名前、薬の名前が出てこないという認知症症状は順調に増悪しつつあるものの、熊本の生活にはすっかり慣れました。今、僕はすごく忙しいです。でもすごく楽しいです。僕が大学を卒業し40歳になるまで薬学系の学会に参加したことは1度もなく、病院薬剤師会をはじめ薬学関係の会や学会には全く所属せずに、それでも一生懸命、薬剤師をやっていたつもりの20年足らず。思えば薬剤師になりたての頃は「暗黒の時代」でした。患者さんに薬の名前も薬効も教えちゃダメ。だからPTPシートの名前の部分をはさみで切り落としていた。それが病棟に行けるようになったのが、ちょうど40歳の時。すっごく遅い「本当の薬剤師」としてのデビューでした。それからの僕は夢中になりすぎて、みんなに迷惑をかけたかもしれないけれど、仕事が楽しくて楽しくて仕方ない薬剤師になれたのです。

 40歳を境に僕を変えたきっかけはいくつかあります。服薬指導ができるようになったこと、メンター(指導者)に出会えたこと、TDMを始めたこと、薬物動態学を初心に帰って勉強したこと、いろいろありますが、今回はダメ薬剤師の僕を変えてくれたドラッグフォーラムオーサカ(DFO)というユニークな勉強会についてお話ししたいと思います。

 僕は39歳の時に田中一彦先生という麻酔科医のメンターに出会えました。「養老の瀧」のような安い居酒屋が大好きな、どこにでも普通にいる「人の良いおじさん」に見えます。でも実は初代TDM学会の理事長であり、第1回の国際TDM学会(IATDM-CT)の大会長でもあり、今ではどこでも使っているアルコール手指消毒薬の「ウェルパス」の発案者で、いろんな実力者を知っていました。そこで紹介されたのが現新潟薬科大学教授の上野和行先生。薬物療法や動態はこの厳しい先生の影響で猛勉強しました。

 上野先生に「一緒にやってみよう」と紹介されて役員になったのが、1990年に関西の薬剤師の集まりである「ドラッグフォーラムオーサカ」という非常に個性的な勉強会。メーカーに頼らず勉強会をやることは大変ですが、この会は年に10回も勉強会をやっているのに、特定なメーカーがスポンサーになることはなく、テキストを発行していたため、13万円の広告を4件とって12万円。あとは11000円の参加費を取って資金を作り、日本中から講師を呼んでいました。年に10回の開催ということは、その準備のための世話人会も年に10回。それが終わるたびに安い居酒屋で役員同士で「薬剤師論」を戦わせていました。

 「ドラッグフォーラムオーサカ」の会長は廣田育彦氏(後の関西医大薬剤部長)、副会長は森田邦彦氏(後の同志社女子大薬学部教授)、事務局長が森嶋祥之氏(後の近畿大学病院薬剤部長)、監事が上野和行氏(後の新潟薬科大学教授)、本当にすごいメンバーばかりでした。

 こんなメンバーの中で揉まれて育たないわけがない。とはいえ、すごいプレッシャーやいじめによって、やめていった若い薬剤師も多かったのは確かですが・・・・。年に10回もやるとテーマ探しは大変ですが、ドラッグフォーラムオーサカは参加者に全くこびない、そして特定のスポンサーがいないため、メーカーにも全くこびない。僕が入ったばかりの時、「Polymorphism」について講演会をやろうということになりました。今ではおなじみの遺伝子多型ですね。アセチル化能の個人差の問題はN-acetyl transferaseの遺伝子多型、S-メフェニトインという抗てんかん薬を服用後に一部の患者で起こる重篤な副作用がCYP2C19の遺伝子多型が原因であったことが、このころ話題になりつつありました。でも一般の薬剤師レベルではほとんど知られていなかったし、これに関する雑誌の特集も書物もなかった時代です。テーマは前述のように「Polymorphism」です。「こんなテーマじゃ誰も来ないでしょう。『遺伝子多型が及ぼす薬物代謝能への影響』のような分かりやすいテーマにしましょうよ」と僕が意見を言ったら、「Polymorphismの意味も分からないような薬剤師には来てほしくない」という廣田会長の一言で、この講演会のテーマが決まりました。案の定、40人足らず(そのうち役員が10人以上)という客入りの悪さ。これがドラッグフォーラムオーサカの実態なのです。「月間薬事」や南山堂の「薬局」で特集になったような誰もが考えつくようなテーマは絶対にやらない。逆にこのマイナーなオタクだらけの勉強会にじほう(当時は薬業事報社)の記者が毎回取材に来て、その数か月後に月間薬事の特集が組まれるってこともよくありました。ユニークなオタクの集まりが年に20回も集まって飲み会(実際には忘年会や夏のビヤホールなどを入れると毎月2回は顔を合わせてました)をやるのだから揉まれます。このころ、まともな薬剤師の第1歩を歩もうとしていた僕が影響されないわけがない。この会は2000年以降も続き120回くらいまで開催されたのですが、かつて若手だった薬剤師がみんな大学教授になって去っていき、僕も腎臓と薬物療法に特化した勉強会をやりたくなって第100回の講演会を終えたくらいで退会しました。

  そして僕が立ち上げたのが「関西腎と薬剤研究会」です。最初は大阪中の腎臓オタクの薬剤師に声をかけて20人くらいで病院の会議室でジャーナルクラブでもできたらと思っていたのですが、役員候補に声をかけた全員が2つ返事で参加してくれるとのこと。これはひょっとしたらと思い、120人くらい入る医薬品卸会社の会議室を借りて、第1回の関西腎と薬剤研究会を開催しました。これが2000年の328日のことです。テーマは分かりやすく「腎不全患者への投与設計の基礎」で僕が講演しました。立ち見で入れない人も出て、この腎臓オタクの会になんと200人以上が集まりました。第2回はその後、透析医学会の理事長を2期連続務めた秋澤忠男先生(当時の和歌山医大教授)に講演をお願いして、またも200人近くの薬剤師が集まりました。ドラッグフォーラムオーサカとは異なり「分かりやすいテーマで、できるだけ多くの薬剤師に集まってもらって薬物療法をより良くするんだ」というビジョンで関西腎薬はスタートし、ドラッグフォーラムオーサカと同様、毎回テキストを発行しました。年5回の開催、時には合宿もやりました。神戸や京都に「巡業」もしました。その腎薬は昨年、佐賀腎薬が結成、そして今年は鹿児島腎薬、宮崎腎薬が22番目、23番目の地域腎薬として結成され、現在1700名の学会員が日本腎臓病薬物療法学会を支えてくれています。今回、僕が伝えたかったことは、「病院内に閉じこもっていずに、好きなことを夢中になってできる仲間と一緒に何かやれば、大きな実を結ぶかもしれない」ということです(この文章は熊本県病院薬剤師会の「病薬にゅーす」2016.9.20 Vol.49, NO1に掲載されました)。 20160930_2.png

写真は2人のメンターと僕、左が上野和行先生、右が田中一彦先生、そして真中が平田です(7th International Association of Therapeutic Drug Monitoring and Clinical Toxicology,

 いまだに多くの医師・薬剤師が腎機能の指標として血清クレアチニン(Cr)値を使っているという学会発表や調査報告があります。以下の2人の患者の血清Cr値は同じ値ですが、皆さんは腎機能をどのように判断しますか?

Aさん:20歳男性180cm70kg、血清Cr1.2mg/dL

Bさん:80歳女性155cm50kg、血清Cr1.2mg/dL

 Aさんは若くてアスリートのような体形を予想させますね。でもデータだけで腎機能を判断するのはよくないです。実際にAさんBさんの体格と活動度を確認する必要があります。Aさんは大学生でバスケットボール部のキャプテンで、筋骨たくましい男性でしたが、肉離れで整形外科を受診していました。そしてBさんは大きな病気はないものの、腰痛や膝関節症などで、整形外科に通っており、日常生活は通常にできているものの、ほとんど運動はしていません。血清Cr値が同じで、腎機能を判断しにくいので、腎機能推算式として汎用されているCockcroft-Gault によるクレアチニンクリアランス(CCr)を算出してみましょう。そうすると図1のようにAさんは97L/min、アスリートでなかったら筋肉量は少ないので、もっと高いCCrになり、多分120130mL/minはあるのではないかと思います。

 BさんはAさんの1/3以下の29mL/minで高度腎障害に分類される腎機能した。もっと運動ができていたら、血清Cr値はもっと高くなってCCr20mL/minに推算されていたかもしれません。Cockcroft-Gault式は肥満患者では腎機能を高く推算し、元気な高齢者では腎機能を低く見積もってしまうという2つの欠点がありましたが2人とも肥満ではなくBさんも活動度は低いので、推算値と実測値との乖離はそんなにないと思われます。

 ただしこれらはあくまで推算値であり実測値ではありませんが、血清Cr値が同じでも推算CCrはこんなに差があり、実測するともっと差が出るかもしれないなと平田は予測します。

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 ということで、わす化に高い程度の血清Cr値で腎機能を判断するのはあまりよくありません。今後はCCr、いやもっと精度の高い体表面積未補正eGFRmL/min)を使うべきだと思います。なぜこのようなことをブログで書いたのかというと、201648日にFDAから”FDA Drug Safety Communication: FDA revises warnings regarding use of the diabetes medicine metformin in certain patients with reduced kidney function“という医薬品安全性情報(Drug Safety Communicationshttp://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm493244.htm)が出されたからです。内容は以下の通りです。

We are recommending that the measure of kidney function used to determine whether a patient can receive metformin be changed from one based on a single laboratory parameter (blood creatinine concentration) to one that provides a better estimate of kidney function in patients with kidney disease (i.e., glomerular filtration rate estimating equation (eGFR)). 

 メトホルミンを投与している患者に対しては血中Cr濃度のような単一の検査値からではなく腎機能をより正しく見積もることのできるeGFRに変えましょうという内容です。そうです。時代は変わってきているのです。国際間で、測定法の違いによって値が異なり、加齢・性別によって評価の仕方を注意しなければならない血清Cr値や、肥満患者で過大評価し、元気な後期高齢者では過小評価してしまう推算クレアチニンクリアランス(CCr)からeGFRを使って腎機能を評価しようという時代になりつつあるのです。

 これに呼応して{かどうかは分かりませんが}2016年5月12日日本糖尿病学会は「ビグアナイド薬の適正使用に関する Recommendation」http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=20をおよそ2年ぶりに改訂し「メトホルミンの適正使用に関する Recommendation」として発表しました。

 


「ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation

メトグルコは中等度以上の腎機能障害患者では禁忌である。SCr値(酵素法)が男1.3mg/dL、女性1.2mg/dL以上の患者には投与を推奨しない

 高齢者ではSCr値が正常範囲内であっても実際の腎機能は低下していることがあるので、eGFR等も考慮して腎機能の評価を行う。ショック、急性心筋梗塞、脱水、重症感染症の場合やヨード造影剤の併用では急性増悪することがある。尚、SCrがこの値より低い場合でも添付文書の他の禁忌に該当する症例などで、乳酸アシドーシスが報告されている。 


   


「メトホルミンの適正使用に関する Recommendation

腎機能をeGFRで評価し、eGFR30mL//1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。

 eGFR3045の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用などではeGFRが急激に低下することがあるので注意を要する。eGFR3060の患者では、ヨード造影剤検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止して48時間後にeGFRを再評価して再開する。尚、eGFR45以上また60以上の場合でも、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので注意を要する。


 

「腎機能を正しく判断するには血清Cr値よりも推算CCr、推算CCrよりも体表面積未補正eGFRmL/min)を使いましょう。そして諸々の事情で推算値が適応しにくい症例には実測CCrを使いましょう。軽度腎機能低下時や筋肉量の影響を受けないシスタチンCによる体表面積未補正eGFRmL/min)も結構いいですよ」というのが今回のブログの結論です。

  New England Journal of Medicineの3月17日号に載った論文「Safer Prescribing–A Trial of Education, Informatics, and Financial Incentives. より安全な処方のための教育、情報の提供、金銭的インセンティブ」を紹介します。これは薬剤師が自由に参加できる育薬フロンティアセンター主催の抄読会で6年生の福元君によって紹介されました。

  NSAIDsや抗血小板薬をリスクの高い患者に投与するハイリスク処方による消化管出血、NSAIDsをCKD患者に投与したり、RA阻害薬+利尿薬と併用することによる急性腎障害(AKI: acute kidney injury)、あるいは心不全患者にNSAIDsを投与することによっておこる心機能悪化による入院に対して介入することによって、副作用による入院を減少できるかという研究が実施されました。

  対象はプライマリケア診療所を営む英国スコットランドの開業医で、どのような介入をしたかというと、まず最初に行ったのが薬剤師など専門家によるハイリスク薬に関する教育なのです。そのほかの介入は表1に示す通りです。


表1. NSAIDsと抗血小板薬を含むハイリスク処方に対し3つの介入

(1)薬剤師など専門家による教育 (開始時に1時間受講)、その後8週ごとにレターなどが送付

(2)電子カルテから処方の見直しが必要な患者データを特定するなどの情報システムによる支援

(3)ハイリスク処方について見直しを行った際に支払う金銭的インセンティブ (初回固定額として600ドル、見直した患者ごとに25ドル;フルタイム医師当たり平均収入の約0.6 %に相当する平均約910ドルの支払いを見込んだ)をそれぞれ提供した。


  では実際にどのような介入をハイリスク薬と定義したのかというと表2に示すNSAIDsと抗血小板薬を含む9種の処方でこれらを主要評価項目にしています。表2(1)から(6)まではハイリスク患者に消化管出血を起こす可能性のあるハイリスク処方であり、(7)(8)は急性腎障害(AKI)になるハイリスク処方であり、(9)は心不全を悪化させる可能性のあるハイリスク処方です。ではなぜ(7)(8)によるAKIになるかもしれない処方をハイリスク処方としたのかというと、英国では1999年から2009年の間に薬剤性腎障害による入院が約2倍に増加しており、AKIの重要な原因が薬剤性であるにもかかわらず薬剤間相互作用が急性腎障害リスクに及ぼす影響についてはほとんど知られていなかったことに起因します。


表2.NSAIDsと抗血小板薬に関する9種のハイリスク処方(主要評価項目)

(1)消化管潰瘍患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAIDまたはアスピリン処方

(2)75歳以上患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(3)65歳以上患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(4)65歳以上・アスピリン服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでクロピドグレル処方

(5)経口抗凝固薬服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでNSAID処方

(6)経口抗凝固薬服用患者に胃粘膜保護薬処方なしでアスピリンまたはクロピドグレル処方

(7)RAS阻害薬と利尿薬服用患者にNSAID処方

(8)慢性腎臓病患者にNSAID処方

(9)心不全歴あり患者にNSAID処方


  副次評価項目として解析したのはこれらの処方に関連した「入院」です。統計解析は除外対象になったものも解析に含めるintention-to-treat解析です。

  AKIに関しては199711日から20081231日までに降圧薬投与を受けていた成人患者を登録し、487372人からなるコホートを対象にしています。主要転帰評価指標は、2剤または3剤の現在使用者のAKIによる入院に設定しています。最終的には試験を完了した33診療所を含み、介入前の対象患者3万3,334例と、介入後の対象患者3万3,060人について統計的解析を行っています。

では結果を示しましょう。事前に規定したハイリスク処方(あらゆるリスクを有した患者)の発生率は、介入直前の3.7%(29,537例中1,102例)から、介入終了時の2.2%(3187例中674例)へと40%程度減少し(P0.001(図1)、介入後もその傾向は持続しています。

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  副次的評価項目である入院率の検討を行うと入院前の8週間における規定したハイリスク処方に関する潜在的な薬物関連入院に関しては消化管潰瘍や消化管出血による入院は、介入前の4.6/1万患者年から介入期間中の0.4/1万患者年へと、有意に減少し(P=0.004)、AKIによる入院も、34.6/1万患者年から11.1/1万患者年へと、有意に減少しました(P0.001)。一方、NSAIDsによる心不全による入院は、59.0/1万患者年から32.1/1万患者年へと、有意な減少は認められませんでした(P=0.34)(図2)。

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また、規定したハイリスク処方によらない潜在的な薬物関連入院に関しては消化管潰瘍や消化管出血による入院も、介入前の55.7件/1万患者年から介入期間中の37.0件/1万患者年へと、有意に減少しました(率比:0.66、95%CI:0.51-0.86、P=0.002)。心不全による入院も、707.7件/1万患者年から513.5件/1万患者年へと、有意に減少しました(率比:0.73、95%CI:0.56-0.95、P=0.02)。一方、AKIによる入院は、101.9件/1万患者年から86.0件/1万患者年へと、有意な減少は認められませんでした(率比:0.84、95%CI:0.68-1.09、p=0.19)。

  この研究に参加した診療所は参加しなかった診療所よりもより意欲的でありハイリスク処方を変更する大きな能力を持っていた可能性があるなどのリミテーションはあるものの、ハイリスク処方を改善するための介入にプライマリケア専門医に対する薬剤師による教育が行われ、その他の介入もあったものの、結果として不適切処方による消化管出血やAKIなどの医原病が有意に減少できたことは大いに意義深い検討と言えます。日本では多剤投薬された患者の減薬を行うと点数が算定できるようになりましたが、まだまだ無駄な処方がされていることの裏付けかもしれません。入院を要するようなハイリスク薬処方を疑義照会によって減少させて、入院件数を減らすことに成功した薬剤師に点数が加算されるシステムが導入されれば、医薬品の安全性を担保することのできる薬剤師が誰なのかがわかる、つまり有能な薬剤師がは誰かを判断できる時代が来るかもしれません。

 

原著論文

Dreischulte T, Donnan P, Grant A, Hapca A, McCowan C, Guthrie B: Safer Prescribing–A Trial of Education, Informatics, and Financial Incentives. N Engl J Med. 374(11): 1053-1064, 2016

ダメ薬剤師が変われるきっかけ
 

 AさんのTDMの成果は高く評価され、白鷺病院では他の抗不整脈薬、ジゴキシン、抗MRSA薬、抗てんかん剤など、TDMは幅広く実施されるようになった。TDMを実施することによって薬剤師に幅広い薬学的知識が身に付くと、TDM対象薬以外にもその知識は応用でき、より多くの薬物の有効かつ安全な投与が可能になった。そして「100床以下の小病院では学会発表なんて無理」なんて思っていた頃のことが嘘のように、薬剤科の学会発表数、文献執筆数は毎年、倍々ゲームのように増え続けた。93年ゼロだった文献数は94年1本、95年2本と増え続け、2003年には総説を加えると薬剤師5人で文献数は31本になった。学会発表や文献執筆は病院外へのアピールも大きいが、僕は病院内でのアピールが最も効果が高かったように思う。医師をはじめとした医療スタッフの信頼が得られ、その結果、薬剤師が薬剤師らしい仕事をできるように変われたことが一番のメリットだと考えている。

 94年以前、僕たちは調剤しかできないダメ薬剤師だった。薬剤師が変わるきっかけはいろんなところにある。筆者にとってはAさんとの出会い、そして一生懸命、頑張ったTDMが成果を結んだことが変わるきっかけの1つと信じている。

(この原稿はファルマシア40(4): 304-306, 2004.に掲載されたものを改変しました)

TDMとは?

 AさんのTDMに際してはTDMの結果からさまざまな処方介入を行った。薬剤師が処方介入して、病状が悪化するとドクターの信頼を失い、TDMの依頼も来なくなる恐れがある。介入をした後は毎朝、毎夕、Aさんのベッドサイドに行った。そして処方変更後の効果の確認、副作用の観察を注意深く行った。結局、AさんのTDMを介して学んだことは「TDMは決して血中濃度を有効治療濃度域に直すためにやるのではなく、患者様を治すためにやっているのだということ。患者さんを見ないで血中濃度に対する薬学的コメントを書くべきではないこと」である。そしてそのポリシーは今も白鷺病院薬剤科で続いており、必ず服薬指導をしている薬剤師が血中濃度に対するコメントを書き、ドクターに報告している。試験室の薬剤師が血中薬物濃度を測定し、患者さんを見ないで薬学的コメントを書いている施設があるとすればそれはTDM(therapeutic drug monitoring)ではなくTDA(therapeutic drug assay/analysis)であると思う。これは筆者の勝手な解釈かもしれないが、AさんのTDMから学んだこと、「Monitoringにはその薬がちゃんと効いているかどうか、副作用は現れていないかどうかをmonitorするという意味もTDMには含んでいる」ということを信じている。

Aさんのその後
 

 Aさんの病状は改善し、疑問も解決した。しかし投与方法を変更しただけで副作用も不整脈も起こらなかったのは、奇跡としか言いようがない。危惧していた通り、約半年後にAさんは再び調子が悪くなり、50mgを1日2回投与ではコントロールできなくなって徐脈・頻脈が再発した。主治医は仕方なく50mgを1日3回投与に増量した。徐脈・頻脈は完全に消失したが、やはり視覚異常・食欲不振が再発した。再び文献検索した。何とか抗コリン作用を抑えられないものか?動物実験ではあったがジソピラミドの抗コリン作用はコリン剤で相殺できると書いてある文献を見つけた。しかしナパジシル酸アクラトニウムというマイルドな抗コリン剤を医師に勧めたが、ほとんど効果がなかった。結局、劇薬指定の強力なコリン剤である塩酸ベタネコールを1回15mg、1日3回ジソピラミドと一緒に投与するよう医師に勧めた。これは効きすぎた。下痢、腹痛、寝汗という強力な抗コリン作用が現れた。塩酸ベタネコールの最大作用発現時間は服用後1時間で作用持続時間は2時間と短い。これに対しジソピラミドはtmaxも遅く、透析患者では半減期が延長しているため、僕の投与設計ミスであった。結局1回7.5mgを1日6回という頻回投与することによってAさんの不整脈は副作用を全く起こすことなくコントロールできた。そのうちAさんは少量のベタネコールをジソピラミドのピーク濃度の直前に頓用すると副作用を防げるということを学んだ。

薬剤師としての疑問解決

 6月の終わりにAさんの症状は改善し退院した。しかし薬剤師としての疑問は残ったままである。

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①非常に低い遊離型濃度なのにピーク値付近では不整脈を抑えられたこと。②総濃度は有効治療域内にあるのに強力な抗コリン作用が発現したこと。この2点の疑問を解く鍵はクロマトグラムにあった。腎機能正常者のクロマトグラムには小さなピークとしてしか現れないジソピラミドの前のピークが必ず、Aさんのクロマトグラムでは振り切れるくらいの巨大ピークとして現れるのだ。使用しているカラムはODSカラム、つまり逆相分配クロマトであるため、水溶性のものほどretention timeが早い。「腎臓は水溶性薬物を排泄する。肝臓は腎臓で排泄されやすいように薬物を極性の高い代謝物に変換する。そのため代謝物は親化合物よりも極性が高い。」と、ある薬物動態の教科書に書いてあったことを思い出した。ジソピラミドの代謝経路を調べた。ラッキーなことに1つの経路しかない。脱アルキル化されてmono-N-dealkyldisopyramide(MND)になる。インタビューフォームによるとMNDには活性があるらしい(図1)。

早速、2つの原著論文を取り寄せると同時にジソピラミドを製造しているフランスのルセルに英文でMNDの原末を取り寄せるべく手紙を書いた。取り寄せた文献によると動物の様々な不整脈モデルでジソピラミドの1/4から同等の抗不整脈作用を持つことが明らかになった。これで①の疑問は解決するかもしれない。そしてさらにMNDの抗コリン作用についてPubMedを使って文献検索した。ある文献のAbstractを見て思わず鳥肌が立った。「MNDは親化合物の24倍の抗コリン作用を有する」と書いてあった。これで②の疑問も解決するかもしれない。9月のはじめになってようやくMNDの原末がフランスから届いた。早速、HPLCに注入した。そして見事、Aさんのクラマトグラムで必ずジソピラミドの前に現れた巨大ピークと一致した(図2)。

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これで薬剤師としての疑問は何とか解決できた。つまり①非常に低い遊離型濃度なのにピーク値付近では不整脈を抑えられたのはMNDに抗不整脈作用があったため、②総濃度は有効治療域内にあるのに強力な抗コリン作用が発現したのはMNDの抗コリン作用が強力であったためと考えた。

プロフィール

平田純生
平田 純生
Hirata Sumio

趣味は嫁との旅行(都市よりも自然)、映画(泣けるドラマ)、マラソン 、サウナ、ギター
音楽鑑賞(ビートルズ、サイモンとガーファンクル、ジャンゴ・ラインハルト、風、かぐや姫、ナターシャセブン、沢田聖子)
プロ野球観戦(家族みんな広島カープ)。
それと腎臓と薬に夢中です(趣味だと思えば何も辛くなくなります)

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